第8話 でーとじゃないよ
FLFデビューして二週間。
最近はリアルで知り合った老夫婦のテッペイさんとサクラさんと一緒に遊ぶことが多く、楽しくいろんなクエストを受けて過ごしている。
「テッペイさんサクラさん、今日もありがとうございました」
ゲームでも挨拶は大切だ。ここで挨拶が出来ないと恐らく高校デビューした時には緊張して挨拶できないかもしれない。
緊張して小さな声での挨拶より、元気のいい挨拶の方が良いのは誰もが思うだろう。
「いえいえ、此方こそ何時もありがとうございます」
「孫達に話したら、今度一緒に遊ぼうって言われましてね」
「そうなんですか? それは楽しみですね」
二人は孫達と一緒にプレイするのが今から楽しみで顔が緩んでいる。
テッペイがタンクとなってサクラがアタッカーとし、ユキトがポーションを使って回復薬も兼任して弓で攻撃して立ち回り、もし安定した火力が欲しいクエストに挑む時はフレンド登録した魔法使いのアルルを誘って挑戦したり、都合が合わなけれ野良で誘ってゲームを純粋に楽しんでいる。
そんな充実したゲームライフを過ごしている事を、喫茶店の席で向かい合わせに座る幼馴染の奈々に話した。
「何か良いなそう言うの」
「奈々はそんな感じじゃないの?」
「女性プレイヤーは簡単にそうは行かないんだよね」
VRMMOにて性別を偽ってプレイするのは可能だが性別設定がゲームでのキャラメイクではなく本体の変更できない初期設定からなるため性別を偽る事は勧められていないため、性別を偽ってプレイする者が少ないからか出会い厨など面倒なプレイヤー増えてしまったため公式ホームページの掲示板の他に性別設定が女性になっているプレイヤーにはダイレクトメッセージが同じ内容で送信されているそうだ。
その注意喚起のおかげで未然にトラブルを避ける事が出来ているらしい。
「まじか……」
「たっちゃんがFLF始めるまで本当に大変だったんだよ。友達でもないのに馴れ馴れしいし、会う度に何かと付けてはフレンド申請はしてくるしで、野良でパーティー組んでみれば自慢話や猥談ばかりで、もううんざりだからフレンドになった人かその人の紹介なしの人とは関わらないって決めちゃったよ」
「本当最悪よね! まぁ、私の場合は奈々が一緒だったから良かったけど」
「遅いよ~玲奈」
「ごめんって」
奈々が玲奈と待ち合わせをしていて、偶然にも道で奈々と会ってその暇潰しに付き合っただけのこと。
「卒業したってのに部活の元主将様は忙しいのな」
「雪斗も何か部活やれば良かったのに運動神経悪くないのに勿体ない」
奈々が席を詰めて横に玲奈が座ると本当にそっくりだ。そんな二人を簡単に見分けられるのは幼馴染の龍斗と雪斗くらいであるため学校ではクラス分けで別クラスにしていたそうだが、最後くらいはと先生の計らいで同じクラスになったそうだ。
「運動部のあの独特なノリが無理」
何でもかんでも大きな声で話さないと行けなかったり何かと付けては連帯責任だとか筋トレをしろとか指導されたり、先輩の指示が絶対だったりするのが苦手で体験入部で自分には合わないとなって帰宅部になったのだ。
「まぁ確かに、雪斗にはあのノリは無理ね」
「ゆき君は運動部と言うより演劇部とかそっちの方が似合ってそう」
「奈々、何を根拠に言ってんだ俺に演技とか無理だろ」
「あ! 確かにぃ~。運動部見たいなノリは駄目、かと言ってジッとしてるのも無理なら、動き回るし同じ作品をずっとやらないだろうから飽きっぽい雪斗にピッタリじゃない」
「玲奈、私はそう言う意味で言ったわけじゃ」
「俺は飽き性じゃ――あ! やべぇ、夕飯の買い物の途中だった」
雪斗の携帯が鳴り出し、呼び出し人は母からで時間を確認すると煮込み料理するにはそろそろ戻って欲しい時間だった。
「じゃあ、俺行くわ!」
ドリンク代をテーブルに置いて急いで家に帰って奈々と喫茶店に居たと言うとメールで良いからそういう時は連絡しなさいとニヤニヤしながら言われてしまった。
夕食を終え風呂も済ませてからFLFにログインして何時も利用している宿屋から出て軽く町を歩きなが何をするか悩んでいると背後からドンっと衝撃とともに抱きつかれた。
「ひっひぃー、さっき振り」
「なんだよその笑い方。ラナは一緒じゃないのか?」
「ラナは料理教室で別行動中で暇なんだよね」
「俺も何も決めてなかったから暇なんだよね」
「じゃあ、ちょっとしたクエストにでも行っちゃう?」
「ちょっとした?」
にっひぃ~っとレナが笑ってユキトの手を引いて入り組んだ路地に入ってあちらこちらと歩いて案内された先は住宅密集地の中にポツンとある庭付きの屋敷だった。
「ここはね――」
「ああ、伝説のメイドのレシピクエか――あた!?」
「もう、雰囲気が台無しじゃない」
ウィンドウを開いて攻略サイトに繋いで調べてクエストを読みあげると頬を膨らませたレナに叩かれてしまった。がっつり攻略サイトを開きながらクエストに挑もうとしたが、レナは雰囲気までも楽しむ派らしい。
「そ、そうだな。雰囲気は大事だな」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ……もう」
「ん? なにが?」
「何でもないから行くよ」
「ひ、ひっぱるなよ」
ユキトの腕にレナは自分の腕を絡めて引っ張って屋敷の中へと入っていった。
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