間章 新たな日々

幕間その1 再結成パーティー

「ンじゃ、改めて」


「「アスハおかえり~!!」」


部室に小気味良いクラッカーの音が鳴り響く。


「ありがとう、二人とも」


屈託のない笑みを浮かべるアスハは紙テープとラメで塗れていた。

そして三人はジュースの注がれた紙コップを掲げる。


「異世界帰宅部、再結成を祝してぇ!」


「「「かんぱーい!!」」」


授業もない夏休みの真昼間、異世界帰宅部は一件落着にかこつけて再結成パーティーを開いた。


テーブルにはジュースやお菓子、それと奮発して買った特大ピザが並んでいる。


「まぁー色々あったけど、無事に収まって良かったねぇ」


「リリィとツムギには感謝してもしきれないよ。異世界帰宅部に戻してくれてありがとう」


「別にお礼言われるようなことじゃないって」


三人が楽しく飲み食いしているところへ、匂いにつられて部の飼い猫まーちゃんが寄って来る。

ツムギが無造作に持ち上げると、予想以上の質量に彼は驚きの声を上げた。


「あれェ、なんかまーちゃん重くなってね?」


「元々痩せてたからちょうど良いんじゃないかな?」


「にしても太ったって。ぜってぇ無島さんが甘やかしたよコレ」


「なんか想像つく~。ああいうぶっきらぼうな独身男性って猫にはゲロ甘なのよねぇ。最終的には人間不信気味なって、もう俺には猫しかいないんだ~! みたいな」


「リリィの偏見の解像度生々しくない?」


「前世の義弟がそうだったの。会議やパーティーじゃ仏頂面なのに、帰った途端愛猫にデレデレ。婚約者との仲立ちに苦労したわぁ」


「さすが令嬢系異世界帰還者……」


楽しく雑談している真っ最中、アスハは以前から気になっていた話題を仲間に投げる。


「家族の話題で思い出したけど。みんなは親御さんには、伝えたの? その、異世界転生とか、異世界帰宅部のこと」


「いや~流石に言ってねーかな。正直に説明してもに頭心配されるだろうし」


「アタシも。パパとママなら話は信じてくれるかもしれないけど、危険なことは止めてくると思うし」


「普通そうだよね。俺も心配させたくないから、母さんにも話さなかった。正直、過去のことは話せる相手がいなかったから、二人に聞いてもらった時は本当にスッキリしたよ」


「お前はよく頑張ったぜ。あんな経験しても立ち上がったんだ。マジで心から尊敬するよ」


「ホントホントぉ。自分の辛かったことなんて恥ずかしくてアタシ話せないよ~」


酒の一滴の入っていないが、ツムギとリリは酔っ払いばりにアスハへベタベタとくっつく。かなり面倒な絡み方だが、本人は満更でもない様子だ。


「それにアタシとツムギは一応あっちで歳食ってから死んだからね。親の気持ちも分かるし、少しは大人らしく対応しないとね」


「確かに。俺からしたら二人は大先輩のお兄さんお姉さんだ」


「ふふん。いざって時はお姉ちゃんに頼りなさいな!」


「リリィはお姉ちゃんてか、母ちゃんじゃね? いや、ばーちゃんってカンジ!」


「前言撤回、ツムギは何も成熟してないわ。特にデリカシー」


リリの本気ビンタがツムギの頭に直撃する。スパンッと景気の良い音がした。

それとほぼ同時、何かがザラザラと零れる音が部室に響く。


「これ何の音?」


「もしかしてリリィ、ケーキ落とした?」


「えっ!? アタシじゃないよ――」


ふと目線を下ろしたリリは、床の上に散乱した大量の茶色の粒と、それを貪り食うネコの姿を目撃した。


「ああああああ! まーちゃんがキャットフードの袋を!!」


床に散らばったキャットフードなど、もう猫の眼中にはない。狙うは大袋。豪快に破いた袋に頭を突っ込んで食らいついていた。


ツムギが引き剥がそうとするも、まーちゃんは抵抗する。


「こンのドラ猫、潜って中々出てこねェ!」


「『限りなき無秩序アンリミテッド』、スローモーション」


猫の動きはたちまち遅くなり、ツムギとアスハでどうにか袋から引き剥がす。

だが時すでに遅し。猫が食らった袋の中身は、既に半分以下に減っていた。


「おわああぁぁ!? かなり食われちまったぞコレ! 少ない部費から出したのにィ」


「ねぇアスハぁ、どうにか元に戻せない?」


「出来なくはないけど、食べちゃったものを戻させるのは可哀想だしやめとこう……」


「そんなぁ」


「それに失敗したら、まーちゃんの体がどうなるか分かったものじゃないし」


「なにそれこわっ」


当の猫を抱えたまま、アスハは床の惨状に溜め息をついた。

一方で人間達の動向など意にも介さず、卑しき猫は口の中身を延々と咀嚼していた。


「じゃあ、キャットフードそのモノはどうだ!?」


「これも同じく。下手したらバイオ兵器ができちゃう」


「キャットフードごときで!?」


「……諦めて買い直そうよ」


そんなアスハの提案は早々に折られる。


「ごめーん、実は今日のパーティーで使ったからしばらく部費ないっ」


予算を考えないのかこの無勘定娘、の言葉を飲み込んで男子二名は解決策という名の悪ノリに走る。


「よしアスハ、偽札作ろうぜ。お前がベースの材料作ってくれ」


「ツムギ、偽造通貨はリスキーだ。ここは俺の『限りなき無秩序アンリミテッド』で貴金属を作るから、キミが『最適化オートクチュール』で装飾を」


「はーいそこー。市場破壊やめなさーい」


とっ散らかった部室内。ネコは紙テープを避けながら器用に残りのキャットフードカスを拾い食いしていた。

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