第41話 貴族ですか?

「いい? 信ちゃん。学校では『地毛』で通すこと、今まで黒く染めてたってことで口裏合わせするから」


 月曜の朝。テンションがまったく上がる気配すら見つからない俺に姉ちゃんが念を押す。


 蕗のイメチェンだけだったはずが、あれよあれよと俺はほぼ金髪に近い明るめの茶色に。そして学校の聖女さまと来たら予想外のインナーカラーをしてしまう羽目に。


 しかもそれがすっごく似合ってて俺だけではなく生徒会長をしてる姉ちゃんですら、戻すのがもったいないと口にした。流石アンディ。


 カリスマ美容師のふたつ名は伊達じゃないぜ。まあ、素材の平さんがいいからなんだけど……


「あと、その……体操服を破かれた娘、海野うんのさんだっけ? その娘もあんたぐらいの髪色なんでしょ?」


「ん……まだマシかなぁ」


 俺は洗面所の鏡の前に姉ちゃんと仲よく並び寝ぐせを直していた。


「そっちは言い訳どうすんの、考えてる? ふたりとも地毛は無理よ。華音かのんちゃんは髪を束ねたら大丈夫だと思う」


 姉ちゃんは校則違反を犯した俺たちの心配をあれやこれやと頼む前から考えてくれている。


 生徒会長的には平さんはそれ程校則ギリギリではないという見解だ。まぁ、同じくらいやってる生徒の前例があるのだろう。


「蕗のほうは、これでいい。むしろ、このままでいい。目的は一石を投じることだし」


「まぁ、正攻法でイジメを立証するより手っ取り早いかも知れないけど、停学あるかもよ?」


「その時は俺も潔く停学になる、蕗とは運命共同体みたいなもんだからな」


「なにかっこつけてんの? どうせアレでしょ?『ちょっとくらい休みてぇ~~』みたいなもんでしょ? やめてよね、停学中に女子と昼からプールとか」


「そこは、そうだなぁ、周りに配慮してナイトプールにする」


「えっ、ナイトプール? なんかやらしい~~そうだ、今度一緒に行かない? ところで、華音ちゃんに聞いたけど三浦みなみとも付き合ってるの? いいの、読モでしょ? 事務所とか」


 ナイトプールやらしいとか言っときながら、弟と行こうとしてる意味がわからない。


「そこ『二股ダメでしょ』じゃないのな? そこまでじゃないみたいだけど、聞いてみる。今度から会う時ウチで会うわ」


「指摘されてからでなんだけど、あんた清々しいまでに二股否定しないのね。っていうか、海野さんはどうなの? まさか『二股』も『三股』も同じ説?」


「ん、でも姉ちゃんが平さんの相談に乗ったげるって事なんだろ? 安心してたよ」


「あんたが安心させたげてね? なんで弟の『二股』『三股』疑惑の相談窓口しなきゃなの、華音ちゃんかわいいからいいけど」


 こんな感じで俺の髪色問題は家族の中で大きく取り上げられることは無かった。母さんに至っては『きれいな色ね~~』とか言ってたし。


 でも、根底にあるのははるかとの破局で俺に対しての引け目があるんだろう。でも、今回だけはそれを利用させてもらう事にした。


 女子の間のイジメは簡単な話じゃない。男子より陰湿で注意深い。しっぽをつかむなんて生易しい考えでは、イジメの手段が変わるだけだ。


 言葉が残念だけど『ビビらせて』やめさせる方が効果がありそうだ。ダメなら他の方法を当たる。


 今回、蕗の髪色とイメチェン。学校側はどう受け止めるだろうか。少なくとも注目は浴びるだろうし、注目すれば理由を探りたがるのが人というものだ。


 注目され、見る人の目が増えることでイジメにくい環境が出来るならそれはそれでいい。だけど、そんな人任せにする程俺は呑気者じゃ無かった。


 ***

「B組のみなさん、おはようございます! わたくし『寝取られ男』で名をせましたみなもと信哉しんやと申します!」


 登校後の教室。


 朝練がない月曜日。B組に限らず教室やその周辺の廊下にはそこそこ生徒がいる。それを承知のことで俺は1発かますことにした。


 かます以上スベれない。少なくとも『ややスベり』くらいで収めたいものだが、蕗のイジメ問題が関わっている。


 表面的にはふざけたように見せかけて、まず注目を集め後はドカンだ。そう、実演販売みたいな感じでいこう。


 そして、確実性を増すためには客寄せパンダが不可欠。


 俺の『寝取られ男』でもそこそこのビックネームだが、いささか知名度が低いし『キワモノ』過ぎて引かれては話にならない。


 そんな訳で俺と共に客寄せパンダの大任を務めて頂くことになったのがこの方です!


「みなさん、。わたくしたいら華音かのんと申します」


 この事はいつもならぶっつけ本番で放り込む俺なんだけど、さすがに聖女さまにいきなりは荷が重い。


 ちゃんと説明したら嫌とは言わないハズだと相談したところ、こころよ快諾かいだくを貰った。


 蕗の置かれてる立場を思えば、友人としては当然の判断ですと言ってくれたものの……


***

『嫌ですよ! わたくし普段からなんて言いません。なんです、わたくしは貴族ですか? 普通におはようございますです!』


『いや、そこはみんなのイメージというか。平さん言いそう、言いそう! そんな平さん見て見たい! みたいな?』


『本当でしょうね、信哉さん。まさかわたくしを笑いものにしようとされてませんか』

***


 こんなやり取りがあったのだけど、作戦通り平さんの『ごきげんよう』はかなりの注目を集める事になる。


 イメージ戦略成功といったところだ。

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