第4話 平華音はもてなしたい。

「どうしましょう」


 俺は仔猫を助けた現場からそんなに離れてない、マンションの最上階にあるたいらさんちのリビングにいた。


 彼女が言う「どうしましょう」とは俺の両ひじの擦りむきがひどすぎて、半袖のカッターシャツを血で汚さないで脱がせるのが難し過ぎて悩んでいた。


 いや、そんなことはどうでもよくて、近い!


 この距離は寝取られる前の友奈とも経験したことがない距離だ。


 カッターシャツを血で汚さずに脱がすことに集中。ボタンを外した俺の体に手を回しそっと脱がそうとしていた。


 はじめはそっと慎重だった彼女だが最終、えいやの力技。案外雑な性格なのかも。


 結果的にはシャツに血はつくし、傷をこするし、平さんのいい匂いがするしで大変だ。


「困りました」


「どうしたの?」


「お連れしたのはいいのですが、絆創膏ばんそうこうくらいしか我が家にはなくて……ほら、これ」


「しかも、にゃーだね」


「にゃーです」


 かわいらしい猫のイラストがプリントされた絆創膏ばんそうこう。女子の指先のちょっとしたケガ用だ。


 俺みたいなガチの擦り傷には太刀打ちできない。


「そうですわ! 近くにドラッグストアがございます! わたくし、ひとっ走り行って参ります!」


「あの、たいらさん。そのやる気満々のところ申し訳ないんだけど、ひとりで行く気?」


「はい! すぐですし! なんでも売ってて便利なのですよ」


 ぽんと胸の前で手を打つ。言葉使い、隠しきれないおっとり感。マンションの最上階ワンフロア全部がたいら家だと思うと、間違いなくお嬢さま!


 こんな家のリビングにシャツ一枚で残されてご家族が帰ってきたら、気まずい! ひとりにしないで! いや、むしろ帰りたい!


 こんな擦り傷状態で地味に痛いところ、平さんのお父さんによる、君には娘はやらん! イベントが発生したら大変だ。


「平さん。ごめん、せっかくだけど帰るよ、悪いし……」


「ごはん。食べていくでしょ? 今夜はカレーにします。ご存じですか? わたくしこう見えて、カレーを華麗かれいに作れるのです! 猫ちゃんにも何かあげないとですね、待っててください!」


 何この娘、まったく人の話聞いてないんですけど? その上なに? ダジャレ? ごめん、しかもそれ小学生レベル! って言うか、おもしろい小学生に負けてるからね? 


 美少女だからってなんでも許されると思ってる? それともアレか、俺が寝取られるようなヤツだからオチとか雑でいいやと思ってない?


 もしそうなら、君それ軽いいじめだからな? っていうか、もしかしてもう既にご家族いたりしない?


 嫌だよ、お母さんとかお姉さんとかとばったりはちわせとか!


 いや、ラブコメこういう場合たいがいお姉さんか、めっちゃ若く見えるお母さんがシャワー中だけど? そういうお約束ですか……


 しーん。


 うん。誰もいない。これはこれでなんか怖い。っていうかマンションの最上階にいるって時点で、正直お尻のあたりがくすぐったい。


 高所恐怖症なんだけど。なんでわざわざ高いとこ住むの?


 ぐらっとか来たら怖いんですけど……などとどうでもいい妄想にどっぷり浸かってる間に、当の平さんは両手にお買い物袋を抱えて戻って来た。


 そして開口一番こう言った。


「源君。よくよく考えたらホコリまみれじゃないですか。傷口が化膿かのうしたら大変ですからシャワーを使ってください。えぇ、心配には及びません。ちゃんと着替え用のスウェットとシャツ、それとトランクス派と見込みパンツもご用意しました」


「平さん……」


「あっ! おろしたては苦手とかですか! 確かにのりつけされたのってごわごわしますよね」


「そこでもない。ごめん、なんか軽く怖いです」


「えっ⁉ なんで? おもてなしです! あっ! やっぱりスウェットは黒では地味ですか⁉ グレーもあったのですが……」


「平さん」


「はい、まだなにか?」


「そこでもない。だいたいご家族が帰って来て、知らない男子がシャワー浴びてたらヤバくない? ホラーだよホラー」


「大丈夫です、ご安心ください。ここに住んでるのは私だけです。なので源君がシャワーを使用しても誰も驚きません!」


「いや、むしろ! むしろ、じゃあなんで俺を部屋に入れたの? 危なくない? 平さん一人暮らしなら、なおさらダメでしょ? だいたいさぁ、寝取られるような男だよ、俺」


「先程から黙って聞いていれば、二言目には寝取られたと。なんです、源君。それ自慢ですか? それともまだ吹っ切れてないんだ、俺の愛は深いんだぜアピールですか? その言葉の陰にはあれですよね『どうせ平はぼっちだから』ってさげすみの意味が込められてますよね?」


「ごめん。俺そこまでの話した? いや、俺が言いたいのはクラスメイトだけど、ほとんど今日初めて話したよね? あっ、待って『はじめまして、源信哉しんやです、よろしくお願いします』みたいな? 危ないでしょ、ほぼ知らない男子だよって話。しかも寝取られホヤホヤで自暴自棄真っ只中! わかりやすく言えばインザ自暴自棄!」


「いや、逆にわかりにくくなりましたけど……自暴自棄なら私も負けてません! なぜこんな広いマンションで、ぽつんとひとり暮らしをしているかご存じですか?」


「いや知らない。って言いますか、一人暮らしなのも今知ったトコだし、それ簡単に教えちゃダメだからね?」


「えっ、ダメなの? わかりました、善処します。でもですね、源君。私かひとり暮らしなのを知らないとは、源君ともあろうお方がリサーチ不足ですよ」


「俺は何で注意されてるんだ? で何が平さんを自暴自棄にさせてるの? 彼氏でも寝取られた?」


「彼氏なんていたことありません、嫌味ですか? 俺寝取られたけど彼女いたし的なマウントですか? 正直そのマウントやめてください。じわじわ効いて今夜ひとりになったら泣いちゃうかもです。それにしてもアレですね。源君は寝取られムーブ好きですね、そんなに忘れられないですか、北条きたじょうさんを」


 おいおい、この娘だれもあえて踏み込んでこなかった俺のハートの聖域サンクチュアリに踏み込んできたんですけど、どうすんの? 泣かせたいの? 


 高一男子が目の前でギャン泣きしたらダダ引きするだろ、普通に。


 なにか、それを明日ウワサして和田一党を楽しませるとか……


 いや、たいら華音かのんのことは全然知らない。


 だけど、そんなことする女子かどうかくらいはわかる。


 まぁ、まんまと彼女寝取られるくらいしか、見る目ないけどね、女子の。友奈、いい娘だったんだけどなぁ……


 □□□作者より□□□


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 本日11時頃にもう1話更新予定です。おかげさまで好調なスタートを切りました。


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