第48話 どうする
ウヨジィは、この国の“
復讐するにしろ何にしろ。このままでは、ウヨジィは何もできない。
行動を起こすなら『国外』に出るしか無い。だが国に目を付けられてる状態では普通に国外に出る事すら出来ないだろう。
ならどうすれば良いか?どうすればウヨジィの“願い”を後押し出来るのか。
「どうする。1人で頑張るか?一緒に来るか?」
「は?一緒にって何で?」
「だってお前、このままじゃ何も出来ずに終わるぞ。それでいいのか?」
「それは良く無いわよ。でもアンタが私の復讐に加担する理由が分かんないの。訳わかんない」
「理由ねぇ」
ウヨジィに肩入れする理由は何だろう?それが、自分でも『よく分からない』しいて言うなら、この国に戻すと言う約束が“納得のいく形”で果たされなかった事と、この国のあり様が“いけすかない”と思った事だろう。
「まぁ。“スジを通したい”って所かな」
「はぁ?スジ?何それ」
「何って言われると困るが…なんて言うかな。道理って言うか。まぁ、俺の勝手な理屈だからウヨジィは気にしなくていい」
「気にするなって意味不明だから聞いてんだけど」
「ま、ともかくだ。このまま半端にこの国で蠢くか、俺と共に国外に出て再起を図るか、どっちが良い。選べ、ウヨジィ」
提案を聞いたウヨジィはギョッとした後に俯いて表情が見えなくなってしまった。何かボソボソ言っているが小声すぎて聞こえない。
提案に乗るにしろ乗らないにしろ、この判断はウヨジィの今後の人生に大きく関わると思う。簡単に決断出来ないだろう。
だが、このままでは八方塞がりなのは確実。
この国の上層部を“敵”として相手取るのなら1人で対応する事など「不可能」と判断してたからこそ、国内の裏組織を利用しようとした筈だ。しかしその方向性が潰されている上で奴隷としての枷まである現状、ウヨジィには選択肢なんて無いに等しい。
「私とアンタで国外に出るとして、先ずはどうやって牢屋からでるつもり?私は奴隷の楔のせいで自分から外には出れない。私を牢屋から出せるのは、あの人攫いのクズ野郎の命令が必要なのだけど」
「そこは当初の予定通りに俺がウヨジィのご主人様になれば問題無い」
「はぁ?」
「物は牢屋に入れられる前に他の持ち物と一緒に取り上げられたけれど、俺が出る時には武器とかと一緒に返却してもらえる筈、そうしたら奴隷契約の更新を行って、ウヨジィの主人を俺に変更する。ウヨジィは名義上、俺の所有物となる訳だから問題なく外に持ち出せる、出ていけるって訳だ」
「そう言えばそんな事も言ってたっけ…」
「それでも、その後にすんなりと御上や勇者が逃がしてくれるかは、分からねーがな」
ウヨジィとの奴隷契約更新でギルドの留置所から出る事は可能だと思うが、わざわざ裏組織にまで根回ししたり、兵士を利用してウヨジィを捉えようとした連中がこのまま黙っているとも考え辛い。
下手をすれば勇者を言いくるめて、ウヨジィ討伐なんて事もありそうだ。
「勇者ね。確かにあんなのが出てきたらどうしようも無いわね。戦闘力じゃ勝ち目なんて無い。敵対したら確実に負けるでしょうね」
「なぁ。この国の勇者ってどんな連中なんだ?5人いるらしいけど、みんな化け物みたいに強いのか?」
俺が見たことある勇者は1人、今の俺が研究所にいた時より強くなっている。とは言え勝てる算段が全く浮かばない様な強さだった。
同様の力を持つ者が後4人もいるのなら、やり方を考えなくてはならない。今後の事も考えて情報は多い方が良い。
「5人の勇者については私も多くは知らない。勇者として召喚された異邦人って事ぐらいで、各個人がどんな性格、個性、能力を持っているのかまでは聞き及んでないの」
「へー。ウヨジィの家って国の暗部に根付いていたんなら、情報は命だろ?いつ寝首をかかれるかわかんねー“強力な力を持った異邦人”なんて監視対象だろうし、何が起きても対処できる様に調べ上げてんじゃねーの?」
「まぁね。少なくとも元実家は、勇者の側に3人程、息のかかった奴を仕込んでる筈だけど、本格的に“仕事”に携わる成人前の私には、機密情報にあたる情報は、情報統制されてたから…」
「成る程ね。一応、知ってるだけでも教えといて貰えるか?」
「そうね…。5人の内の4人は各自パーティーを組んでバラバラに行動してる。私が知る限り今は全員国外に出向いてる筈。この4人は名前やパーティー名、した事やしでかした事ぐらいは、知れ渡ってる程度は知ってる。最後の1人は一切なんの情報も無い。私の元実家ですら何も掴めてなかった筈」
勇者に俺らの情報が流れたとは言え現状、国外にいる連中が戻って来るにはそれなりに時間がかかるだろう。
なら勇者が出張って来る事は、ほぼほぼ無いと考えても良さそうだ。だが、ウヨジィの実家の連中は確実に何らかの行動を起こして来るだろう。
「ここから国外に無事に出る方法から考えないとな」
「そうね…」
「あのさ、そう言う物騒な話は監視がいない所でやってくれないかなぁ?」
留置所の奥にいたギルドの職員らしき男から声がかけられた。
「しっかし君ら本当に子供か?自分がお前らぐらいの時は、もっと馬鹿だったんだけどなぁ」
「おっさん。ここは聞かなかった事にしといて」
「はぁ…。ま、別に元からそのつもりだよ。上からもそう指示されてるしね」
「なら、さっさとアッチに戻って貰える。煩わしい」
「口悪いなぁ」
ギルドの男はおずおずと奥に戻ろうとするが
「戻る前にちょっと良いですか」
「ん?何だ」
「ここから出たら国外までの防衛をギルドに依頼する事って出来ますかね?」
「あ?あー。出来るんじゃねーかな?ギルド的には断る理由は無さそうだしな。それにお前らこの国と事構えるつもりなんだろ?ならギルド長的には折り合いが悪いこの国の反応を見てる状態だしな」
「よし。なら依頼する方向でお願いしたい」
「ちょっと!何を勝手に話進めてんのよ。私はアンタと一緒に行くなんて言ってないんだけど」
「あー、面倒くせーなぁ。もう、そう言うのいいよ。お前に他の選択肢なんてねーだろ?消去法でも妥協案でも良いけど。諦めて一緒に来いって」
「ゔぅ…」
ウヨジィは非常に悔しそうに顔を歪めている。
こちらの自己満足の一環とは言え、ウヨジィに無理強いしてるのは悪いとも思うが、ウヨジィがここに止まったところで良い事なんて何も無い。
ウヨジィにはさっさと気持ちを切り替えて欲しいと思う。
それはそうと、ンサヤイバリは無事なのだろうか?脆弱なクリオネモンスター分体の安否が気にかかる。普通の人族の子供にすら勝てないだろう分体は、発見=死になりかねない。
今後、ウヨジィと行動を共にするならンサヤイバリの事も伝えなければならないが、それはンサヤイバリが無事である事が前提になる。
まだ、船に隠れているのだろうか?多分それは無い。外の世界に興味津々だったンサヤイバリが、好奇心を抑えてその場に止まる事なんて出来るとは思えない。
下手すれば既に死んでるかも…。
「おい。昼飯の時間だ」
奥に行ったギルドの職員らしき男が昼の配膳を持って再び現れた。
持ってきた飯は簡素なパン2つとスープだった。
「おかわりは無いぞ。育ち盛りにゃ、足らんだろーが我慢しろな」
「いや、食事が出来るだけで万々歳です」
銀のトレイに乗っかったパンは見た限りロールパンに近い。口を付けたら柔らかい食感で驚く。実は、柔らかいパンを食べたのはこの世界で初めてだったりする。
今までパンを食べた事はあったが、どれもこれも硬くてパサパサの食感の物ばかりだった。
前世の和食の様な食べ物もあったのだから何処かで柔らかいパンにも出会えるだろうとは思っていたが、まさかの獄中の配膳とは沁みるねぇ。
スープの方はオニオンスープ的な野菜スープだろう。こちらは良く知る味で安心した。
「うまいな…」
ウヨジィは未だ思案に耽っており、目の前の食事に見向きもしていない。
「ウヨジィ、飯は食える時に食っとくべきだぞ。パンは柔らかい内にスープは温かい内に。美味しい時に食っとくのが1番だ」
声をかけてもウヨジィに反応は無かった。
仕方ないとは言え勿体無い。美味い物は美味い時に食べるべき。と言うか食事はどんな時でも食べられる時に食べるべきなんだ。ソレが魔境で得た教訓。
「うま」
ペロリとパンとスープを食った俺は、物足りなさを感じつつもトレイを牢の配膳口に返す。ギルド職員らしき男がサッサとトレイを片付けていた。
ウヨジィは未だに昼飯に手をつけていない。食べないなら貰いたいぐらいとは思うが、流石に他人の食事を奪いたいと思う程、がっついては、いない。
「おかわりは、ねーからな」
「へ?」
「余りにも物欲しそうに嬢ちゃんの昼飯見てるけど、決まりだからな。例え嬢ちゃんがお前にくれてやるって言ってもお前に食わせてやる事は出来んからな」
ギルドの職員らしき男は、俺を憐れんだ目で見ていた。
俺はそんなにウヨジィの昼飯を食いたそうに見えたのだろうか?がっついていたのだろうか?
「大丈夫です。自分、がっついてませんから」
余裕を持って返答した。
身体は子供でも心は大人、目の前の“欲”に負ける事など無い。
しかし、同時に『ぐぅ〜』と腹がなった。
正直、育ち盛りの子供には全く足りて無い!いくら冷静を装っても“体”は素直であった。
「……大丈夫です…。自分……がっついてませんから」
「そうかい…」
なんか恥ずかしい…。
ウヨジィは未だに我関せず。これ以上向こうの昼飯を見ていたらよだれが垂れてしまうかもしれない。
ウヨジィの昼飯に背を向けて今後の事を考える事で腹減りを誤魔化す事にした。
先ず、俺が釈放されたとてウヨジィには関係ない事なので一緒に釈放される訳ではない。国外に出るとしても、そもそもココから出られないのでは意味が無い。
だが、聞いた感じだとギルドサイドがウヨジィを“国から守る為”にギルドの留置所に入れられた可能性が高い。ならば、交渉次第でどうにかなりそうか。
よしんば、うまく話が進んで一緒に釈放されたとして奴隷契約によって縛られて物理的に牢屋から出られなくなってるウヨジィを俺の奴隷に変更。コレって周りには、どのように見えるのだろうか…。少し不安だ。
主人が変わる事で前主人からの命令を強制キャンセル、牢を出る。
そのまま冒険者ギルドに出向いてルバンガイセクイまでの護衛を依頼。ルートが分からんのでその辺りも込み込みでの依頼する。
出来ればこのタイミングでンサヤイバリを回収出来れば御の字。早ければ護衛依頼をするまでにも襲撃なり何なりがくる可能性もある。
あれやこれやと考えを巡らせていたらカチャカチャ音が聞こえてきたので振り向くとウヨジィがいつの間にか食事を終えていた。
「足りないわ」
ですよねぇ。お互いまだまだ子供ですから。
「んで、どうするか決まったか」
「ええ」
「そうか。で、どうする?」
「一緒に行くわ。“今”はどんなに考えてもソレ以外の答えが出せなかった。はぁ、意地を張ってココに残っても何も出来ないのでは、意味が無いもの」
「了解。んじゃ、後は手早く釈放されるのを待つだけだな」
鉄格子の付いた窓から外を見るまだまだ日は高い。晩飯までは、まだまだ時間がありそうだ。
暇つぶしに身体でも鍛えようかとも思ったが、そんな事をすれば腹がさらに減る。昼飯より量は増すかもしれないが、昼飯同様におかわりなど出来ないだろう。そうなれば腹減りでどうにかなってしまうかもしれないので、ここは動かず、ジッとしておこう。
どうやらギルドの留置所は刑務所等と違って強制労働のような事は無く、ただただ犯罪者や怪しい人物を捕らえておくだけの檻らしい。
本当は、今後の事をウヨジィと話し合いたいところだが、ギルド職員も含め、どこで誰が聞いているかも知れない状況下でこれ以上の情報を振り撒くのも得策では無い。
後は“待つ”だけだった。
『お…ここ…おった……ぇ』
突然、ンサヤイバリ声が聞こえてきた。だがその声はノイズがかっているかのようにちゃんとは聞こえて来ない。
自然な感じで窓から外を見るが見渡せる範囲にンサヤイバリの姿は無かった。
『ま…なんぎ……こ…トヒ……きこえて…んぇ』
『ンサヤイバリか!聞こえてる!聞こえてるよ』
別れる前まではンサヤイバリの「念話」に対して普通に「声帯から声を出して」会話をしていたが、今ここで窓の外に向かって声を出したら見えない誰かと突然会話を始めるヤバい奴になってしまう。
それにンサヤイバリの存在をこちらからアピールする訳にも行かない。ちゃんと伝わってるのか不明だが念話で返答して反応をみる。
『トヒ…!トヒイ……べに…だ…あ……さま…ので……ねぇ…ト…イ…いてるかぇ』
反応と返答の感じから聞こえはいるらしい。だが情報が増えた分ノイズも増えてしまい何を言ってるのか分からない。
遠いからノイズが走るのか、ソレとも別の要因があるのか?
そこまで考えて初めて『魔法がちゃんと使えない』事に気づいた。
一般的な生活魔法と言われる部類の“誰にでも使える”とされる魔法ですらマトモに使用出来なくなっている。
この牢屋に細工があるのか、着させられたシマシマの服に細工があるのか、魔法が構成できなくなっている。
確かに誰でも魔法なんて物が使えるファンタジー世界で牢屋にそのままぶっこんでも簡単に脱獄出来ちまう、なら対応策はとっていて当然。
魔法が使えない訳では無い。上手く発動した無い。そういう仕様な何かが仕掛けられているんだろう。だからかンサヤイバリとのパスで繋がっているのに念話が上手く通じないのはソレが原因なんだろう。
取り敢えずンサヤイバリが無事なのは分かった。ココから出れば合流はどうにかなりそうだ。
さて、今後の事を考えながら待つとしますか。
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