第16話 ぼくらのふぁんたじーⅤ

 ユキトがヤギの頭と蝙蝠の翼が特徴の典型的な悪魔バフォメット種の悪魔に開戦と同時に最高速度に到達した勢いに全体重を乗せた短剣の一撃をその胸に突き立てる。

 このユキトの行為をズルい。せこい。卑怯。と言って否定するプレイヤーも要れば攻略の一つだと肯定するプレイヤーもおり、過去に余りにも騒ぎ立てられたので運営からは『プレイヤーの数だけのプレイスタイルがある』と発表されたとのことだ。


「っな!?」


 運営が認めていると言う事は、勿論こちらも対策する場合もあると言う事になる。

 ユキトが開幕直後に短剣を突き刺したはずのバフォメットは短剣が刺さる前に合唱で挟んで受け止め、体重も速度も乗った一撃が文字通り無となってユキトは空しくぶら下がり手を離す隙もなく入口の方へ投げ飛ばされ、タッツー達の前で転がった。


「ほらぁ。注意する前に飛び出すからこうなるんだよ!」

「こう言うのは事前に打ち合わせするものよ!」

「ユキ君、大丈夫?」

「もうダメ、恥ずかしくて起き上がれそうにないや」


もっともな事を言われて恥ずかしさで顔を上げる事が出来ず手で顔を隠す。

自分の表情は見えないが、ドヤ顔で突っ込んでいったのに、対策されていてこうなるとは思っていなかったのだから、おそらく今は茹蛸のように真っ赤だろう。


「敵はバフォメット種だからな、大剣で攻撃するが魔法も使ってくるから注意しろよ初心者君」

「ぐへぇ!? 人を踏んで盾構えないでくれます」

「当たり判定はボスの頭に体力バーがちゃんと現れてからよ初心者君!」

「ぐはぁ!? 俺はお前等の台座じゃねぇ!!」


人を踏み台にして片足を乗せて構えるタンク役の剣士と同じく片足を乗せて杖をバフォメットに向ける魔法使い。三人が纏まっているうちに補助魔法を施す抜け目ない神官。

ダンジョンにおいてフロアボス戦の始まりはボスフロアの扉が閉まってからで、ユキトの様な不意打ちはフィールドボスと言われるダンジョン外にいるボスのみに限定されている。そして難易度が高いフロアボスになると扉の閉鎖も早く直ぐに戦闘になるが、比較的に難易度が低いフロアボスになると回復や戦闘の準備できるように長いインターバルが用意されており、その間のボスへの攻撃は一切通らない。それを知っているタッツーとレナはユキトを台座のように使ってスクショして遊んでいた。


「「そこで転がってる方が悪い」」

「分かったよ起き上がれば良いんだろ」


また踏まれたくないため、立ち上がり弓に持ち替えてそそくさと移動する。

弓の一撃はピンポイントに弱点に当てないとダメージが通らないだろう。


「ユキ君、離れ過ぎると補助魔法の効果が切れるから離れ過ぎないでね」

「あ、はい」


位置取りに夢中になっていると服の裾を掴んだラナに効果範囲について注意された。

ユキトが戦力になれる支援魔法の効果範囲はここまでの道中で教えて貰い何度も気にしていたが、初めてのダンジョン型のイベントボスで高揚して冷静さが欠けていて忘れていたが、今まで見守っていて聞き専だったラナからの注意で

冷静になってタッツーの斜め後ろに位置取り、菱形の陣形を作ってバフォメットと対峙すると開いていた扉が勢いよく閉じた強烈な衝撃音でタッツー達の表情が引き締まる。


「始まるぞ! ここから先は悪ふざけはなしだ! ユキトはワンパンだけには気を付けてくれよ」


ラナがタッツーとレナに時間制の補助魔法を施し、レナは詠唱の準備をしなが杖をバフォメットに向け、ユキトは矢を番えてはやる気持ちを抑えてその時をまつ。

バフォメットの雄たけびと共にHPバーが現れて戦闘に突入となった。


戦闘が始まって五分、やる事は変わらない。ただ、これまでと違うのはタッツー達の声に余裕が消えている事くらいだろう。

ギルド結成クエストのボスは比較的に弱く、初心者用レイドボスと言われ数パーティーで挑むクエストとしても作成されており、タッツー達の様な中級プレイヤーなら一組のパーティーで挑む事も可能になるように調整されており、パーティーとレイドの兼用クエストととして作られている。

だからこそ中級プレイヤーであるタッツーは溜まらなく緊張感のある戦闘を楽しんでいた。

バフォメットの繰り出す一撃一撃を盾で正確に防いで捌きながら、その僅かな隙に片手剣で突いて地味に削って行く。


「はははは。やっぱりこういう戦闘は楽しいな」

「あ~あ。タッツーのスイッチが入っちゃたかぁ」

「スイッチ?」

「ユキ君は知らないよねぇ。タツ君は性格が変わるんだよ」

「はい?」


普段は優しくて落ち着いて安心感のあるタンク役の剣士なのだが、ひりひりした緊張感のある戦いになるとスイッチが入って笑い出し、正面から相手を受け止めて戦うのに愉悦を感じる生粋のバトルジャンキーだったのだ。

幼馴染で長い付き合いだけど初めて知った親友のもう一つの顔に思わず引いてしまった。

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