第四十一話 巨獣大開戦
地脈の巨獣は竜の口を空へ向け、吐瀉のように魔獣を生み続けた。
吐き出された獣は地を這い、あるいは翼で飛行する。それは終末の文字に相応しい地獄絵図であった。
「無島さん、何すかあの魔獣は!」
「知るかよ! それもそうだが、ンだこの魔獣の湧き方は」
二人は屋上から飛び出し、獣の足元へ急いだ。怪物の足元には大地から根が伸びて一体化している。その付近から魔物の激流が彼らへ向かって伸びて来ていた。
「ったく、なんだってこんな量……」
激流の先陣を切ったのは有翼魔獣の群れ。一目散に飛んできて、ツムギ達の首を狙っている。
「オイ、あかは――」
無島が振り向いた途端、無数の雑草が宙に散らばっていた。無造作に投げられた草は瞬く間に合金繊維の糸へ変化し、二人の前に蜘蛛の巣状の盾を張った。
「『
有翼の群れはその速度を維持したまま蜘蛛の巣へ衝突し、切断される。後続の魔獣も止まることができないまま暗殺者の糸に突入した。
糸の隙間からは肉の破片だけが飛び散る。
「ハッ、無鉄砲さがマシになっただけ合格点じゃねぇか」
糸の適応は終了し、元の雑草へ戻る。休みなく少年は髪のヘアピンを二本のサーベルへ変えた。
作成と同時、第二陣が道の向こうから投入される。
「なんでオレ達ばっかりに!」
「単純に魔力に寄って来るらしいな。民間人への被害はひとまず問題なさそうだが……って、なんだあれ?」
狂ったように走る魔獣の群れ、その先頭。群れの中で一際大きな白蛇が疾走していた。
しかしそれは魔獣ではない。ツムギは魔力からその蛇がリリの召喚獣であることを理解した。
それと共に若い男の情けない絶叫が轟いた。
「だずげでぇぇぇぇぇぇぇぶええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「声出してると舌嚙むわよ」
「リリィぢゃあん! しんじゃうよおおおぉぉぉぉぉ!!」
「リリィ!?」
「鹿深近?」
白蛇の頭に捕まるリリ、そして全身を縛られた上で蛇の口に掴まれている男――山里碓喜が姿を見せる
「上出来よ山里! だけど流石に多すぎ!」
「スキル制御できないから仕方ないじゃないかぁ!!」
「ツムギ! 無島さん! こっちお願いッ」
リリの作戦を悟った無島は白蛇の背後まで一瞬にして駆け抜けた。少女にもっとも迫る魔獣を補足すると、音の壁まで加速した暴力の化身が足払いを繰り出す。
「転がってけ、よッ!」
音速の蹴りが獣へ見舞われる。消滅しない程度に力を抑えた無島のキックは猪をボールのように蹴り出し、直線上の魔獣を弾き倒した。
「鹿深近、状況報告ッ!」
「魔獣がいきなり地面から湧いて発生したの。二人の反応が見えたから、魔獣を引き付けてここまで来ました。あ、こいつは山里。ただのデコイ」
「ううぅ、人間扱いしてくれないぃ」
蛇の舌でホールドされたまま、号泣中の山里はズビズビと鼻を垂らす。
「その変な兄ちゃんについては後回しだ。ひとまずあのデカブツをどうにかしねぇことには……」
魔獣発生直後、二度目の衝撃が大地に流れた。
「今度はなんだ!?」
「あ、あれ!」
空を見上げた彼らは目撃した。流星に並び飛ぶ車サイズの十字架と、その上から獣を見下ろす青年の姿を。
「アスハ――!」
ツムギの声が彼へ届く直前、陰が街一帯を包んだ。灰燼は淀みなく超質量の山を世界へ産み落とす。
「這い蹲れ」
アスハの手と共に岩山は落下する。山頂から急降下した山は地を這う魔物へ落とされ、その質量その衝撃を獣のみにぶつけた。
魔物の押し潰す中、周囲への被害は一切ない。あらかじめ付与された『
山は消滅する。
これまでにない神業を目にしてツムギ達は絶句していた。言葉を失っている最中、地上に残った魔力を追ってアスハが降りて来る。
「みんな、お願いがある!」
先の攻撃についての言及を飲み込み、無島が大怪獣についてアスハに問う。
「凛藤、ありゃいったいなんだ?」
「この街に封印されてた大魔獣です。討伐のため、俺が封印を解きました」
「お前がやったのか!? その前に諸々をなんで俺等に伝えなかった!」
「時間がなかったんです。それに無島さん達、連絡しても出なかったし」
「え……あ、超連絡入ってた。ごめ」
何件も溜まっていた不在着信のポップアップを前に、無島は小言をやめた。
「にしてもお前もお前で、どこで修行してきた?」
「見て分かりますか」
「さっきの技術に身のこなし、筋力、魔力量。別人レベルで底上げしてきてよく言うぜ」
彼の全身に漲る浸礼魔法がその壮絶さを伝えていた。
一堂が会した今、事の発端であるアスハが現場の指揮を執った。
「あの巨獣は俺とツムギに任せて下さい。リリィはその……吊るされて泣いてる人を囮に雑多な魔獣の誘導と排除。その漏れをカバーするように無島さんが!」
「任せとけ!」
「了解!」
「ちょちょちょっと待ってこっちの意見はスルー!? ちょま、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
一刻を争う事態に無島とリリは即座の指令を遂行する。暴れる山里を無理くりに連れ出して二人は魔獣の群れへ飛び込んでいった。
場に残されたのは、灰燼と日輪だけとなる。
「――アスハ、オレ……」
「ツムギ」
今度こそはどこへも行かせない。二度と立ち止まって友を一人にしない。
その決意を胸にアスハは一歩踏み出してツムギへ寄る。
「俺はキミと、話さなきゃいけないことが山ほどある。すぐにでも話すべきことが」
「……アスハ」
「だから、力を貸してくれ」
青年は友へ、もっとも身近なその英雄に片手を差し伸べる。
「あの怪物を倒してから、その話の続きをしたい」
一瞬綻びかけた顔を律し、目頭を熱くさせながらツムギは彼の手を握る。
「……ああ、任せろ。魔獣討伐なんてすぐに終わらせようぜ」
彼らの間にはもう憂いも後悔も映っていない。
再会した日輪と灰燼は爪先を地脈の巨獣へ向ける。二つの心を突き動かす熱源は、同じ炎を宿していた。
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