第7話 束縛なんてしません、たぶん。

「いつまでねてるんですか」


「暴力女」


「言いませんか? 何ごとも最初が肝心だと。そもそもクラスの女子に胸のサイズ聞く方がどうかしてます」


「カップな」


「カップならいいとでも? なお悪いです、逆に具体的じゃないですか」


「でも、おかしくないか? 三浦みなみはこころよく教えてくれるのに、お前はダメって」


「ハハハ。もう、源君ったら。冗談ばっか。いまこの平穏な時間は私のがまんの上に成り立ってるのですよ?」


「あっ、なんかスミマセン」


「わかればいいです。あと、クラスの女子に胸のサイズをたずねるというのは感心しません」


「次から隣のクラスの女子に」


「源君。あなた、もしかしたらバカなのですか? クラスが同じだから怒ってるとでも?」


「一応なんていうか、どこまでが許容範囲かあたりをつけていたというか……あっ、2年生だと可とか……ないですよねぇ~~」


「それ当たり前じゃないですか? だいたいここで年上の包容力と豊満さを持ち出されたら、勝ち目ないです。それになぜあたりがいるのです? あなたにあるのはそうですね、ひじに当たるくらいでしょうか?」


 そういって口元を押さえながら笑うが、どこで笑っていいかわからない。もしかして短絡的に俺はとんでもない相手と付き合うことになったのかも知れない。恋愛もクーリングオフ出来るよな?


 そう思いながらも、これはこれでいい。前に進まないと何も始まらないとか格好つけたいんじゃないけど、元カノ北条きたじょう友奈ゆうなに何時までもこだわったところで仕方ない。


 実際そこまでこだわってるかと言えば、どうなんだろう。ここまで友奈が変わってしまうとは思わなかった。


 見た目もだし、行動というか、そんな何股もするようには見えなかった。何股するように見えるって逆になに? という気もする。


 そういう感じに見える子がむしろ一途だったりするんだろう。


「ところで、束縛したいんじゃないんだけど、聞いていい?」


 束縛したいワケじゃないんだ。その言葉に驚いた。でも、この言葉を使う女子は高確率で束縛する。しかもがんじがらめに。


 まぁ、平さんの立場になれば、他の女子に胸のサイズを聞くなんて冗談じゃないだろう。そんな俺は規格外。


 でも、付き合おうという前のことなんだが。そこはともかく聞くことにしよう。ここは心が広い風男子を装うことが大事。


「佐々木篤紀あつき君と話してたけど」


 平さんから意外な人物の名前が出た。三浦みなみのいとこでクラスメイト、そしてギャングスター、もしくはインテリギャングのふたつ名を持つ男。


「北条の絡みというか、和田とのこと知ってる?」


「なんとなく」


「その関係で三浦と佐々木が助太刀してくれるんだと。ちなみにいとこらしい。三浦は中学三年間同じクラス」


「見てらんない感じなんだ」


「そういう事らしい。俺も引きずってるんじゃないけど、なんていうか痛いもんに触るような空気はちょっとだし」


「それはわかる。でも、じゃあ、例の儀式はしたの?」


「例の儀式? したのは三浦に……」


 胸のサイズを聞いたと言いかけた俺を平さんがにらむ。睨まれるとわかっての発言なのは彼女の睨む顔がなんかかわいい。背伸びした感じが少しかわいい。


「ファミリーのこと聞いたことない?」


「ファミリー? 佐々木がそのギャングスターだとかは聞いたことがあるけど、ファミリーってマフィア的な?」


「そこまでじゃないけど、もしそうなら怖いなぁって。でも、困ってる人とか助けてるとも聞くから」


「じゃあ俺も困ってる人扱いなんだ。ところで儀式って?」


「儀式っていうのは私が勝手に言ってるんだけど、佐々木君に頼み事する時に右手を差し出すの」


「右手?」


「うん。それで彼が聞く気がある時はその手の指を握り返す、そんな感じ。見たことない?」


「いや、ないかも。気にしてないってのもあるけど、席離れてるし。その儀式ってどんな意味があるの?」


「わかんないけど、忠誠を誓う的なものでしょうか」


 そう言えば、くつ箱で日課のように繰り返される和田一党と元カノ友奈の妨害工作。偶然居合わせた佐々木が逃げ遅れた友奈に言った言葉。


『僕も陽もみなもとに肩入れすることに決めたよ、それを理解してちょっかい出すように和田たちに伝えてくれ』と放たれた言葉に友奈はすくみあがっていた。


 もしかしたら友奈はファミリーの存在を知っていて、その後ろ盾を俺が得たこと、何らかの報復攻撃があるのではと感じたのか。


「佐々木に忠誠とか誓う気はないし、そんなこと求められてない。友人として付き合うけど、もしそれが平さんが嫌なら付き合う話はなかったことでいいよ」


「そこ、佐々木君との関係をとるんだ……女子的には微妙だけど、そういう男子は好きです。少なくともクラスメイトに胸のサイズを聞く誰かさんよりは好感が持てますね」


 そんな会話をしながら平さんは俺のりむいた両肘の手当をしてくれた。さすがにシャワーまでは浴びない。


 消毒液で傷口をきれいにしてガーゼをあて、包帯を巻いてくれた。包帯は大袈裟に思えたが、ここまで大型の絆創膏ばんそうこうはなかったらしい。


「ありがとう。返すからレシートくれない?」


「いいです。無駄使いしてないですし、たまにお金使わないと構って欲しいからとか思われそうで」


 そう言ってジンベイザメのキャラが描かれたクレカを見せた。たぶんご両親から生活用に渡された物だろう。使用した履歴で生存確認をしているような言い方だ。


 さっきまで俺にカップ事件をいじっていた時とは別人の顔をする。


 俺はこうして影のある高校の聖女さまと付き合うことになった。全然やることは聖女さまじゃないけど。

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