入学早々寝取られたので、学園のツートップ美少女と付き合いました。

第32話 神ってる。

「――っていうか師匠。なんでウチ知ってるんです？　ストーカーですか⁉」

　口元をワザとらしく押さえワナワナと震えて見せる。俺にとっては平常運転なのだが、強面シスターズにとっては違うらしい。

「それはうちらが……源が三浦経由で聞いてきて。時に源、なんでうちらが海野とおな中（ちゅう）だって知ってる？　そっちの方が怖いんだけど」

「そう、それもなんだけど海野ってこんな感じなんだ。知んなかった」

「いや、私かこんな感じなのは源君（この人）がバカだからです。で、なんでなんですか。私とおふたりが同じ中学だって知ってるのは」

「前に三浦が言ってたから。それだけ」

「ちょ、それだけの事におふたりを巻き込んで道案内させたんですか？『まいん』のＩＤ教えましたよね？」

「いや、いきなりは恥ずかしいだろ？　ほら言うじゃないか、親しき中にも礼儀ありって」

「いや、初絡みのおふたりと肩組んでる人が今更なに恥ずかしがるんです？　絶対バカでしょ？　あと絶対それ程親しくないおふたりに対しての礼儀は⁉」

「それな！　あと、三浦待たなくていいのって話なんだけど……」

「はぁ、師匠……三浦さんまで呼んだんですか？　しかも待たずに来たの⁉　鬼畜じゃないですか！」

「いや、きっとアイツそういうの……放置プレイとか好きそうじゃない？」

「源～～次からそういうの好きかどうか確かめてからしろよ」

「なにいってんだ、中村さん！　こういうのはいきなりするから感じるんだろ！」

「おま、なに三浦感じさせようとしてるの？　あと私、伊東だからな？」

「そうですよ、師匠。だから寝取られるんですよ！」

　強面（こわもて）シスターズのふたりは顔を見合わせて噴き出す。蕗はそれを怪訝（けげん）な顔して見た。

「いや、悪い。おまえ、海野。意外と言うねぇ～～って」

「そうそう、地味で大人しい印象しか……っていうか、なにその髪型⁉　ちょーかっこいいじゃん！」

「そ、そうですか。それはすっごくうれしいんですけど、師匠。なんで得意げなんですか？　師匠は『なんかかっこよくセクシー系で』ってアンディさんに丸投げもいいとこだったじゃないですか！」

「えっと、ちょっと待って。海野、アンディって『アンディのお店』のアンディさん⁉　あのカリスマの？　えっ、予約取れたの？　なんで？」

「なんでって……それは師匠のお知り合いだからですかね」

「師匠って源？　いや普通に聞き流してたけどなんで師匠なの？　いや、それより源。アンディさんと知り合いなの？」

「えっと、まぁ……っていうかアンディって有名なの？　オネエ界隈（かいわい）で？」

　俺は前のめりの強面シスターズにたじろいだ。そのはずみで俺はゴミ箱をひっくり返す。

「源～～なにやってんの、あんた三浦の彼氏でしょ、しっかりしてよ……ってか、あんたも何気（なにげ）にかっこよくなってない？」

「思う～～コレなら推（お）せるわぁ～～って、源聞いてる？　あんたさ、なんで人の部屋のゴミ箱漁（あさ）ってるのさぁ（笑）って、何それ……」

　転がったゴミ箱からこぼれ落ちた見覚えのある服を俺は拾い上げ、広げた。見覚えがあるはずだ。

　そこには俺たちの高校の体操服が押し込められていた。しかも――

「海野。違うと思うけど、一応聞く。あんたがしたんじゃないよね」

「それは……うん、でも――」

「でもはいいや、それで佐々木君か。からの源って訳ね、三浦なんにも言わないからさぁ……あっ、もしかして髪型変えたの関係あったり？」

「まぁ、そうだな。とりあえず舐められないようにしようかと、伊東さんみたいに」

「源、ごめんワザとだよね？　私、中村なんだけど、地味に刺さるわ～～確かにうちらあんたみたいに派手な『寝取られ』スキル持ってないから、区別付かないだろうけど、そこまで似てないでしょ？」

「ごめん、俺は基本女子は裸でしか判別できん」

「あんた、よくこの緊迫した空気でそれ言えたわ、ほんとある意味師匠だわ。って話戻すけど、これアレ確でしょ。イジメ、違う？」

　重苦しい空気。和ませようとしたワケじゃないが直視はキツイ。特に同じ中学出身というだけで、そういう悩みのなさそうなふたりに指摘されるのは少し重い。

　話をそらすか、同じように聞くか、沈黙を保つか。ほんの少し判断に迷ったが俺は俺だ。

「か、嗅いだ……どうしよ、伊東。目の前で源が海野の体操服嗅いでる、しかも堂々と。っていうか、海野。今日体育あったよね？　うちらと合同だから……あんた体育、授業出てたよね。どうしよ、伊東。源、使用済みの海野の体操服嗅（か）いでるけど……」

「三浦には悪いけど、通報レベル。い、一応聞くけど、源。嗅いでなんかわかるの？　ないと思うけど、犬並みの嗅覚とか？」

　俺は外野の雑音に耳を貸さず目を閉じ、ゆっくりと体操服を嗅いだ。そしてそっと体操服から顔を遠ざけ、目を開いた俺に蕗が心配そうな顔をして話し掛けた。

「師匠……ううん、源君。何かわかったの？」

「わかった。少なくとも――」

「少なくとも、なんなの源。興奮したとかナシね？」

「わかってる。少なくともこれだけは言える、この体操服から蕗以外に、すっごく嫌な女のニオイがする。当たってるだろ」

「あっ……うん！　当たってる！　当たってます！　流石、源君です！　流石こころの師匠！」

「だろだろ？　じゃあ、これは証拠品として俺が押収する、いいか？　ちゃんと有意義に活用する」

「はい！　ご自由にお持ちください！　なんなりとお使いください！」

「いや、海野‼　うちらが口出すことじゃないけど、違う意味で『有意義に』活用するよ！　源だって思春期男子なのよ！　あんなことや、こんなことに使わないわけないでしょ！」

「なに言ってんだ、中村さん。あんなことにしか使わない」

「だ・か・ら！　私が伊東な？　海野、使うって公言したよ？　なにあんたいい顔してるの？　もしかして海野ってそういう性癖なの⁉」

　思いのほか蕗の顔から笑みが零れた。ふふっ、流石俺だ。神ってる。