第4話

二日後 ミチリ村から南 爛炎第六教会

その入り口に、馬車が止まった。


馬車から出てきたのは、長身の神父マクラゴ・ヘルハウンド。胸のポケットには金色のバッチが日光に当たりきらりと輝いていた。


そこへ、教会から二人の女性が飛び出した。一人はボサボサの髪、顔には丸いメガネがついていた。もう一人の方は整った短い髪、色は銀髪で、どこか男性的な印象を感じさせた。そして、頬にはやけどの跡があった。二人とも、神父と同じ黒と金の服を身につけている。


銀髪のほうが、ヘルハウンドへ手を振りながら話しかけた。

「やっと帰ってきた神父様!結構心配してたんですよ!......ほら、ニーナも、恥ずかしがってないでさ。」

ニーナと呼ばれたボサボサの髪の女は、やや小さな声で

「お帰りなさい......神父さま。大丈夫でしたか?」

と、ヘルハウンドに尋ねた。


ヘルハウンドは微笑みながら答えた。

「すまない。シスター・ニーナ、シスター・シリカ。いろいろ気になることを調べていたら遅くなってしまった。」

「それで、なにかわかりましたか?」

銀髪のシスター、ニーナは尋ねた。

「あぁ、村の人の話からほぼ間違いなく。詳しくは中で話すとしよう。」

ヘルハウンドはそう言い、教会の中へ二人のシスターとともに入っていった。


教会の中の一部屋の中には、シスター・ニーナとシスター・シリカに加え、他にも五人ほどのシスターがテーブルの周りを囲んでいる。

テーブルの中央には、ミチリ村の地図が二枚。

一枚は比較的新しいもので、もう一枚はかなり古い。どちらも、先ほどヘルハウンドが取り出したものだった。


ヘルハウンドは比較的新しい方を指して言った。

「この地図には、先日訪れたミチリ村の、建てられている建物の位置や大きさが書かれている。その丸で囲った部分が、先程話した、少女リゼ・アンドラフォーゼの両親が自殺した家だ。」


その後、古い方の地図を指して続けた。

「こちらの方には、ミチリ村が建つ前の周辺環境が描かれている。ここの部分を見てほしい。小さな池が描かれているのがわかるな?新しい方の地図と合わせて見ると分かるが、リゼ・アンドラフォーゼの家はから建てられたようだ。」


シスターニーナは冷静に、そして不思議そうに言った。

「なるほど、それは......ですね。あちらを挑発しているようなものです。ですが、なぜわざわざ埋め立てたのでしょう?そこに建てなければいけない理由があったのでしょうか?」

ヘルハウンドは答えた。


「ミチリ村はもともと、大きな村の一部だったと村長は言っていた。リゼ・アンドラフォーゼの家は、現在こそ村の北側の端にあるが、そこは元々だったのだそうだ。さらに詳しく聞いてみると、どうやらその村は、周辺にいた種族を、ノームの血を濃く受け継いだのちの初代村長一派が力で従えてまとめたらしい。だが、いつその従えた種族たちが反旗を翻すかわからない。村長は、自分の力の強さを示す必要があった。」


「ノームは土魔法を得意としていたと習っています。そして、古くから水の精霊、ウィンデーネと対立関係にあったとも。つまり、祠のようなものを造った。そういうことですか?」


「......ノームは手足が大きく、という特徴を持っている。現在の村長である......ムクリの、背が小さいのが何よりの証拠だろう。」


ヘルハウンドは続ける。

「しかし、異常魔素変動による気温の上昇から作物の不作で飢饉を起こし、村民の多くが死んだ。人がいない家などに意味はない。少しでも物資の足しにするため、家々は取り壊され、村の規模は縮小した。」


「祠は風化し、やがて崩れる。結局、その効力を示す機会もなくな。そして年月が経ち、祠があったこともほとんどの人間が忘れ、村人もーー元に比べれば少ないがーー少しは増え、家が建つ。


ヘルハウンドは一呼吸置き、さらに続ける。

「先ほど言ったことは訂正しよう。リゼ・アンドラフォーゼの家を建てるために埋め立てたのではなく、


ヘルハウンドは話を終えた。

シスター・シリカは怒りで声を振るわせて言った。

「少なくとも......村長のムクリとやらは、そこに祠があったことを覚えていたのでしょう?

なぜ止めなかったんです!?家を建てさせるのを!」

ヘルハウンドは答える。

「あの老人はそもそも魔法自体に疎かった。そもそも信じてなんぞいなかったのだろう。田舎ではよくあることだ。」



「少なくとも、その魔力により死人が出ている。リゼ・アンドラフォーゼの両親の他に、彼女の親友の命までも、奪われている。次に可能性が高いのは


おそらく、リゼ・アンドラフォーゼ自身。」


ヘルハウンドの言葉に、ニーナとシリカはすかさず反応した。

シリカは、

「私、いや、私たちにやらせてください。あのおぞましき悪魔から、必ずあの村人たちを守ってみせる。」

とはっきりした口調でいい、

続けて、

「ええ、シリカの言う通りです神父さま。私たちは、このためにここで育ち、毎日サラマンダー様へと祈りを捧げてきたのですから。いまさら怖くありません。」

と、ニーナはか細くも力強い口調でいった。


しかし、ヘルハウンドは、

「いや、この調査を始めたのは私だ。私が直接行き、やつを祓うのが筋というものだ。......その代わり、シスターたちはの準備を頼む。おそらく、大きな仕事になるだろう。いつもより一層丁寧に頼む。」


「では、解散。私たちに炎の導きと祝福があらんことを。」


「「「「炎の導きと祝福があらんことを。」」」」



(何か、引っかかる。)

ヘルハウンドは、微かな違和感を感じていたが、それが何なのかは、わからなかった。




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・ノームの血を受け継ぐ人間は、標準的な人間よりも寿命が長い傾向にあります。

ミチリ村の元になった村ができたのは、現在とりも相当昔の話です。










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田舎少女の私、エクソシストになろうと思います 雪村 降 @yukida

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