第40話 絵に描いた餅。

 和田一党の中心人物は言わずと知れた和田琢磨たくまだ。彼はある事に可能性を見出していた、自分が寝取った友奈は信哉の元カノ。


 こういう場合に使う言葉として正しいかは疑問だが、彼は彼なりに成功体験を得ていた。


 何をといえば、信哉寝取れるという安易な成功体験。


 何が言いたいかと言えば、和田は和田なりに考えていた『源信哉は男としての魅力がない』だから友奈の時も簡単に寝取れた。


 そして今回のターゲットはたいら華音かのん。言わずと知れた学校の聖女さまだ。


 ついこの間まで高嶺たかねの花と興味を持つことはなかったが、信哉と付き合うことになった華音は和田から見たらもう手の届かない存在ではないように思えた。


 しかし、さすがに2回目だし相手が学校の聖女さまとなると信哉のガードも硬いだろうと踏んでいた。


 そのガードを下げさせる必要がある。その役目として友奈が最適だ。和田は友奈に元鞘もとさやに戻るフリをしろと命じた。


 和田は十分過ぎる程、友奈のことを知っていた。口では嫌がるだろうが承認しょうにん要求が強い友奈。


 しかも、今回は彼女の性癖を数段階引き上げる欲望が鼻先に吊り下げられた。


 学校の聖女さまの彼氏であり、読モの三浦みなみの彼氏でもある源信哉。伊勢はるかの時とは比べようもないくらい、性的承認要求を満たせる存在になっていた。


 しかも、それだけではない。


 信哉と関係を持った後も和田一党との関係も持ち続けるとなると、これ以上彼女の求められたい欲を満たす出来事はこの先ないように思えた。


 それだけではない、絵に描いた餅とはいえ、華音を寝取る前提だ。


 そうなると、最低限『身ぎれい』にして可能性を引き上げる必要がある。その為には友奈が邪魔だ。そもそも、友奈はタダで存在くらいにしか思ってない。


 和田の描いたシナリオはこうだ。


 友奈の体をエサに信哉を誘惑させ、華音と別れさせる。元カノが泣きついてきて知らん顔出来るタイプではないだろう。


 適当なウワサを流し信哉が元鞘もとさやに戻った事を知って傷心の華音を口説く。こんな感じ。


 和田のなかでは『どうせ何も知らないお嬢さま』落とせばチョロいし、場合によればいい金づるにでもなると考えた。高校生が考える範囲を彼らは越えてる。


 しかし、和田一党も一枚岩ではない。時に和田は友奈の体をエサにしたように、彼らにエサを与えないといけない。


 そして今回のエサが華音だ。実際そうするかは別として、可能性を匂わせるだけで効果は十分ある。


 そしてもう一人同席していたのが、蕗のクラスメイトで蕗に対しての嫌がらせの総指揮を執っている大庭おおば真夜。


 もし学校に聖女さまと呼ばれる華音や読モの三浦みなみが存在してなければ、学校を代表する美少女だった。


 事実中学時代はそういう目で見られてきたし、高校入学以降もそういう扱いを受けるものと考えていた。しかし現実は違う。


 ふたりがいる以上トップを張るには役者不足。それどころか、彼女たち以外にも同学年には美少女が数人いる。


 しかも蕗のような一見地味な原石も数人いたりで、真夜は美少女ながら突き抜けた存在ではない。客観的に見て埋没の危機にあった。


 つまり、大庭真夜にとっての高校生活のスタートは思ってもないつまづきから始まった。


 しかし悪い事ばかりではなく、早い段階で切り替えることが出来た。廊下ですれ違った和田にひとめぼれしたからだ。


 多くの男子にちやほやされる中学生活を送って来た真夜だったが、現状を再検討し特定の誰かと付き合うのも悪くないと感じ始めていた時の出会い。


 そして、前向きになれた瞬間に起きたのが和田の告白を迷惑そうな顔で断ったクラスの地味女子海野うんの蕗の『ごめんなさい。興味ないんだ』事件だ。


 自分が好意を寄せる相手にこの言いぐさ。


 彼女にとって蕗は怒りをかき立てる存在でしかない。そこから蕗に対しての陰湿な嫌がらせが始まった。


 和田には人の負の感情を見抜く才能がある。真夜の負の感情もだし、自分に向ける好意も気付いて利用できると見た。


 だから、友奈が信哉とよりを戻すことが真夜に対しての燃料になると考えていたし、それは正解だった。


 何より自分を振った蕗に指示するまでもなく、嫌がらせをしている真夜からは自分と同じニオイを感じていた。


「北条。言った通り明日昼休みにでも源を落とせ。大庭、月曜4時間目体育だよな。体育倉庫のカギ閉め忘れてくれ、体育委員だから簡単だろ。北条、そこでいいな? 昼休みに。誰かに動画を撮らせる。それを帰る間際に平に見せる感じ。あとはオレが何とかする」


 得意満面な和田の顔が気に入らない真夜は計画の盲点を指摘する。


「和田君。それはいいんだけど、源君と海野。最近佐々木君と仲よくない? ファミリーと揉める覚悟あるの? 佐々木くんには柔道の全中王者の細川君がついてるでしょ、厄介事にならない?」


 言葉は深刻な感じを出してるが真夜の目は笑っていた。


 その事に対して明確な答えを真夜は持っていて、それが和田に対してのアピールポイントになると確信してる。


「ファミリーな、ファミリー。敵に回すと厄介なのは間違いないが……いい考えありそうだな?」


 和田は同じニオイがする真夜に話を振った。

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