第38話 成長しました。
『コンコン……』
それ程遅い時間じゃない。せいぜい22時過ぎだ。俺は部屋で姉ちゃんの監視の元、過ごす事になったのだが肝心の看守はさっさと寝てしまった。
しかも「久しぶりに一緒に寝ようよ」などとほざいていたが、姉ちゃんは俺のベットで大の字になって寝ている。
3歳児でもない限りベットに入り込む余地はない。いや、わかっていたことだ。姉ちゃんの寝相がよくないことなんて。
ひとりで寝ていてもベットから転げ落ちるスキルを所持しているのだから。
そこに、ノックの音。両親は土曜の夜ということもあり、いい感じで
「お邪魔してよろしいですか……あっ、お姉さまお休みになられたのですね」
急に決まったお泊り。
幸い近所のコンビニに三人で平さんの下着やシャツを買いに行ったまではいいが、元々早寝早起きの姉ちゃんは「朝まで騒ぐぞ」宣言もむなしく21時過ぎには俺のベットで「ムニュムニュ……」言っていた。まるで昔から変わらない。
そして1度寝てしまうと朝まで起きないのも同じだ。
「いいよ、別に。1度寝たら起きないから。逆にこんな時間に寝ろって言われる方が辛いだろ?」
「いえ、私も早寝な方なのですよ。普段はほら起きていても寂しいじゃないですか……って、どうしたのでしょうか。信哉さんとお付き合いを始めてわたくし、息をするように自虐的な言葉を……」
「それはね、俺にはデトックス効果があるんだ。だから余分な毒は愚痴として排出されるんだ。すごいだろ?」
「ええ、ホント。どうしてこんなどうでもいいことはペラペラと」
「どうでもよくないだろ。それでお前が救われてるのだろうし」
いつもの軽口のつもりだった。いや、少なくとも俺からしたらそのハズだった。だけど、言葉は時に難しく受け手で意味を変えてしまう事がある。
今がそうだ。俺の言葉を聞いた平さんは笑顔を崩し真剣な表情をした。さっきまでの笑顔が作り笑顔だと気付くのがほんの少し遅かった。
もしかしたら俺は知らず知らずに平さんの心の柔らかい、触れて欲しくない部分に手が届く間合いに入っていたのかも知れない。
だから、そんな時だから言葉は飾らなかった。
「どうしたんだ、入れよ。二人きりじゃないから姉ちゃんも怒らないだろ」
「まあ、こんな時にも屁理屈を。ほんとあなたという人は不思議です。本当にあなたは不思議な人です。わたくしはお気づきでしょうが壁を作ります。本当に多くの壁を
「興味をもって欲しい人に気付いてもらえない時が寂しいんだろ」
「まあ、いつもは冴えない顔されてるのに。ええ、そうです。でも信哉さんはそうではないみたいです。今日だってわたくしの寂しさに気付いてくださりました」
「いや、それは単純に平さんの顔を見たかったんだ。あと、そうだなぁ。小言を言われたかったのかもな『いつまで元カノに構ってるのですか』とか。
「わかりますが、どうでしょうか……わからない方が実はいいのですよ、私の立場的には。ほら、わたくし無駄に育ちが良いものですから理解してる風を装うのです。その方が信哉さんにとって都合がいいのではないでしょうかと。でも、こう言いながら自分の成長を感じます」
そう言ってそっと胸に手をあて、聖女さまらしく目を閉じふと気付いたのか「成長は胸の大きさではありませんから、お
「もう、本当にあなたという人は不思議ですね。真剣な話をしていると思えば、思いもしない冗談を
「いや、胸の話はしてないだろ? 敢えて言うなら『成長を感じます』と言って胸を触ったら誰だって『デカくなったんだ、ドヤってるんだぁ』になるって。ところで、胸じゃないなら何が成長したんだ?」
「ふふっ、お優しいことで。なんとなくはお気づきでしょ? 今までは理解したフリして空気を読む。そして相手に都合よく立ち振舞うだけでした。だけど信哉さんに対しては少し違うみたいです、わたくし……どうやら
「大丈夫だ」
「まぁ、何を根拠にそのような無責任なお言葉を吐かれるのですか? お姉さまがいらっしゃるとはいえ、わたくし
「それを受け止めるつもりがないなら今日会いに行かなかった。そのことだけは伝えたかった」
「本当にあなたは憎い人です、どうしてそんな大切な言葉をふたりの時に届けてくれないのですか。でも、いいです、それは贅沢というもの。確かに受け取りました。言質を取りましたよ。お気づきですか、私は思いのほか執念深い女子なのです。空気を読むのをやめさせたのですから、責任をもって受け止めてください。伊勢さんの事ですが、思うようにしてくださいな。そして、実感してください。わたくしが許したからこそ、過去に向き合えるのだと」
知らなかった事があった。
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