入学早々寝取られたので、学園のツートップ美少女と付き合いました。

第19話 アンダースタンド？

「あの……源君。なんか久しぶりだね」

　この言葉が友奈の口から出るまでにそこそこ時間が掛った。遠巻きに俺たちを見て、戻ろうとしてやめてを何回か繰り返した。

　その間に俺たちは打ち合わせをする時間は十分あった。十分にあったんだけど、誤解は解けなかった。俺の作戦ってなに？　って話。

　誤解を解こうにも蕗はまったく聞く耳をかさない。

「源君がまいたエサに掛りましたね。きっと和田君の指示で源君の様子を見に来てます。私が言うまでもないですけど、モテてる状況を否定しないでくださいね」

　いや、蕗さん。俺、和田にエサまいてないですけど？　もういいか、仕方ない。

「わかってるならいい。ここはお前に任せる」

「えっ、いいんですか？　ここからが源君の見せどころでは……いや、あえて！　あえて、そこは私に任せる感じなんですね、わかりました！　源君の期待に見事答えて見せますとも！」

「おっ、おぅ……」

　ごめん、俺の期待ってなに？　悪いけど俺半分も理解してないからね？　任せるよ？　丸投げするよ？　ファイナルアンサーだからね？

「えっと、誰です？　あの、邪魔しないで欲しいんですよ、せっかくふたりの目を盗んで連れ出したんですから、ねぇ？　信ちゃん」

「あ……ごめんなさい。私は――」

「あっ、こちらこそごめんなさい、知ってます。信ちゃんの……元カノさんですよね。その元カノさんがなんですぅ？　信ちゃん、いま。私のことバレちゃって本妻さんふたりが激おこなんですよぉ」

「元カノ……本妻さんって」

「本妻は本妻よ～～知らないの？　信ちゃん今ね、聖女さまと読モさんとも付き合ってるの～～私？　私は信ちゃんのこころの支え。大変だったんだよ？　あることない事言われて。誰かさんが寝取られなんて下手打つから。で、なに？　今更信ちゃんに用ないよね？　信ちゃん人いいから何もなくて済んだんだけど、私怒ってんだけど？」

　そう言うと蕗は後ろ手に合図した。こんなキラーパスいきなり出されても、誰が受けるの？　俺⁉　ったく、もう。

「蕗～～それくらいにしてやんなよ。えっと、北条さん困ってるだろ」

「だぁってぇ～～佐々木君も味方してくれるんだしぃ、もうよくない？　無視しようよ～～どーせパシリで来てるだけでしょ『源が本当に聖女さまと付き合ってるか聞いて来い』みたいな？　名前なんだっけ？　名田君だっけ？　違うか、佐田君？」

「和田だ」

「和田だ！　忘れてた！　いや、覚える気なかった！　だって、つまんないヤツだもん。北条さん、あなたもね。ホントつまんないことしてくれたわよね。私の大事な信ちゃんに」

「蕗。困ってるだろ。悪いな、北条さん。こいついい娘なんだけど、そのキレてて。あのことで」

「あのこと？」

「あれあれあれあれあれあれ？　お股同様頭もユルイいのかなぁ？　まさかぁ、あなた。あれだけのこと入学早々仕出かしておいて忘れたとか。無くないですか？」

「えっと……それは……」

「北条さん。これ以上蕗がキレたら困るでしょ？　それでなに？　用件は？　平（たいら）華音（かのん）のこと？　それとも、三浦陽（みなみ）？」

「うん、その……聞いてきてって。その和田君たちに。その……付き合ってるの、ふたりと」

「ブーッ！　残念、３人ね？　言わなかった、私。バレちゃったって。マジレスすると――」

　そう言って蕗は俺の耳元に近づきとんでもない提案をした。俺は生唾を飲み込みながら頷く。いいのか、そんなこと言って。お前的に。

「時効だから言うね。実はね、北条さん。あなたが和田君に現（うつつ）を抜かしてた時、わたし思ったのよね『これワンチャンあるかも！』って。何がって？　見たのよ、偶然。あなたが和田君たちと浮気してるの。だから、私は陰で信ちゃんに大接近！　口説き落としてたの！　身持ちが硬（かた）いったらありゃしなかったわ」

「えっ、源君ホント？」

「なに、ホントってウケる～～自分だって寝取られてるじゃない。浮気したじゃない、バンバン！　信ちゃん、ううん。信哉君的にさぁ、思ったんじゃない？『もう汚ギャルいらねぇ～～』って。なに？　もしかしてヤルことやっといて、信哉君に落ち込んでて欲しかったとか？　ないない！　信哉君人気あるのよ？　だから、フライングゲットした私、クラスでハブられててヤバいヤバい～～でも、いいよね？　アレでしょ？　北条さん『キャッチ・アンド・リリース」みたいな？　捨てたんでしょ？　残念ね。逃がした魚は聖女さまと読モさんと私で大事にします！　溢れんばかりの愛回収して撤収したんだよ、信哉君は。お分かり（アンダースタンド）？」

　俺が誰に人気あるって？　盛るのもたいがいにしないとバレるからな。聞いてる俺が恥ずかしいわ。

　しかし、この娘があの地味な海野蕗だろうかと目を疑う。教室では、B組では目立たないでいようと演じていたのか。

　そうとしか思えない、じゃないと今のが演技なんて考えられない。友奈にしても俺といるのが、蕗だから声を掛けれた部分がある。

　これがもし、三浦陽（みなみ）なら同じように話し掛ける事が出来たかというと、恐らくない。

　寝取られを自虐ネタにして、傷つかないようにしているのは、きっとまわりで見てたらわかる。

　平（たいら）さんみたいに、手を差し伸べるまで出来ないにしても、原因を作った和田や友奈をおもしろくは思わない。

　特に女子的には、友奈の行動はよく写らない。いや、今のはオブラート。正確には友奈とは関わりたくないし、知りたくもない。

　無視をしたら和田一党が不気味だから最低限の付き合いはしよう。そんな空気。

　じゃあ、和田一党が怖くない女子グループはいないかと言えば、いる。三浦陽（みなみ）の取り巻きだ。

　なにも三浦は従姉弟だからと、佐々木と常に一緒に行動してるワケじゃない。佐々木の虎の威（い）は必要ない。元々女子にも人気の三浦陽。

　少しばかり気の強い系お嬢さまが左右を固めている。いや三浦自身なかなか気が強い系。

　これまで友奈に直接攻撃をしなかったのは、和田一党が怖いのではない。佐々木に停められていたのと、俺への配慮。

　これ以上恥をかかせたくないというバランスの元で成り立っていた。そのバランスは俺が佐々木の庇護（ひご）下に入ったいま完全に取り払われた。

　取り払われたのだけど、それに気付かない和田一党は友奈の時のように、平さんも同じように出来ると思ってるのだろう。何か手を打たないと。

　同じようにとはつまり、俺から寝取れると考えているということだ。

「そんな訳で、もういいかなぁ～～信哉君さぁ、もう北条さんの相手してるほど暇じゃないの。ファミリーのこともしないとだし」

　意味ありげな視線を俺に投げた蕗はここで話を打ち切った。蕗は俺の手を取り食堂の方へ歩き出す。食堂の硝子に写る友奈は身動きひとつ取れない。

　俺が手を打つ前に蕗が手を打った。俺がファミリーと関係してることを示唆（しさ）し、平（たいら）さんに手を出すとただじゃ済まないことを示した。

　待てよ、これは蕗にとってもだろう。ファミリーの関係者の俺の第三の彼女みたいな設定を口にしたのだ、それが広まれば、それはそれで抑止（よくし）になる。

　実はキレ者なんじゃないの、海野蕗。