第24話 ヤツの居場所

 医療場で目を覚ましてギルド庁舎で冒険者ライセンスを受け取った俺は宿屋に戻る事にした。

 宿屋への道のりに来たばかりとあまり変化は見られないが、所々に明らかな戦闘痕がみて取れる。活気は戻っているがあくまでその場凌ぎの状態だと分かった。

 原因のテロリストは捕まって無い。街中に潜伏しているらしいし、数日後の王様の演説に再度襲撃を仕掛けてくるらしい。

 果たして演説日まで黙っているだろうか?


「お?トヒイ戻ったか?」


 宿屋の近くまで戻ってきたところでノタイに話しかけられた。相変わらず存在感が薄い。


「死にそうになってたってイソホから聞いてたが…、大丈夫そうだな」

「マッ。頑丈ダケが取り柄みたイなモンだからナ」

「お前が頑丈なだけって…」

「フフフ、だガ今日カラ俺は一味違ウ」

「はぁ?」

「見ロ、コノ冒険者ライセンスを!」

「おー。シンセもなんか自慢してきたがソレがどうした?」

「…。」


 ライセンスを貰って浮かれていた気持ちがスーと引いていく。

 シンセ達の村は魔境が近いからか近隣のモンスターのレベルが高い。王都までの旅すがらその事がよく分かった。村から離れる程にモンスターは弱くなっていった。

 それでも家族で門番やってた村の周りにいたモンスターより強いが。

 そんなモンスターと常に戦い続けた村の者にとって冒険者ライセンスを得る事なんて簡単でどうとでもなる物なんだろう。

 そんな物を見せびらかされても「だから?」となるのは当然か。


「あ、イヤなんでモ…。そうダ!俺の武器ハ?」

「ん、ああ。部屋にあるぞ。ちゃんと4本拾ってきたからな」

「ありがとウ」


 感謝の言葉を伝え、そそくさと宿に逃げた。ノイタは気にしてない様子だったが個人的に妙に小っ恥ずかしくなってその場にいれなくなってしまったのだ。

 自分が寝る為に使っていた部屋に入るとイソホが武器の手入れをしていた。部屋中に色々な武器が敷き詰められおりイソホが真ん中でいそいそ動いていた。


「戻ったか」


 イソホは、こちらを向かずに武器の手入れを続けながら反応してくれた。


「イソホ、俺ノ武器はドコ?」

「お前のショートソードならそこだ。すまないが杭のようなヤツは回収できて無い」


 部屋の端っこに4本立て掛けられていた。杭はどうとでもなるヤツだから無くなっててもどうと言うこは無い。


「イソホも防衛依頼受けタノか?」

「ああ。私だけじゃない。遠征組の冒険者ライセンス持ちは全員な」

「そっカ」

「その様子ならお前も依頼を受けたんだな…。」

「マァね」

「……体は大丈夫なのか…。お前が頑丈なのは理解してるがな。流石に今回は肝を冷やしたからな…」

「ン?あぁ大丈夫ダヨ?俺ハ死ナナい限りは死ナナいから」

「それは頭では理解しているけどね。イトフは未だに意識が戻ってないからな」

「イトフは今ドコに?」

「会ってないのか?お前と同じ医療場に居たはずだが?」


 しまった…。

 自分の事で頭いっぱいでイトフの事に思いが至らなかった。後で様子を見に行かなくては…。


「防衛任務は3日後まで続くが当日までは各自、自由行動で良いとイヨツは言っていたぞ」

「了解!」


 武器を受け取り部屋を出る。当日までやる事が特に無いが寝るには早いし、旅館内でやる事も無い。

 出戻りだがイトフの様子を見に行こう。もしかしたらまた『臭いヤツ』を見つけられるかもしれない。

 ギルドに向かう途中に通行禁止区画が出来ていた。ここは俺とエルフが悶着起こして境界戦妖に吹き飛ばされた区画だ。

 直系20メートルクラスの爆心地に余波によって崩された建物。改めて「魔法」とは凄まじい効果を生み出す品物だと思う。自らの魔力さえあれば『何でも出来る』前世で同じ結果を出すにロケットランチャーを用意するぐらいは必要だろう。

 こんだけの威力を簡単に生み出せる魔法を使ってくる相手が当たり前の世界で物理的な剣や杭だけで対応するのは限界がある。身体強化と強化細胞の回復能力で無理を通すのも直ぐに限界がくる。3日後にエルフのゲリラ兵どもと対立した時に前回と同じ様に吹き飛ばされる訳には行かない、対策を考えないとならない。

 そんな事を考えながら、ギルドに向かう為に遠回りをして慣れない道に迷子になり、あたふたしつつ無駄な時間を費やし、やっとこさギルドの医療場に着いた。

 出ていった時には気づいて無かったが、外の今回の出来事は終わった雰囲気と違い医療場内は今回の襲撃の激しさを痛感する程に重傷者が転がっていた。


 まるで映画で見た野戦病院だな。


 治療部屋に入りきらなかっただろう多人数の中に一際デカい熊の獣人が横たわっていた。


「イトフ…。」


 普通なら身体がバラバラに吹っ飛んでもおかしくない、爆発魔法の直撃を受けて瀕死の状態で担ぎ込まれたイトフは、回復薬や魔法での医療処置は完了しているようだが依然として意識は戻らない。

 さっきまで冒険者ライセンスカードを得て盛り上がってた自分が恥ずかしくなる。

 仲間がこんな目にあっているのに浮かれて頭から抜けてた自分は最低のクズ野郎だ。


「仇は必ず討つからな。さっさと起きろよイトフ」


 仇を討つにしても、このままでは二の足を踏むだけだ。どうすれば良い?2日程度鍛えたところで爆発的に能力が上がる事なんて無い。直ぐに結果を出せて有効な手立てを考える必要がある。

 この先も生き残る為にも必要な手段は増やしておく事に損などない。

 どうすれば良いか?今、何をすべきか?

 境界戦妖の様な“境界”や“魔法”を直ぐに習得できる手立てが有れば問題なんて無いがそんな都合の良い事など起きてはくれない。

 前に村で魔法を習った時も上手く使う事が出来なかった。どうやら獣人族の使える魔法と人族の魔法は違うらしく上手く発動しなかった。前にジジイが言っていた「法則」が獣人と人で違うから上手く行かないのだろうか?

 それでも効力の低い生活魔法はギリギリ使用に耐えられる程度には使える感じで習得出来たので良かったと思ってる。

 それなら仲間との連携の強化?それも有りだが付け焼き刃は変わらない。少なくともあの境界戦妖には通用しないだろう。

 俺自身に選べる手段を増やさねば百戦錬磨の境界戦妖にはもう通用しない。前回アイツに剣が通ったのは運が良かっただけだ。次は間合いを取られて魔法ですり潰されちまうだろう。

 まるでロケットランチャーみたいな魔法やスタンガンみたいな魔法、ハイウォッシャーみたいな魔法も鎌鼬みたいな魔法もあった。

 俺に出来るのは身体強化魔法と数種の魔法陣だけ。さてどうするか…。

 ロケットランチャーみたいな魔法…。ロケットランチャーか…。

 そこで1つ思いついた。


「やれるだけの事はやんねーとな…」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 王都の某商会地下

 初老のエルフが片腕を失ったエルフに回復魔法を施していた。


「スボトスすまぬ。私の回復魔法では消失した腕まで再生する事は出来ん」

「構わん。身体再生は『秘薬』か『天元魔法』でも使わんと不可能だろう。神官同様の魔法など一般兵に行使できん事は理解してる」


 片腕を無くしたエルフは初老のエルフ方に向きもせず、目の前にテーブルに広がった王都ルマニアの地図を睨み続けていた。


「傷口は塞いだが…。お前が片腕になってしまうとは…。くされ獣の英雄めが!!」

「確かに奴が現れたのは計算外だが、その前に俺が殺し損ねた人の子の方が問題だ」

「スボトスに秘薬を使わせた子供だったな」

「ああ、奴は境界ごと俺を斬った…。絶対防御の境界を苦もなく切り裂いた」

「天より代々引き継がれてきた【究極の結界魔法】を基に作られた超高等防御結界術式の『境界』が引き裂かれるなどあり得ん筈だが…」


 だが引き裂かれ、俺は斬られた。

 それにあの子供は“普通”では無かった。人族として強い弱いでは無い。『生き物として異常』とすら感じた。強者ですら即死する攻撃を受けても死なないどころか反撃までしてきた。

 獣人語カタコトで妖人語も理解してはいない様子だったが…アレは何だったんだ?


「偶然などはあり得ない。奴の術か魔具の効果か分からんが境界を抜けてくると考えるべきか」

「たかが人族ごときが境界を抜けるなどと、ふざけた事よ!」

「理の破壊者である大賢者や勇者などと呼ばれる愚者も人族の筈だ。人族の中には天が定めし事象から外れる者が多い。あの子供も“その類”かも知れん」

「忌々しい。選ばれし種族たる我らエルフがこの様な惨めを晒し続けるとは…、天の采配は人族を選んでいると言うのか……」

「そうかも知れん。この地を1000年もの間、獣に抑えられ取り返す事が出来ていないのだからな」

「スボトスよ。お前には悪いがここで引く訳には行かん。獣に『奪われし聖地』と『天に帰る為の手段』を取り戻さねばならん。今回の件で獣は都市防衛を更に強化するだろう事は確実。引いて次いつこの穢された都市に入れるか分からん!今回で決着を付けねばならん!!」

「元より承知の上だ。愚かしくも3日後に獣王は愚民の前に姿を表す。その時に全て終わらせる。“混ざり物達”はあと何人残っている?」

「あと7人だ。想定以上に消費してしまった…。もはや“崩し”で使用するのは無理だろう」

「なら獣王までの道を用意する為に使うしかあるまい」

「そうだな。都市破壊は後からでも出来る。今は確実に獣王を落とそう」


 3日後だ…。確実にこの地を我らの手に……。

 戻す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 獣王が演説をする場所は王城横の謁見広場などと呼ばれてる場所だった。

 城を守る城壁が一部せり出ており、そこを起点に扇状に広がった広場で城壁の窓から王からの有難いお言葉を賜るらしい。


「正直ナとこロ、わざわざ危険ヲ承知で王様がココでスピーチすんノカ理解できんノだけど?」

「こんな時だからだろう。エルフどものしでかした傷が王都に残ってる以上、どんなに情報統制したところで不安は無くならん。王自ら民に声をかける事で不安の払拭に繋がる」

「本当ニそれだケ?」


 そんなわけ無い。多分エルフ同様に獣王サイドも“今回で終わらせる”つもりなんだろう。

 天敵である境界戦妖は負傷していたとしても千載一遇のチャンスを逃す訳が無い。確実に攻めてくる確信があるからこそ自らを餌にしてでも釣り出して終わらせるつもりなんだろう。


「さてな。そこまで俺たちが考える必要は無い。依頼は防衛だ、どうであろうとエルフ達の好きにさせなければ良い」

「マ、そうだヨネ」


 王様の建国記念の演説2日前、ノイタと共に演説会場の下見を行いつつ、怪しい奴らがいないか探っていた。


「当日はココに何人集まるンだ?」

「さぁな、貴族含め1000人以上は集まるんじゃねーかな?」

「マジかァ…」

「ああ、厳重な検問はするだろうが不安しか無いね」


 当日この広場も王様のいる防壁の窓も強固な結界で包み外部からの侵攻はシャットダウンすると衛兵は言っていた。

 だが門番やってた俺には結界の穴がよく分かる。どんな結果でも出入りできるタイプは出入り口が脆くなる。俺がテロリストならその穴を確実に突いてかち込む。

 そしてこの場所が戦場になれば結界で逃げ場が無い民衆は皆殺しにされる可能性すらある。


「獣人を目ノ敵にシテるエルフにハ格好の的になるヨナ」

「エルフは俺らの命なんてゴミとしか思ってないからな。獣王ごとすり潰されんだろ」

「なラ、やっパリ仕掛けらレル前に仕掛けルしか護ル事ハ出来なイカ…」

「ソレが出来りゃなんの問題も無いが、そもそもソレが出来んなら防衛任務なんて後手な手段取ってないんよ」


 エルフの潜伏場所が分かっていれば総力を上げて叩きに行くのが定石なのは考えるまでも無い。

 そもそも今まで侵入を拒み続けた王都にどうやって侵入してきたのか?侵入するだけならジジイと初めて会った時の様に王都の結界をスッとすり抜けて入ってくる事は可能だろう。衛兵や壁外警備隊の目は認識阻害の魔法でどうとでもなるかも知れない。

 だかそれが出来るなら最初から数を揃えて侵攻してしまう方が早い気がする。大国の首都を守る防壁なのだから、そこらの村の結界とはモノが違う可能性は高い。実際、魔境を取り囲む結界は普通の結界では無かった。同じ結界を使用してるとしたら簡単には突破出来ないのは理解できる。

 上がダメなら下ならどうか?基本、村や都市を取り囲む結界はあらゆるモンスターの侵入を拒む様に地下にも伸びている。監視に気づかれない様に穴を掘るなら相当遠くから地道に作業しなければならないし、その上で強固な結界を越えなくてはならない。

 認識阻害の魔法が使えるなら行商人等に紛れて侵入した可能性はどうか?最高位の認識阻害は目の前にいても気付かないレベルらしい。それなら侵入が可能なのではとも考えるが、そもそもその程度で侵入出来るならもっと早い段階で事を起こしてるだろう。多分、出入り口に使われる門には広範囲で隠蔽工作を見破る仕掛けでもあるんだろう。

 普通に考えれば『内通者』がいるとしか考えられない。どんな強固な守りも内側から開けてしまえは無意味なのだから。


「エルフの侵入ヲ手引きシタ奴がいるカ」

「んー、獣人とエルフの間の確執を考えるとそれは無いと言いたいがなぁ…」


 1000年争い続けてるらしい両者はもはや遺伝子レベルで嫌いあってると言える、だが。


「王都ルマニアにハ“獣人だケガ住んでル訳じゃ無い“」

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