第42話 余興の後。
「ヘイメーン、これ何かわかる?」
俺は明らかにガタイのデカい野球部っぽい男子にいきなり話を振った。野球部男子はノリが良く「ヘイメーンって何?」と白い歯を見せて笑ってくれた。つかみは上々。
だけど俺ひとりじゃこうはいかない。学校の聖女さまあってのことだ。
「体操服だろ、普通に」
教壇に立ったまま取り出した白い体操服。もちろん
「センキューメーン。じゃあ、これなんだと思う? そこの女子」
B組の教室の中。突然の来訪者である俺に対して
それもそのはず、ここまで『寝取られた』ことが大々的に広まった男子と絡む機会は滅多にない。
俺だって逆の立場なら気楽に好奇心溢れた視線を送ってたろう。
ここまで積極的に『寝取られた』ネタをしていると寝取られたこと自体それ程痛みを感じなくなってきていた。まあ、万人向けではないけど。
そんな、朝の余興の中ひとり明らかに不機嫌そうに校庭を見る女子がいた。
(ビンゴ)
コイツだ。わかりやすいなぁ、ここまで簡単に
俺は平さんをチラ見すると彼女も小さく頷いた。どうやら俺と同じ意見のようだ。
「
気のいい野球部男子は俺たちを取り持つような懸け橋的役割を果たしてくれた。
「そう、大庭さんって言うんだ。かわいいね、平さん程じゃないけど」
「はぁ⁉」
シカトを決め込もうとした大庭さんだったが、俺の勘は当たった。この娘は揺さぶりに弱い。すぐに思ってることが態度に出る。
いや、庇うわけじゃないけどこんな感じでいきなり
平さんのものだ。ここまで付き合って貰って知らん顔は出来ない。
俺は振り返り『メンゴ』をしようと思ったが平さんは意外な反応。顔を真っ赤に染めて『かわいいだなんて……ホントですか?』さすが、学校の聖女さま。
なかなか場をわきまえない胆力がある。そのリアクションにお付き合いしたいものの、それはふたりだけの時にしよう。
「機嫌悪いね、知ってる? 人ってホントのこと言われたら腹立つんだって。つまりは大庭さん自身、平さんの方がかわいいって認めてるわけだ。身の程も大事だもんね」
あくまでも
「ごめんね冗談、こんなんだから寝取られるんだって思った? まぁ、それはさて置き、コレ。何だかわかる?」
「体操服。さっきそこの人も答えたよね」
「うん、でもほら、学年で6番目くらいにかわいい大庭さんと話すきっかけなんてそうないからさ、理由をつけて話したくなったんだ。なんかごめんね。じゃあさ、これは何かわかる?」
すかさず胸元が切り裂かれた方を彼女が座る机の前に広げた『カタリ』そんな音を立てて立ち上がろうとするが、思い留まって座りなおす。
いくらなんでもここで逃げたら犯行を認めてるようなものだから、大庭さんは思い留まった。
「体操服でしょ、少し破れてるけど」
「少し? 大庭さん的にはコレを少しって言うんだ。斬新な表現だね。じゃあ、なんで少し破れたかわかる?」
「なんで私なの」
「いや、俺想像力が乏しいっていうか、なんでこんなとこ破れるのか想像つかなくて。もし着たままこうなったら大けがだろ? じゃあ、いつなったのって話。脱いでる時に自然にこうなったと思う?」
「し、知らないわよ、そんなこと!」
「知らないんだ、残念。じゃあ誰か知ってる?
「3枚目です。師匠なにやってんですか、朝っぱらから元気ですね。平さん、ごきげんようです」
「ご、ごきげんよう……」
えっ、普通に『ごきげんよう』言うんだ、そんな顔で平さんは俺を見た。もちろん仕込みだ。
勘違いした平さんの朝のあいさつが『ごきげんよう』になる日も近い。これでまた一歩彼女が貴族に近づく。
「海野、どういう状況⁉ 3枚目って言ったよな? ってかおまえ、なにその髪型。あとメガネは……なんかめっちゃかっけーけど」
ガタイのデカい野球部男子。まったく想定してなかったが思った以上の働きをしてくれる。ちなみに彼は仕込みじゃない。
「どういう状況もなにも、気付いたらいつもこうなってます。困るんですよね、体操服って以外に高いんですよ。だからってクツにしてくれってフリじゃないですから。あっ、そうそう! 師匠!
「おま、バカなの? そんなの通用するわけないだろ? 俺みたく『実は地毛で黒く染めてました』って言わなきゃ。それで?」
「生徒指導室に呼び出しです! なに爆笑してるかな? ちゃんと『源君も染めてます~~』ってゲロしましたから。お昼休みは仲よく生徒指導室ですよ」
「マジか……おまえホント俺のこと愛してんだな、ひと時も離れたくないのね? あっ、体操服の件だけど大庭さん違うってさ」
「そんなこと聞いたんですか⁉ すみません、大庭さん。ご迷惑をお掛けしまして。じゃあ、大庭さん以外――なんですよね?」
そう言いながら振り向いた蕗の視線に教室は凍り付く。どうやら誰がしたか野球部男子以外は知ってる感じらしい。
この分だと状況が動くのに時間は掛らないだろう。
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