第四の怪異 魔王様VS手長足長 後編
手長をやっつけた凛子達は安堵も束の間、もう一匹怪異がいる事を忘れていた。何が起きたのか凛子は再び路さんに電話をかける。
出ない。
連絡を取れない程の危険な状況であるという事。
「魔王様、メリーさんと路さんがかなり危ないかもしれません。何処にいるか分かりませんか?」
魔王様はふむと考える。腕を組む。そして深く考えた後にパッと笑顔になると、
「分からん! が、メリーは凛子のファミリア。式神とやらであろう? 凛子こそ場所が分からぬのか?」
あっ、分かる。
気が動転していたがよく考えればそうだったと凛子は手をポンと叩く。
「あ、そうでしたね。私、魔王様の家来って認識でしたからメリーさんも魔王様も式神って思ってなかったです」
あははと笑うと、メリーさんの妖気を探る凛子、メリーさんの力を感じる方向に向かうとそこはグラウンドとは真逆、ショッピングモールにたどり着いた。
「おぉ! ハンバーグが美味しい店がある所であるな! クハハハハ! 余はエビフライのついている物が良し!」
「僕はクリームコロッケ! 魔王様、シェアしよーうよ!」
「うむ! 半分こであるな! 許す!」
「二人とも、洋食屋さんに来たんじゃなくて、メリーさん助けに来たんだからね」
むぅと魔王様は少し不機嫌な表情をする。よほどショッピングモールに入っている洋食屋が好きなんだなと凛子は苦笑。
それにしてもメリーさんの妖気はまだ遠い。
「多分、メリーさん屋上にいると思う」
「うん僕にも分かる」
「くーはっはっは! メリーのやつ、広範囲に魔術結界でも張っておるな! では行くか! 全員揃わねば“いただきます!“ができぬ故な!」
エレベーターで最上階まで行くと、夏はビアガーデンやたまにライブなんかもしている屋上に続くエスカレーターに乗り込む。
するとビリビリと凛子と空汰は妖気を感じるので魔王様は二人の頭をポンポンと触れると楽になった。魔王様からは妖気という物は一切感じないが、霊力とはまた違った魔力という力を持っているらしく、魔王様程になるとあらゆる事ができると凛子は聞いていた。
メリーさんが貼ったという局所結界、強力な妖怪が獲物である人間を襲う際のテリトリーとして使う力。怪異としてもこれらの力には条件があり、この前のテケテケは放課後でかつ少ない生徒の時のみ校舎全てに結界をかける等がある。
そんな貼ってしまった結界に外から入る事は中々できないのだが、魔王様は違う。
「クハハハハ! メリー! どこだー?」
魔王様の呼びかけ、それにメリーさんが応える。
「はぁーい! 魔王様ぁああ! メリーはここです! ここにいますぅ!」
恋する乙女の表情だけど、凛子と空汰はメリーさんの腕がもげて、ズタボロになっている様子に戦慄する……が魔王様もメリーさんも笑顔。メリーさんがこの状態である理由、それはメリーさんの目の前にいる足が異様に長い巨人。これがもう一匹の足長なんだろう。
察するにメリーさんは依頼主である路を守ってくれていた。さらに周りの人間に危害が及ばないように結界も貼ってくれたいたんだろう。
「メリーさん、路さんを守ってくれてありがとうございます。大丈夫? その凄い事になってるけど」
「凛子、魔王様連れてくるのが遅いわよ! 私たち怪異は相当な力で消滅させられない限り大体大丈夫よ。でも随分力を使ったわ。貴女の力を貸しなさいよ。私の使役主なんでしょ? 魔王様の前であの怪異、葬ってあげるんだから」
「えっと、うん。霊力を整えるお札も使うね」
「助かるわ。お願い」
凛子の母親の直筆のお札をペタペタと貼って小さい自分の霊力をメリーさんに送る。ゆっくりとメリーさんの身体が元に戻っていく中、魔王様がメリーさんの頭をポンポンと触れる。
「そんな魔王様、大胆ですぅ!」
「メリーよ。アレは余に任せよ。貴様はそこで“ハンバーグランチ“の何を食べるか考えていると良い。ちなみに余はエビフライ、空汰はクリームコロッケである!」
「は、はい!」
魔王様は笑顔のまま足長に対峙する。
足長は魔王様を見下ろし、手長とは違い流暢に話し出した。
「手長は?」
「あの巨人であるか? クハハハ! 余に楯突く事を選び、闇魔界に還った。見事な最期である。して貴様はどうする? 余の家来になるか、勝てぬと分かっていながらも余に楯突く事を選ぶか? いかに?」
「手長と我は二つで一つ、無論!」
強大な妖気を感じる。
色んな怪異を見てきた凛子だから分かる。先ほどの手長といい。本来、簡単なお祓い程度しかできない自分が立ち向かってはいけない怪異だ。そんな怪異をボロボロになりながらも一時的に止めていたメリーさんの力に驚く。
されど、そんな足長が魔王様に襲いかかり、魔王様がゴミでも避けるように払った瞬間、自慢の長い足は折れ、人々を恐怖に引き込むハズの怪異の表情が恐怖に歪む。
「おぉ……なんなんだ? 貴様は? なんだ? 化け物か? それとも術者か? 我は滅ぶのか……」
「余か? 余の事を家来達はこう言うな。闇魔界の御方。魔王様である!」
「こんな事なら……封印されたままの方が……」
魔王様が足長に手を向け「闇魔界に還るといい」と何か真っ黒な力を放つと足長とメリーさんの結界も全てなくなり。ゆっくりと空が晴れてきた。晴れ渡る空の下、魔王様は笑顔でみんなに振り返ると手を差し出した。
「クハハハハ! ハンバーグを食べに行くぞ! その後は“えいがぁ“である!」
そんな魔王様の元にメリーさんと空汰が駆け寄っていく。そんないつもの光景に凛子はあははと笑っていると、依頼者の路が凛子に尋ねる。先ほど電話をしてきた時の悲痛な表情ではなく、少し困惑したような表情で。
「凛子さん、メリーさんや手長、足長みたいな妖怪がいた事にも驚いてたのに、あの魔王様って一体なんなんですか? それに手長足長は絶対に解き放ってはいけない妖怪って言われていたのに、それを最も簡単に……」
「なんなんでしょうね? 魔王様、どこか別の世界の魔物達の王様、魔王様らしいです。あのゲームとかで有名な」
「ふーん。私はそうは見えないな! かっこいい、正義のヒーローみたい」
「あはは、私もです」
「くーはっはっは! 凛子、路よ。はようこい」
魔王様が呼んでいるので凛子と路は魔王様に呼ばれて一緒に飲食店が並ぶ階層、魔王様のお目当ての洋食屋さんへ、今回の依頼料として路がここをご馳走してくれると言うのでそれぞれの食べたい物を注文し、それらが全員の目の前に到着した時、魔王様は手を合わせる。
「クハハハハ! 大勢で食べる食事は愉快である! この世界の“かるちゃあ“は良い! 気に入った。皆の者、手を合わせると良い! いただきます!」
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