第39話 快感。

 まあ、世の中そんなに甘くない。


 こんな家族総出の状態で『あんなこと』や『こんなこと』が起こるハズもない。俺と平さんは姉ちゃんを含めて俺の部屋で話疲れて寝落ちした。


 今日は三浦に蕗のイメチェン第二弾を頼んでいる。俺も同行する予定だったが三浦の取り巻き『強面シスターズ』にはばまれた。


 なにせ、今日は蕗の制服を魔改造する計画なのだ。そうなると服を脱ぐ機会が多くなる。その都度『ラッキーぽろり』が期待できるハズだったが……


 そうなる前に強面シスターズに要注意人物と排除はいじょされた。


 三浦はがっかりな反応だったが、制服の縫製ほうせい担当が強面シスターズの中村さんと伊東さんなので従うしかない。貴重な無料の労働力なのだ。


 三浦との予定が消滅したからと平さんといるのもなんか申し訳ないので、俺は平さんを自宅に送りそれぞれの休日をごす事にした。


 こんな悪だくみが進行されてるとも知らずに。


 ***

 ハンバーガーショップ『まっぷ』には和田と北条きたじょう友奈、そして実質的に海野うんのふきに嫌がらせの総指揮をっている大庭おおば真夜の姿があった。休日の昼下がり。


 店内には家族連れやカップル、そして携帯ゲームなどを楽しむ客で賑わっていた。そんななかでこのメンツは少し場違いなはかりごとを口にしていた。


 おさらいになるのだが、元は和田が蕗を気に入りいい寄ったが思うような結果が得られなかった。


 そして蕗の代用品として白羽の矢が立ったのが信哉しんやの彼女だった北条友奈。そもそもの始まりは些細なことだった。


 蕗に振られ虫の居所が悪かった和田の目に入ったのが、高校生らしいというのも何だが清く正しいお付き合いをしていたふたり。


 そして思いつく。


『おとなしそうに見えても、落ちればその先は――』


 そう、振られた腹いせに友奈を落とす事にした。しかも自分たちの仲間内が入れ替わり立ち替わりで友奈に告白をする作戦。


 その都度『かわいい』とか『感じいい』とか『芸能人の誰に似てる』とか言われた友奈はモテ期が来たと勘違いした。勘違いしたい理由もある。


 中学時代信哉しんやと伊勢はるかの悲恋は学校を揺るがす程の事件だった。そういう恋愛に憧れを抱いた。


 遥は超お嬢さまで、奇抜なセルフカットさえもどこか彼女の魅力だった。自然悲劇の渦中にいる信哉の株も上がる。


 それだけではない、友奈は元々人のモノが欲しくなる性格だった。


 自分の持つ価値観が乏しく、その部分を『人が欲しがるから、それはきっと価値があるものだろう』そんな風に価値の基準を測っていた。


 そんな中でも、遥が悲劇の舞台の中心に立ってまで欲しくて狂おしい程に焦がれて求めた源信哉に価値がない訳がないと思うようになった。


 でも、中学時代の友奈は特に何も行動しなかった。


 信哉が価値がある存在なのかもとは思っていたが、さほど興味が湧かなかった。しかし、その状況が変わったのは高校に入学してからのことだ。


 進学した高校に遥が求めた信哉がぽつりといた。それでも『あぁ……同じ高校なんだ』その程度。そんな彼女のアクセルを踏みこむ出来事が起きる。


 ある日のことだ。昼休み見慣れない制服が校門周辺をうろついていた。特になにという事はない。


 なにということはないのだけど、ふと興味が湧いた。少し離れた生垣の端から見慣れない制服の女子を覗くと知った顔だ。


 そう、超お嬢さまの伊勢遥だった。しかも身を乗り出して学校の中を覗き込む。そんな姿を見て友奈はすぐに気付いた。


『源君を探してるんだ……』


 一瞬。そう、ほんの一瞬だけ思った。


『呼んできてあげよう』かと。しかししなかった。しない代わりに友奈は抑えきれないゾクゾク感に支配された。


 遥が人目を気にしながら逢いたくて仕方ない信哉とは同じクラス。しかもまだ入学早々で見知った顔も少なくクラスもまだ全然固まってない。


 遥と別れさせられたショックからか、信哉はあまり誰とも話してない。仲よくなるきっかけはいくらでもある。


 幸い中学は同じだし、まったく知らないワケじゃないので邪険には扱われないだろうという計算も軽く友奈にはあったし、何より人のモノ。欲しがるモノには興味が湧き出る。


 積極性に欠ける友奈だったがこの時ばかりは何かに突き起こされるように行動した。


 最初は挨拶。そして少し話すようになり、登下校を共にしなんとなく付き合ってる空気を出した。それでも友奈はわからなかった。


 信哉のことを好きなのか。嫌いじゃない。話してると楽しいし、感じもいい。見た目も嫌いじゃない。だけど、好きかどうかは微妙だった。


 なにせ、友奈を突き動かす感情は遥が欲しがるモノを横取り出来ているという満足感だけだった。


 そんな現状に満足しかけていたある日、和田一党からのかわるがわるの告白劇。最初こそは警戒したものの、友奈には新しい性癖が開花しようとしていた。


 なんて言うのだろうか『寝取らせ』属性とでもいうのだろうか、求められることに快感を感じ始めていた。


 それは日を追いエスカレートし、気付けば和田一党すべてと体の関係を持っていたし、求められることに快感を得ていた。


 そう、ここでも同じだ。信哉に大事に思われてるだろう自分を信哉以外の男子に自由にされていることが堪らなく快感だった。

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