第9話 りょうり と ふんいき と けしき
ウィッチハットの魔法使いのレナに引っ張られて屋敷の中にはいると、そこには忙しそうに働いているメイドさんがいっぱいいたと思ったが、全員同じ顔で何処か少し姿がピントがずれたかの様にぼやけて見え、その中の一人が此方に気付いて出迎えて目の前で一礼した瞬間、全てのぼやけて見えていたメイド達が目の前のメイドに吸い込まれるように消えて行った。
生産系のレシピよりその分身スキルの方が欲しいなとユキトは思ったがそれを言うとレナに叩かれるかもと思って心の中で留めといた。
『ようこそ冒険者様。本日はどういったご用向きでしょうか?』
クエストのフラグは立てていないし、攻略サイトを見ながらやりたいがレナは雰囲気が壊れると言われてまた叩かれてしまうので、ここは誘った本人であるレナに任せっる事にして目配せするとレナは頷いた。
「迷子になっていたら素敵なお庭だなって、良ければ見せて頂けないかなって」
『ご主人様も奥様からも庭を見たいと言ってきたお客様に自慢の庭をお見せする許可を得ているのですが、申し訳ございませんが本日は午後のお茶会の準備に追われておりまして――あ! 宜しかったらお手伝いお願いできませんか? お礼もちゃんとしますので!」
「私達で良ければ手伝いますよ」
と、言う分けで茶会の手伝いをする事になり、クエスト用の空間に切り替わるとレナにはメイド服がユキトには執事服が装備されてクエストが始まった。
お茶会の会場は庭ではなくホールで行われるため、清掃とテーブルと椅子の設置、テーブルクロスを指示通りに敷いたり、お茶会に出すお菓子の下準備を手伝い、最後の山場が始まった。
次々に訪問してくる貴族の婦人と令嬢を案内しては彼女等への給仕を手伝った。
まだ親の手伝い程度でアルバイトもした事が無い二人にとっては緊張の連続だった。
準備中は焦るような事は一切なく指導に当たってくれているメイドの指示に従うだけで簡単だったが、接客はまるで本当に仕えているかの様な緊張感が確かにあった。
そして最後のお客様に深々と頭を下げて見送って急に緊張の糸が切れたかの様にユキトとレナは背中合わせにぺたりと座り込んで大きな溜息を吐いた。
「働くってあんな感じなのか」
「本当それ」
高校に通い始めて慣れたらバイトでもと考えていたユキトだが、ゲームでこんなに大変ならリアルはどうなんだろうと思ってしまった。
『お二人のお陰で無事にお茶会を終える事ができました。お茶会の席にてもお二人の評判が良かったと奥様が仰っておりました』
FLFにてサブと言われるクエストの評価の見方はNPCの言葉に隠れている。
例えば無事にお茶会を終える事ができましたはA、B、C、D、Eの5段階評価でB判定になる。お茶会の評判が良かったもB判定にあたる。そして総合評価はB+になり、報酬はCランク以上確定で低確率でAランクの報酬が貰えるそうだ。
『では、報酬の方を用意させて頂きました』
報酬の話になるとさっきまで着ていた執事服が解除されて元の装備に戻っていた。
どんなレシピが貰えるのだろうとワクワクしていると庭のガーデンテラスに案内された。
『こちらで料理を堪能しながら自慢の庭をお楽しみください』
「あれ? レシ――いだ!?」
「ふ・ん・い・き」
報酬のレシピが直ぐに貰えると思っていたが違ったためメイドに貰えないかと訊ねようとしたのをレナは察知したのかユキトの頬を引っ張って阻止した。
案内されたテラス席に座ると、夕暮れから夜へと変わってキャンドルに火が灯り庭の花た達には月のスポットライトが照らされていた。
そして色とりどりの綺麗な料理が運ばれて最後にトクトクっと心地の良い音でグラスにジュースが注がれていく。
注がれた七色に光る炭酸のジュースを流石はゲームと言おうとしたが心の中に留めてレナの方へ視線を向けるとキラキラした目で料理を見ていた。
フルダイブゲームの特徴で大きいのは、プレイヤーの感情にハッキリと反応する所だろう。そしてそれはメリットでありデメリットでもあると何かの記事で読んだことがある。それを思い出すだけでレナがどれだけ嬉しそうにしているのかが分かった。
「わぁ、すっごく美味しそう」
『さぁ、当家自慢の庭をごゆっくりお楽しみくださいませ』
メイドが一礼して下がると自然と揃って「いただきます」と言っていた。
人生経験が浅いからか、カラフルで綺麗な料理を見ても一品一品が少ないため量が少ないくらいにしか思っていなかった。
「これ有名な三ッ星料理にちょっと似てるかも」
料理は味だけでなく見た目や雰囲気が大事だと聞いた事があるが、まさにその通りだとユキトにそう感じさせるには充分だった。フルダイブ機能で繊細な味覚は再現できない、それを上回るほどの華々しい料理と月下にたされた美しい花々それが料理の美味しさを何段も跳ね上げていると。
「この七色のジュース凄いな」
「本当、色んな味がして面白いね」
七色の炭酸ジュースはどの色のタイミングで口に含むかで味が変わるため、文字通り七種類の味が楽しめた。
どうやらレナは赤色で飲める酸味がある炭酸のアップルジュースがお気に入りのようだ。
料理を食べ終えるとテーブルの真ん中に終了を告げる鈴が現れた。
どうやら鈴を鳴らさない限りこの空間を楽しめるらしい。
レナに見付からない様に攻略サイトを開いて確認すると、屋敷の中や外へは出れないが庭の中なら自由に動ける仕様になっているとの事だ。
「時間あるなら、スクショでも撮ってやろうか?」
「え? 珍しく気が利くね。何か変な――いえ、良い料理を食べたから紳士になったのかな?」
「うっせぇ」
珍しい気使いにレナは驚いて直ぐにニヤニヤっとして揶揄ってくるが、その言葉にちょっと否定できないと自分でも思った。普段だったら「スクショ撮れば」とか言ってただろう。
これが料理と雰囲気と景色の力なのだろうか。
レナの専属カメラマンとなって写真を撮らされ続けてレナが満足してようやく終了の鈴をが鳴らされた。
『本日は本当に助かりました。最後に私から改めお礼の品がございます。こちらを』
メイドから伝説のメイドのレシピ本を渡され二人はそれを受け取った。
その本を開封してランダムのレシピが現れる仕様になっているのは確認済みだ。
サブ職業関係のレシピ類は教科書サイズの本になっており、それを読み込んでレシピ追加となる。
何が出るのか楽しみに開封しようとすると突然「あああああ!!」っと大声を上げるレナの声に驚いて開封をキャンセルしてしまった。
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