第二の怪異 魔王様VSメリーさん

「くっ! くぉお! 余の連続パンチ攻撃を避けれるものかぁあ! 空汰覚悟せい!」

 

 魔王様の日課は凛子の弟の空汰と格闘ゲームでボコボコにされる事。ゲームをしない凛子からしてもびっくりするくらい下手だなと思う。でもいつも楽しそうで空汰も魔王様に懐いてるのだ。早い時期にお父さんを亡くした空汰からすれば魔王様はお父さんであり、お兄ちゃんなんだろう。


 とはいえ、凛子は魔王様を自分の世界に戻ってもらう方法をいつも考えていた。魔王様がここにやってきたのには理由がある。

 凛子と空汰のお母さんが強力な怪異を調伏する為に遠くに遠征をしていた時、牛鬼という凶悪な怪異に取り憑かれた人が凛子達の家に助けを求めてやってきた。

 

 火之兄家の術者は凄腕だと聞いてきたらしいのだが、お母さんが留守で、凛子の呪力は大した事がない。だけど、どうか助けて欲しいと幼い娘さんが取り憑かれてしまったご両親は凛子に縋った。だからできる範囲でお札に結界を張ったのがよくなかった。牛鬼は怒り、その姿を実体化させた。


 身の丈五メートルはありそうなその姿と今まで感じた事のない瘴気に凛子は一か八かお母さんに教わった火之兄家に伝わる式神召喚の儀を行った。


 行ったんだけど、凛子の力が足りずか何も起こらなかった。

 このままじゃ女の子が、そのご両親が、弟の空汰が危ないと無我夢中で召喚陣を描いた時、凛子達の前に今の魔王様がやってきた。

 お腹がすいたというので美味しい物をご馳走するので牛鬼をやっつけてくださいと凛子は懇願した。


 すると魔王様は「良い! 貴様、でっかい貴様! 余の家来にならぬか?」だめだこれはと確信し、牛鬼が大きな牙と爪で魔王様に襲いかかった瞬間、霞のように消えていった。「下郎が、余に触れるな」その一言で一瞬そこに地獄が湧いたかのような寒気と、凛子はとんでもない者を召喚してしまったと思った。

 式神帰還の印をしても何も起こらなず魔王様は……

 

「して、凛子! 今日の夕餉は何か?」


 と今日みたいな感じの質問をしてきたのだ。

 

「本日は麻婆豆腐ですよー」

「おぉ! 余はあのピリ辛が好きである! ご飯は3杯は固いな!」

「僕も魔王様と同じだけ食べる!」

「クハハ! 許す! 沢山食べて早く大きくなるといい! 凛子、貴様も3杯食べるといい!」

「太りますよ!」

 

 魔王様の名前はアズリエル。どこかの異世界らしいザナルガランというところの魔王様らしい。呼び方は闇魔界やみまかい御方おんかたか魔王様のどちらか選択制なので凛子たちは魔王様と呼んでいる。


 女の凛子が見惚れるくらいに美人な魔王様。両方で瞳の色が違い、ギザギザした歯。異様なくらい整っている顔立ちに黒と赤のツートンカラー の髪。服装はオーダーメイドっぽいスーツにマントをしている。普通にイケメンだ。そしていつも笑っている。魔王たる者笑っていないと家来が心配になるからだそうで、確かに凛子達も怪異の前でも魔王様の笑顔を見ると安心する。


 そんな魔王様だけど、元の世界に帰れないらしい。本人は気にしていないけど、間違って召喚してしまった凛子は気が気でないのが正直な気持ち。魔王様は凛子達のところに度々くる不在のお母さん宛の怪異退治の依頼をこなしてくれる。


 凛子達は魔王様の家来という事になっているけど、魔王様を召喚した事で凛子は魔王様の使役元という認識を界隈ではされていて、魔王様の力は凛子には過ぎた物すぎる。


 お母さんとどっちが強いんだろうと邪な事を考えたくらいだ。

 魔王様は意外と言う事をしっかりと聞いてくれる。家来である凛子たちが望む事を聞くのも魔王様の務めだと言っていた。

 でも、魔王様一人で留守番させるのが少し心配な凛子は隠しカメラで魔王様を監視する事にしているのだ。

 

 凛子達が学校に行った後のAM10時頃。魔王様は朝の情報番組を楽しみテレビの電源をコンセントから抜いてお茶の時間みたい。緑茶にミカンを食べてほっこりしている。

 

「まおーさんやーい! いるかーい?」

 

 あら? 近所のお爺さん、この前まで杖をついてたのに将棋盤を持って魔王様と一局将棋を打つ……じゃないみたい。

 

「クハハ! おじいよ。余はこの将棋崩しがたまらなく好きである! クハハハハ! して腰の具合はどうであるか?」

「まおーさんのおかげでこの通りだよー! ほんにありがとうね」

「クハハ! おじいも余の家来であるからな! また痛くなると言うといい。余の暗黒魔法で治してやろう」

「これ、凛子ちゃんと空汰くんと一緒に食べておくれ」

「おぉ! 何かの食物であるな! 凛子が来たら渡しておこうぞ」

 

 魔王様はしばらくお爺さんと遊んだ後、どこかに出かけて行った。二時間程して戻ってきた魔王様は両手に食べ物や飲み物を一杯持って戻ってきた。盗むという無粋な事は魔王様はしないだろうから、きっと近所の商店街の人からもらったんだろう。魔王様は町内でも人気がある事を凛子は噂で聞いた事がある。

 まぁ、このくらいならと思った

 

 PM15時頃、一本の電話が鳴った。

 

 ルルルルルルと、

 

「もしもし! 余である!」

 

 こんな風に魔王様は電話にでちゃう。帰ったら注意しないといけないなと凛子は思う……

 

「私、メリー。今駅にいるの」

「ほう、メリーとやら、今駅にいるのか? 良い! 余が出迎えてやろう! 凛子か空汰の友達というやつであるな! クハハハハ!」

「えっ、何この人」

 

 ブチっ。

 

 魔王様は外に出る準備をしていると再び電話が鳴る。

 

 ルルルルルル。

 

「もしもし! 余である!」

「私、メリー、今パン屋さんの角にいるの」

「ほう、中々の俊足であるな。良い、そこで待っているといい!」

 

 ブチっ!

 

 ピーンポーン!

 あっ、インターホンが鳴った。なんだろう。魔王様、玄関に走っていくと、扉を開ける。

 

「火之兄さんのお宅でよろしいですか? こちら密林です。ご依頼いただいていたお荷物です」

「うむ、ご苦労。余のサインをやろう」

 

 ちゃんと配送屋さんの対応も魔王様はできる。荷物を中に入れていざ外に出ようとした時、またしても電話が鳴った。

 

 ルルルルルル。

 

「もしもし! 余である!」

「私、メリー、今貴方の家の前にいるの」

「ほう、では余が出迎えに行って、いらっしゃいを言ってやろう! 貴様はおじゃましますを申すといい!」

 

 魔王様、イタズラ電話か、それ絶対怪異ですよ! 大丈夫かな……魔王様、と凛子が思っていると玄関に向かって走っていった。玄関を開けるとそこには誰もいない。

 

 再び、電話。

 

 ルルルルルル。

 

 魔王様、よくイラつかないなぁ。凛子は自分ならちょっとキレそうになるけどなと思う。再び電話機に向かって魔王様は戻る。

 

「もしもし! 余である!」

「私、メリー、今貴方の後ろにいるの」

「クハハハ! 冗談を言うでない! 余の前にいるではないか!」

「えっ?」

 

 魔王様、フランス人形みたいな……完全に怪異の肩に手を置いて笑っている。凛子か空汰の友達だと思っているみたいだけど……

 

「貴方何者? 100年前から人々を恐怖の渦に引き摺り込んでいるこのメリーさんの後ろを取られるなんて三十年ぶりよ?」

 

 後ろ取られた事あるんだ。メリーさん、捨てられた人形の怪異だったかなと凛子は思い出す。オチがよく覚えてないけど……魔王様、メリーさんを炬燵の前に座らせると、お茶とミカンを用意してる。

 

「クハハハハ! もう時期、二人が帰ってくるであろう。それまでお茶とミカンを食べて待っているといい! 余にありがとうを言う事を許す!」

「私の質問に答えなさい! さもなくば!」

 

 自分の家にある包丁がと凛子は思う……メリーさんの力で浮かび上がって魔王様が危ない……事はないと思うけど、

 

「メリーとやら、包丁は凛子が危ないので使ってはならぬと言っておる! 放すといい。クハハハ!」

 

 魔王様が指をパチンと鳴らすと包丁が全て地面に落ちる。魔王様は包丁を全て拾って台所に持っていってくれる。

 

「貴方本当に何? 本当になんなのよぉ! 百年分の怨霊の塊である私の全力の念動力で死ねぇええええ!」

 

 凛子はメリーさんに背中を向けて包丁を丁寧に元の場所に戻している魔王様に向けてメリーさんが何か棘のような物を魔王様に向けて放っている映像を見て家に走った。

 

「魔王様危ない!」

 

 凛子は家に入るやいなや叫んだ! 台所まで向かう暇がない。監視カメラの映像を見て、魔王様はメリーさんに手を向けている。メリーさんが放った棘は粉みたいに消えていき、魔王様は満面の笑み。

 

「クハハハハ! 百年しか生きておらぬのか? 余は六千三百年を超えたあたりから数えておらぬ! 家来達は毎年余の誕生日を祝ってくれるがな! クハハハハハ!」

 

 凛子が慌てて家に入るとそこで見た物は、その場にペタンと座り込んでいるメリーさんの姿だった。

 

「魔王様?」

「おぉ! 凛子、貴様か空汰の客人であるぞ」

「あー、多分。怪異です。やっつける系の……そういえばメリーさん討伐の依頼もらってたんですよ。まさか、メリーさんの方から仕掛けてくるとは思わなかったですけど……」

 

 排除すべき怪異であると知った魔王様は、先ほど客人だと思ってメリーさんに出していたミカンを食べると、

 

「ほう、して貴様。選ばしてやろう」

「選ぶ……ですって?」

「うむ。余の家来になるか、それとも闇魔界に還り消滅するか選ぶと良い。余は寛大な心を持っている故、選ばしてやろう。ちなみに本日の凛子が作る夕餉は麻婆豆腐である! 家来となれば分けてやる。実に美味であるぞ?」

 

 魔王様がそう言うと、メリーさんは驚いた顔をして、スマホを取り出した。何をするのかと思うとどこかに電話をかけた。

 

 ルルルルルル。

 凛子の家の電話番号か、

 

 魔王様が電話に出てくれた。

 

「もしもし、余だ!」

「私メリー、今貴方の心の中にいるの! お慕い申し上げます! 魔王さまぁ!」


 その瞬間、、凛子の式神である魔王様に惚れたメリーさんが、凛子の式神になった。

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