第3話

「それも、ムクリさんに聞いたのですが?」

リゼは言い、

「ああ。」

と、扉の横のテーブルに腰掛けながらヘルハウンドは答えます。

「わかりました。わたしの親が死んだ理由が何か聞きたいのでしたよね。神父さん。」

「ヘルハウンドで良い。ミス・アンドラフォーゼ。」

「リゼで良いです。」

「......リゼ。」

「はい?」

「......話を。」

「はい。」

少女は語り始めました。


「実は、そもそも私の親が死んだ理由は、わたしにもよくわからないのです。私が村の外の、町の学校から帰ったら......首を吊っていて。」

「場所は?」

「え?」

「君の両親が首を吊った場所だ。どこだ?」

「何でそんなこと......聞くんです?」

「答えられるか?」

「......はい。あなたが座っているテーブルの、............ちょうど真上、です。たぶん、テーブルを踏み台のようにして使ったのだと思います。」

「2人とも?」

「はい。」

「......ふむ。」

ヘルハウンドはそっとテーブルから離れました。

「ただ、おそらく、これなんじゃないかと思い当たる節は、あります。


私の親友が、ルイナが、自殺したからだと............思います。」


「ふむ......その親友が自殺した理由。それが何なのかわかるか?」

ヘルハウンドは尋ねました。

「わかりません。私にはなにも......ほんとに平和な村なんです。みんな仲も良くて。でも、いきなり親友が死んで、そこから立て続けに......だから、両親が死んだ理由もそれぐらいしか......ルイナだって、自殺する前の日はわたしと一緒に元気に遊んでたのに......」

リゼは泣きそうになりながら答えました。

「......すまない。辛いことを聞いたな。ありがとう。」ヘルハウンドはそういい、ドアから去ろうとしました。それに気がついたリゼは慌てて、

「あ、待ってください。こんな話、聞いてくれたのはあなただけで、みんな、わたしを腫れ物みたいに扱うから。だから、逆にスッキリしたというか、えっと、お礼にお茶ぐらいは飲んでいってください。」

そういって、慌ててリゼはお茶を戸棚から取り出そうとしました。しかし、どこを探しても見つかりませんでした。

「あれ......何処にやったっけ?えっと......」

リゼはさらに慌てて言いました。

するとヘルハウンドは微笑みながら言います。

「よいのだよ。また後日訪ねる。その時にたらふく飲むとしよう。......そうだ。掘り返すようで悪いのだが、親友の、ルイナの死因を聞いていなかったな。うっかりしていたよ。そこが一番重要だ。......苦しいと思うが、答えてくれ。」

リゼはそれを聞き、申し訳なさそうに、答えました。

「はい、ルイナの死因は、


飛び込み自殺です。この村の西側にがあるんです。そこから。靴だけが、崖にあったので、村のみんなが総出で調査したら......」

「死体が、見つかったのだな?」


川の流れで、ルイナの体はかなり遠くまで流されていたらしく、海の近くで見つかりました。岩や川の流れで、ルイナの体は深く傷ついていました。小さな岩がルイナのにくを切り裂いたのでしょう。グチャグチャになった内臓が露出していました。大きな岩が手足の骨や頭蓋を砕いたのでしょう。一緒に笑いながら繋いだ左腕はほぼなく、頭は、右目以外何処がどうなっているのかわからないほどに穴だらけでした。リゼにいつも自慢していた金色の綺麗な髪も、エメラルドブルーの瞳もなくなり、空っぽになったルイナの頭の中には、代わりに生きた魚や死んだ魚がいっぱい詰まっていました。

リゼは、魚が食べられなくなりました。


リゼは、ルイナを見つけたときを思い出して、今朝食べた食事を全て吐き戻してしまいそうになりましたが、何とか我慢しました。


ヘルハウンドは呟きます。

「やはり、。」

これまでに聞いたことのないほど刺々しい声でした。

「え?」

「ありがとう、話してくれて。いちど引き返すが、また日を改めてここへ来る。......お茶、楽しみに待っているからな。ミス・アンドラフォーゼ。」さっきの声は嘘のように、優しい声に戻っていました。

「......リゼでいいです。」

リゼは微笑んで言いました。

「......リゼ。」

ヘルハウンドは恥ずかしがって言いました。

「......はい。」


「また来る。」

「......はい。」



ふと、リゼはヘルハウンドの右腕に包帯が巻かれていることに気がつきました。その包帯は腕の根本までぐるぐると巻かれているようです。

気になって聞こうとしましたが、その時はもう扉は閉まっており、リゼは、ただぼうっと扉を見つめるしかありませんでした。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る