第30話 出したハズの答え。
「こんなとこ、大丈夫なのか?」
俺は平さんと蕗と別れ海岸線に面した松林にいた。もちろん遥と。
「どうかなぁ、意外と街中よりバッタリの可能性低いんじゃない? それに見晴らしがいいから見つけやすいし、隠れやすい。って浮気してんじゃないってんの。ホント、嫌になる」
吐き捨てるように遥はこぼす。隠れてるのは家族からの視線。遥が言うには位置情報を切らないように親から言われてるらしい。
俺は知らないが位置情報が見れるアプリとかあるのだろうか。
遥は恨めしそうにスマホの画面を見る。まるで思い入れがないのか、スマホのロック画面は購入されたときのままのよく見る風景写真。
「信哉君知ってる? 私のスマホって私的には単なる時計。時計機能だけしか使わないなら逆に大き過ぎなんだけどね」
「動画とか見ないのか?」
「少しはね。でも、いい動画見つけてもそれを話せる信哉君はいないのよ? コンビニでも売ってない。嫌になっちゃう」
儀式はしたものの、どうしたら遥が救えるかなんて考えが簡単に浮かぶ事はない。髪型を変えたからって気分が変わるほど、遥を取り巻く環境は優しくない。
それでも、ありふれた日常が今この手にあるのにそれを楽しめないのはもったいない。
「アンディのトコでは言えなかったけど」
「うん」
「その髪型、似合ってる。その……可愛いと思う、今でも」
「今でも、なんだ。そう、それはなんて言うか……普通にうれしい」
「うれしいんだ、普通に」
「もう、意地悪ね。違います、ちょーうれしい。うん、今でもか。今でもね……」
遥は何度も意味深に独り言を重ねた。松林の根元に並んで腰掛けた遥は、時計機能しか使わないというスマホを雑に砂地の地面に放り出していた。
それを拾い上げ俺はパターンでロックを解除してみせた。
「なんでわかるの。なぞった跡?」
「なんとなく『S字』かと。おまえ、どんだけ俺のこと愛してんだ」
「はっ⁉ じ、自意識過剰じゃない⁉ べ、別に『
「それはそれで結果オーライだろ」
「うっ、そ、そうなんだけど! なんで私は君にだけこんなに心揺り動かされんだろ。君さ、呪いかけてない? なんでこんなに取り乱さないとなの、腹立つわ~~」
「腹立つの?」
「う……立ちません! もう、立つわけないでしょ! 嫌い! もう……先に言うね、嫌いじゃないわよ。ホント君は」
そう言って並んで座る俺の二の腕を
俺は小さめの溜息を吐き、カメラのアプリを開きツーショットを撮った。
「よく撮れてるねぇ、どこの不良よって感じ。信哉君こういうの似合うんだ。嫌だなぁ、アンディのヤツこんなに信哉君
俺は成り行き上、佐々木のファミリーの一員になった。そして偶然再会した遥に儀式をし、救いたいと願った。今の俺には言い訳が必要だ。
家同士の事とか、この先の事を考えたら前に踏み出す勇気が出ない。
ファミリーを言い訳にしてもいい、儀式をしたからと自分に言い聞かせてでも遥を救う言い訳が、理由が欲しかった。
わかってる。俺の救いが本当に必要としているのかさえわからない。そんな力があるとも、なれるとも全然わからない。
だけど、もし仮に遥の
「ねぇ、何してるの。私のスマホ、やめてよね。えっちなネットの閲覧履歴とか探さないでよ」
「見てるのか、えっちなページ。せっかくきれいに撮れてるから」
「写真? ダメだよ、そんなの見つかったらまた信哉君のお母さんに迷惑掛けちゃう。冗談じゃないのよ、スマホチェック」
「知ってるよ、そういうのする家族でしょ。いらない? 写真」
「なんでそんな意地悪言えるの? この口か? この口が意地悪ばっか言うのか? もうしゃべれないように
そう言って遥は熱い目をして俺の顔に手を添えたが、残念土曜の海岸線に面した公園。家族連れが思った以上にいる。
「遥さん、やめようね。ちびっこたちがガン見してますよ?」
「いいじゃない、見せてあげたら。あと10年もしたら、ぶちゅぶちゅするワケだし(笑)」
俺は今度は自分のスマホを取り出し熱く火照った遥の顔を間近で撮った。
「いいの? そんな写真撮って。だいぶクギ刺されてたじゃない。平さんに、消そうよ、お互い」
「そんな、スマホ音痴な遥に朗報。写真はシークレットフォルダに保存できます!」
「シークレット……うそ、内緒に出来るの?」
「出来る。だから、お前がこっそり見てる、えっちなホームページからコピーした写真も保存できる!」
「マジ⁉ いや、えっちな写真に喜んでないからね? じゃあ、信哉君の写真も?」
「そう、お前のさっきの写真も。ちなみに暗証番号がわからないと見れない」
「あぁ……ダメだ。私ベタに信哉君の誕生日とかしそう。そんなのスマホチェックでバレバレだぁ」
「ご安心ください、そういうベタなことしか出来ない遥さんにとっておきの暗証番号でデータ保存済みです!」
「でも、私知ってるでしょ、そういうの覚えらんないの」
「大丈夫、俺から連想出来る暗証番号じゃない。さすがにお前、姉ちゃんの誕生日覚えてるだろ? あのやらかした日」
「やらかした言うな、覚えてるけど……私のスマホにお姉さんの誕生日の暗証番号って……シスコン過ぎて逆に
それから俺の前で何度かシークレットフォルダを開き、写真がある事を確認しニンマリとした。
さっきまで砂地に放り投げてたスマホを大事そうに両手で遥は持ち、時間が許す間、お互いに写真を撮った。
再会してから初めて遥は昔のような笑顔を浮かべた。少しくらい、役に立ってるみたいだ。
そんな遥を見ながら俺の心のどこかで、終わらせる準備をしないと、と思う自分の存在に気付く。
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