第3話 俺にはキャッキャウフフなルートはない。

 冗談はさて置き、実際めちゃくちゃ助かった。温厚な俺も限界の数歩手前。幻の右が火を噴くところだった。


 しかし、かろうじて持ちこたえてたのは、嫉妬に狂った振られ男のレッテルだけは避けたかったからだ。


 佐々木のお陰で幻の右が幻のままで済んだ。いや、最初からそんなんないけど。俺は佐々木に簡単なお礼を言い帰路に。


 しかし、和田一党の慌てっぷりを見ると佐々木がギャングスター、インテリギャングというのもあながち嘘ではないかも。まぁ、いいや。


 用心棒料を求められたわけでもないし。しかし、最後の最後まで俺の目も見ようともしなかった友奈に、今更ながら腹が立つ。俺は腹いせに道端の小石を蹴り上げた。


 その小石はいびつな動きで転がり、思いもよらず車道に転がり出た。


(あっ、やばいなぁ)


 最初はこんな程度だった。歩行者がいるわけでも車にぶつかりそうな感じもなかった。なかったのだけど、何故か俺が蹴りを入れた小石に釣られ、白い仔猫が車道に飛び出した。


 猫じゃらしの法則だ。その後も呑気に白猫は小石にじゃれてた。いや、待てよ。そこ車道だからな、って仔猫にはわからんか。


 いや、待て待て! トラック~~! 大型トラックがまあまあな速度で走って来たんですけど? 


 いや、目覚めが悪いだろ? 俺が蹴った小石に引かれて、仔猫がかれたとか! マジ無いわ!


 いや、今ダジャレとかいいから! あの、色々言ってきたけど、俺運動神経並も並! 幻の右とか言ってごめん! さようなら、白猫! 来世じゃ気をつけろよ!


 はぁ……もう。これでもしものことが俺にあったら、チート級のハーレム頼みますからね、女神様!


 俺は女神さまへ来世での要望を伝え、渋々……そう、渋々ガードレールをまたいでまだ遊び足りてない白猫を小脇に抱えた。思ってたより余裕がある。なんだ大丈夫じゃないか。そう思った瞬間。


 俺はあろうことか自分の足につまづき、もつれるように向かい側の歩道に倒れ込んだ。このままじゃ、俺の体重でまさに猫ふんじゃったになりかねない。


 またまた渋々で全く全然受け身も取れずに、仔猫ファーストな感じで俺は壮大にこけた。

 

 おい、白猫。お前がもしもこのご恩忘れません的な感情があるなら、美少女に化けて俺の家に居候する的なラノベチックな展開でよろしくな~~!


 かくして、俺は無事白猫を救出し、1ミリも受け身を取れないまま向かい側の歩道に壮大そうだいにこけた。幸い白猫は俺の献身的な救出活動で無傷で済んだ。


 しかし、無事を確認した瞬間。俺の夢も希望も打ち砕かれた。なんと仔猫はオスだった。恩返しのラノベチックなキャッキャウフフは期待出来ない。


 佐々木といい、仔猫といい。俺はなにか? ボーイミーツボーイのルートしか残ってないのか? 寝取られの呪いってそんなに重いの?


 いや、寝取られって呪いなの? いや、呪われるのなら和田一党か友奈だろ? 俺は白猫を抱っこしながら心の中でボヤいた。


 はた目から見たらさぞ壮大そうだいにダイビングして仔猫を救った感じに見えただろうが、実はつまずいてものの見事に転んだだけ。


 スライディングしないと助けれないほど、切羽せっぱまってさえなかった。


 そこに、キーッというブレーキ音。嫌な予感と共に振り向いた。ここで男子なら、もう俺にはしかないだろう。


「み、みなもと君! 大丈夫⁉」


 慌てて自転車を停めたのは幸いにも女子の声。見たことある、いや見たことあるなんて次元じゃない。彼女の名前はたいら華音かのん


 同じクラスの女子。読モをしている三浦みなみとはまた違ったおっとり系の美少女。普段から壁を作ってる感じであまり人を寄せ付けない。


 あまりじゃない、まったくだ。俺が彼女の声を知っていたのは授業中の発表の時に聞いただけで、話した、話し掛けられたのは実質今が初めて。


 高一の1学期も後半戦。話したことがない女子がいる時点で俺の立ち位置がなんとなくわかるだろ。


たいら……さん。いま帰り?」


 言っておきながら間抜けな問い掛け。これが三浦なら「だから君は寝取られるのよ」と大袈裟に呆れられ、的外れな批判を受けていただろう。


 そういう意味でも、話しかけてきたのが平さんだってことに感謝しないと。誰にって、それはさっき転生後にチート級のハーレムをお願いした女神にだ。


 まぁ、あくまで平さんが女装した男子じゃなければだけど。寝取られの神に愛された俺は疑い深いったらありゃしない。


「そうだけど……大丈夫? 血、出てる、すごく……」


「あっ、受け身取れなかったから。猫の上に全体重乗ったらヤバいし。リアル猫ふんじゃっただから」


「それはそうね、でもそんなこと言ってる場合なの? 病院に行かないと」


「いや、病院はいいかな。そんなに痛くないし……痛ッ! なに⁉」


「ウソおっしゃい。ほら、痛いじゃないの(笑)」


 いや、たいらさん? いきなり大根おろしみたくりむいたひじにツンして笑うとか。サイコパスですか? 


 そうでしょ、きっとあなたも寝取られの神様に召喚されて俺をいびりに来たんでしょ? そんな疑いの目で仔猫と向き合って座っていると平さんは――


「マンションそこなの。来ませんか? 傷口洗わないとダメです」


「でもコイツ放っといたらまた飛び出すし……」


「私、その子置いて来なさいって言いましたか?」


「でも、ほら……」


「なに? まだ何か?」


「平さん知ってる? 俺寝取られたし」


「まぁ、大変。源君頭も打ったのね。それいま関係ないですよね。自虐ネタにしたいのでしょうけど、あなたのひじ同様痛いわ、聞いてて。さぁ来てください。いつまでもこんな所に座り込んでいたら迷惑ですから」


 そう言われて俺は、たぶん学校でトップクラスの美少女に引っぱられ、彼女のマンションに向かった。


 残念ながら引っぱられた方の腕も、ズルズルに擦りむいてて痛みしか伴わないお宅訪問となった。


 □□□作者よりのお願い□□□

 

 年末のお忙しいところ読み進めていただきありがとうございます!

 もう今年も終わりですが、お体に気お付けてください。

 

「次回投稿が楽しみ!」


「主人公、そっち系に目覚めるの⁉」(注意:目覚めません)


「仔猫さえもオス⁉」


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