一ヶ月後に死ぬ彼女とのほんの少しの大切な時間

香住ケ丘の異端児

一ヶ月後に死ぬ彼女とのほんの少しの大切な時間

「今から1ヶ月後、私は死ぬんだ」




 あり得ないくらい快晴の日、俺はそう言われた。


 そこまで関わりもなく、偶然家が隣だったり、何回も連続で席替えで隣になったわけでもなく、本当に靴箱で急に言われた。


 彼女の名前くらいは俺も知っている。


 なぜなら彼女は陽キャ、いわゆる一軍女子だからだ。


 いつも周りに友人がいるのを知っているし、現役で生徒会の副会長もしているからな。


 そんなやつから死ぬ、なんて言われたら誰しもがこう言うだろう。




「は?」と。




 俺―――篠田碧しのだあおいは見事に呆けた顔を彼女にお見舞いしたのだった。


 これが俺と彼女―――柏 凪海かしわ なみとの出会いだった。








 俺を一言で表すとしたら何も取り柄のない普通の男子高校生、と言ったところだ。


 成績、普通。運動神経、普通。友達、まぁまぁいる。


 コミュ力に自信はあるし、嫌われる性格は中学の頃で卒業した。


 クラスでも中心に近くなれたかな、と思えるくらい高校生活は充実している。




 そう思っていた矢先のことだった。


 柏と運命的(?)な出会いを果たしたのだ。


 彼女とはあれからそこそこ仲良くやれている。




「碧〜!」




 ……ほ〜ら、やって来た。


 彼女はその美貌をさらに美しく笑顔でいっぱいにして、手をブンブン振りながら俺のもとにやってきて俺に飛びついた。




 ……飛びついた?




「待て待て待て待て……」




 俺は信じられない光景を見ながらとりあえず彼女を受け止めるために両手を広げた。


 彼女は俺が構えているすこし前できれいに着地した。


 両手を広げる俺を残して。




「あれれ?もしかしてハグすると思った?ざんね〜ん」


「おっけ、今すぐ処す」


「いや〜、碧に襲われる〜」


「そんなん言ったら俺が悪者になるだろうが!」




 こいついわく死期が近いらしいが誰も信じないだろうな。


 第一、彼女は俺にもうすぐ死ぬと言ったが、それが本当なのか嘘なのかすら俺は分かっていない。


 ただ俺のことをばかにするためにそういったのかもしれないし、本当なのかもしれない。


 いつかは彼女に聞こう。




『本当に死ぬのか?』と。




 とりあえず、


「ほら見ろ!お前のせいで変な目で見られるじゃねぇか俺が!」


「え?じゃあ碧は私のことを変な目で見たことないの?」


「よし、今日のところは許してやろう」


「やったぜ」




 よし、やっぱり処そうかな。


 俺達がいつもこんな会話を繰り広げているのでクラスの名物と化している。


 なぜだ……?










 柏と出会って一週間が過ぎた。


 彼女の言うのが本当なら、俺と彼女が過ごせる時間の四分の一が終わったことになる。


 未だに彼女が死ぬのかどうか聞けていない。


 でもこの一週間で彼女について知れたことがいくつがある。




 一つ目、彼女がオタクに優しい陽キャだということ。


 柏と放課後にイオンに行ったときに今流行っているアニメの映画を指さして、『死ぬ前に一緒に見に行こうね』と言われたことがあるからだ。


 俺はよくラノベを嗜たしなみ、アニメも見るので知っているアニメなのだが、にわかだと知らない人のほうが多い。


 そこから俺は彼女がそこそこなオタクだとわかった。




 二つ目、彼氏がいないこと。


 今いないことはなんとなく分かっていた。


 なぜなら俺を放課後によく呼び出しては一緒に遊んでいるからだ。


 彼氏がいるのなら今ごろ俺は紅蓮の炎に焼かれて(厨二病)いるだろうな。


 昔はいたらしいがあまり長続きはしなかったようだ。   




 そして最後に嘘を言っているときと本当のことを言っているときが分かりにくいことだ。


 表情の管理がうまいのだろう、ほとんど表情の変化なく冗談を言ってみせる。


 だからこそ死ぬのかどうかわかりにくいという俺にとっては不利益したならないのだ。




 俺はそんなことを思いながら柏が来るのを待っていた。


 今日は学校で柏から『放課後遊び行こー』と、いつものように言われたので正門で待っている。


 帰っていく友達からは「またいつものか〜?」と言われ俺は「ああ、いつものだ」と返す。


 そんなやり取りを段々とみんなが慣れてきて、今となっては恒例化している。


 ……なんかあいつと会って恒例化したこと多くね?


 そんなしょうもない一人ツッコミをしていると柏がやって来た。




「よっす、今日はどこに行くんだ?」




 俺がそう尋ねると柏は、


「家うち」と言った。




 ……ん?




「よし、行こっか」


「お、おう」




 ……高校生にもなって女子の家に行く事があるとは思わなかったな。


 










「はい!ここが私の家」


「お、お邪魔しま〜すぅ」




 俺は果てしない緊張とともに彼女の家の前までやって来た。


 ここに来るまでに両親にも挨拶をしておきたい、と言うと、『今日親いないよ?』と言われてしまった。




 もちろん俺だって思春期の男子高校生、少しはそういうことも期待してしまったが柏が純粋な気持ちで招いていると分かっているので鋼の心で今ここに立っている。




「とりあえず私の部屋に行こっか」




 ……あんた狙ってる?




 そう思わざるを得なかった。


 なんとか俺は「お、おう」と答えた。少し語尾が上ずったのは内緒にしておこう。


 彼女の部屋は白を基調としているとてもきれいな部屋で、本棚には大量のラノベがある、ということが第一印象だった。




 「お茶でいい?」


 「ああ、ありがと」 




 そう言って彼女は一階のリビングに降りていった。


 その間座っているとずっとソワソワしてしまったので彼女の本棚でも見ようと立ち上がった。


 ちゃんと巻数で並んでおり綺麗だった。




(あ、この本知ってる……あとで借りてみよっかな……ん?)




 俺は本の上に横に乗せられている一つの手帳を見つけた。


 俺の直感というかなんというか分からないがあまり見ちゃいけない気がした。


 その時ちょうど柏が帰ってきた。




「なあ、あの手帳って……?」




 俺がそう切り出すと彼女は少し目を泳がせて、




「私が死んだら見ていいよ。でもそれまではだめ。家族にも見せてないんだからね」




 そうはぐらかせた。




(無難に行くと遺言、だろうか)




 俺はそこまで考えてすぐに辞めた。


 彼女が生きている限りそんなことを考えるのは流石に人間として終わっている。 




 少し空気が悪くなったが(俺のせい)、すぐにいつもの調子を取り戻した彼女とゲームをしたりお菓子を食べたり、ゆっくりとした時間を過ごした。


 夕焼け空になりだした頃、俺はそろそろ御暇おいとましようと思い柏に「そろそろ帰ろうかな」と言ったところ駅まで送ると言われてしまった。


 駅まで送ったあとに彼女は一人で変えることになるのだから断ろうと思ったのだが、なかなか引き下がってくれなかったので完全に暗くなる前に帰ってしまうことにした。




 特にいつもと変わらない会話をしながら駅まで歩いた。


(俺としては俺なんかと歩く時間より家族と一緒にいる時間を大切にしてほしいな……)


 どうしても柏のご両親に対して罪悪感を抱きながら俺は駅まで他愛のない会話をしていた。


 本当に柏がもうすぐ死んでしまうのなら俺ははっきり言うべきなのだろう。




 「俺との時間より、大切な人との時間を大切にしろ」と。




 もちろん彼女から提案されて俺は仲良くしているのだからそんな事を言う資格はないとわかっている。


 わかっているからこそ本当に死ぬのか?と尋ねたくなる。




「柏」


「ん〜?どした〜?」


「お前は、本当にあと一ヶ月もせずに死ぬのか?」




 俺は「冗談に決まってるよ〜」という一言を期待してこんな質問をした。いや、してしまった。




「うん、そうだよ?」




 顔色一つ、表情すら変えることなく彼女は淡々と俺に告げた。




「そうか、ゴメンな、変なこと聞いて」


「うん?別に?順当な疑問でしょ」




 彼女がそう言って少しすると駅に着いた。


 俺は(聞くタイミング間違えたな)と思いながら彼女に別れを告げた。












 出会って2週間も経つと俺と柏の絡みはクラスの名物として、同じ学年の奴らに知れ渡っていた。


 ……というか噂がものすごい肥大化してるけど……


『あいつら付き合ってるらしいぞ』や、『もう家にもつれ込む仲らしい』とかなら的をいてるからなんとも言えないが、ひどいやつだと『許嫁いいなずけの関係らしい』などと行き過ぎた考察まであるのだ。




 別に俺はそこまで気にならないのだが、向こうには『何であんな地味なやつと』と、俺が釣り合わないと言われてるらしい。


 柏からすると部外者の言う事は気にしな〜い、というスタンスらしいのでケロッとしている。


 柏がいいなら俺も特に心配しなくてもいいか。


 でもこんな噂がいつまでも続くのは柏もいいものとは思わないだろうから少しは気をつけないとな。




「ね〜碧〜、どうして私のことは凪海って下の名前で呼んでくれないの〜ねーなんでー?」




 俺が決意表明(脳内で完結)をしたわずか二分後、柏が俺の膝の上に座りながらそう言ってきた。周りからは好奇の目が向けられた。俺は頭を抱えながら心のなかで叫んだ。




(それ、今じゃないとだめだったか!?)


「いや、男女で名前呼びだと色々噂が出回るだろ?」


「手遅れじゃね?」


「お前のせいでな!」




 そう俺がツッコむと彼女はケラケラと笑った。




「ともかく、落ち着くまでは名字で呼ぶつもりだ」


「しょうがないな〜」




 ……こんなやり取りをしているから噂が広まるんだろうな〜、と思いながらため息を付いた。












 それから5日後、期末テストの一週間前となり、俺は自室にこもって勉強をしていた。


 彼女は「テスト期間で死んじゃうからノー勉さ☆」と言っていた。俺は大変返事に困った。


 彼女が何年も前からの大親友なら一緒に遊んでやりたいのだが、成績や受験のことを考えると流石に毎日遊ぶことはできなかった。




 もちろん何日かに一回は遊んでやろうと考えてはいる。


 そのためにも今のうちから勉強を始めて、貯金を作っておこうと思ったのだ。


 そう考えると俺はいつも以上に集中してペンを動かしていた。




 その時、不意にスマホが鳴った。


 画面には【nami】とある。俺は特に考えずに電話に出た。




『あ、出た出た』


「勉強してたんすけども」


『まあまあ』 




 なにがまあまあやねん。




「で?どうしたんだ?」


『碧は勉強しながらでいいから少し話そ』


「まあいいけど」




 リア充っぽく勉強通話を提案された。


 俺が知っている勉強通話はサボらないように通話を開いてお互いが勉強するものだと思っていたが、俺達の場合はこういう形になるらしい。






『ねぇ、今度映画でも見に行かない?今めっちゃ見たいやつがあってさ〜』


「行くなら学校帰りがいいな。休みの日なら柏が一日中とか言い出すだろ?」


『ちっバレたか』






『駅前のカフェに行かない?』


「百歩譲って勉強しながらならな」


『私の時間無駄になるんだけど』


「……一回だけならな」






「そろそろ寝ないか?」


『そんなに私との会話つまらないの?』


「誤解が生まれないためにもう少し話そうか」


『ちょろいな』


「やっぱり切ろうかな」






 そんなくだらない会話をしながら俺はペンを動かしていた。


 少しして静寂が訪れ、もう寝たかな?と思い、電話を切ろうとすると彼女の声が聞こえた。




『ねぇ碧、今ものすごく死ぬのが怖いんだ〜』


「え……?」


『こんなに仲良くなったのにあと少しで分かれるって思うと悲しくなってね』






『どうしてもう少し早く仲良くなれなかったのかな〜とか、どうしてもうすぐ死んじゃうのかな〜とか思っちゃって』






『本当は碧と遠くに出かけたりしてみたかったんだよね』






『ほんとは寂しくなって電話かけちゃったの』






 俺はその告白を聞いてかなりの衝撃を受けた。


 いつもの振る舞い、それこそ学校の中での行動を見ていてもこんなことを言う姿が想像できないくらいに意外な発言だった。


 俺は彼女に何を言ってやるのが正解か分からなかった。


 でも俺は分からないなりに彼女を助けてあげようと思った。




「寂しくなったらいつでも電話するし、雑談にだって付き合うし遊びにだって行く。だから心配するな」




 俺は自分なりの正解を彼女に伝えられたと思う。


『うん、そうだよね、ありがと。こんな暗い話でごめんね!おやすみ〜』


「うん、おやすみ。明日も通話するか?」


『もちのろんだよ〜』




 そう言って彼女との電話を切った。






  












      これが彼女との最後の会話になった。






















 俺と会話をしたその次の日、彼女は息を引き取った。


 柏のご両親に曰く、笑顔で逝ったらしい。


 俺がそのことを知ったのはテストが全て終わったあと、担任から呼び出された後、伝えられた。


 ここ二週間くらい休んでいて、様態が良くないのかと心配になっていたが、最悪の形で彼女と再会した。


 彼女の顔にかかっていた布を取ってもらうと、満面の笑みだった。




 まだ生きているんじゃないか。


 また俺に飛びつくのではないか。


 またしょうもない会話で笑えるのではないか。




 そのような淡い期待も虚しく、ただ生気のない顔がそこにあった。






 彼女の葬式には大勢の高校生(柏の友達)が参列していた。


 ほとんどの人が泣いていたが、俺はなぜか涙が出なかった。


 悲しくないわけではない。なのに涙が出てこず、生きている実感のないまま、ただ時が過ぎるのを感じていた。


 家に帰った俺は何もせずにベットに飛び込んだ。


 すぐにでも事実から逃げたかった。


 


 大切な親友が死んだのに泣けなかった事実から。














「篠田、放課後会議室に来てもらえるか?」


 柏の葬儀から二日後の昼休み、俺は担任からそう声をかけられた。


 そこで一日がもうすぐ終わることを実感した。


 彼女のいない日々はなんとも退屈で暇だった。


 俺を振り回してくれた彼女がいなくなったので放課後は何もすることがなかった俺は首を縦に振った。






「はじめまして、凪海の母の海うみです。」




 俺が会議室に入るとそこには担任と女性がいた。


 まだ三十代なのではないかと思えるほどきれいな女性だった。


 隈くまがあることを除いたら。




「ど、どうも」


「凪海から話はよく聞いていました。いつも振り回されたでしょう?」




 女性――海さんは俺にそう笑いかけた。


 我が子を亡くしてまだ一ヶ月も経っていないのに笑いかけてくれた。




「では私は戻りますね」


「はい、先生もありがとうございました」




 そう言って担任は部屋を出ていった。




「俺に柏……凪海さんのことでなにかあるのですか?」




 少し図々しいかもしれないがそう問いかけた。


 彼女は俺の問いかけに答える前に、




「とりあえずうちに来てほしいの」




 そう言った。








 ほんの数週間前に来た柏の家、なぜだろうか、とても久しぶりに感じる。


 海さんに家に通されて俺は彼女の仏壇を見た。


 彼女らしい満面の笑み、そして飾られた色んな花、彼女らしい仏壇だと思った。


 俺は線香をあげて、手を合わせ、彼女を悼んだ。


 俺が顔を上げると海さんが、俺に声をかけた。




「これを見てほしいの」


「……これは……」




 俺が前に来た日に本棚にあった手帳だった。




「でもこれは美凪さんから見るなって……」


「この中には親しい人に向けた手紙が書いてあったの。その一番最初にあなた、碧くんがあったの」


「……っ」




 俺は急ぐように海さんから手帳を受け取り、読んだ。


 そこには懐かしい彼女の文字でこう綴られていた。








『碧へ。


まだ出会って一年どころか一ヶ月も経ってないのに碧のことを最初に書こうと思いました。


あの日、私が碧と初めて会った日、もうすぐ死ぬ事がわかっていた私は碧と話してみたい!って思いました。


その理由は教室で話しているのを見て面白そうって思ったからです。


もちろん他の友達と過ごしていたい気持ちもあったけど、私は本能的に話しかけたんだ。


今思うとその判断をした私を褒め散らかしたいです。


だって一日一日がものすごく楽しくなったから。


学校でしょうもない話をして、放課後に遊んで、またしょうもない話をして。


その時間が私にとってとても楽しい時間でした。


もしかしたら碧は他の友達と遊びたくて嫌だったかもしれません。


それでも私と色んなところに行ってくれてありがとう。


本当はもっとたくさん遊んで色んな思い出を共有したかったけどそうはいかないみたい。


なんとなくわかったんだ、もうすぐ終わりが近いことが。


離れるべきかな?とも思ったよ。


でももっと一緒に居たいっていう気持ちが勝っちゃった。


もしも私との思い出が多くなって悲しんでいたらごめんなさい。


だけど私にとってかけがいのない時間でした。


碧と過ごしているうちに少しずつ気になっていく私がいました。


だけどそのことを伝えたら碧は優しすぎるから私の期待に答えてしまうのが想像できちゃいました。


だから今ここに書いておこうと思います。


好き


ものすごく恥ずかしいや。


私のこの気持ちは無視して碧は優しい人と結婚して私の分まで幸せになってください。


そして死んだら私のところまで報告しに来て下さい。


これが最後のお願いです。


女の子との約束はちゃんと守ってね。


じゃあね。


ばいばい。            柏 美凪』










 俺は前が涙で滲んで見えないくらい泣いていた。


 彼女が死んだことを初めて実感した。


 その瞬間俺が今まで泣けなかった理由がわかった。


 どうしても心の何処かで彼女が死んだことが信じられずに、現実から目を背けていたからだ、と。


 家族でない人の前で子供らしく声を上げて泣くのは初めてだった。


 もう彼女の笑顔が見れない。


 そう思うだけで涙が止まらなかった。




「あの時間が嫌だったわけ無いだろ………楽しくて、可笑しくて、俺にとって大切な時間だったよ……」




 誰に言うわけでもなく、声を荒げた。


 このやりどころのない感情を晒しだした。 




「ずっと楽しかった……噂があっても何も嫌じゃなかったよ……!俺もずっとお前といたかったよ……!俺もお前のことが好きだったよ……!」




 俺が泣き叫んでいるのを見ている海さんも目頭をおさえていた。




 「ああぁぁぁぁぁあ……………………!」




 柄にもなく俺は泣いた。
















 その一週間後、俺は彼女――美凪の墓に来ていた。




「なあ美凪、もう一週間って信じられないよ」




 俺は彼女の墓石を拭きながらそう語りかけた。


 もちろん返事はない。


 でもきっと届いていると思う。




 俺は美凪の手紙を読んで泣き叫んだ後、海さんと生前の美凪と何をしていたかを聞かれて、懐かしみながら話した。


 まだ少し鼻がズビズビとなっていたがそれ以上に彼女との楽しくて大好きだった思い出を振り返りながら話した。


 気がついたら日が暮れてどちらともなく笑い出したのをよく覚えている。


 その時、俺は決意した。


 もう美凪のように若くして亡くなる人を減らしたいと、心の底から俺は思った。




「俺、医者を目指してみようと思う。美凪みたいな人が死なないためにこれからを生きようと思う。だから応援してくれないか?文字通り陰ながらな」




 まだまだ勉強しないといけないが、何も苦ではない。


 俺の心のなかにはずっと美凪がいてくれるから。




「そろそろ帰るよ。また少ししたら来るから」




 俺は家に帰ろうと立ち上がった。


 気のせいかもしれないが、一瞬墓石が俺に返事をするかのように光った。 


 俺は少し笑顔になった。




 「今度は美凪より好きだと思える人を見つけて来るよ。そしたら安心できるだろ?」




 どことなく彼女を彷彿とさせる快晴の空を見上げながら俺は帰路についた。

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