現代日本に召喚された異世界の魔王様は魑魅魍魎相手に無双したりする

アヌビス兄さん

最強式神魔王様登場

第一の怪異 魔王様VSテケテケ

 この世には目には見えないが人の弱った心につけこむ闇の住人がいる。それを曰く妖怪、曰く悪霊、様々な形で人間の心の闇を、隙を窺っている。

 それらをまとめて怪異と呼ぶ。

 そんな闇の住人から人々を守る防人、霊能力者、呪術師、式神使いと様々あれどそんな術者の少女が一人、その弟が一人。学校の校舎を一心不乱に走る。

 

「お、お姉ちゃん。怖いよぉ!」

空汰そらた走って! 私の呪力を込めた札を4枚貼ってるから今の内に!」

 

 かんなぎと呼ばれた闇の住人から人々を守るお役目の家柄の子供がここに二人、ポニーテールが似合うヤマトナデシコの名は姉が凛子りんこ、少女のように愛らしい弟の空汰そらた


 姓は火之兄ひのえ


 姉の凛子はか弱いが闇の住人を調伏する力を持って生まれ、弟の空汰は調伏する力こそないが闇の住人を見る事ができる。


 千年以上も続くかんなぎの家も年代を重ねる毎に段々とその力は弱く、五行家と謳われた最強術者、一つの家柄だった火乃兄家も、凛子の母親の代までで、凛子にその力は受け継がれなかった。学校に住み着いた悪霊。テケテケに追いかけられ、ただ逃げる事しかできない二人、このままでは調伏するどころか、二人もやられてしまう。


 放課後、一人残った生徒を狙い襲い来るテケテケ、正門まで逃げる事ができれば助かり、逃げきれなければテケテケの世界に引き摺り込まれ、意識不明になる。

 しかし逃げ切るにもテケテケの足の速さは100メートルを7秒台で駆け抜ける。

 そんな規格外の悪霊を退治する術を凛子と空汰は……

 

 実は持っている。

 

 バリバリバリバリ!

 

 けたたましい音と共に凛子が貼ったお札が焼き切れる。それと同時に二人は叫んだ。

 

「「魔王様ぁあ! 助けてぇぇええ!」」

 

 迫り来るテケテケ、その手が伸びて空汰の服を掴む。恐怖で声も出ない筈の空汰だが、一変してその表情が明るくなる。

 

「クハハハハ! 貴様ら帰ってくるのが遅い! 今日は二日目のカレーであろう! お肉屋さんのコロッケを買って余は待ちくたびれて参っておったぞ! ……して? 下郎、何故空汰を掴んでいる?」

 

 人々を恐怖の渦に引き摺り込むテケテケがその人物を見てガタガタと震える。

 妖怪、悪霊、それらとは次元が違う……いや、生まれた世界が違う異世界からの魔王様。左と右で色の違う瞳、清潔感を感じる黒と赤を基調としたスーツ姿にマント、服と同じ黒と赤に分かれたツートンカラーの艶々とした美しい髪は尖った耳が少し隠れる程度に短く切り揃えられている。

 スラリと伸びた長い足、陶器のような白い肌、女性は当然のこと、男性ですらごくりと唾を飲む色気を感じる耽美秀麗な容姿。

 彼こそが……どっかの異世界で魔王として君臨するアズリエル。

 

「魔王様ぁ!」

「空汰よ! 今日こそはあの““で空汰をぎったんぎったんにしてやるから早く帰ろうぞ! クハハハ!」

 

 いつも空汰が対戦ゲームで魔王様相手に本気でボコボコにしている事に対して魔王様が楽しそうに話しているのを見てテケテケはゆっくりとそこから離れようとする。

 そんなテケテケを魔王様は指差して凛子と空汰に尋ねる。

 

「待て! 余の許し無しに動くな。して、凛子この下郎は何者か? 簡潔に余に答えよ!」


 完全に安心しきった表情で魔王様の質問に対して凛子が答える。

 

「魔王様、あちら、テケテケと言って放課後に残っている生徒を襲って意識不明にしている“怪異“です。学校のみんなが困っていたので私達がどうにかしようとしたんですが……私では力が足りず」

「ふむ。凛子はスライム以下でクソ弱いからな! くーはっはっはー! なに! 弱くとも凛子の飯は美味い! それぞれ良きところを伸ばすといい! スライムも真夏に集めて寝転がると涼しくて良い!」

 

 魔王様は時々故郷の話をしてくれるが凛子には全く分からない。ニコニコと笑顔でみんながさぁ帰ろうかという状況。

 テケテケは校舎に戻って行こうとするので魔王様が一喝。

 

「下郎。誰が動いて良いと申した? 凛子と空汰は余の可愛い家来である。それもこの世界において、第一の家来よ。余の家来を可愛がってくれた礼。余が直々に下してやろう」

 

 ぴたりと動きを止めたテケテケの元へ魔王様がてくてくと歩いて行く。上半身しかないおどろおどろしい怪異。が、魔王様の前に震えている。そんな姿を見ていると不思議と凛子に空汰は恐怖がなくなっていく。

 

「下郎、足が速いのが自慢であるな? ならばあの建物まで逃げるといい。余が三つ数えてやろう。クハハ! 余に捕まらなければ此度の件、許す。が、捕まればどうなるか分かっておろうな? ひとーつ!」

 

 テケテケは凛子と空汰を追いかけていた時より全力で走る。

 

 ふたーつ!

 

 みっつ!

 

 校舎に逃げ込めたと思ったテケテケの前に……

 

「くーはっはっはっは! ノロマすぎて欠伸が出たぞ? 貴様! 選ぶといい! 余の家来となるか、ここで余の絶対破壊の焔に飲まれて闇魔界に還るか?」

 

 ブォン!

 

 禍々しい炎を魔王様は掲げる。霊能力がある凛子だからこそあれは規格外。世の中に神という者がいればそれに匹敵するなんらかの力。

 火兄家の秘伝・最強式神である禍闇之尊まがみのみこと召喚の儀において間違って呼び出された。


 異世界の魔王様・アズリエル。


 通称・魔王様!

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