第37話 そんなこんなで。
捕まって売り物にされてしまったのだろう少女から声をかけられた。
「アンタ、本当に外から来たの?」
「ああ、命からがらでね。近寄るなと攻撃されたけど、余りにも腹がへってたし、疲れてたから無理矢理乗り込んだ。でも乗船拒否されて捕縛されそうになったからぶっ飛ばして、勝手に飯食って、そのまま誰かの部屋で寝た。起きたらこのザマでした」
「話の半分ぐらい、さっき聞いたわね」
「さぁて、どうすっかなぁ」
「どうにか出来るの?」
「どうかなぁ。コレをどうにかしようとしてるけど、ビクともしないんだよね。」
「そりゃ、上級モンスター捕縛用の魔具だもの、アンタが強いとは言え子供程度が出せる力でどうにかなるような品物ではないでしょ」
「マジかぁ」
確かに強化魔法を使って引きちぎろうと試したけど無駄だった。
「結界張られてるのにどうやって乗り込んだの?」
「あー、俺のショートソードは特別でさ。魔力を込めれば何でも斬れる魔剣なんだよね」
そうだ。俺のショートソードはどうなった?捨てられたか?いや、ボロい服はともかくショートや籠手は魔具だから売り物になるだろうから捨ててはいないだろう。たぶん…
ごろっと反転して鉄格子越しに座って見張りをしている男に聞いてみた。
「なぁ、なぁ。なあなあ!見張りの人!聞こえてるだろ!見張りの人!」
「るっせーぞ。黙ってろ!」
「見張りの人、聞きたいんだけど俺の装備ってどうなったの?」
「は?知らねーよ」
「捨てられちゃった?」
「だから知らねって!」
「そう言わずにぃ」
「うるっせーな!黙ってろって言ってんだろ!」
「俺は思うんだ。金に汚いお前らが価値が有る魔具を換金せずに捨てるなんてあり得ないと思うんだよね」
見張りの男は不気味な物を見るように俺を見下げてくる。
何だかモヤっとした気分になる。見下げた視線は生まれ育った村で慣れたモノだが、ソレとはちょっと違う似て非なる視線。何故か不愉快だった。
そんな見張りの男は舌打ちをすると奥に離れていく。
「おーい!無視すんなよ!何だよ!どうなったか教えろよ!!」
不気味な子供に話しかけられるのが嫌なのか、そもそも何も話すなとでも言われているのか、見張りの男は離れた場所に行って完全に無視を決め込んで聞く耳持たずと言った感じだ。
あの位置だと鉄格子は確認出来ても中での動きは角度的にも距離的にも見えないだろう。
こっちもガッチリ目の前で見張れてるよりも離れてくれていた方が色々と出来そうだ。
またくるりと反転して少女の方に身体をむける。
「どうやら俺のショートソードは、まだ無事らしい」
「そう。それは良かったわね。で、そのショートソードがあれば?この状況からどうにか出来るの?」
「ショートソードって言うか“コレ”さえ外せればどうとでもなるとは思うけど…」
だが、それが出来そうにない。素っ裸で腕は腰の辺りで別に結ばれている。その上で胸辺りから太もも辺りまでロープ的な魔具でぐるぐる巻き状態で拘束されている。
身動きは重点移動で転がるぐらいしか出来ない。外せれば正直どうにでもなると思う。
「外せれば“どうにか”できるのね?」
「多分。どうとでもなる」
「いい自信だわ」
少女が微笑む。多分12、13歳ぐらいの幼さが抜けきれてない少女だが、妙に惹きつけられる程の妖艶さを感じてしまう。
口調はガラが悪いのに何故か妙に気品があるように感じる。
そして人攫いの連中とは違う様だが目前の縛られて奴隷商品として捉えられてる少女からも“クズの臭い”がした。
「私なら、その捕縛魔具外せるわ」
「マジで?」
「ええ、マジで」
「どうやって外すの?」
少女が俺から目を離し鉄格子の向こう側の見張り役に聞こえてないか確認している様子だ。
「私には“拘束を外す魔法”が使える」
「え?なんでそれを自分に使って脱出しねーの?」
「今の私は、簡易的なヤツとは言え奴隷術式によって縛られてるからな。自分から拘束を解く事を禁じられてる」
「何で俺にはその魔法が使えるんだ?」
「そりゃ、禁止されてるのは『拘束から脱出する事』だから。自分には不可能でも他人の束縛を解く事は可能なのよね」
「成る程ね。“禁則の抜け穴”を突く行動ってわけだ」
「ふっ。そう、まぁ、アイツらはそもそも私が拘束解除の魔法が使えるなんて知らないだろうし、この牢屋に他の奴が入ってくる何て想定してなかっただろうしね。ま、奴らの脇が甘かったってことね」
「んじゃ。コイツを解いてもらおうか」
「いいわ。でも外してやる代わりに“私の願い”を聞いてもらう」
「分かってる。最初からそのつもりだよ」
「そ、じゃ。こっち来てその位置じゃ魔法が届かない」
どの程度近づけば良いのか分からなかったので、取り敢えずゴロゴロ転がって少女の足元まで近づく。
すると少女のスカートから足が伸びてきて、ブニっと顔を踏まれる。俺はこんな風に踏まれて喜べる程、変態では無いので普通にムカついた。
「ごめんなさいね。触れないと魔法の効果が出ないから」
「ほう言うほは、ふふ前にいふもんだ」
丁度、足元に顔が来ていたとは言え、一言の断りを入れる事無く、躊躇なく頬を踏みつけて平然としているこの女は、やはり“まともな奴”ではないだろう。角度的に少女の顔は見えないがなんか笑ってる気すらする。
あとスカートが長くて見えて無かったが、ちゃんと足もくるぶし辺りで縛られていた。
「ウヨジイカ」
少女がぼそっと唱えると『ポヒン』と間抜けな音が聞こえ、俺を縛り付けていた魔具が緩んで動ける様になった。
雁字搦めで固定されてた為か、全身凝り固まってる感じがしたので、身体各所をほぐしながら立ち上がる。
立ち上がった裸の俺を見た少女が、一気に顔を上気させ「きゃーーーーーー」とカン高い声で叫んでしまった。
だがこれだけでかい声で叫べば。
「何だ!いきなり、何を叫んでやがる?」
叫び声に反応して見張りが戻って来る。
「おい、海魔のガキは何処に消えた!」
「わ、分からない。いきなり光ったと思ったら消えたの」
「ふざっけるなよ。どうゆう事だよ」
あせった見張りが牢屋の中に入って床に無造作に転がっている拘束の魔具を確認し始めた。
定番の反応、ありがとうございます。
俺は、パッと見で見張りから見えない様に少女の後ろに隠れていた。目線が魔具に向いてコチラに気付いていないのを確認したので、少女の後ろから飛び出て見張りの男を強襲、腹に一撃加え、くの字に曲がった見張りの背に回り首にウデを絡めて一気に締め落としにかかる。
首の骨をへし折らない程度に絞り上げストンと見張りの男の意識を刈り取った。
本当は前世の漫画とかでよくある、後頭部と首の間に手刀での一撃で昏倒させるアレをやりたいところだが、上手く行った試しがない。痛がるか致命傷になるかのどちらかだ。
「殺さないの?」
締め落とした見張りの男から牢屋のガキ以外に鍵を持ってないか弄っていたら、少女が理解できないと声に出して聞いて来た。
「まー殺す必要も無いからなぁ」
「こんな連中を生かしておく必要も無いと思うけど?」
「ソレはまぁ…」
この世界の倫理観的には少女の意見が正しい。俺はどうしても前世の倫理観に引っ張られてると思う。前世の記憶自体は曖昧なのに精神的な部分は妙に引きずってしまっている。
勿論、船の乗組員を殺した結果、運航に支障をきたす可能性が懸念としてはあったが、ソレはどちらかと言えば“言い訳”だろう。
ライセンス紛失中とは言えギルド加入している冒険者が簡単に人殺しをするのは良くないとも思う。ま、コレも“言い訳”だけど。
「まさか、他の連中も殺して無いの?」
「ああ」
「はぁ?とんだ甘ちゃんね。そんなんだから捕まるの転がされるのよ」
「現状、とっ捕まってて奴隷落ちまでくらってる女に言われたくは無いんだが…。てか牢屋の鍵以外の鍵は持ってなさそうだな」
「そう、じゃあ、さっさと鍵を見つけるなり、この拘束具を壊す為の何かを探しに行きなさい!って言うかさっさとソイツから服剥ぎ取って来なさいよ!何で裸なのよ!」
「何でって何でだろ?寝る前までは服着てたのになぁ?」
「ちょっバカ、こっち向くな!何、堂々と見せて来てるの!」
「騒ぐな。声がでかい!他の連中が集まって来たら面倒だろ。それにこんな小汚い奴が着てた臭い服なんてゴメンだよ。それにコイツの服を俺が来たら逆に裸のおっさんをココに残していく事になるけどそれでも良いのか?」
「分かった、分かったから早く行きなさいよ」
顔を真っ赤に染めているウブな少女に『男の勲章』を見せつける事で愉悦に浸るような下劣な品性は持ち合わせてはいないので、言われた通りにさっさと行く事にした。
離れる前に見張りの男を俺の代わりに縛って転がしておく、起きて騒がれると面倒なので猿ぐつわも追加しておいた。
「んじゃ、行って来る」
颯爽と牢屋の外に駆け出す。目的はショートソードと籠手、あの少女の拘束を解除する鍵は面倒だから探さない。鍵なんて無くてもショートソードに魔力を込めて斬ればどうとでもなるだろう。
だが何処にあるかなんて分からないので“しらみ潰し”に探すしかないだろう。
捕まっていた牢屋を出ると他にもズラリと牢屋が並んでいた。中には違法売買用に捕まったモンスターや人が入れられている。
モンスターはともかく「人」は助けてやりたいとも思うが、今それをやってる余裕は無い。
牢屋の中から外にいる裸の少年に気づいた者もいたが、「助けてくれ」と訴える前に「何だアレ?」という疑問の顔が浮かんでいる。
騒がれても何なので「黙っていれば救いに来る」と静かに伝えて牢屋置き場から出た。
船に乗り込んだときと同じ様に各部屋を物色しつつ船員にで会ったら素早くぶっ飛ばして黙らせていく。
中には前回ぶっ飛ばした奴もいたが警戒している様子が無いので再びぶっ飛ばしてやった。
気絶させないで聞き込みをした方が手っ取り早いかとも考えたが、聞き出す際に騒がれても面倒だし、誤魔化しの嘘をつかれても厄介だ。船の大きさは20〜30メートルぐらいだったと思うから総当たりのしらみ潰しでもそう時間は掛からないだろう。
問題は、素早く目的を達成で出来ない場合は敵とのエンカウント数が上がってしまう事。
「て、テメー!海魔のガキ」
「ボスは最後まで出てくんなよ」
船長室的な小綺麗に整った部屋を見つけたが中にはふんぞり返っていた人攫いの頭がいた。
咄嗟に武器を持とうとするが遅い。素っ裸の俺の行動は一直線にパンチ繰り出すだけ。
一行動分早い攻撃に反応が追いつかず顔面に食い込むパンチ、人攫いの頭は鼻と前歯が砕ける音を響かせて昏倒した。
「この部屋にも無いか…でも逆にこの部屋なら鍵はありそうだな」
色々物色した結果、鍵は何種類か手に入り、綺麗な服も手に入れた。サイズは合ってないがご愛嬌だ。
さて、このまま一旦牢屋に戻るのも有りだが、正直なところ束縛を解いてもらった借りがあったとしても、優先すべきはショートソードと籠手の奪還。
飾りとして置かれてた剣や人攫いの頭が取り出そうとしていた短剣を借りの武器として拝借。
取り敢えず、しらみ潰しの宝探しを再開する。
なんだかんだ総当たりで探した結果、普通には見つからず、業を煮やした俺は、船を占拠して人攫いの仲間に『金目の物』を入れておく隠し部屋の存在を吐かせた。
隠し部屋なら普通には見つけられない訳だ。結局、最終的には聞き込みとなり若干の本末転倒感もあったが、どうにかショートソードと籠手を取り戻す事に成功した。
鍵も装備も手に入れたので意気揚々と牢屋に戻った。
「おそーい!!何やってたのよ!」
約束を果たしに戻って来たのに感謝の前に怒鳴られた。
それになんか臭い?
「アンタが遅いせいでソイツが漏らして不愉快何だけど」
「え?」
「ん!んーん」
猿ぐつわを付けた見張りが恥ずかしそうに顔を伏せて呻いていた。
「確かにコレで拘束されてたらトイレなんか行けないもんな…」
「そうよ。臭いの最悪なの、どうにかしなさいよ」
「え〜、コレの掃除はやだなぁ。てかキミはトイレどうしてるの?動けないんだよね?」
「私?何でそんな事、アンタに言わなきゃならないのよ…」
「そりゃ気になったからだけど」
「女性にそんな事躊躇なく聞けるとか…」
「そりゃ悪かったね。こちとら『まともな教育』なんぞ受けた事ないからな礼儀云々なんざよく分からんのよ」
「ふん、アンタ等みたいのにそこら辺、求めるのは間違ってるのは理解してる」
妙に偉そうな態度の少女の拘束を解いてやる為に鍵を数種類出して試すが、何故かどれも合わなかった。
「はぁ、使えないわね」
「いやいや、どれが何の鍵かなんて分からんから!ソレに何処にあるかも知らんからな」
「言い訳は良いからさっさと解放しなさいよ」
ムカつく言い方だが約束は、約束。また鍵を探しに行くのは時間の無駄だから当初のやり方で手っ取り早く拘束を解く事にした。
「ちょっと!え?何?何で剣抜いてこっち来てるのよ!」
「うるせーな。さっさとして欲しいんだろ。やってやっから黙って大人しくしとけ」
「ちっ!げんがが…」
なんか抵抗しようと腕を前に出して来たのでむしろやり易くなった。
スパンと腕と腕の間を斬り抜く。少女の腕の拘束具が壊れて外れた。
「コレで腕は自由になったな。次は足だな。ほら、さっさと外したいんだろ。足もさっきみたいに前に出せ」
「斬って外すなら最初にそう言いなさいよ!」
「え?“ショートソードが有れば何とかなる”って言ってただろ?」
「言ってないわよ!」
「そーだっけ?まっ良いや。ほれ、早よ」
正直、わざと説明無しで行動したし、別に振りかぶらなくても斬れたけど、振りかぶったのは、ムカつく少女へのちょっとした意趣返しだ。
少女が恐る恐る掲げた脚の拘束具もスパンと斬る。
「コレで動けるだろ」
「確かにすごいわね。ソレ」
少女が椅子から立ち上がる。やはり立ち居振舞いから高貴な雰囲気を感じる。
「ありがとう。助かったわ。…えっと名前なんだっけ?」
「あ」
そう言えばお互い名乗ってなかった。
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