第36話 見た事ある展開。
キャパィィィーーキーーーーピーーーーガガガァァァーーーー
光の柱が聳え立ったと思ったら“何だか分からない音”が聞こえてきて、更に凄まじい突風に煽られる。
吹き飛ばされない様に踏ん張っている間に光の柱は無くなった。
だがどちらの方角で光の柱が立ったのかは、覚えている。何があるかは分からないが『何かがある』のは確定だろう。
「陸地か船を探す」という漠然とした目標から、「光の柱の立った場所に向かう」という明確な目標に変わる事で意識が切り替わる。
漠然から来る不安が、明確から来る希望に変わる。
さっきまで同様に限界なのは変わらないのだが、気持ちが前向きになるだけで前に進む事ができる。
進行方向を光の柱が立った方に変えて更に進む。どれぐらい進んだか正直分からないが夜を2回超えた辺りで遂に『船』を発見した。
諦めない心が“奇跡”を掴んだ瞬間だった。
気付いてもらう為に声を出そうとするも、疲労困憊の上に喉が渇ききっていた為か声が出ない。
仕方ないので落ちていくのを覚悟で加速する。気付かれず、追いつけずでは話にならない。
船を正面に据えて正座スタイルにて爆速発進。
船に取り付くのが先か、海に落ちるのが先か、正直どれだけ進んだらどれだけ落ちるのかなど分からない。一種の賭けだが、今賭けなければいつ賭ける。
がむしゃらに一直線で船に向かう。船に近づいてどうするとか、言葉が通じなかったらどうするとかは、考えられず“船に乗る”事だけを考えていた。
どうやって乗り込もうか考えながら船を観察しつつ進んでいたら、船の上からこちらを見つけたらしく何やら騒いでいるのが見えた。
気付いてもらえたならどうにかなりそうだ。未だ『視力を強化する魔法』は使えないので目を凝らして見るだけだが、獣人でもエルフでもなく俺と同じ人族みたいに見える。
言葉が通じるなら嬉しい。それなら乗船の際の手間が少しは省けるかもしれない。
艦橋に人が集まりコチラを見て何やら騒いでいる。気付いてくれてるのなら話が早い。どうにか意思疎通を計り船に乗り込めそうだ。
だが、そんな楽観的な考えが通用するほど甘い世界では無かった。
俺が何かを伝える前に艦橋から攻撃が飛んでくる。魔法や弓矢、牽制などでは無い。確実に“殺しに来て”いる。
だからと言って止まる訳には行かない。既に海面にショートソードが当たり水飛沫をあげている。距離的に船まで届く前に身体が沈む。
『ドガン』とデカい音が聞こえたと思ったら正面に黒い何かが迫る。それが大砲の弾なのだと思い当たった時には当たる寸前だった。
極限状態の身体に思考が追いつかない。普段なら当たる前に対処もできたが、今は余裕もなければ疲労で身体も動かない。
大砲の弾は正面のショートソードの剣先に着弾した。
当然、吹っ飛ぶ。
しかし、加速していた俺は慣性の法則と風の魔法陣の風力で前方に投げ出された。水切りの石の様に水面をバウンドしながら船向かい、“見えない壁”にぶつかる事になった。
衝撃でクラクラし身体も一部へしゃげたが、すぐさまショートソードを遠隔操作で拾い上げ“船体を傷つけない様に手前当たり”をスッと斬り、船体にしがみ付く。運良く掴める場所があったので想定とは違ったが、船に取り付く事ができた。
長距離移動用の船は海のモンスターに襲われない様に結界を船体を覆う様に常時展開している。外部からの襲撃する事や忍び込む行為などは出来なかったりする。
だが、俺のショートソードは“あらゆるモノ”をぶった斬る。
普通なら取り付く事など不可能だが、結界を斬る事で俺は船に取り付く事ができた。後はどうやって乗り込むか、船体にショートソードを突き立てて足場にして登る事は可能だろう。だがその結果、その部分から亀裂等が広がり沈む可能性が出てくるからやめた方が良い。
なら素手で無理矢理登るしか無い。だが滑って上手く捕まる事が出来ない。身体強化で腕力を上げて船体を無理矢理掴む事は可能だろう。だが、それではショートソードを突き立てるのと変わらない。
船体を傷つけずに艦橋に上がるには、もうジャンプして一気に上がるしか無い。海上の出来るだけ高い位置にショートソードを固定してさっきまでみたいに上に乗る。
今の疲労困憊の状態でどれだけの高さを出せるか心配だが、普段なら身体強化と風の魔法陣の出力で駆け上れる高さだろう。
考えるが否や、垂直にジャンプ。問題なく艦橋に上がれた。すかさず、ショートソードも回収。
トストスと足場を確認してドスンと腰を下ろしてしまった。気を抜いて座れるという事がこんなに良い事だなんて考えた事も無かった。
そもそも、そんな事を考えねばならない環境が異常なだけだが。
眠い、そして腹が減った。ここは船なのだから食料がある筈、乗組員には申し訳ないが分けて貰おう。
よっこいしょと立ち上がった時には乗組員が数人寄ってきていた。
「何だ?このガキは?どうしてここにいる??」
「おい、さっさと押さえ付けろ!何だか分からんが侵入者だろ」
「コイツ?アレか?さっき海から船に迫ってきてた【海魔】類いって言ってた奴?」
「だな。『クバクソ』」
放たれた魔法は光輪となって上半身に絡む。まるで縛り付けられた様に束縛された。
俺を取り囲んでる連中は、何やら俺の存在や処遇についてガヤガヤ騒いでいる様だが。正直、頭に入ってこない。ただ使っている言語は『ウツウヨキ語』らしく。ハッキリ分かった。コレなら普通に会話が成立する筈。
「すんません。食料を分けてもらえますか?」
「んだ?コイツ」
「貴様は何者だ?どうやってこの船に乗った?」
「どうやってと言われましても…。こうジャンプして」
「じゃんんん?何言ってんだ?」
「海魔の言う事だ。まともに取り合っても仕方ないだろう?だが上手くすりゃ。コイツも金に変えられる。」
「あのぉ。食料を…」
「黙ってろ。海魔が」
【海魔】が何を指すのか知らないが勘違いされている事とコイツらが全員が非常に鼻に付く“クズの香り“を漂わせている事は分かった。
「めんどくさ」
どうやら会話の余地は無いらしい。なら強行手段で行くしか無い。
勝手に物色されていたショートソードを遠隔操作、突然動き出した事でびっくりしたのか手放してくれたので好都合。
そのまま、束縛してる光輪を斬り裂く。上手く光輪だけ斬る事は出来ず、ザックリ自分ごと斬り払った。痛いがすぐ治るから良い。
この手の“臭い”をかます連中に『まともなカタギ』であった試しがない。なら少しぐらい乱暴に対応してもどうにかなるだろう…。
拘束していた光輪は切り裂いた事で消失。自由になったので即座に強化魔法で脚力を強化して飛び出す。
疲労困憊で空腹状態とはいえ、獣人やテロリストエルフとの戦闘で揉まれてきた俺の咄嗟の動きに相手方は付いていけなかった様で6人程いた乗組員をあっという間に制圧してしまった。
手加減は上手く出来なかったが、致命傷は無いだろう。斬ったり、折ったりして気絶している者や呻いている者をその場に放置して船内に向かう。
食糧のありそうな場所を探す為に各所を物色する。船員に出会ったら“臭い”次第で問答無用で攻撃して黙らせ放置。
奥に進むと良い香りが漂って来たので、そのまま香りがする方に進むと食事場と厨房を発見。作業中の船員からはクズの臭いがしなかったので、ちょいと脅して「食事を分けて貰った」
美味い!
海の上だが、保存の魔具にて新鮮なまま保管されていた食材を利用した料理は絶品だった。
正直。味は獣人の国の宿屋で食べた料理に比べたら天と地の差はあるだろう。だが、数日の絶食をくらっていた“育ち盛りの子供”にとっては最早、関係無かった。
ガツガツと食事をかっ込んで腹を満たす。
「食った!食ったぁぁ!!」
食べるだけ食べたら今度は一気に眠たくなって来た。
食事場を出て適当に扉を開けて部屋を確認して行くと三室目でベットを発見。装備を外して今できる最低限の罠を扉に仕掛けて、そのままベットに倒れ込む様に寝た。
「……きろ」
ん?呼ばれたか?
「起きろ!」
目を開けると腕を縛られた上に椅子に縛り付けられてる少女がいた。
と言うか、俺も縛られて床に寝かされていた。
「あれ?何だコレ?」
「『何だ』ってアンタが「何かした」から縛られてこんな場所に放り込まれたんでしょ?」
「ん?何かしたっけ?」
「余裕ね。アンタ…」
「あ、そうだ。船に乗り込んで、船員ぶっ飛ばして、勝手に飯食って、眠たくなったから寝たんだわ」
「そこそこ、やらかしてるじゃない」
そう言えばベットで寝てた筈なのに何で縛られて床に転がされてんだ?
「お、やっと起きやがったか…」
後ろから男の声が聞こえたから振り向こうとしたがガチガチに縛られたので身体ごと転がる感じで反対方向を向いた。
そこには“鉄格子”越しに男が立っていた。
「まともなガキじゃねーとは思ってたが…おい!ガキが起きたぞ!リウトヒさん呼んでこい」
現状を出来る限り確認してみると、どうやら俺は裸で全身ガチガチに縛られている。しかもただのロープでも無さそうだ。
やべー。罠に誰かが引っ掛かったら気付いて起きる筈だったのに気づかず寝続けてその合間に捕まって縛り上げられて牢屋的な場所に放り込まれたって事か!
我ながら間抜け過ぎる。てか鈍ってる…。“魔境”でこんな醜態を晒していたら即死んでいた。
外に出て安全に寝れる環境に慣れすぎたのかもしれない。
しかし何故“殺されていないのだろう?”
目の前の男からもクズの臭いはする。この世界でこの手の連中が危険物である俺をわざわざ生かして捕らえておくとは思えない。剥ぐ物、剥いで海にでも捨てるのが当然の行動だと思うのだが。
「なぁ。何で俺は生かせれてるんだ?」
そう聞いた男が俺を気持ち悪い何かを見る様な目で見て来た。
「俺はアレだけされて何で生きてるのか、スヤスヤ寝てられるのか?の方が聞きたいぐらいだぜ」
男の反応的にどうやら寝ていた間に目の前の男が引く程の何かをされたらしい。だが俺はそれに気づかずスヤスヤ寝ていたと言う事だろうか?痛みに鈍感になっているとは言え、我ながら鈍りに鈍っている。
だが、それでわざわざ生かしておく理由にはならない気がする。
「海魔のガキが起きたって」
「ええ、やっとですよ。しかもケロッとしてまさぁ。きみが悪りぃ」
「きみ悪いってまぁ、「海魔」だか「人もどき」だか何だろうから仕方ねーだろ。人の形をしたモンスターみたいなもんだろ」
何だか無茶苦茶言われてる。
そして呼ばれて現れた男は一際クズの臭いがした。
「アンタがコイツらの頭か?」
「あ、ん?別にそんなんじゃねーよ?」
「そ、アンタなら俺が生かされてる理由を教えてくれんのか?」
「確かに気味の悪いガキだな。この状況で気にするのがソコかよ」
「だって普通なら殺して海の藻屑にでもしてるだろ?」
「そうだな。その方が楽なのは確かなんだがよ。どこぞのガキが色々やらかしてくれた分の損害がデカくてなぁ。殺して気分を晴らしても損が出たままじゃぁ、上がったりだろ」
「で、それで俺を生かしてどうすると?」
「売る」
「売る?」
「お前が海魔か人もどきか知らんが、『普通の人間じゃ楽しめない遊び』に耐えられる商品ってのをご所望の物好きがいてよぉ。その手の輩に売り払った方が中々の金になるんだわ?」
「成る程、人身売買かぁ」
「あー、高値で売ってやるよ。その後どうなるかは知らんが、せいぜい楽しめ」
成る程、コイツは組織だった「人攫い」に違いない。攫って勝手に奴隷処理して海を超え異国に渡る事で物理的に逃げられない状況を作った上で売り捌き、また戻って同じ事を繰り返す。
どおりで臭い訳だ。
「てことは、あっちの子もお前らの商品って訳か」
「あー、上物だろ」
「成る程ね。口は悪いが可愛いし、確かに上物だ。ソレはさて置き、俺に状況説明してくれる為に来たわけじゃないんだろ?」
「ホント気味の悪りぃガキだな。そうだ、お前が何の為にこの船を襲撃したのか確認しなきゃならんだろ?」
「別に腹が減って死にそうだったからだけど」
「流石に『魔海』近くのこの海域でそりゃねーだろ。俺らみたいな者以外が近づく様な場所じゃねー」
「船が沈没して遭難してたけど生きる為に頑張ったんだよ。んで船を見つけたから救助してもらおうと近づいたの」
半分は嘘だが、それこそ本当の事を言っても信じて貰えないだろう。なら怪しくてもそれなりの方が良い。
そして人攫いの男も納得はしてない顔をしていた。
「見張りから「奇怪な人っぽい何か」が近づいて来てるって聞いた時は、海洋モンスターにでも頭やられたのかと思ったけどよ。直に見てみりゃよ。確かに『異様な何か』が海の上をが滑ってる訳だ。そりゃ警戒するだろ?」
「で、確認も何も無しで殺しにかかった訳か」
「そらそうだろ。厄介事は勘弁だったからな。海魔なんぞに煩わされるのもご遠慮したい。殺して見ないふりが1番だろ?実際、お前は厄介そのものだったしな」
「厄介って。いやいや、話を聞いてくれれば手荒な事はしなかったんだが」
「は、“船結界”すり抜けて乗船してきてる段階でまともな話し合いなんぞ無理だろ」
「違うね。お前達はそもそも誰が来たって話し合う事なんぞしねーだろ?そもそもが“誰かに知られちゃ不味い事”してんだから」
ふっと男は鼻で笑う。人を見下した酷く不愉快な笑い方。「だからどうした」と暗に告げている。
「で?何の為に、この船に仕掛けてきた?」
「いやだから…」
「そもそもお前は「人」なのか?“あんなの”見た後だと海魔ですら怪しいところだろ」
「お前らが俺が寝てる間に何したのかは知らんが、一応、人の区分のままだと思うが」
改造人間はモンスターより人間寄りだと信じたい。
「一応確認しときたかったんだが、話す気がねーなら別にそれでも良い。お前が何だろうとその状態じゃ何にも出来ねーからな。売り飛ばして終了だ」
「何だ。拷問でもして口割らせる展開かと思ったんだが…」
「はぁ〜。それで何でも話すならテメーはスヤスヤ寝てねーよ。無駄な事しても時間の無駄だし、下手すりゃあ逃げられる可能性すらある。何もしないが正解よ」
人攫いの頭らしき男は見張りに「目を離すなよ」と事付けて去っていく。
縛られた身体はまともに動かない。動かせない。籠手も無いからショートソードでどうにかする事も出来ない。
あっ、そう言えば俺の装備はどうなったのか…
はてさて、どうするか。
「ねぇ。アンタ、外から来たの?」
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