第5話 イケない共依存を始めよう。

「わかった。平さん、少しお互いの話をしようか」


「ええ、その前にお着換えをしましょう。もちろんお手伝いします」


 はっ⁉ どこまでのお着換え? トランクス買ってるって……まさか、俺の体が目当てじゃ……


「えっち」


「はぁ⁉ わ、私がですか⁉ ど、ど、どういう発想をしたらそうなるのです! やっぱり源君、変です! きっと頭打ってますよ! 頭大丈夫ですか?」


「平さんみたいな美少女に『頭大丈夫』とか、なんか逆にご褒美」


「ご、ご褒美⁉ へ、変態じゃないですか! 人のことえっちとか言っときながら、源君はド変態です! だから――」


「だから?」


「あ……お口が過ぎました『だから寝取られるんです!』とかいうところでした。危うく、ド変態な源君を逆に喜ばせるとこでした! 大好きな寝取られネタを振るとこでした」


 いや、別に大好きじゃないんだけど。イジられる前に自分からイジってるだけ。一種の防衛本能みたいなもん。世間でいうやられる前にやれだ。


 人に言われるよりダメージ低めでしょ、カロリー半分みたいな? 好きでしょ、女子はカロリー半分って感じ。だからそれマネしてダメージ半分、みたいな?


「なんでいないの?」


「彼氏ですか? 知りませんよ。と言いますか、どうすれば彼氏とか出来るのですか? 市役所ですか? 市役所で交付されるんですよね? なんだそうか、だからか。私まだ市役所に行ってないだけで、見向きもされないんじゃないんだ。安心しました」


「交付されないよ」


「知ってます。それに源君が言った『なんでいないの』は彼氏じゃなくて家族のことなのも。はい、そうです。話そらしました。だってしょうがなくないですか、嫌でしょ、ほとんど今日初めて話す女子がどんよりな空気作ったら。嫌です。やっと話せる男子が出来たのに明日学校で目も合わせてくれないとか」


「合わせるけど?」


「そらすでしょ? きっと、次の瞬間。目をそらしたらわかるんです、私たちの距離が」


「あの、お言葉ですか平さん」


「はい、なんでしょう源君」


「その……全然距離あると思うけど……現状」


「はぅ⁉ ああ言えばこう言うですね。お、おうちに呼んだのにですか?」


 震え声だけど、おうちに招待されたわけじゃないからね? 緊急処置だよね、来たの。医療行為でしょ。まぁ、いいけど。


「誰も声かけないのは、平さんがかわいいからだろ。彼氏いるとか思ってるんだろ、知らんけど」


「あぁ、そういうのいいです。あとなんです? 知らんけどって。ほめるなら、ほめ切りませんか、なんなんです? 世間一般的にかわいいかもだけど、俺的には北条が最高にかわいいんだよな、みたいな? どんだけ糸引いてるんです。情けない。付け加えたいのですが、お付き合いのお誘いはあります。でも、そんな気になれないだけです、一応」


「まあ、そうだろうな。平さん聖女さまだし。俺は……うん。情けないよね、実際自分でもそう思う」


「あっ、ちょっと言い過ぎました。ほんのちょっとですが。でも、情けないと思うのは変わりませんよ。なんです、男なら新しい彼女作って『お前なんて元カノ。正直今の彼女最強なんだけど?』みたいな顔出来ませんか? 聖女さま呼びは嫌いです」


「そうなんだ、それはそうだろうな。いや待て、彼氏を市役所あてにしてる、お痛系女子に言われたくないんだけど? 告られた中から選べよ」


「嫌です。私には私のタイミングがあります。それに……言いますね、そうですか。源君はまだぴーんときてませんね。わたくし、あなたの生殺与奪の権を握ってるのです。ヒントはぴーんです、ぴーん!」


「まさか、お前……ひじピーンしようとしてないか? 鬼畜か? 鬼畜系女子か? そりゃ彼氏出来んわ」


「はぁ? いま、何気にディスりましたよね? なんです、その根拠は? 元カノさんが今モテモテなのを鼻にかけてませんか? かけてますよね? 言葉の陰にお前、ボッチだろって隠語含まれてますよね? もしかして季語もありましたか? なんなら源君が捨てられたことを題材に一句読みましょうか? あと、それとお前呼びしましたよね? なんですか、それとなく距離詰めてますか? どうするんです、私こんなんだから勘違いして明日『そうだ、源君ケガしてるからお昼食べれないかも』ってお重のお弁当を用意してクラスメイトにドン引きされたら、責任取ってくださいますか? どうするんです、空気読めない私が教室で『源君、あ~~ん』なんて恥ずかしいこと仕出かしたら!」


 そう言って平さんは頬真っ赤に染めて頭を抱えた。お痛系女子ではあるが、かわいくないわけではない。


 いや、待てよ。もしかしてこういうのしてみたいって妄想? この娘ったら口を開けば開くほど、痛みをともなうよなぁ。捨て身過ぎんか、実際。恋愛自爆テロか?


「聞いていい?」


「話てもいいですが、つまんない話です。両親が再婚で母親違いの妹がいます。そういうトコだけ空気読めちゃう系女子の私は自分から、この家に邪魔なんだろうなぁと。配慮というか、不戦敗とでも言いましょうか。もちろん言われたわけじゃないですけど、そういうのわかっちゃうというか、空気読めるクセに空気も壊せる感じで。自分で自分の居場所を壊して、高校入学と同時にこんな生活です。さみしがりやなクセして自分から声かけれなくて」


「さっき声かけてくれた」


「あれは……ケガしてたし、猫ちゃん助けてくれたしで勝手に親近感を覚えたというか。その、教室で見てました。その源君がされてること。ごめんなさい、見てるだけしか出来なくて」


 そうか、そうなんだ。この過剰なまでのおもてなしは、罪悪感。見て見ぬ振りした自分への嫌悪感かも。別にそんなの感じなくてもいいのに。


 いや、共感か。


 自分の孤独と俺の教室での立ち位置が心のどこかが重なり合って、共鳴したんだろう。それはきっとよくない方向に

 。

 安っぽくいえば同情。


 でも、それでも温もりとか欲しい場合、仕方なくないか? 俺もだし平さんも誰かに褒められるために、努力賞を貰うために生きてるんじゃないし。


「平さん、提案なんだけど」


「なに?」


「俺と付き合わない?」


 さぁ、イケない共依存を始めよう。


 □□□作者より□□□


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