第6話 知りたいこと、ありませんか?

「ど、ど、ど、どうして、い、いきなりですね、なんでそんな話になるんです⁉ 物には順序というか、心の準備とかあるじゃないですか! あっ‼ 私のことちょろい女子だと思ってます⁉ そうでしょ、コイツ押せば何とかなるって! し、心外です!」


「別にちょろいとか思ってないけど」


 少ししか。


「じゃ、じゃ、じゃ、なんでなんです! わ、私のどこがいいんですか⁉」


 えっ、そこ? 気になってるのそこなの? 世間で言う、友達以上恋人未満な関係とかどうかなぁと思ったんだけど。


 友奈ゆうなを寝取られてから、なんかこう陰キャな日々を送ってたんだが、そろそろ流石さすがに飽きた。


 ギャングスター佐々木や三浦みなみと新しい関係が築けそうだし、ヤラれっぱなしはガラじゃない。


「気が合いそうなんだけど、ダメかな」


「だ、誰もダメなんて言ってないじゃないですか! もう……理由聞きたいって乙女心なんです! 源君には答える義務あると思いますけど? あっ、ごめんなさい。今のナシ、教えてください、自己肯定感低いんで出来たら知りたいです。もし可能なら録音してひとりの時エンドレスで聞いてたいくらいです」


 自己肯定感低いか。ネタじゃなくてこういうの認められるのは、なんかすごい。たぶん、今の俺もそう。ただ、後半になればなるほど痛々しい方向に脱線したが。


 友奈のことで自分に対する自信がぐらんぐらん揺らいでる。自信満々だったかわからないけど、今よりはマシだった気がする。


 油断したら何が悪かったのか、どうしたら良かったのか考えてしまう。


 きっと、何も悪くなかったんだ。それは俺もだし、友奈も。仮に悪いとこ、ダメだったことがあったとしても、それはもう過去なんだ。


 そんなことはないが、仮に友奈が謝って来てやり直そうと言われたとしても、それはもう無理なこと。きれい事だけではダメなんだ。


 だってそうだろ、俺と付き合いながら和田たちと関係を持つような娘とどううまくやっていくんだ?


 いや、逆に何も文句を言わずにがまんしてることをほめてくれ。そして思う。


 なにがそんなに俺のことが気に入らないかわからないが、当てこすりの道具に自分がされている事さえ気付けないでいる友奈が――心底気持ち悪い。


「知りたい」


「何を?」


「お前のこと」


「またお前って……」


「そういうとこ。お前って言うとこんな反応なんだとか、付き合わないかって聞いたら、こんな感じなんだとか、じゃあ、俺の本音を聞いてもらったらどんな反応するんだろ、みたいな。それに」


「それに?」


「知りたくなった。お前、平さんはつまんない話って言ってたけど、家族の話とか。そんな感じ」


 これって、一応自分に確認したいんだけど告白だよなぁ。


 いや、俺の声も平さんの表情もどう考えても、告白のテンションじゃないんだけど……いや、ノリじゃないけど計画的でもない。


 だけど行き当たりばったりとかでもない。こういうのを必然と呼ぶのならいいのに。


「あのね」


「うん」


「恥ずかしいんだけど、知って欲しい。もしかしたら私のことなんて誰も知らないし、知りたくないかもって思う。割と、真剣に深刻に思う」


「そうか? 俺は知りたいけど。お前って呼ぶだけで、こんだけ反応するヤツだろ? めば噛むほどみたいな?」


「昆布ですか、私は?」


「いや、煮干しな?」


「はっ⁉ わたくし煮干しなの⁉ 昆布がいいです! 根昆布的な? 煮干しはなんか嫌です! なんか苦いし、小骨あるし……ってまんま私だ」


 そう言って平さんは笑った。こんな笑い方するんだ、教室では近寄りがたい存在で無表情な彼女はどこか俺と似ていた。


「源君。とりあえず、何か知りたいことありませんか、私のこと。そのお近づきのしるしと申しましょうか……」


「それって……」


「えっと……はい。考えてみたら自分から振ってると言いますか、あおってるっていうか、誘ってる感じだなぁって。考え過ぎて軽い女子だと思われないように、考えてきますとか言う子なんです、私。それで夜に頭抱える感じ。わかります? 言ってる意味?」


「わかるけど、イメージにないかも」


「そ、そうなんだ。ちなみにどんなイメージをお持ちですか?」


「ん……クールな感じかな、あと近寄りがたい?」


 あと、かまってちゃんとか、かまってちゃん。


「うぅ……言い返せない」


 あっ、言い返すつもりだったのね、そうなのね、そういう感じの娘なのね。よかったよ、これでかまってちゃんまで言ってたらにらまれてたな、完全に。


 いやここはガチでひじピン来てたか? ヤバい、命拾いした。俺の危機管理、神掛かってないか?


「あっ、そうだ。話それたから忘れてました。私のことで聞きたいことありませんか?」


「聞きたいこと?」


「はい、知りたいことないですか、なんでも構いませんが」


 そうだなぁ、家族のこと、関係とか気にはなるけど、そこはまたでいい気がした。今の関係じゃ踏み込み過ぎな気もするし、和んだ空気を重くする必要もない。


 そうだなぁ、ここは軽く冗談っぽく「いやだ~~源君たら~~」みたいな答えになる軽めの質問がいいな、そして実益。


「ちなみに何カップ?」


「はぁ? なにがですか?」


「いや、ふつうに胸」


「いや、質問自体ふつうじゃないですよね、なんでそんな質問するんです?」


「なんでも聞いてって言うから、軽めの……」


「あの、全然軽めじゃないじゃないですか。そんなの聞かれて答える女子いません」


「でも……」


「でも、なんです?」


「答えてくれたよ、三浦みなみはちゃんと『C』だって」


「三浦……さんがですか。そうですか、今日放課後珍しく親しげに話されてると思えば、胸の話をしていたのですね」


「いや、別に親しげには……」


 えっ、ダメな感じだったの、この質問? だって三浦は割と軽めに……ん? 待てよ。今日の放課後俺と三浦みなみが話してたの見てたの? 


 いや、割と短時間だったし、席離れてない? 俺と平さん。まさかガン見してたんじゃ……いや、なに頬っぺたパンパンにして怒ってるの? 付き合うのやっぱナシ!


「えっ、何しようとしてるの?」


「何って、ひじピンです。言いませんでしたか? 私、源君の生殺与奪の権を握ってるって。学ばないとまた寝取られますよ(笑)」


 あの、平さん?(笑)って言ってますが全然目が笑ってませんが? いや、むしろ瞳孔開いてません? 瞳の光なくなってませんか? 


 怖い怖い怖い……


 □□□作者より□□□


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