第54話 道すがら
この世界に生まれて12年ぐらい。前世の記憶を覚醒させてから7年ぐらいだろうか?
村人に迫害されながらの命懸けの門番家業からの災害級モンスターの襲来。
両親と死に別れてからの魔王軍四天王に拉致、監禁からの人体改造と人体実験の日々。
勇者登場と虫人間と殺し合いを経て“何か”に巻き込まれた。
気づけば魔境と呼ばれる樹海でモンスターに喰われてて、超が数十個付きそうな過酷な環境で、ほぼほぼ死にながら人体改造で手に入れた再生力任せで生き抜いてやっとこ魔境から脱出した先は獣人の国。
言葉も表情も全く分からない中でどうにか認められて獣人に仲間入り積荷を王都に運んでエルフのテロリストと殺し合って。
今度はいきなり空の上。そして見渡す限りの大海原、落下死からギリギリ生き延びたのは良いが何もない海の上で1人きりのサバイバル。変な光の柱を目指して進んだ先で偶然見つけた船に攻撃されるも無理矢理乗り込む、その船は人攫いの違法船で海魔と間違われた俺は捕まって牢にぶち込まれる。そこでウヨジィに出会った。
ウヨジィと協力して牢から抜け出そうとしたら魔洋海域に入り込んでしまった船が魔瘴に捕らわれて船員全員がラリった様な状態になり、同時に海魔と呼ばれる化物現れ戦闘。船に乗り込んで来た2体を倒すも海中にいた大量の海魔によって船は魔洋の中心の大穴に落とされる。
そこには島の様にデカい怪物。ンサヤイバリが住んでおり、退屈していたンサヤイバリに拉致られそうになるも、突如襲来してきた巨大なドラゴンのトームハバが攻撃を開始。天地をひっくり返した様な超絶バトルを展開。ンサヤイバリの結界内にいたおかげで無事だったが、それが無かったら一瞬で蒸発してただろう。
外に出たいンサヤイバリとソレを阻止したいドラゴンと話をつけて、無力化したンサヤイバリの分体だけを外に出す事で同意。ついでに近くの人の住むところまで連れて行ってもらうも、いつの間にか賞金をかけられていた事もあり今度はギルドに捕まる事になる。
そこで俺のせいで獣人の英雄が死んだ事を知る。そして初めての『友達』が俺の命を狙って追って来ている事も知った。
人攫いの違法船の中でウヨジィと約束した奴隷解放と新たに約束した復讐の手伝いの為に怪しい連中とウソンセから脱出。
まさかの潜水艦との戦闘を切り抜け今に至る。
ンサヤイバリやトームハバの件や細かい部分は、すっ飛ばして伝えてはいるが、それでも、ここ数年でどんだけ波瀾万丈なんだって話。
「良くここまで生き抜いて来たもんだな…」
「綱渡りの連続でしたわ」
「俺も中々な人生送ってるとは思ってたんだかよ。お前の濃厚さに比べたら、俺なんてまだまだだな」
「いや、大海賊だった人にそんな事を言われるとは思わなかですよ」
「んで、怪我はどうなんだ?その強化細胞?てやつか…んで治ってんだよな?」
「ん…?あーもー全快ですよ。この程度なら無意識でも勝手に治るから」
クッフ船長の表情が一瞬、怪訝な何かを見るかの様に歪んだ。目の前の子供がモンスターの様にでも思えたんだろう。
「そう言えば、後どれくらいでルバンガイセクイに着くんですかね」
「残念ながら、まだまだ着かんよ。この船で止まらずに進んだとしても流石に後10日はかからぁ」
「そっかぁ…結構、掛かるんだなぁ」
「それでも、そんぞそこらの船なんかよりだいぶ速えーんだぜ」
他の船に乗った事はないのだが、普通の船より速いって言うのは、多分、本当だと思う。
この世界での船の動力の主流が何なのかは分からないが、「海流操作」を併用した“この船”がきっと他より速いのは想像に難くはない。
「ちなみに物資補給諸々で2回は途中の港に停泊すっし、ルバンガイセクイについてからも“りくぱ”に1番近い港町までの移動も含めて、実際はもうちょいかかる」
「更にその後は、陸路で“りくぱ”まで行く訳だ。どれくらいかかるのかな…」
「そこらへんは、オレらにもよく分かってねーところなんだわ。初めての土地な上に陸は専門外だしな」
「海賊は海が主戦場ですもんね」
「ま、そう言うこった。だが、受けた依頼は確実にこなす。そこら辺は、任せておけい」
「ああ、頼んます」
クッフ船長は聞きたい事が聞けたのか「じゃあな」と言って部屋を出て行った。
「さてと、ゆったり船旅を楽しみますかね」
『私も楽しみたいんだけどねぇ』
「今は、俺の体にでも纏わりついてこっそり楽しむだけにしといてくれな」
『むーつまらんのぉ。どうにかならんかのぉ』
「近いうちになんとかするよ」
『ほんに、頼んだぇ』
ウヨジィがさっき言っていた『侍従契約』を行えば堂々とモンスターを連れて回る事が出来るのだろうか?
そこら辺の情報が無さすぎる。次の補給他だが停泊地に着いたらギルドに行って確認してみるのも有りだろう。
傷は全快しているようだが、まだ気怠さ無くなっておらずベットから抜け出す事が出来なかった。
特にやれる事も無いので、寝っ転がりながら天井を見ていた。
実家で門番の真似事をしていた頃にも寝る前に小汚い天井を見上げては転生した事を悲観してたが、最近はそんな事は無くなっていた。
クッフにも話した様に波瀾万丈な人生を送ってきたからだろうか?
まぁ、人体実験をされてたら時や魔境サバイバルをしてた時はそもそも悲観云々をしてる余裕すら無かったとも思えるが。
そんな事を考えているうちに自分でも気付かぬうちに寝てしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「船長ぉ!」
「あん?どうした」
「次の停留地は、「ゾーシヤア」の「コッジハ」で良いんスよね?」
「あぁ、そこで大丈夫だ。アソコなら俺らでも問題なく補給出来るからな」
それにアソコからなら『親方』に小僧共の件を報告できるしな。
「しっかし、オレらまたお尋ね者になっちまいましたねぇ」
下っ端ぽい男が笑いながらそう言ってきた。
「そうだな。まぁ、別に構わんさ。そもそもウソンセで冒険者なんぞやってたんは【ルアイパッイ】からの目眩しでしか無いからな」
「『五代国家』の内の2カ国で“指名手配”っすかー!ヤベーんじゃねーですか?」
「ヤベーだろうな。しかも今回の「依頼主」兼「荷物」の子供はヨダモノケで指名手配と来たもんだ」
「それ、マジっすか!!あの姉さんがオレらに依頼する訳だ」
ナン=オレクラアから依頼がきっかけではあるが、トヒイ=ナエサの事自体は、以前から知っていた。
親方の同僚と会った時に聞いてもいないのにペラペラ話しかけられて、聞いてもいないのに勝手に面白いヤツを見つけたと聞かされた。その時に見させられた姿絵には人族の子供が描かれており、その子供の名前がトヒイ=ナエサだったと思う。
その後、親方の同僚が勇者と一悶着起こして『大地に大穴を開ける事件』が起きた際に死んでしまったと嘆いていたと聞いていたのだが、ソレがまさか、獣の国から魔洋を経由して俺らの前に現れるとは思わなかった。
しかもその子供から真っ当とは言えない護衛依頼を受ける事になるなんてな。巡り合わせとは不思議もんだ。
「船長、そろそろ舵切りをお願いしますわ」
「おう、任せとけ」
船に備え付けられた海流操作補助の水晶玉型の魔具が迫り上がってくる。
魔具を起動させる詠唱と共に海流操作の念を込めた魔力が流れ出し魔具を通して船の周りの海流を動かしていく。
元々この船は真っ直ぐに進むだけなら海流操作などは必要無い。貯蔵された魔力を動力源にした吸排水装置によって取り込んだ海水を排出してその反動で前に進む。
排水口は前後左右に付いているので排水方向を変える事で普通の船ではあり得ない挙動をする事も出来る。
方向転換も海水の排出方向や舵きりでどうにかする仕様だが、細かい方向転換等は海流操作を利用して向きを変える方が手っ取り早い。
帆船の様に帆を携えてはいるが、基本的には船の動力魔具の故障等の緊急事態でもない限りは使用しない。勿論、方向転換などにも使用しない。
「船長ぉ!約200ルイマ先にゾーシヤアのコッジハ村周辺でさぁ!敵影諸々も無さそおッスわ」
「わぁったぁ!そのまま見張っとけぇ」
「あいあい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まさか、2度目の国外進出がこんな形になるなんてね…」
船の甲板の上から海を眺める。脱出してきた祖国の方を向いてみるも最早、陸地などは見えない。
トヒイ=ナエサの無茶苦茶な提案に乗って国外に出てしまったけれど、この先の見通しが全く出来てない。
トヒイはルバンガイセクイの学園都市で勉学に励みたいらしいけれど、私にそんなつもりは無い。
私の目的は、私を排斥した連中への復讐。
国外に出るのは一先ずの緊急避難に過ぎない。ウソンセや「ヤクア家」と敵対するならば、現状では戦力が足らない。私個人は勿論の事、トヒイや“謎の虫”を戦力と考えたとしても足らない。圧倒的に足りない。
勉学なんぞ興味は無い。必要最低限の教養は既に叩き込まれている。
だが、「ルバンガイセクイ」に行く事自体は悪く無い。大賢者が造った世界5大国の1つ。世界で1番進んだ国と言われている。あの国で何かを得られるなら、なら世界で1番軍事水準の高いと言われている「ウソンセ」とも渡り合えるかも知れない。
このまま行けば、トヒイと共にルバンガイセクイで【国民権】を得る形になる。そうなると“亡命”するのとは少し違う形になる。
他国での利を考えるなら亡命の方が良いかも知れないが、目的を考えるならトヒイと共に学園都市に潜伏する方が良いかも知れない。
だけど、このままトヒイと共に行動する事になるんだから、今後の復讐計画は練り直し。祖国の暗部に根差して足元を掬う作戦は無意味に終わった。だからこそ次をどうするか。
大賢者が建国した世界の最先端を突き進んで来た国。今は停滞していると言われているとはいえ、その技術は今だ最先端なのは確か。
ならば、ウソンセの暗部や上層部を出し抜く『何か』を手に入れてやるしかない。
先ずは奴隷状態を何とかして……
「おう、嬢ちゃん。そんな怖ぇー顔で海を睨んでも腹は膨れねーぜ。ホラ、乾燥肉」
「は?いや、別にお腹が空いて不機嫌になってる訳じゃないのだけど」
「おっ?そーなんか?嬢ちゃん、育ち盛りだろ?腹減らしてるんだと思ったわ」
「そりゃ育ち盛りの13歳だけど、空腹だけで海と睨めっこする訳ないでしょ」
「んじゃ。何で海なんて睨んでたんだい」
「そうね。『覚悟』してたから。かしら」
「ほー?へ?」
「分からないなら。それでいいわ」
こんな海賊崩れ供になんて私の『覚悟』が『決意』がわかる訳ない。
コレは私だけが分かれば良い。トヒイも他の有象無象だって関係ない。
全てを利用してでも必ず…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暗い部屋に男が2人机を挟んで佇んでいた。
「“アレ”は無事に逃げおおせたか…」
「はい。まさか我が国の最新兵器『イテイスンセ』が落とされる事になるとは思いもしませんでした」
「ふふ、さすが「予言」された“忌み子”。素直に死んではくれぬか」
「笑い事ではありません。成人前で国家の機密・秘匿事項に触れる前だとはいえ、我が【ヤクア家】の者が野に放たれてしまったのです」
「そうだな。護衛に北帝海賊団が着くのまでは想定の範囲内だったのだかな。あのもう1人の子供の詳細は?」
「詳細は未だ。現状、分かっている事は人族で有り、名を“トヒイ=ナエサ”という事、獣人供の英雄を殺したらしく懸賞金がかけられているという事ぐらいです」
「英雄?我々が介入した。あの戦争で祭り上げられた獣人の戦士の事か?」
「はい、獣人イヨツ。確かに数日前に死亡を確認してます」
「死因は?」
「密偵が直に見たわけではないのですが、何らかの呪術発動によって首が飛んだそうで、即死であったと」
「確かに『数日前』の事なのか?」
「はい、エルフによる王都襲撃時には、英雄の存在が確認されてます」
「成る程、境界戦妖だったか…。あのエルフの賞金首に殺された訳ではないと」
「はい、更には境界戦妖討伐に人族の子供が関わっており、風貌を聞く限りトヒイ=ナエサ本人であるかと」
「ほう…」
報告を受けている側の男が目の前に手をかざすと机の上に『世界地図』が浮かび上がる。
「つまり、トヒイと言う子供は、ヨダノモケからこの距離を数日で移動してきたと」
地図の中央にウソンセの存在する【マーロイダコ大陸】があり右端にヨダノモケが存在する【ノモケバ大陸】がある。
「一般的な移動手段ならば、60日以上はかかるだろうな」
「はい、何らかの魔法・魔具の類を使ったものかと」
「だろうな。しかし、何の為にアレと行動を共にする?ギルドの連中も何故、アレに加担する?アレとトヒイ、ギルドに何らかの縁があったと思えん」
「はい、そこら辺の詳細も現在調査中です」
「そうか、それでアレらの向かう先は?」
質問された男は地図に何点か印を付けていく。
「向かった方向から「ゾーシヤア」か「ルバンガイセクイ」のどちらかに亡命するものかと」
「『宗教連邦』か『魔導国』か」
「個人的には追放原因となった「世界教」が統治するゾーシヤアよりルバンガイセクイに下る可能性が高いかと」
「そうだな。ルバンガイセクイならば、今は“世界教の【聖女派】”が出張っていたな」
「はい、「見聞を広げる」を題目としルバンガイセクイで布教活動をしているとの報告はありましたが」
「ならば【覇王派】に渡りを付けよう。何か役立つかもしれん」
「分かりました。その様に手配を」
そう答えた男がスッと消えていく
「アレがこの国にどれだけの「厄災」を起こすのか…『予言』が【世界意識(ヤシカー)】に刻まれし『真実』だと言うのなら、我々の行動にどれだけの意味があるのか…」
それだけ言うともう1人の男もスッと消えていった。
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