第47話 一言お声がけ

 何て言った!勇者、勇者だと??勇者って言ったら、あのマッドサイエンティストの研究所で出会った奴か?


「何で『勇者』が?」

「ん?そりゃ、この国の“正義執行人”たる勇者様なら、この手の案件に出張って来る可能性は充分だろ?」

「正義執行人?」

 

 そりゃ、勇者なんだから【正義の味方】何だろうけど。正義執行人という名称からは良い感じを得られない。


「トヒイ=ナエサ。君はこの国や勇者についてどの程度、知っている?」


 ジジイのメモ帳にも「世界五大国」として少し記載があったが、“まとも”な情報は無かったと思う。


「いや…。正直、全然知らない。」

「そうか、ま、今後も冒険者としてやっていくなら、知っておくべきか。おい!コイツを取り敢えず留置所に連れて行け、国の出方を見る。あと暇つぶし用に冒険者講習の資料を渡しておけ。ソレでこの国の在り方が分かる」

「あ、ああ」

「それと一応、背中に隠してるつもりの剣とその他装備・道具類は一度、回収させてもらう。盗んだり売り飛ばしたりはしないから安心しろ」


 どうやら背中で武器を隠し持っていた事はバレていた様だ。

 足元の魔法陣が消え半球状の結界が解除されると先程、俺を運んだ大柄の冒険者らしき男に再び首根っこ掴まれて持ち運ばれる。

 ギルドの留置所に連れて行かれ装備を没収、シマシマの囚人服を着させられ鉄格子の部屋にぶち込まれた。

 この段階で拘束魔法は解除されたが、再度拘束具が取り付けられる様な事は無かった。


「どこでも牢屋ってのは“こんなもん”なんだな」


 特にやる事も無いのでぼーとしていたら、看守らしき男から色々と書かれた簡易的な巻物を渡された。


「ギルド長からの差し入れ?だ」


 暇を持て余していたところにギルド長の言っていた暇つぶしの資料が届けられた。

 開いて読んでみれば、ここのギルドで冒険者になった時の最初に行われる講習で使われる資料らしく、獣人の国で受けた説明とほぼ同じ内容の必要最低限の注意事項が書かれていた。

 違うのはそれらの説明の後に【選光統轄皇国ウソンセ】の現状とそれに関わる冒険者の在り方も書かれていた事だ。

 その文章によれば、この国は【世界の調停者】を謳って世界中に軍事介入しており、ソレの尖兵役が『勇者』だという事。

 「皇帝」や上役の貴族に召喚された勇者は【世界平和】を説かれて“この世界 イカセイルアクヨ”から『争い事』を無くす為に奮闘してるらしい。

 現状、ウソンセお抱えの勇者は5人いるらしく各自が自身の“正義感”に基づいて『ウソンセ国の権限』で行動している。

 更に勇者の介入の「手助け」や、その後の「事後処理」に『冒険者が駆り出される事』が多数あるとの事。

 ここで一つ疑問が浮かんだ。

 この世界の【冒険者ギルド】は各国に拠点はあるが、基本的に『国から独立した機関』であり、国の政治や戦争には加担しないと獣人の国のライセンス説明書に書かれていた。

 ギルドの規約として冒険者は基本的に「ギルドの依頼」以外の依頼を受ける事は許されてない。

 そして政治や戦争に関わる「依頼」は世界意識だか真理だかの“判断”によって弾かれる。 

 だが、国お抱えの勇者は多分、紛争・戦争に介入している。調停者を謳う国の庇護の下に政治介入も行なってるっぽい。

 何だか、実に『胡散臭い』と思う。

 そんな事や早くも外の世界に来て、放置されてしまっているンサヤイバリがどうなっているのか。俺を追っているのだろうシンセがどうしてるのか、等々考えている内に眠ってしまった。

 ガチャガチャとうるさい音で目覚めると正面の牢屋に新たな収容者が入れられていた。


「ふぁぁぁって、あれ?ウヨジィさんじゃ無いですか?どうしてこの様な場所に?」

「ふん。実に白々しい物言いだな。貴様には関係無い」

「はは、そうっすね」


 今が何時頃なのか分からないが小さな窓から鉄格子越しに見える太陽の位置的に多分昼前だろうか。とは言え随分よく寝たものだと思う。

 人攫いの連中が御用になって解放されるだろうウヨジィが冒険者ギルドの留置所に収監されたのは何故だろう?

 考えられる事は2つ。解放された後に捕まる様な何かをしでかしたか、元々捕まる様な何かをしていたか、のどちらかだろう。

 でもって俺の予想は“元々捕まる様な何かをしている”だ。何故なら微かとは言えウヨジィからも『クズの匂い』がしていたからだ。


「そう言えば、奴隷契約の解除は出来たのか?」

「うるさい。黙れ」


 どうやら解除は出来てないらしい。


「あれ?奴隷契約が解除出来てないなら留置所の牢屋でも入ったら、下手したらまた出れなくなるんじゃ?」

「え⁉︎あ…」


 さて、ウヨジィとの約束は『無事に国まで送り届ける事』だった訳だが、果たして現状は約束が果たされた事になるのだろうか?

 戻りたかった国には戻れているが、別に戻って来るのに俺が直接何かをした感じが殆ど無い。目的地をこの国に設定したのは俺な訳なのだが、連れて来たのはトームハバだ。

 

「なぁ。コレからどうするんだ?」

「は?アンタに関係あんの?」

「いや、まぁ。関係は無いんだけどさ。ちょいと気になってね」

「ふん」

「俺はさ。問題なければもう直ぐ出れるらしい」

「あっそ……って、はぁ?出る?賞金首のアンタがギルドに捉えられたのに?」


 興味無さげに仏頂面で聞き流していたウヨジィが素っ頓狂な声を出して驚き聞き返して来た。

 どうやら興味は持ってもらえたらしい。


「無罪放免って事で釈放だそうだ」

「無罪放免だと?罪が無くなったの?」

「いや、別に『罪』が無くなった訳じゃ無いが、ギルド的には無罪になった」

「ギルド的に無罪ですって…どう言う事?」


 俺は簡単に捕まった理由、無罪になった経緯、そして勇者が現れる可能性を説明した。


「ふーん。アンタが何者なのかはよく分かんないけど、ギルドは世界意識の判断で行動している訳ね。それでアンタが自由になれるなら私も…」

「んで、ウヨジィはなんで捕まってんの?」

「ウヨジィって馴れ馴れしいわね。ま、良いわ。私は罪なんて犯してない!」

「でも賞金かけられるなり、何らかの罪を犯さない限り“こんな所”に来ないだろ?」

「厳密には“まだ何も出来てない”」

「ん?どゆこと?」

「私の目的であるは『復讐』。訳のわからない理由で私を『追放処分』にした実家の連中をこの手で縊り殺してやる事よ」


 おっと、きな臭いワードがモリモリ出て来たな。


「復讐ねぇ…」

「ええ、その為には実家に対抗し得るだけの“力”が必要かだった。だから対抗勢力として幾つか目星を付けていた中から最終的にアイツらを直接縊り殺すのに1番適した勢力として、この国の裏社会でのさばってる犯罪組織に目を付けたって訳」

「ほうほう。だが、そんな簡単に裏社会の組織なんぞ接触出来んだろ?それが出来るならそいつらなんて、のさばらずに潰されてる筈だろ?」

「それは、うちの家系が元々この国の暗部に深く関わる家柄だから。表には出ない情報ってヤツをそれなりに取り揃えていたのよね」

「なるほ…ど…」

「その情報を元に犯罪組織に接触を試みたのだけど…」


 ウヨジィの顔が苦虫を噛み潰したような表情になる。


「組織に入り込んだまでは良かったのだけれども、何かを成す前に私の素性を知った犯罪組織が私を捉え、奴隷落ちにして売り飛ばす為に密入船に乗せられたって訳」

「それで、あの船に…。だが聞いた限りでは、ギルドに捉えられる様な事はしてないように思うが?」

「それよ。私はギルドに捕まる様な『罪』をまだ犯してはいない。だけど一時とは言え“犯罪組織に籍を置いた事実”だけはある。だからギルドは私を直接、国の監獄に送らずにギルドの留置所に収容させたみたい」

「国としは、“何もしてない”ウヨジィを監獄に連れて行く事は出来なかったが、犯罪組織に所属していたから、素直に無罪放免という訳にも行かなかったと」

「違う…。憲兵は私を監獄に連れて行くつもりだった。それをギルドの職員が無理矢理引き取って収監した様に思える」

「ギルドが割って入ってウヨジィを助けた?でも何で“この国”の兵は、ウヨジィを『ムショ』にぶち込もうとしたんだ?」

「そうね。私が追放されたとは言え元【煌爵こうしゃく家】の出と言うのも関わってそう」

「そうか、元コウシャク…ケ……って!えったしか煌爵こうしゃく家って、かなりお偉い家柄だった…よな!」

「まぁね。この国の暗部に根を深く下ろしてる家系だからね。位としては最高位ではあるわね」

「マジかぁ。お嬢様やったのね…」


 いい所の出なのだろうとは思っていたが、まさかの「煌爵こうしゃく」とはジジイのメモにはかなり高位の貴族だと書いてあったのを思い出す。


「はっ、くだらない。その家を追放されて私は、家名は捨てたの!捨て去れられたの!!だから私はウヨジィ。ただのウヨジィ!苗字も間名も無い。お嬢様なんて言われる存在では無いのよ!」


 ウヨジィの声からは溢れんばかりの怒りが乗っていた。表情はまるで鬼の様に歪んで年相応以上に妖艶で可愛く見えていた顔が見る影も無い。

 そんなウヨジィは果たしてどんな理由で“煌爵こうしゃく家”を追放されたのだろうか?

 聞いてみたいが、聞いても良いものなのだろうか?


「つまり、なんだ。もしかしたら、お前を追い出した煌爵家の連中が手を回してお前を監獄送りにしようとしたかもって事か…」

「ええ、可能性は充分に有ると思う。私を追い出した理由もそうだし、実際に復讐する為に動いてた訳だしね。邪魔者をどうにかする為に動いてたんでしょうよ」

「成る程ねぇ…ってか、裏社会に精通してる存在を野放しに何て普通は出来ないよなぁ。なら追放なんてしないで、口封じで殺しちまう方が楽だと思うんだが…」

「それは私がこの国の【徨子おおじ】の許嫁だったから…」

「は?」

「な、なによ!」


 徨子おおじの許嫁か、また凄い情報が出てきたな。


「マジかよ。んで若くして許嫁になった良いとろの出のお嬢様が何で追放処分になったんだ?お前なにやらかしたの?」

「私は何もしちゃいないわよ!少なくとも今は…」

「「今は」」

「そうよ!まだ何もしていない!してないのに!あのクソ野郎が『私のせいで徨子に不幸が訪れいずれ国を貶める事になる』とか抜かしやがって」

「は?え?え?どゆこと??」

「『ゾーシヤア』から来た【世界教】の高僧が占いの才能タレントによる「未来予知」でね、そう言ったのよ」

「は?占いの結果だけで追放されたの?マジで??」

「マジもマジ。大マジよ!世界教の高僧だからね。天恵ギフトの占いによる「未来観測」程では無いにしろ、才能タレントよる占いの的中率はかなり高い。故に“何か”をしでかす前に処理したかったんでしょうね」

「なら、徨子との婚約を解消するだけで良いんじゃねーの?何で追放処分なんて回りくどい事してんだ?」

「そりゃ、許嫁になる様に言ってきたのは徨子の方からだったからね」

「ほうほう」

「的中率がかなり高いとは言え、確定事項では無い未来予知の程度では、徨子おおじは婚約解消を了承しなかった。だけど国としても煌爵こうしゃく家としても“何か”が起こる可能性は排除しときたかった。だが私を亡き者にして強制的に婚約破棄を行おうにも、徨子が真相を知れば良くない禍根が残りかねない。だから私を犯罪者に仕立て上げて無理矢理に婚約破棄を行うしか無くなった」

「犯罪者と婚約を続けさせる訳には行かないって言う理屈は分かるが、それなら追放処分じゃなくて直接ムショ送りでこと足りないか?」

「未来予知はあくまで予知だから起きてない事柄を罪には問えない。だが架空の罪を作り投獄なり死刑にしたとしても同じ。徨子が真相を知れば禍根が出来る」

「「徨子が真相を知れば」ってそんなの情報統制でどうにでもなんじゃねーの?」

「はぁ、アンタ。ギルドで取り調べ受けたんじゃ無いの?バカなの?どんなに示し合わせたってギルドの覗き見屋を使えば真相に辿り着ける。ギルドは世界意識を基準に忖度なしで動くから、国の思惑なんて考慮しない。依頼として真相究明を依頼されれば応えるだけ、そうなると厄介だからこそ、追放処分で放り出すしか無かったって訳」

「だが、追放処分にしたって、徨子おおじが真相を知れば禍根が残りかねないだろ?意味なく無いか?」

「そう、だからこそ「本当の罪」を犯させる為に追放したのよ。私が犯罪組織に関わった事実は徨子との婚約解消を行わせるには充分な理由になる。後は可能性を少しでも潰す為に犯罪組織にまで手を回して私を屠りたかったんでしょうけど」

「それで殺すぐらいなら別口で金に変えちまおうと犯罪組織が勝手に動いて、奴隷堕ちにして売り飛ばしちまえと考えたって事か」

「でも思惑と違って死なずに戻って来てしまった私は、邪魔でしか無い故に投獄して封じ込めてしまおうと考えたって事ね…」


 自分で説明しながら考えが纏まっていったようで、ウヨジィは「なるほど、なるほど」と勝手に納得していた。


「ってか、お前が犯罪組織に関わるかどうか何て普通、分からなくないか?それこそ、予知なり観測なり出来てなきゃさ」

「予知や観測なんてしなくたって「予測」する事は出来たんでしょうね。もしくはそうなる様に誘導されていたか…」

「予測に誘導ねぇ」

「腐っても12年間一緒にいた家族、私がどの様に動くかなんて簡単に予測できる様な連中よ。そんなでもなきゃ「国の暗部」に何かなれない」

「なぁ、ウヨジィ。お前の目的がいまだ復讐だとして、現状、この国でどうする事も出来ない状態な訳だが、どうする。このまま1人で頑張るか俺と一緒に来るか」

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