第23話 初依頼。

「見ての通り、ステータスの数値は現在の進行で変わり続けます。つまり数値だけでは“実力”は判断しかねます。」

「だカラ目安てイど」

「ライセンスから全ての情報を精査できるのは『ギルド』だけですから」


 成る程、ギルドだけね…。


「それに数値以外にも各個人の【天恵ギフト】【才能タレント】【技能ギフト】の有無によって戦力や評価は変わります」

「ん?ギフト?タレント??スキル??」


 また、ゲーム的な用語が出てきたな。


「あー、ナエサ君はライセンス発効後の講義は、受けてなかったですね」

「講義ッスか?」

「そうです。任意ではありますがライセンスを受け取った冒険者はライセンスに関するアレコレを受講する事出来るのですが…まぁ、ナエサ君はギルド長から直接受け取って、今に至ってる訳ですから仕方ないですね」

「本当ハ、ちゃンと受け取ッテ、講義も受けたかったんデスけどネ」


 情報は力だ。無知は可能性を狭める。得られる知識を逃してるのが悔やまれる…。だが、今からでも最低限の知識は得られるだろうか?受付に聞けば忙しくてもステータス関連ぐらいは教えてくれるだろう。


「あのソノ、ギフトとかタレント?でスカ…教エテもらえマす…」

「そうですね。シンセ君なんかは講義が座学と聞いたとたん出ていかれたらしいですが」

「ハハハ」


 まぁ、アイツならそうだろうな。本能で生きてる、ザ・獣人のシンセらしい。


「とは言ってもここで長々教鞭を振るうわけにもいきませんから、そうですね。殆どはライセンスの取り扱い説明書に載ってますので、今聞かれた事だけ手短に」


 何と!取り扱い説明書があるのか!それはそうと聞ける事は聞いておこう!読み書きで覚えるのは大変だからな!!聞いて理解出来たら楽だ!!


「大賢者が作り出したステータスによって“世界のあらゆる生命やそれに準ずるモノ”には『固有の能力』がある事が判明しました。それが「天恵ギフト」「才能タレント」「技能スキル」と言われる能力です。天恵ギフト才能タレントは先天的に持ち合わせる能力で技能スキルが後天的に手に入れた能力になります。一般的に【能力アビリティ】なんて言われてます」


 アビリティねぇ、いよいよもってゲームくさい呼び名だな…。大賢者様はゲーマーだったのかな?


「それではナエサ君の能力を確認してみましょう。ライセンスに触れた状態で映したい事柄を思い浮かべてながらオドをライセンスに流すだけですで大丈夫です。」


 言われた通りに能力を映し出す様に考えながらライセンスに魔力を流し込むとステータスの表示が変わって能力が映し出されてきた。



天恵


才能


技能

・基礎生活魔法

・低級魔法陣

・低級身体強化魔法



「生活魔法」と「魔法陣」と「強化魔法」か、技能スキルは後天的って事はコレはジジイや獣人村で教わって使える様になったから表示されたのか?

 ってか俺には天恵ギフト才能タレントも無いのか…。


「はぁ、ナエサ君は実に一般的な能力ですね…」

「地味ダナ」

「そうで…すね。オド数値は天恵ギフトか何かだと思ってたのですが」


 あれ?後天的といえば『強化細胞』関係はステータスには乗らないのか?改造による身体変化や強化は確かに技能かと言われれば違うか…。


「確かに目立った能力は無い様ですがナエサ君は実際、境界戦妖と渡り合う力がある訳ですからステータスの数値同様に目安程度に思っておいて下さい」

「因みに天恵ギフトとカ才能タレントってドンなのがあるのデス?」

「そうですねぇ。天恵ギフトは滅多に持ってる人はいませんね。それこそ『神』に与えられた能力と言われてるモノですから。まぁ、有名なのは【神子】様の『真言受信』ですね。悩みを言うと確実で的確な解決方法を返答してくれると言う能力だそうです」

「ミコ?」

「ええ、【世界教】の神子です」


 世界教ねぇ…この世界では1番メジャーな宗教なのだが…。前世でそうゆうの一切信じて無かった事もあり、胡散臭いモノとしか思えなかったが、魔法だ妖精だのが当たり前に存在するこの世界で前世とは同じ考え方をするのは根本的に違うのかも知れない。

 まぁ、それでも俺には関係無いが…。


才能タレントには『直感』や『加速』とかが有名ですかね。直感は自身に直前に起こる事を読み取る能力で加速は瞬間的に通常の数倍の速さで動ける能力です」

「直感ハともかク。加速は魔法デ再現できソウだナ」

「ええ、個人の能力の才能を魔法で再現して“誰でも使える技術”にしたのが俗に言う【魔術】って奴ですね」

「魔術…」

「魔術を使う冒険者は多いですよ。やれる事が多いと言う事はそれだけ依頼達成に有利に働きますから」

「魔術カ…」

「ライセンスには他にも『言語自動変換通訳機能』とか『時刻表記機能』等、便利な機能がありますので冒険者として覚えておいて下さい。因みにライセンスの取り扱い説明書はヨダモノケ銀通貨30です」

「思ったヨリ高イ…」

「それは、こちらも商売の部分ですから、どうします?」

「買いマス」


 どうやらライセンスは超高性能なスマホの様な印象をうける。機能の把握は今後の旅路にかなり響くと思われる。知識は力!出来る事、出来ない事の確認は咄嗟の判断にも関わる。

 取り出した金銭袋の中は、なけなしの銀通貨42枚だ。実は辺境暮らししかして無くて物価が分かっていない為、ぼったくられてるのかどうかも判断出来ない訳だが…。

 残りが銀通貨12枚かぁ。外で食べるホットドッグ的な食べ物で銀通貨3枚だからなぁ。世知辛いぜ…。

 受け取った取説をしまっていると奥からまた別のギルド職員が現れて今まで対応してくれていたギルド職員に耳打ちする。

 獣人同士の耳打ちは何度か見た事があるが“耳”の位置が人族とは違う為、動物同士が戯れあってるみたいに見えて不思議な感覚だ。


「ところでナエサ君、早速なんですが1つ依頼を受けて頂けませんか?」

「エ?なんデス?」

「三日後の国王演説時の防衛依頼なんですが…」

「防衛…」

「昨日の暴乱を起こした境界戦妖は、未だ生死不明の潜伏状態です。王都は統制を考え表面上は平穏を取り戻し、日常を取り戻した様に見せてますが、裏では未だ過激派エルフの詮索が続いています」

「アイツが未だニ」

「正直、人手が足りてません。境界戦妖が見つからない今、少しでもいざという時の戦力を整えておきたいと、境界戦妖と渡あった実力のある君なら新人だったとしても戦力的には充分ですし」

「潜伏って、モウ王都かラ脱出してイル可能性ハ?」

「勿論、その可能性も有ります。潜入に気づけなかった以上、侵入時と同経路を使う事で包囲網を抜ける事は可能でしょう…。ですが、わざわざ危険を犯して侵入した王都で“目的”を果たさず撤退する様な事は無いと考えられてます」

「目的ネェ…ってカ、俺アイツ等ノ『目的』って、よく分かランのだけド」


 そう言えば、あのテロリスト集団?の目的とか全然知らないわ。然程、興味も無いのだが。


「エルフの目的なんぞ決まってます。『王都転覆』ですよ」

「そう言エバ1000年争ッテるとか?」

「ん?そうですよ。彼等が言うにはこの土地は元々エルフの所有物で獣人はそれを侵略し強奪した悪者だそうで」

「奴らニとっチャ、獣人の王様は怨敵ノ頭領ッテ訳か」

「歴史上、過激派エルフがここまで王に接敵した事はありませんでしたから、このまま撤退するとは考えずらいかと」

「ふーん」

「ですので戦力強化の為に防衛任務を受けていただけたらと…」


 境界戦妖か…。正直まともな状況下でもう一度やり合っても勝てる気がしねーのが悔しいが、やられっぱなしなのも締まらねーしなぁ。

 やられたからにはやり返す。きっちりお礼参りは決めてやりたいが、今のままではどうしようもない。

 俺1人では勝てない。

 ならば。


「どうです?受けてもらえますか?」

「あ。アー、受ケルよ。どうセ、イヨツ達も依頼受ケてんだろ?」

「はい、皆様この依頼は受諾済みです。因みにシンセ君も」

「だろウな」

「では、ライセンスを渡して下さい。依頼受諾をライセンスに登録しますので」


 ライセンスを受け取ったギルド職員は小さな箱の様な魔具の上にライセンスを置くと魔法陣が浮かび上がった。更にペンの様な魔具でライセンスの上の空間に何か書くと光る文字が浮き出てライセンスに溶け込んでいった。


「コレで『国王演説時の防衛任務』は受諾されました。一応、他の依頼も同時受諾は出来ますが期限が決まってる依頼を放置するとギルド的に受諾者の評価が下がりますのでお気をつけを」

「ナルほど」

「では、ライセンスを返却しますね。」


 スッと差し返されたライセンスを受け取り改めてライセンスを見る。表面に変化は見られないが先程と同様に表示したい事柄を意識しながら魔力をながすと受諾状況浮かび上がる。


【現在受諾中内容】

①ヨダモノケ国王演説時における防衛依頼

 [主旨]過激派エルフによる国王襲撃警戒及び鎮圧、演説前後の破壊活動の阻止及び鎮圧・襲撃犯の生死問わず。

 [期間]剣の時 8日(終日)

 [注意事項]演説場・王城前広場 演説開始予定時刻・5の刻

 [報酬]成功報酬ヨダモノケ金通貨100枚、依頼終了確認時支払い。賞金首の報酬は各別途支払い。



 成る程、実に分かりやすい。魔力を通して意識をライセンスが受信して、対応した事柄を表示するようだ。まさにこの世界版のスマホのような魔具だ。

 更に『賞金首』を意識しながら魔力を流すと表示がまた変わる。ズラッと顔と名前、懸賞金がカードの上にスクリーン出て映し出された。この表示形式はむしろスマホを超えている。

 境界戦妖(本名不明)で懸賞金ヨダモノケ金通貨14000枚か、他の賞金首の懸賞金が10〜1500枚前後。成る程、境界戦妖だけ桁が違う。

 国を落としのテロリストの首領なら国際指名手配の極悪犯って事になるから妥当なのかね?


「それジャ…」


 行きますね。と言おうとした時に俺の後方の壁が炸裂して俺の所まで何かが飛んできた。

 振り向けば先程揉めた獣人の男が息を荒げて立っていた。どうやら相手を壁を突き破る程に吹っ飛ばした様だ。


「ああぁ!!テメー!!コレで納得だろうがぁぁ!!」


 どうやら先程絡んできた粗暴な狼型獣人がリーダーっぽい半獣人をぶっ飛ばしたらしい。

 しかも粗暴な獣人は獣性強化まで使っているのか体毛を逆立てて眼光を放っている。しょうもない喧嘩でやり過ぎだ。

 吹き飛ばされてきた半獣人の男は意識を失っているのか、グッタリして動かない。

 なんだか嫌な予感がする…。目の前でいきり立ってる獣人の様なタイプは“何となく覚えがある”。確実にまた突っかかってくる…。


「テメーだ!そうだぜ!!あぁぁ!!テメーのせいで面倒な事になったんだぁ!」

「は?何イッてんノ??」

「はぁ?んだテメー!分かってねーのか?あぁ??」


 あーこりゃ駄目だ。さっき会話した時から思ってはいたがやっぱり会話が成立しねー。あの手のタイプは獣人云々関係なく感情を制御出来ない。今は何を言っても通じないし無駄か…。


「キミ!この前もギルド内で暴れて注意されてますよね?今回は壁まで壊して、コレは器物破損と業務妨害ですよ?分かってます?」

「はぁ?んなもんソイツのせいだろーが!!オレのせいじゃねーだろがぁぁ!!」

「いやいや、ナエサ君は関係無いでしょ…」

「うっせー!ソイツがわりーんだよ!ぶっ潰してやんよぉぉ」


 興奮して状況判断が出来ないのか…ってか馬鹿だからそもそも関係無いのか?


「アレって懸賞金かカッて無イですヨネ」

「えーまぁ、彼は犯罪者では無かったので…」

「うーん、無駄骨ハなァ」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねーぞ!!このクソガキがぁぁぁ!!」


 狼型獣人が真正面から突っ込んでくる。だが遅い。イオツやシンセのスピードと比べると遅すぎるぐらいだ。故に簡単に避けられる。

 獣人はそのままドガンと大きな音をたててカウンターに突っ込んで粉々に砕いていた。


「はぁ、イオツ君。彼を止めてもらえますか…。お礼は支払い致しますので」

「流石!ありガたい、了解。コレが冒険者とシテの初仕事カ」


 バガンっと勢い良く狼型獣人が立ち上がると同時に仕掛ける。

 脚力強化と靴の魔法陣を使った加速で間合いを一気に詰めて相手の頭を掴んで地面に思い切り叩きつける。鍛えてない一般人なら死ぬぐらいの衝撃だが、冒険者の獣人なら大丈夫だろう。

 ドゴンと今日一番の音をたてて床に叩きつけられた獣人はそのまま気絶してくれた。


「一撃ですか…」

「まぁ、コノ手の相手ニハ慣れてルので」

「そ、そうですか…。あ、あぁ、支払いは後日で先にギルドの被害状況の確認と彼に関する罰則に関する事柄を終えてからで…」

「良イっすヨ。まだ数日はココに残るんデ」


 気絶してる獣人は手早く手錠と縄で縛り上げられ気がついても身動きが取れない状態にされていく。


「コイツどうナるの?」

「そうですね。今回は被害総額の強制支払い後ライセンス剥奪のち憲兵引き渡しってところですかね。ただ昨日の件でゴタゴタしてますから、引き渡しに時間がかかりそうなのが…」


 他のギルド職員によってズリズリ引きずられながら暴れた狼型獣人が奥に運ばれていった。

 ギルド職員はため息を吐くと倒れているネコ耳の半獣人を揺さぶって起こしていた。


「あが!」

「起きましたね。ウヨヒさん、大丈夫ですか?」

「あででぇ、あぁーすんません。アイツは?」

「彼が対応してくれまして、ヌイカバは拘束して留置場行きです」

「え?彼ってあの人族の子供が??」

「はい、彼は強かったですよ。獣性強化されたヌイカバを一撃で倒しましたから」

「え?えぇ?一撃??アイツを?」

「はい」


 ネコ耳半獣人は目を白黒させてこちらを見ている。なんか、ばつも悪いし、やる事も無いのでスッと目を逸らして立ち去ろうと背を向けると


「それでは“この件”の支払いは後日連絡致しますので」

「そノ時はライセンスに?」

「はい。まぁゴタゴタしてるので先程受注して頂いた依頼と一緒の支払いになるとは思いますが」

「マ、それで良イでスヨ。払っテサえくれレバ」


 俺はそそくさとギルドを後にした。

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