第53話 起きてみて
グンっと船が後方にバックで進む。普通の船では、あり得ないだろう動きに驚きつつ、水晶玉から手を離してダッシュで船の後方に向かう。
船自体の逆走する機能と海流操作を一度に行う事で信じられないスピードを出していた。
流石に突然後方に船が進むと思って無かったのだろうミサイルは前方に落ちて海の中で大爆発する。
コチラの船はその爆発の余波を利用して更に加速、水柱が発生してた場所まで一気に寄せる。
「クッフ船長!ここ!!」
声に反応したクッフ船長が水晶玉に魔力を流し最後の海流操作で海賊船と潜水艦の間の海水を“どかして”くれた。
全貌が明らかになった潜水艦は、前世でよく見た様な形では無かった。平たい楕円形の真ん中に突起物が出ている形状で、潜水艦というより俗に言うUFOの様な見た目だった。更に装甲が木材で出来ているのか、木目が見えており塗装もされてなかった為に違和感がすごい。
『ンサヤイバリ、一旦離れて隠れてて。多分この後の戦闘に今のその体じゃ耐えられない』
『うーん。海は私の領分なんだけれどねぇ。仕方ないんぇ。トヒイ、気張りんしぇ』
実はンサヤイバリは、この船に乗る際に俺の体に合わせて“ぺにゃり”と変形して隠れていたのだが、ぬりぬりと体を伝い足元から外に出て行った。出来るだけ死角を通った事と目の前に“目を離してはいけない物”が存在してる為、気づかれる事は無かった。
脚力強化魔法と靴裏の風の出る魔法陣の力を使い砲弾の様に飛び出す。
同時に後方攻撃用の大砲が撃たれた。攻撃する様に言った訳では無いのだが、連携するかの様に攻撃を加えてくれた。この辺は言わなくても必要な事をやってのける歴戦感がある。
普通なら結界に阻まれるだろう砲弾も結界が中和されて素通りで潜水艦の表面にぶち当たった。
だが砲弾はパキャキンと不思議な音を出して跳ね返されていた。砲弾が当たった時に接触面が妙な光を発していた事から多分、潜水艦の装甲にも結界レベルの防御魔法だか強化魔法が使われているのだろう。
想定内だ。この程度なら俺のショートソードで斬れる。
潜水艦に着地すると同時にショートソードを潜水艦に突き立てる。問題なく突き刺さったショートソードを片手にミサイルの発射台と思われる突起物に向かい駆け出す。
突き立てたショートソードがそのまま装甲を斬り裂きながら突き進んでいたら装甲の一部が迫り上がり、バビッっと音がしたかと思うと“何か”が飛んで来た。
咄嗟に潜水艦の装甲に突き刺してない方のショートソードで飛んできた“何か”に斬りつける。
バンっと何かが弾ける音がした。斬った感覚は老人エルフが使って来た衝撃波魔法に近い感じだった。
無色透明な衝撃波だったが、空間が若干歪んで見えた為、対処ができた。
そのまま装甲を斬り裂きながら突起物に突っ込んで行く。
ボバボバと音を立てて海流操作で無理矢理どかされていた海水が戻り始めた。もう時間は無い。
更に装甲を斬った部分に大砲が撃ち込まれていく。今度は弾かれずにドガンとが爆ぜていく。
バビッ、バビッと音がする。先程と同じ衝撃波が2連続で放たれた。1撃目を切り裂くも2撃目をいなしきれずにまともに食う。
流石に踏ん張りきれずに吹き飛ばされてしまうが、ショートソードを投げて突起物に突き刺した。
同時に抑えにれなくなった海水が一斉に戻り海水に沈む。溺れそうになるもショートソードに魔力を流し回収する事を忘れない。ここでショートソードを落としたら回収は無理だ。なくすわけには行かない。
荒れ狂う海流に体勢を流され維持できない。なすがまま流されそうになったが、命綱を引かれる事で正しく命拾いした。だが海流と無理に引っ張られる命綱によって身体が引きちぎれるのでは無いかと思う程の負荷がかかって肺の空気は全て吐き出され、骨が何本か折れ、筋肉が捩じ切れるのが分かった。
とんでも無い痛みに意識が飛びそうになる。だが、ここで意識を飛ばしたらショートソードを手放してしまう。全力で魔力を全身に回してぐちゃぐちゃになりそうな身体を抑えて耐える。そしてショートソードを握りしめて意識が飛ばない様に踏ん張る。
遠目に変な光を出しながら沈んで行く潜水艦が見えた。
海上まで引っ張り上げられる。血と一緒に海水を吐き出して空気を吸い込む。身体に力が入らず今にもショートソードを落としてしまいそうだ。
一本釣りの様に思いっきり釣り上げられた俺は、ドダンとそのままの勢いで荒くデッキに叩きつけれた。
ボロボロの身体がデッキに叩きつけられた痛みによって改めて意識が飛びそうになる。
「船長!小僧ぉ生きてまさぁ!!」
「おう!さっさと引き上げてやれぇ!!」
「あいあい!!」
船員達が慌ただしく周りを動いているのは分かる。俺の身体の状況を調べてくれてもいるらしい。ウヨジィやンサヤイバリが何をしているのかは分からない。
デッキで寝転がっている状態の俺は立ち上がる事も出来ずにそのままでいる事しか出来なかった。
クッフ船長やウヨジィから色々と声をかけられているのが何となく聞こえてきたが、反応出来るほどの元気は無かった。
取り敢えずデッキに上がった安心感と激流に飲まれた結果の痛みと疲労感によって意識を保つ事が出来なくなり、あっという間に意識を落としてしまった。
そして、普通にベットの上で目を覚ました。どうやらまだ船の上らしく絶妙にゆらゆらと揺れている。
また変な場所に移動してなくて良かった。もはやトラウマになっている「気がついたら別の場所」になってなくて安心した。
「あら、起きたの」
ぼんやり天井を見ていたらノックもなくガチャリと扉が開いてウヨジィが部屋に入って来た。
「おはよう…」
「ふぅ、問題はなさそうね」
「心配かけたか?」
「まったく、普通なら死んでてもおかしくないって船医が言ってたわ」
「まぁ、俺は丈夫だからな」
「丈夫って、アンタね…。まっいいわ」
『なぁ。言っとった通りだったであろぉ』
「そうね」
あれ?目の前にはウヨジィしか“見えない”のに“別の声”も聞こえたような…。
ウヨジィが俺の寝ているベットの隣に簡易的な椅子を持って来て座った。
「アンタほんと何者なの?」
「いや、普通の冒険者の子供だけど」
「普通?寝てるだけで瀕死から復活できる身体とか“こんなの”連れてる奴は普通とは言わないと思うけど?」
『こんなのとは言いようだねぇ』
「あっやっぱりンサヤイバリの声が聞こえる」
「あー、この子?」
ウヨジィの頭の後ろからピョコっとデカいクリオネことンサヤイバリの分体が姿を現した。
『トヒイ、此奴に言ってやってくれんかぇ。私はトヒイの友達なんだってさぁ』
「てか、コレ何なの?モンスターなのよね?『侍従契約』でもしてんの?」
「モンスターはモンスターだな…多分、組み分け的には……」
「喋る?モンスターって事は【魔族】って事だと思うんだけど…。名前も「ンサヤイバリ」なんて伝説の海獣と同じの名乗ってるしさ」
「いや、まぁ。それは間違ってはいないんだけど」
「はぁ、こんな“ちゃち”なモンスターが例え魔族だとしても伝説のンサヤイバリな訳ないでしょ」
「いや、まぁ。信じられんのも分かるんだが、そいつは正真正銘のンサヤイバリで間違いは無いんだよ」
『そうさぁ。私はぁ、ンサヤイバリなのさぁ』
「あっそ」
「てか、2人はいつの間に仲良くなったの?」
「仲がいいって程の関係にまで至ってはいないのだけど」
『トヒイの寝顔を隠れて見守ってたらこの子に見つかってしもうたんよぉ』
「何でか分からないのだけど、この船に乗った辺りからかな?その子の事がわかる様になったのよね」
「へー何でだろう?」
「知らないわよ。分かるもんは分かるんだから…」
『アレだねぇ。多分、私とトヒイは魂が繋がってるからぁねぇ。こん子もトヒイと何だか繋がってるみたいだらさぁ。それが原因だと思うんよぉ』
「そう言うもんなの?」
「知らないわよ」
奴隷の契約によって出来た魔力による繋がりに契約云々関係無く、無造作に繋がってるンサヤイバリとの繋がりに干渉してしまって、俺にだけ分かっていたンサヤイバリの言葉を認知できる様になったのかもしれない。
だか、俺1人でンサヤイバリを隠し切るのは難しいだろうから、ウヨジィも一緒に秘密を共有出来るのはありがたい。
『私は嬉しいんよぉ。トヒイ以外とも話せるんなんてさぁ。今までだってトヒイ以外にまともに会話が出来る相手なんていなかったんだからねぇ』
「そりゃ、良かった。ウヨジィもンサヤイバリと仲良くやって欲しい。後、この状態のンサヤイバリは、この世で1番ひ弱なモンスターだから、他の連中に見つかると簡単に殺されかねない」
「まぁ、そりゃ構わないけど、心配なら檻にでも入れておけばいいんじゃ無いの?」
「いや、ンサヤイバリは
「はぁ、優しい事で」
『檻ってのはアレだろぉ。狭くて自由に動けない場所なんだろぉ。ソレは嫌だわぁ』
ンサヤイバリが、ウヨジィにくっ付いて戯れてる。ウヨジィはソレを引っ剥がしてはポイっと投げ捨てている。
「てか、ンサヤイバリを見つけてよく殺さないでいてくれたな。普通だったら見知らぬモンスターなんかいたら、すぐ殺しちまうもんだろ?」
「ただの野生のモンスターならそうしただろうけど言葉を解する『魔族』なら話は変わってくるし、なんだかこの子を“どうこうしよう”と思えなかったのよね」
「そうなの?」
「そうね。なんでかね」
「ってか、ンサヤイバリって『魔族』なのか?」
「“他人と意思疎通ができうる知力を有したモンスター”を【魔族】とか【悪魔】と呼んでるわね。“ある程度の知力を持つが、意思疎通の出来ないモンスター”を【魔獣】と呼んだりね。因みに海に属してれば海魔、天に属してれば空魔とか区分けされてる」
さすが、良いとこの出のお嬢様だ。俺と違って「学」がある。
ジジイの残してくれていたメモには、魔族云々の記載は無かった。
海に属して海魔は分かるが“天に属する”って何だ?空にも魔洋的な場所でもあるのだろうか?
ここら辺の知識を得る為にも学園都市での学習は必須だと思う。
「ンサヤイバリって魔洋をナワバリにしてたし海魔になるんかな?」
『さぁねぇ。自分じゃぁそんな事ぉ考えた事も無かったからねぇ。住処の上には海魔とか呼ばれる連中はいっぱいおったんけどねぇ』
「魔洋…。魔瘴にやられていた時の記憶は殆ど無いんだけど…嫌な場所だった……だった?」
俺以外の人身売買船に乗っていた連中はモンスターも含め全員が、ンサヤイバリの魔瘴の影響で精神に異常をきたしていた。港街に着いた際に状態異常解除の魔法なり医療なりを受けて元通りにはなった様だが魔瘴に侵されていた時の記憶を辿れる者はいなかったそうだ。
故にウヨジィ達は船の外で起こっていた“大怪獣決戦・地球最後の日”を見ていない。
思えば「覗き見屋」に記憶を見られた際にそこら辺の記憶を覗かれなかったのは何故だろう?運が良かっただけなのか?俺の犯罪検証の為だけに覗いたのは分かるが、船員が全員「魔瘴」に侵されてる船にただ1人無事だった事実は、怪し過ぎて確認対象になるのが普通だと思うのだが。
「ま、どうでも良いわね。アンタが起きた事、船長達に伝えてくるわ」
「ほい。よろしく」
ウヨジィが付いて行こうとしたンサヤイバリをあしらいつつ部屋から出ていった。
取り残されたンサヤイバリは、ふよふよと空中を彷徨っていたが、自力では外に出れないと分かったらガッカリした素ぶりを見せて、こちらに近づいてきた。
『この船って乗り物はさぁ、小さいからさぁ。あん子と一緒におらんと他の連中にバレちゃいそうなんよねぇ』
「どっかで上手くやって、ンサヤイバリを表に出せる様にしないとな。この先も隠れ続けるってのは無理があり過ぎる」
『そうだねぇ。それは良いねぇ。もっともっと沢山、沢山いろいろ知りたいんよねぇ』
「ま、どうすんのか全然分からんが…次に冒険者ギルドに行ったら聞いてみるか?」
コンコンと扉がノックされた。
「ん?どうぞ」
ガチャりと扉が開くと厳つい顔のクッフ船長が入ってきた。
「お嬢ちゃんの言ってた通り。何の問題もなさそうで良かったよ」
「まぁ、この程度なら良くある事なんで」
クッフ船長がさっきまでウヨジィが座っていた椅子に腰をかけた。
「落ち着いてんなぁお前。歳の割にだいぶ波瀾万丈な生き方してきたみてーだな」
「それは。まぁ、確かに…紆余曲折あったなぁ」
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