第29話 そうなるの。
初期ロット?初期型??
何の事だか分からんが過去の恨みは、忘れないと言いたい様だ。
エルフは長齢だとは聞いているが、まさかの1000年生き続けてるのだろうか?
「長生きダナ」
「貴様等が短命過ぎるのだ。下賤な劣等種である人族など最たるものだ」
「そうカイ。んじゃソンな劣等種のガキに潰さレて泣けヨ。老害クソ野郎」
ショートソードを構えて老人エルフを見据える。
老人エルフは無防備に立っているが隙が無い。まぁ、今も結界は張り続けてるはいるが。
結界自体はショートソードが有れば如何とでもなる。だか結界を越えた先に老人エルフを斬れる想像が付かない。
「リバスタスデリタ」
老人エルフが呪文を唱える、手元がビカっと光ったと思ったら光線が一直線に向かってきた。
とんでもないスピードだったが運良く避ける事ができた。
「ほう、コレまで避けるか」
更に光線の追撃が来る。絵的にはSF物に出てくるビームだがスピードは普通に弾丸と変わらない。目で追って避けるなんて出来る速度では無かった。その上、着弾点で小規模ながら爆発して物体を抉っていた。
取り敢えず全力で動く事で直撃を回避するしか無い。ちょこまかと動いて移動先を読まれない様にするのが精一杯だった。
「わしの魔法は「レピーター」や「デギンカラ」だけでは無い。当然他の魔法も使える。だが炎や氷の魔法は獣相手には効果が薄くてのぉ。この手の速度の速く当たりやすい魔法を使う事になる」
「そウかい…」
老人エルフが余裕綽々で話しかけて来るが此方には余裕は無いのでまともな返答など出来なかった。
「獣と戯れとるだけはあるな。人族でここまでリバスタスデルタの連射から逃れた者はおらんぞ」
「お褒メに預カリ光栄ッテな!」
「随分、余裕もあるようだ」
普通に行動してたら直ぐに撃ち抜かれて終わるだろう。獣人なら獣性強化等で身体能力を高めればビームの速度を超える事も出来るかもしれない。
しかし俺は普通の人族だ。身体強化の魔法を使っても獣人の速度には届かないし、漫画に出てくる剣士みたいに点で飛んでくる標的を斬る技量も俺には無い。
だが魔法そのものを見なくても直線的にしか飛んでこないと分かれば、着弾点を予測する事ができた。
拳銃と同じで弾は早すぎて撃ち出されてから避ける事は出来ない。だが銃口から真っ直ぐ撃ち出される性質上「銃口の向き」でどこに弾丸が向かうかはある程度読める。老人エルフがビームの魔法を放つ時も一定の腕の角度で予測する事が出来た。
「だが惜しいな。貴様ほどの者なら我らの方が上手く“使える”というに」
「使えルだと」
「ああ、獣なんぞに使われるぐらいなら我らに使われた方が良かろう?」
「別ニ俺ハ使われテル訳じゃネーよ」
「理解しとらんのか?人族が獣側につくなんぞ有り得ん。わし等は寛容じゃぞ?貴様等に合わせて有効利用してやろう」
「寛容?有効利用?とことん上カラ目線のクセしやガッテ、何ガ「貴様等ニ合わせる」ダ」
「合わせておろう?故に貴様の分かる言語で話しておる」
確かにこの前のエルフや境界戦妖は理解出来ない言葉で話してたっけ
「成る程ね。なら出来るなら“人族語”で話して欲しいもんだ。」
「うむ、その言語は“ウツウヨキ語”かの。地上に沸いている人族は無駄に言語が多いからのぉ。どうじゃ?聞きやすいかの?」
「あー。よく聞こえるぜ。長く生きてるだけはあるな」
「この程度、我らなら幼子でも可能よ。出来ぬ連中が低脳なだけじゃて」
「はん。どこまでもお高くとまるこって」
「どうじゃ?わし等に下る気になったかの?」
「なる訳、ねーだろクソ野郎!!」
「そうか、リバスタスデルタ」
ビームの魔法攻撃が再開する。腕の角度から大体の射角は判断できるが避けるのが精一杯で近づく事が出来ない。
だが老人エルフの魔力も無限では無いだろう。自らを優れた上位種と驕ろうとも限界はある筈。多分さっきの無駄な会話は魔法の連続使用の限界が来て休息でもする為に時間稼ぎをしている様に感じた。
まぁ、そのおかげで久方ぶりに母国語で会話出来てる訳だが。
老人エルフの目的は俺の殺害。最悪、足止めだ。老人エルフもコチラの魔力切れを狙ってるだろう。
だが俺の魔力は“尽きない”いつの間にか手に入れてた総量100万越えの魔力量はそう簡単にはなくなりはしないと思う。
老人エルフを中心にちょこまかと動きつつ背後を取ろうと回り込む様に動くが、当然、老人エルフも振り向いて対応してくる。
だが振り向き方は杖を中心に体ごと動く感じで違和感がある。もしかしたら一度張った結界は簡単に位置を変えられないのかもしれない。
そんな事を考えていたらビームの魔法の連射が止まった。魔力切れか、呪文の発声疲れか分からないが、この瞬間を逃す訳には行かない。
すかさず老人エルフを斬りつける為に死角に周り間合いを詰める。老人エルフは反応しない。出来ないのでは無い『しない』のだと感じた。
本能的に嫌な予感がした。だが「対抗策」は左手に握られている。何が来るかは分からない、何も無い可能性もあったし、対抗策が無意味な可能性も高かった。
それでも老人エルフがやりそうな事に当たりをつけ、斬りかかると同時にそれを放る。
「ダバデギンガラ」
それは全方位に向けて放たれる電撃魔法だった。呪文と同時に放たれる電撃は人の反射神経で避けられる様な品物では無い。
それだけで老人エルフが切り札として、この魔法を使うと当たりを付けていた。
放たれた電撃は方向性を持たない範囲系無差別型といえるタイプ。対象を固定しないなら稲妻を誘導する事でダメージを軽減出来る可能性に賭け、飛び道具として用意していた「金属の杭」を放る事で『避雷針』として使用する。
放出された稲妻が杭に引き寄せられた。それでも全ての稲妻の効果が無くなった訳では無かったが、耐えられる程度には弱まってくれた。
稲妻に怯む事なくショートソードを振るう。異変に気が付いた老人エルフが振り向こうとした時にはショートソードが結界に触れる。今までどんな攻撃も跳ね除けて来た結界だが魔力を通したショートソードには効果無く、スッと斬れていく。
老人エルフが咄嗟に杖で防御しようとするが“何でも斬れるショートソード”相手にはソレは悪手だ。杖ごと腕を斬り飛ばした。
「ナガァッ!?ガガ!」
「終われや!」
「レ、レピーターアムドス」
この機を逃さず追撃の刃を振るおうとした時に老人エルフは呪文を唱える。
すると老人エルフを中心に大爆発でもしたように衝撃波の魔法が放たれた。俺は勿論だが放った老人エルフも衝撃に耐えられず吹き飛んでいた。
「デラガラテテ、エメルバラ…は、は、まさかわしまで片腕にされてしまうとはな」
「はっ!無理して俺に合わせなくていいぜ!別に話したい事なんざねーからな」
「ふふ、そう言うな。死にゆく老兵の疑問ぐらい答えてくれても良かろう?」
「疑問だぁ?」
「そうじゃ。人の子よ、どうやってデギンガラを御した?アレは防ぎようの無い魔法の筈…」
「そうだな、防いじゃいねーさ。コイツで稲妻の方向性を変えただけだ」
籠手内に収納してた杭を取り出して老人エルフに見せる。
「方向性じゃと」
「まぁ、本当に稲妻がコイツに向かうかは賭けだったけどな。上手くいって良かったぜ」
「だが、わしがデギンガラ以外の魔法を使うとは思わなかったのか?」
「ソレも賭けだったな。だけどアンタ等は多分その戦法に慣れているんだと思った。獣人相手に戦って来たアンタ等は“高速接近してくる獣人にカウンターで電撃を浴びせる”のが必勝法になってそうだってな」
「は、はは。まさか読まれていたとはの…」
「そら読んでるさ、今だってこんな会話で時間稼ぎしてるんだろ?何しようとしてんだか知らねーけど。アンタこそ、何で俺も分かってて会話に付き合ってるか分かってるか?」
老人エルフは“何か”をしようと俺に細心の注意を払っていた。意識を俺に集中していた。だから気づけなかった。失念していた。すぐ近くにまで他の誰かが来来ている可能性を、俺に仲間がいる事を。
「ぐがぁぁぁ」
「なんっ」
老人エルフの横合いからシンセが老人エルフに飛びかかっていった。
満身創痍のシンセだが同じく満身創痍の老人エルフではシンセの突撃を避けられない。
老人エルフが懐から何かを取り出そうと腕を動かそうしたので杭を投擲して腕の動きを止めさせる。
「させねーよ!」
「ナガレンサシアァァァ!!」
「ぁぁぁ!!!」
シンセの爪が老人エルフの首を掻っ切る。勢い余ったシンセは、そのまま止まれず瓦礫に突っ込んでいった。
崩れるように倒れた老人エルフは即死だろう。魔法は首が切られて発音出来ないから多分問題無い。魔具や魔術の類で復活してくる可能性はある。少なくとも懐には「何か」がまだある。
「じーさん、何しようとしてたんだ」
老人エルフの生死を確認がてら懐を弄ってみるとスイッチ式の魔具らしき物があった。
「何だこれ?」
何なのかはスイッチを押せば分かるかも知れないが、何が起こるか分からない品物を今、確認する必要は無い。
ポイっと一応、老人エルフの手の届かない辺りに投げておく。
「がっあああ!!」
ドカンっと瓦礫を吹き飛ばしてシンセが大声を上げながら立ち上がった。
更に瓦礫が飛んできて当たりそうになってビビった。
「あっぶな!」
「はぁ、はぁ、トヒ…イ……、ソイツは…」
「あア、死んでルゼ。全ク良いとこロ持ッテいきやがっテ」
「は!どうよ。はぁ、はぁ」
「無理すんナ。体ボロボロだろ?」
「はぁ、はぁ。るっせ!い、いけらぁ…はぁ、はぁ」
強がってはいるが明らかに限界なのは見て取れる。獣人の生命力が高く回復力も人族とは比べ物にならない事は知っているが、瀕死の状態から回復薬だけでは完全復活までは至れるはずもなく戦える状態では無い。
さっきの一撃だって相手が手負いの上に意識散漫だったから通用しただけで、この後にやり合うだろう境界戦妖には通用する訳がない。
「無茶すンナ!無駄死にしタッて『英雄』にハなれネーんだゾ」
「んぐぅぅ……」
「俺だっテ英雄ト境界戦妖の戦いニ割って入れるトハ思ってル訳じゃネー」
「あはぁ、そだな。ありゃぁスゲーわ」
そこは遠目で見える獣人の英雄と境界戦妖の激戦が繰り広げられていた。
獣性境界したイヨツのスピードは目で追える様な物ではなく、方向転換などで止まった瞬間だけ少し見える姿がまるで残像のように見える程だ。
境界戦妖は殆ど動かずにいるがイヨツの行動自体には対応出来ているらしく、境界で攻撃を受けてカウンターで反撃を繰り返していた。
今の俺では嵐の様な攻防の中に入れば、あっという間にミンチになってしまうだろう。まともに介入など出来ない。
「マァ、あト出来ル事は見届けるぐライだろウさ」
「ったくよ…はぁ、はぁ、はぁ……」
クタッとシンセが気を失った。あんまりに鮮やかに気絶したので死んだかと思ったがちゃんと息があって安心した。
そっと物陰にシンセを寝かせてイヨツの戦っている場所に向かう。
何も出来ないのは分かってはいるし、イソホやノタイもどうなったのか探さなければならないのも分かっていたが、それよりも獣人の英雄と境界戦妖の戦いの結末が気になった。
境界戦妖は全てを終わらせる覚悟でカチコミを仕掛けて来た筈、劣勢になったからと行って逃げ出す事は考えないだろう。勿論、シンセや獣王サイドが奴を見逃す筈もない。
完全決着しか結末は無い。
だから気になった。何故か分からないが“末路”がどうなるのか見届けなければならないと思った。
イヨツと境界戦妖との戦いの向こう側では獣王達もことの成り行きを見守っている様だった。
丁度反対側という位置どりでシンセ達を見ながらも、辺りを警戒する様に見回した。もしかしたらまだ別働隊のエルフがいるかもしれない。もしそんなエルフがいて、あの戦いに介入する様な事があれば、良からぬ方向に状況が動く可能性もある。流石にソレは避けたいところだ。
一瞬の判断ミスが致命傷に繋がるこの局面で不安要素は排除しときたい。
それにそろそろ決着も付くだろう。[境界]の守りは強固だが“絶対”では無い。実際にイヨツの攻撃で片腕を失っているし、さっきは腕を歪ませる事に成功している。
境界がどの様な仕組みで展開されているのか分からないが、老人エルフの使っていた結界のように展開された結界が固定式ならそこから“はみ出せば”無防備になる。
だから境界戦妖は大きく動けない。イヨツの動きに付いて行けないから動けないのもあるかも知れないが、結界から体を出さない様にしてるから動けないのだろう。
それに攻撃の意図を図りかねる行動には境界が反応しきれないのもある。だから俺の腕を振り上げただけの行動に攻撃性を感じ取れず、境界が発動しないで腕を掴む事が出来たんだと思う。
後は境界を発動するのにだって魔力は必要な筈、魔具なのか魔法の類なのかは分からないが魔力を消費して結界を発動しているのなら魔力と言う燃料が無くなった段階で境界は発動しなくなる筈だ。境界は果たして後どのくらい持つのだろうか?
辺りを警戒しつつ2人の戦いを見ていたら偶然にも境界戦妖と目が合った。
突然、カウンター攻撃をやめてこちらに向かってゆっくりと歩み出した。
違和感を感じたのかシンセも攻撃をやめて俺と境界戦妖の間に立ち塞がった。
「人の子よ。お前がここに来たと言う事は“イジトス老”は死んだか?」
境界戦妖が突然イヨツ越しに話しかけてきた。
「イジトス?老人のエルフだっタラ首を掻ッ捌かレテ死んダぜ」
「そうか、最後の“初期ロットモデル”も死に“初期型モデル”も私が最後の一体…。境界を維持するオドも尽きかけている、出し惜しみしてる場合では無いか…」
何か気になる事を一方的に言い放つと境界戦妖が今度は、ブツブツ小声で呪文?らしき言葉を呟き始めた。
すると境界戦妖の身体に変化が起きた。
肌に幾何学模様の線が現れ、そこから滲む様に肌の色が変化しはじめた。病的に感じる程に色白だった肌が燻んで行く。
褐色と言うよりは黒ずんで行く様に。
「黒妖人ダークエルフになっただと?」
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