第11話 育ちの良さがアダになる。
「えっと……保護者同伴な感じですか?」
昼休み。B組を訪ねた俺に
それも仕方ない。俺の両サイドには三浦と平さんがいて、互いに
邪魔だなぁと一瞬思ったのだが、読モの三浦と学校を代表する美少女で、聖女さまの異名を持つ平さん。
そして寝取られ名人の俺となると、放っておいても注目度は増す。これほど目立つユニットは校内にない。
そんな三人組がわざわざよそのクラスに来てるのだ。何かあると思わない方が不思議だ。
「源にとっては初めての案件だからね、カノジョの私がサポートしないと。そう思わない、海野さん?」
「あら、お昼休みだからかしら。お昼寝してもないのに三浦さんたら彼女だなんて寝言。寝言は寝て言ってほしいわ、そう思わない、海野さん? いけないわ、私としたことが自己紹介もせずに、源君の彼女の平です」
夏だというのに冷ややかな空気。これって再生可能なエネルギーじゃないだろうか。地球に優しいかも知れないが、俺に優しいとは限らない。
そんな現実逃避をしてる俺に海野さんはジト目でちょいちょいとする。
「あの、源君。これなんですか? モテ自慢ですか? 寝取られた反動みたいなもんですか? 気持ちはわからないでもないですけど、私を巻き込まないとなのですか?」
「ふたりがいる方が注目度が増す。戦略的配慮だよ」
「あきらかに振り切れなかっただけですよね、言いくるめるの諦めて連れてきただけですよね?」
それはそうなんだけど、B組の視線は釘付けなのも間違いない。結果オーライだ、きっと。
「大丈夫、狙い通りだ」
「本当にですか?」
あれ、なんか俺信用ないなぁ。まぁいいか。
食堂を利用すると佐々木に前もって告げたら、ある場所を使うように言われた。
どうやらその場所は佐々木が普段から使っていて空いていても他の生徒は使わないらしい。その事ひとつ取っても佐々木の影響力が知れる。
「源。その席、大丈夫か?」
顔見知りの男子が心配そうに声を掛けてくれた。親切心からだ。
「ありがと、源は篤紀のお気になのよ」
俺が答えるまでもなく、三浦が手をヒラヒラとして答えた。なんか、マフィア感が増す感じだ。
三浦はサンドイッチと炭酸水、平さんはブルーベリーのマフィンにパックの豆乳。海野さんはカツ丼で俺は日替わり定食を頼んだ。
それぞれに注文する品で趣向が垣間見れる。海野さんは悩み事があるはずだが、食欲には影響が出ないタイプか。第一印象を裏付けるように芯はしっかりしてるのだろうか。
そんな娘が佐々木に相談を持ち込む必要があるのだろうか。そんな俺の思いを見透かしたように海野さんは口を開く。カツ丼を豪快に食べながら。
「見ての通り私、育ちがいいんです」
統計を取ったわけじゃないが、俺個人の意見として育ちがいい娘がカツ丼をかっこみながら口を開くかは謎だ。
いや、俺の第一印象も育ちがいいとは思ったが、少し違うような気が。
平さんと三浦が犬猿ながら顔を見合わせたのもそれが理由だろう。
平さんはもちろん、三浦も口はちょいちょい
「だから、言葉遣いとか仕草が無駄に丁寧でして。あと見た目もこんな感じなんで。別に親にこうしろとか言われてる訳じゃないですよ」
「つまり、舐められやすいと?」
「あっ、わかります? そう言えば源君もそこはかとなく同じ匂いしますよね」
確かにその意見は否めない。育ちがいいかは分からないが、俺も言葉遣いが丁寧な方で、どうやらそのせいで気の弱い印象を与えるらしい。
だけど、実際はそうでもない。むしろそんなにおっとりしたタイプではない。
「きっかけはホンの些細なことなんです。あいさつをですね、ずっとしてたんですけど、何ていうか返事しない子っているじゃないですか。なんだコイツと思うけど、それでもあいさつをし続けてたんですけど、ある日もういいかになって」
「そしたら、無視が始まった。もしくは悪化したみたいな?」
三浦は炭酸水を口に含み尋ねた。
「まぁ、です。いや、別にいいでしょ、無視してたのそっちだしって思うけど、なかなか集団でやられると面倒くさいと言いましょうか。つまんない相談ですよね」
確かに内容的にはそうかも知れないが、佐々木は踏み込んだ解決を望んだ。その影には何か思惑があるのかも。
「つまらないかどうかは立ち位置だと思う。俺は佐々木経由とはいえ君の相談を受けた以上、海野さんと同じ立ち位置のつもりだ」
「それはなんというか、うれしいです。その受け入れてもらって。あのお願いしていてなんなのですが」
「何か希望があるの?」
「その別に無視してる相手に謝って欲しいとか、無視しないでとかじゃないんです。そのわかりますか?」
つまり居心地をよくしたいのではなく、居心地の悪さを改善したいということなんだろう。
要するに最低限、人としての尊厳的なものが確保出来たらそれ以上は必要ないと。
逆に言えば力技はやめて欲しいという要望でもある。痛いものに触れるような対応が必要になる。
「何かいい考えある?」
三浦は炭酸水のペットボトルをトレーに置き、ほんの少し肩をすくめた。
「大丈夫だ。そうだな、ふたりにも協力してもらいたい。平さんは明後日の土曜日。三浦は翌日の日曜。海野さんは土日に予定を入れないで欲しい」
こうして俺は初めての案件に乗り出した。
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