第17話 ぼくらのふぁんたじーⅥ
ゲームをやってる人の中で普段抑圧された感情が解放されて別人の様になる人がいるとは聞いていたが……まさか幼馴染のタッツーがそうだったのは衝撃的だった。
普段は悪ノリとかもするけど温厚で笑いながら剣を振り回す様には思えなかった。
「おらぁ、そのパターンは見飽きてんだよ!」
「あぁ〜もう。激しく動くから魔法が撃てないじゃない」
「マジかよ……これが
「タツ君、無理されると回復が追い付かないんだけど……」
バフォメットとタッツーの攻防が激しく、どんなに射線を変えてもそこにタツ―が立って射線を消してしまい、思う様に魔法が放てないレナと攻撃の手数が多くて被弾が多くて回復に追われるラナ、そして変わってしまった親友の姿に言葉を失い引いてしまったユキト。
「ユキ君ぼーっとしないの」
「モンスターなんだから、不意の一撃に気を付けなさい」
「あ、ああ……」
対人ゲームなら目の前の敵に夢中になって視野が狭くなり周りが見えなくなってしまうだろうが、これはモンスターのアルゴリズムに従って動いているのだから位置取りなのか、一定時間で標的を変えるプログラムなのか、不意に別の目標に攻撃する可能性が充分あるため同じエリアにいる限り気を付けなくてはならない。
「その攻撃の後はバックステップだろ? 分かってんだよ!!」
タッツーの言う通り大剣を振り下ろして床に剣を打ち付けたバフォメットが後ろに跳んで距離を取るが、そこにタッツーは
援護しようにもできないため、陣形を崩してレナ達と集まって見守るしかなかった。
「なぁ、タッツーって俺達の事見えてんの?」
「一応見えてるはず。前に一度、支援が遅いとか叫んでたの他のパーティーで戦闘してるのを見たから」
「何その暴君!?」
「タツ君は昔からそう言う所あったけど? ユキ君は知らなかったの?」
「ああ。まったく。全然気付かなかったよ」
レナが言うには、勝負事である程度熱くなると当たりが強くなるらしい。
小学校から中学までクラスが何度か別々になったけど、ユキトが同じクラスになった時は一度もなかったらしい。
「ああ、多分それ熱くなる前にユキトが馬鹿をやるからじゃない? ほら、いつも何かしらやらかして最初の一段踏み外すし、さっきみたいに」
「それがユキ君の良い所であり、駄目な所だよね」
「そうね、良い所かは置いといて、距離を置かれる要因よね」
ラナは長所だと言うけどレナの言う通り、ユキトはスポーツなど熱くなったり緊張する様な場面になると、何かしらのポンをして戦意を削いだりする事が多く、格好良くやスマートに華麗なとは行かないため、特に異性に好印象を持たせたいと思う者は一緒に組みたがらない。クラスメイト達からの印象は『良い奴なんだが……』『見てる分には……』と距離を置かれている。
「ぬぉぉおおお!!?」
「ぬわ!? タッツーは吹っ飛んできた!?」
「今度はこいつで――くそ! しくった」
何時もより低い声のタッツーだが、ユキトの顔を見て我に返ったのか、ばつが悪そうにしくったと頭を掻いた。
「冷めたか?」
「ああ。悪いな!」
バフォメットの追い打ちを盾で受け止めたタッツーにはもう、さっきまでの熱さは落ち着いていて防ぎながら仲間が後ろから攻撃出来るように動きを抑えて防御に徹してくれるようになった。
「FLFやってから自覚する様になってたんだけどな!」
「結構ヤバかったぞ? 軽く引くくらいにな」
「そうね。あれはタツーに惚れている連中に見せてあげたいね」
「タツ君の迫力が凄いからねぇ」
菱形の陣形に戻り、幼馴染同士いつものようにけたけたと笑いながら戦闘を仕切り直した。
今度はパーティーとして戦えてる。特別な事は何もない。タッツーがタゲを取って、ヘイトが他に散らない様に適度に攻撃し、レナとユキトが攻撃しやすい用に派手な立ち回りにならない様に気を付け、その立ち回りの中で隙を見付けて自分にヘイトが回らない様にレナは弱めの魔法を放ち、ユキトはレナの魔法を放つタイミングを覚えてから、頭部、首部、胸部の何れかを狙って矢を放ち、上手く急所に当たって仰け反らすことに何度か成功せるが、仰け反らせる確率がまだ低いためレナに火力の凄く高い魔法を撃たせてやれるほどの確実さはなかった。
それでも直ぐに技の大小を切り替える事が出来るタッツーのDPSが上がった事により、レナの放てる魔法がワンランク上がり、順調に事が進みだした。
ヘイト管理に関して、初心者でも分かり易く大部分を省いた説明をFLF教室で教えてもらい、それをベースにして行っている。
ヘイト値なる物が存在し、そのヘイト値は攻撃の数値に影響を与えるため、戦闘において一番高い攻撃力を持つ者に襲いかかるシステムになっているらしい。
仮にタッツーが放った斬撃のダメージが10だとしたら、後続の攻撃が10未満である事が必要になってくる。単純に最初が10ダメージ、後は9ダメージと9ダメージの計28ダメージでサイクルダメージが理想となる。
その関係をさらに有利にするのがタッツーが使う挑発スキルだ。
ダメージを与えていないが、自分へのヘイト値を20足すことになり、斬撃一回の10のヘイト値が攻撃が30のヘイト値として見なされ、後続の攻撃が29ダメージまで可能となる。これがFLFに置いてヘイト管理の基本と言われている。
「あともう一息だ行くぞ!」
「おう!」
「「はい!!」」
タッツーの強烈な一撃、挑発スキルが発動している最中のその一撃のヘイト値では仲間が下手しなければ後続にタゲが向く事はない。現状では距離の離れ過ぎによる急なアルゴリズムのリセットによってヘイト値が0に戻される事はない。回復にもヘイト値があるが回復はタッツーに集中しているため、挑発スキルと回復のヘイト値も回復したラナよりも高くなっているため、ラナの方へタゲが向くことがない。
後で分かった事なのだが、こんな綺麗なサイクルで戦えるのは滅多にないらしい。
基本はタンク1にアタッカー3またはアタッカー2補助1回復1の計五人でパーティーを組むのだが、そこは中級プレイヤー三人に初心者一名の四人でやるのだから時間がかかるのは仕方がない。
でも基本さえ押さえていればクリアできる。それがこのクエストの一番の良い所である。ボスに取り巻きがいない。近距離型の範囲攻撃しかないため後衛には被害が出難い。即死以外の状態異常は何れも一回はかかる。急な他メンバーへの攻撃はシステム的リセットが働いた時に起きるため仕方がないが、それ以外ではヘイト値に重き置いている。以上の事を踏まえてこのレイド兼用ボスは最弱でありFLFのボス戦闘の先生と言われる一体である。
「最後はみんなで一緒に行くぞ!!」
タッツーのその言葉を聞いて、レナは強い魔法の詠唱に入り、回復薬に徹していたラナも攻撃系の魔法の詠唱にはいり、ユキトは矢を番えて時を待った。
「よし、今だ!」
「フレイムアロー」
「ホーリーアロー」
「え?あ、アロー」
タッツーがバフォメットの体勢を崩し渾身の一撃で大きく怯ませて、炎の矢がバフォメットが命中と同時に燃え、ホーリーアローと呼ばれた白い矢が飛んでバフォメットを白い光が炎と同化して白い炎となって幻想的に焼いている様に見えたところで普通の矢がバフォメットの胸部にぷすりと刺さった。
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