第27話 激突して。
「混ざり物ながら良くやったわ」
「テメー!」
年端も行かない子供を爆弾代わりに使い、目的を果たす。成る程「クソの匂い」が強い訳だ。
「残念ながら守護結界も魔法阻害の術式も今の爆発で機能しなくなってしまった様だの」
「ダけどテメーも動ケネーだろウガ」
「そうでも無いわい」
老人エルフが言い終わるか終わらないかぐらいにとんでもない閃光と熱波が襲って来た。ソレは経験した事のある極爆魔法の大爆発。
多分、姿を見せていなかった境界戦妖による攻撃だろう。
かなり爆心地に近い。狙いは俺では無くイヨツだったのだろう。直撃はしなかったが威力は充分、衝撃も半端なものでは無く、十数メートルは吹き飛ばされる。
ほぼ無防備に爆裂魔法を喰らってしまった為に甚大なダメージを受けた。幸運にも咄嗟に顔を守れた為。ギリギリのところで意識を保つ事が出来た。
身体に魔力にを回して回復に徹しながらも現在状況を俯瞰する。どうやらイヨツもダメージを受けてしまった様だが俺より軽傷らしく境界戦妖からの攻撃を警戒しつつ老人エルフを牽制し合っている様だ。
他の面子どうか、シンセは爆発から逃れて他のエルフと交戦中。イソホ、ノタイは見える範囲にはいない、爆発でやられたか、見えない場所で戦闘をしてるのか?後者なら良いが。
今度は自身の状態を確認する。爆発で上半身の装備は吹っ飛んでしまっているがおかげで心臓まで抉られ焼かれずに済んだ。魔境で手に入れた籠手とショートソードは現在、下半身の装備はボロボロだが大切な部分は守りきった様子、腰にぶら下げていた装備も辛うじて無事だ。
「さて境界戦妖は何処から来る…」
人体実験や魔境生活で慣れた作業だとは言え全身回復は体力と精神を削る。意識を手放してこのまま倒れて仕舞えば楽だろうがそう言う訳には行かない。
自身が戦える状態まで回復する間に息を整え冷静に状況を把握する事に努めた。
爆発に巻き込まれていない他の兵士や冒険者も散発的に戦闘を行ってるのが分かる。
戦えない一般人も巻き込まれない辺りから逃げているのも確認出来る。
それとは別に騒がしい箇所がある。見てみれば普通なら出て来なくても良い王様が姿を表していた。近衞兵や側近辺りがガーガー怒鳴られているのが離れていても聞こえてくる程に聞こえる。
当たり前だが王族狙いのテロリストが出てきた段階であらゆる脅威を考え、姿を隠し防御に徹するのが普通の対応だろう。だがさっき聞いた通りなら王様の目的はエルフのテロリストの殲滅にあり、目的達成に手段を選ばないのなら未だ姿を現さない境界戦妖を引きずり出す為に自身を使う事も辞さないのだろう。
確かにクソ野郎なのだろうがスジは通っている。
結界も魔法阻害の術式も無くなりシンセも老人エルフに足止めされてる今、姿を表した獣王相手に境界戦妖がどう動くか。
千載一遇と直接攻撃に出るか、罠と警戒して出てこないか、どちらにせよ。本気の境界戦妖相手に俺がどこまで通用するのか分からない。
ならば確実に対応出来る人物に任せるのがベストだろう。
戦える段階まで回復できた俺はショートソードを構え、強化魔法で脚力を強化、一直線に老人エルフに突っ込むために駆け出した瞬間に光の弾とすれ違った。
後方で大爆発が起き、煽りを受けてバランスを崩してつんのめって転びそうになる。バランスをとって倒れるのを防ぐ事は出来たが老人エルフの大分手前で止まってしまった。
「今のを避けるか」
前から声が聞こえ、気づけば目の前に境界戦妖が立ちはだかっていた。
気付いて「避けた」訳じゃなく偶然だったが相手がそう勘違いしてくれてるなら訂正する必要も無いだろう。
「まサカ俺を狙ってクルとはネ」
「獣の王は確実に殺す。むしろ、その為の障害こそ潰すべきであろう?」
「こンナ、ガキンチョを警戒しテンのかヨ」
「当然だ。今回も我らの出鼻を挫いたのもお前なのだろう?」
境界戦妖が短剣を抜いて構える。ただシンプルに腕を伸ばし刀身をこちらに向けているだけの構えなのに隙が無い。偶発的に交戦した前回と違い万全の状態で構える境界戦妖から受けるプレッシャーは尋常では無かった。
「俺よリ先にイヨツを潰しニ行イク思っタヨ」
「獣の英雄も確実に殺す。だが不確定要素の塊であるお前の方が危険度が高い。これ以上の邪魔はさせん」
「オ高くゴ見積モリ有難いコッテ」
境界戦妖は片腕を失って再生は出来ていない様子、戦闘力は前より明らかにダウンしている筈、なのにも関わらず勝てるビジョンが浮かばない。獣化したイヨツを前にした時の様な、勇者や変態博士の闘いに感じた様な圧倒的な差を感じる。
だけど…。
「何か可笑しな事でもあるか?」
「あ?可笑シナ事?」
「“威圧”で精神を病んだ訳では無い様だ。だがこの状況で、その表情はまともでも無さそうだ」
「は!子供相手ニ本気で殺気放ッテるアンタの方がマトモじゃネーだろ!」
ショートソードを2本を両手に握り込んで構える。勝てる、勝てないは考えない。
「この状況で笑顔を作くる子供をまともとは言えんだろ?」
「成ル程、笑っテンのか俺ハ」
「ああ、そんな狂人が『境界』を突破する程の戦闘力を持つのなら確実に殺す必要があるだろう?」
「狂人ネ。まぁ、俺ガ「まとも」ジャないのハ知ってイル」
そう、俺は狂人なんだろう。異常者なんだろう。子供の体に大人の精神、改造された身体に前世の記憶を引き継いだ歪な魂。
ジジイにも「まともじゃ無い」って言われたな。
楽しい訳じゃ無い。面白い訳じゃ無い。でも興奮している。
前には百戦錬磨の強者が俺を殺す為に立ち塞がる状態。死ぬか生きるか、生か死か。そんな中で俺は笑っている。
どうしようもなく昂っていた。
「お前が狂っていようがいまいが結果は変わらん。お前を殺して英雄も殺して獣王を殺す。最終的には獣人全てを殺す」
「分カリやすくテ良いネ!」
「ガブラアデナテ」
境界戦妖の構えた短剣の先から光の球が発射される。超至近距離での魔法、前にも食らった爆発系魔法。さっきの偶然避けた極爆魔法の球と同じモノ。直撃を避けられる距離じゃ無い。防御しても意味はない。
出来る事は1つしか無かった。スパッと光の球を斬る。結果がどうなるか分からなかったが、それしかやりようが無かった。
斬った光の球は爆発する事無く霧散する。
どうやら爆発系の魔法は「爆発」と言う結果が出る前なら魔法を斬るショートソードで無効化出来る様だ。
「極爆魔法すら無効化するか…」
「へっ!やってヤレねー事ハねーてッナ!」
「なら、直接攻撃で終わらせるまでだ」
スンっと境界戦妖が間合いを詰めて来る。バックステップで後方に逃れつつショートソードで斬りつけ短剣で受けさせる事で攻撃をそらす。
更に逆サイドのショートソードで斬りつけるが身体を捻って回避された。
全身強化魔法を使って応戦するも片腕、短剣一本の相手に防戦一方に抑え込まれる。
獣人の英雄と渡り合う男なら片腕だろうが、半端な子供などに遅れは取らないだろう事は想定してたが正直、想像以上で参る。
「ダバデギンガラ」
境界戦妖が魔法を唱えた。全力全開の戦闘中に極限に高まった集中力で危険を察知、逃げる為に離れようとした瞬間に稲妻が俺を貫いた。前回の喉を掴まれた状態での放電では無く普通に離れた状態からの稲妻による攻撃。
掴まなくても他の攻撃系魔法と同じ様に飛ばしてくるタイプもあるだろうと警戒はしていた。しかし稲妻は見てから避けられる様な品物では無かった。
意識が飛びそうになる。否、瞬間的には意識は飛んでたのかもしれない。身体は全身麻痺した様に動かない。
極限的に高まった集中力よって世界がまるでスローモーションの様にゆっくりはっきりと見える。
境界戦妖の短剣がゆっくりと近づいてくる。避けなければならないのに身体は動かない、それどころか痺れて持っていたショートソードを手放してしまっている様な状態。
「生命力の高いモンスターでも首を落とされれば死ぬ。貴様はどうだ?」
首を狙ってるの軌道から分かるのに躱す事が出来ない。確かに俺でも首を斬られたら死ぬ。マッドサイエンティストが言っていた。俺が“強化細胞”に適応出来ているのは「心臓と下腹部に2つある【魔臓器官】による魔力の循環率の高さ」だと。血管で血と共に魔力が瞬時に循環する事で強化細胞が活性化して尋常じゃない回復力を出す。
首と胴体が切り離されれば血流によって巡る魔力を回す事が出来ない為に普通の人間と同じ様に死ぬ。
スローモーションで近づく短剣をどうにかする為に意識を内側に向ける。動かせる様な部分が無いかを確認すると何故か左腕だけは動かせる事に気づいた。
咄嗟に近づく境界戦妖の腕に左腕をぶつけ掴む事で首を半分斬られたところ止める事が出来た。
普通なら左腕をぶつけたくらいじゃ止められないだろうが強化魔法が維持されていた左腕は協会戦妖の腕を歪め、掴んだ左手の指先は第一関節辺りまで食い込んだ。
「化け物め、ここまで来ると『人』なのかどうかも疑問になるな」
境界戦妖が止められた腕に力をこめて力付くで首を斬り落としにかかる。
左腕に魔力を回し掌の火の出る魔法陣を発動させ掴んだ腕を直接焼いた。
己の掌ごと境界戦妖の腕を焼く。以前にノモマイタングの脳味噌を焼いた時と同じ戦法。普通ならあり得ない戦法だが生か死かの極限状態だからこその一手。
流石に腕を焼かれるのを嫌がった境界戦妖は短剣を手放し俺を全力で蹴り飛ばした。
衝撃に再び意識が飛びかけ、その一瞬の怯みで左腕の力が抜け境界戦妖を逃してしまった。
息がまともに出来ない。魔力が身体中を巡り回復を促しているが間に合っていない。斬られたら短剣が離れ一気に血が出過ぎて出血多量で血流と共に巡る魔力の巡回が上手く行ってないのかもしれない。
「流石に右腕まで失う訳にもいかんのでな…」
境界戦妖は回復薬らしき物を取り出して飲み干すと右腕の歪みは治り傷は塞がった。
此方も意識は朦朧としているが首はくっつき体の痺れ自体は無くなり始めているのが分かる。
「流石に動きは止まるか?」
境界戦妖が掌を此方に向けてくる。十中八九攻撃魔法が飛んでくる。避けたくとも未だ体立ち上がる事すらままならない。
何の魔法を撃つつもりなのかは分からないが今の状態では直撃を受けてしまう。
無防備に身構えていら突然、境界戦妖が火柱に飲み込まれた。
目線を回すと後方から魔法使いらしき冒険者が火柱が出る魔法を唱えてくれたらしい。
更に半獣人の冒険者らしき男が俺を抱えて境界戦妖から引き離してくれた。
「大丈夫か?いや、どう見ても大丈夫では無いか…」
助けてくれたのはギルドで揉めた狼型獣人のパーティのリーダーだった。
「おい!どうすんだ!!こんなのちょっとした時間稼ぎにもならねーぞ!」
「リーダー!そいつは境界戦妖に目をつけられてる!巻き込まれちまうぞ!」
「分かってる!だが!」
半獣人のパーティは俺と境界戦妖との争いに介入してしまった事で揉め事になってしまったようだ。
境界戦妖は火柱で直接ダメージを与えられるとは思えない。境界によって魔法そのモノは防がれる。だが間接的なダメージは与えられる。
境界が全てをシャットダウンするなら息を吸う事すら出来ない。火柱で全てを囲めば『火』は防げてもそこから発生する『熱』までは防げ無い。
それにあの状態は俗に言う「魔法封じ」の状態だ。『魔法は呪文を唱える事』で発動する。「魔力を声に乗せて音」にする事で初めて魔法は確立する。
故に声を出せない状態では魔法を放てない。例外として強化魔法は慣れると声を出さなくても使える様になる。理由はよく分からない。
「来るぞ!」
息のできない場所に長居する訳も無く火柱から境界戦妖が飛び出してくる。
魔法使いの冒険者が更に魔法を唱えるが境界戦妖は軽く避けてつつ此方に向けて近づいてくる。
だが今度は白銀の鎧を着た獣人達によって行くてを阻まれる。
「助かった…。獣王の近衞だろアレ…」
「ああ、今のうちにサッサと引くぞ!境界戦妖となんてやってられねー」
「そうだぜリーダー、その子供を助けたのは良いがこのままだと俺ら全滅だ」
「すまない。だが」
「あ、あぁがぁ」
ありがとうと声を出そうとしたが再生したばかりの首は、喉に何かが絡まって上手く喋れなかった。
「大丈夫か?喉に血が詰まってるみたいだな、よし」
半獣人のリーダーは俺の胸辺りに掌底を打ち込んできた。すると押された肺から無理矢理に空気が外に出ようと沸き上がり喉に絡んだ血ごと外に吐き出された。
「がっはぁ!はぁはぁ。あ、ありがとうございます」
「そうか、それなら良かった。トヒイだったな、ここから離れるが動けるか?」
身体自体は強化細胞をフル活性させている為に主だった傷は塞がっている。我ながら化け物じみた生命力だと思う。
「すいマセん。後デ弁償しますンデ回復薬とカ譲ッテ貰えませンカ?」
「あ、あぁ。まぁ良いが」
ゴソゴソと取り出された回復薬はそこそこ効能高い良い物だった。
「リーダー!サッサとしろ!こっちは先に行かせてもらうぜ」
「ああ、先に行ってくれ!付き合わせて済まない」
「それは言いっこ無しだ。だが俺も行かせてもらうぞ」
なんだかホッコリするパーティだな。とか思いつつ受け取った回復薬を一気に飲み干す。
効能高めの為か内側から一気に魔力の巡回か活性化して体調が整っていくのが分かる。
「ありがトウございマス」
「まぁ。ウチの変なのが迷惑かけたしね。身体も…今ので回復……したのか?え?アレ?首が斬られてたよね?今のだけで完治する様なモノでは……」
「ああ、それは、まぁ俺は化け物だから」
「いや、そう言う事では、あの」
「ソレにあノ兵隊達じゃ、アイツを止めラレない。アイツと真ッ当にやリ合えるノハ「英雄」ダケだかラ」
「そうだ。だから後は任せて離れよう。流石に荷が勝ちすぎる」
「ウン。ダけどアイツと英雄ヲぶつケル為にハサ、コノまま逃ゲル訳にはイカねーんダヨね」
「何を…」
「アイツが足止メヲ食らッテる間にアッチのジジイをどうにカシネーと」
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