第2話 しょしんしゃなかま

 昼食後に少し調べてから再びFLFにログインし、中央広場の噴水まで戻って近くのNPCの町娘に話し掛け、初心者向けクエストのフラグが立った。

 クエストの内容は『母から貰った大切なリボンを探して』と言うクエストで簡単に言えば町娘さんが立ち寄った場所を思い出してもらいながら何度も噴水とその場所を往復するだけのクエストだ。

 冒険者組合、宿屋、教会の三箇所に行って終了する簡単なミニクエストだが、ゲームするのに当たって大切な三箇所を教えられた形になるばかりか、報酬に初心者用のポーションが10個も貰える。

 次にやるべき事は職業に就く事だ。

 剣士、魔法使い、格闘士、弓使い、槍術士。神官、魔物使いが最初に選べる基本職業であるが、初心者にとっては本格的な冒険が始まると言っても良いだろう。


「ホーンラビットの討伐ですね……あら? 貴方はまだ職業に就いないので受けることができません」


 冒険者組合で依頼を受けようとすると職業に就いてない事を指摘されてクエストがスタートする。

『冒険者として相応しい職業に就こう!!』

 フラグが立って『南門の近くにいる親切な親父に話し掛けよう』と丁寧にヒントが赤文字で現れ、ミニマップにも此処だと言わんばかりに強く点滅していた。

 その地点までまっすぐ向かうと強面のNPCのおっさんが腕を組んで仁王立ちしていた。


「いやいや、あれのどこが親切な親父なんだよ。どうみても頑固親父のたぐいじゃね? ――ん?」


 その前を何度も往復する女の子が視界に入った。

 格好からして同じく始めたばかりのプレイヤーなのだろう。

 ここで会ったも何かの縁だろうし、それに職業を得るには木剣を持って町を出て魔物のいる森を抜けて祝福の教会で祝福を授かる必要があるからだ。

 戦闘があるなら一人より二人なら楽だろうともっともらしい言い訳をして自分を納得させてウロウロしている女の子に話し掛けるのを正当性をもたせる。


「ねぇ、ジョブクエ受けるなら俺と一緒に行かない?」

「え?」


 ユキトの声に気付いて振り向いた少女は青髪の長髪のエルフ族で身長は同じくらいで160前後位だ。


「俺も始めたばっかりなんだ。えっと・・・アルルさん」

「え? なんで私の名前が分かるの?」

「ああー、そこから初心者さんか」


 ゲームの初心者には幾つかの種類がいる。

 ゲームを始める前に色々調べたりして準備するタイプと、全く調べないでノリや勢いで始めるタイプで、彼女は後者なのだろう。

 このFLFでは比較的にHPや名前を表示しないように設定されており、プレイヤーがちゃんと視界で捉えて左上に現れる仕様になっており、人ならHPバーと名前、建物なら名前だけ見えるが、モンスターだけモンスターの上に名前とHPが現れる仕様になっている。


「本当だ。そこにあったのね。親切な親父さんを探しているのに頑固親父さんみたいな人しかいなくて悩んでたよ」

「あ、そうなんだ。俺はてっきり怖くて話しかけるのに躊躇って何度も往復しているように見えたよ」

「え? 嘘! 見られてたんだ恥ずかしいなぁ・・・もう」


 アルルの顔がほんのり赤くなるのが見え、本当に恥ずかしいと思っているんだと知る。それほどまでにこのFLFはしっかり読み取ってくれる。


「えっとじゃあ、どうする? 一緒するならパーティー組もうつっても基礎知識だけの初心者だから頼りないけどね」

「何もしらない私からしたら充分頼りになるよ。お願いします。私はアルル宜しくね」

「俺はユキト。楽しく行こうアルル」


 パーティー申請を出して彼女が承諾し、アルルとパーティーを組んでから親切な親父に話し掛けてみる。


「あの……」

『お前等、戦闘職に就かずに冒険者組合の依頼を受けようとしただろう?』


 ここまで伏線もなしに親切な親父が知ってるとか謎すぎるだろ。と攻略サイトに備考欄に書かれてあったりする。


「え? なんで知ってるの? 初対面のはずだよ」

『そんな無謀な奴等の噂なんかすぐに広まるからな』

「でも、それだったら他にも多くの人が――」

「ああー、アルルさん。そこはゲームだからツッコミはなしでお願いします」

「そう……そうね。ごめんなさい」

『話を続けるぞ。お前達には試練を受けてもらう』


 それがちょっとした冒険で南門から出て森を抜けた所にある祝福の教会へ行くと言う試験のことだ。それに対してユウは頷いて受けると示す。クエストの有無は言葉以外でも充分だ。首を立てに振るか横に振るかだけで充分足りる。

 それ故に、ロールプレイの幅が広がっているため、文字通り千差万別のプレイヤーがこのFLFの世界にいる。

 それにユウが言葉にしなくても、アルルが話しを勧めてくれるだろう。


「試験?」

『冒険者は危険が付き纏う。そのためお前達の勇気を見せてもらう。合格すればこの見習い冒険者の証をやろう』

「分かった。その試験受けます」

『そうか。なら、この南門を出て真っ直ぐ進んだ森の先にある教会へ行って来てもらおう。そこにいる者から資格を受け取って俺の所に戻って来れば試験は達成される』


 親切な親父の説明が終わるとウィンドウが現れ初心者ポーション×10と現れ、アイテムボックに自動的に収納された。

 ジョブを得ていないユキトとアルルは木剣と旅人の服と言う最弱装備で祝福の教会へと向かう事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る