第22話 ライセンス獲得‼︎

 後ろに並んでいた獣人は俺の所為で順番待ちが長引いたと絡んで来た。

 ぱっと見で絡んで来た獣人は「粗暴で乱暴者です」と言わんがばかりの風態だ。


「おいガキ!テメェのせいでオレの貴重な時間が台無しになったじゃねーかぁ!あぁ?」

「エ?」


 意味が分からなかった。確かに俺のライセンスの対応の所為でギルド職員が長い事戻って来ない事は確かだ。

 ただ、それで俺に文句を言われるのは理不尽だし、そもそも何故ここに並ぶ?

 改めて他のカウンターを見れば普通に空いている。ここでわざわざ待つ必要が無い状況だ。

 だが粗暴そうな獣人は何故か怒りを俺にぶつけて来ている。しかもこんな“人族の子供”にだ。


「あノ?他のカウンターに行ケバ良イのでは?」

「あ?ふざけんなよ!オレはここじゃなきゃダメなんだよ!」


 改めてカウンターを確認する。獣人語は読めないが、ここはあらゆる人種が利用する【冒険者ギルド】だ。ちゃんと最低限のフォローはされているので、このカウンターが一般要件で使用するところだとちゃんと分かる言葉でも書かれている。因みに同じ内容のカウンターはあと2つある。

 つまりわざわざこの場所で待つ必要は無いにもかかわらず、わざわざ待った上で遅れている事に文句を言われている。なんたる理不尽!


「えっト何で此処デ無いと駄目ナンです?」

「んだ!カタコトで喋りやがって!んなもんテメーにゃ関係ねーだろうが!あぁ」


 うん、会話が成立しない。コイツが何をしたいのかも分かんない。頭カラッポのヤンキーの様に意味もなく絡んで来てるだけの様に思えるが、それにしたってこんな子供に絡むなんて頭が悪すぎるだろ。

 それともアレか?コレは冒険者ギルドで良くあるという「新人挨拶」ってやつか!新人にわざと絡んでギルド内での力関係を分からせる的なアレなのか?

 ならば相手になってやろう!新人潰しめ、逆に先輩を潰してやろう!見た感じや雰囲気からはイヨツは勿論、シンセにも遠く及ばないだろう。

 いつでも攻撃に対応出来る様に身構えると粗暴そうな獣人の後ろから別の獣人が覗き込んで来た。


「お前。子供相手に何いきってんの?」

「あん?コイツの所為で貴重な時間が奪われてんだよ!」

「ん?どゆこと?」

「だからぁ、こいつが先にレレちゃんに話しかけた所為で俺が話しかけられずに待つハメになったんだよ!」

「…はぁ…。バカだ、バカだとは思ってたが…。あー、君ごめんね。ウチのバカに絡まれて迷惑かけたね」


 後ろから現れた獣人は二足歩行する動物と言う外見の獣人では無く、特殊メイクを施された人族のように見える獣人で曰く【半獣人】というやつだ。見た感じ猫耳を付けたコスプレみたいな外見だが。


「イヤ、なんて言うカ…」

「そうだよね!訳わかんないよね!ごめんねー、コイツさぁ、そこのカウンターで対応してた“レレ”って言うギルド職員に惚れててさ!少しでも話せるのがこの時だけでね。それを先延ばしにされちまったと感じて、手前勝手に怒ってる状態なんだよねぇ」

「んだよ!悪いかよ!俺は今日こそレレちゃんと食事行くんだよ!ソレをコイツが何か聞いた所為で奥に引っ込んで出てこなくなっちまったんたぞ!」


 アレー?新人潰し的なヤツじゃ無かった…。

 え?カウンターのお姉さんをデートに誘うのが目的で、俺がそれを邪魔したから絡んできたの?

 何それ…。そんな事、知ったのっちゃねーよぉ…。新人狩りの冒険者を返り討ちにとかドキドキしちゃった気持ちが恥ずかしいわ!


「正直そンな事、言われテモ困るんですケド」

「あぁ?ふざっけんなよ!困ってんのはどう考えてもオレだろうが!!」

「いやいや、どう考えてもこの子の方が困ってるだろ。君、ごめんね。仲間がバカで」

「んだと!オレは確かにバカだけどお前に言われる筋合いはねーぞ!コラァ!!」

「いや!お前は『オレの』パーティーの1人だろうが!仲間がバカな事してたら注意ぐらいするだろ!」

「んだよ!良く分かんねーよ!」

「いや。別れよ」


 あれ?なんだか今度は置いてけぼりにされて仲間同士で不穏な感じになってきたぞ。


「オレは今日!キメるつもりだったんだよ!」

「いや!知らねーよ!」


 ほんと、知らねーよ!ってか何なの?何見せられてんの?無視して離れたいけどギルド職員を待ってなきゃならんから離れられない。


「んだよ!文句あるならかかって来いや!コラァ!」

「あぁ?何をキメるんだか知らねーけどさ、お前の頭がキマってんだよ!ぶちのめして欲しいなら力技で分からせてやるから表でろ」

「いーぜ!やってやんよ!」


 絡んで来た獣人と其れを咎めた半獣人は揉めながら外に出て行った。

 虚しい。一体なんか凄く無駄な時間を過ごした気がする。

 振り向いてカウンターを見るとちょうど奥から冒険者検定試験時にライセンスカード発行に立ち会っていたギルド職員が扉からのっそり現れたところだった。


「やー待たせたね。この間からゴタゴタが絶えなくてね」

「えっ!っまーそンなに…」


 確かに待ったが良く分かんない奴らに絡まれてて時間的にはあっという間だった気がする。


「いやーライセンス発行時は悪かったね。オド値が100万なんて何かの間違いとしかおもえなかったからさ…」

「マー、仕方なイですよ」


 俺ですら未だに「魔力が100万ありますよ」と言われても実感もなにも無い。他人の魔力平均から考えれば異常数値なのは明らかなんだろうが、信じられないのも当然だろう。


「それで冒険者ライセンスの説明だったね」

「ハイ!」

「ライセンスで出来る事は多岐にわたります。ライセンス同士はマナによって繋がってますのでライセンスを持つ者同士はライセンスを通して言葉を交わす事が出来ますし、自身や他者の位置確認なども出来ます」

「ほうほう」

「ライセンス各種はオドとマナとの繋がりにより“自身のあらゆる行動を記録”されます。この機能によってギルドからの依頼達成の有無なども差異なく確認する事が可能となってます。勿論、犯罪行為等も全てライセンスによって認知される事になりますのであしからず」


 分かってはいたが、凄い万能の魔具だな【ライセンス】ってのは、想像以上の品物だ。


「各自お持ちのライセンスは持ち主のオドにのみ反応する仕様ですので他人が勝手に使用する事は出来ません。よって紛失した際の悪用も不可能となっております」

「成ル程、ダからライセンス=自己証明ニなる訳ダ」

「はい、ライセンスに表記される情報は【ルード】によって認識されてる世界基準の情報となります」

「ルードっテ、なんデす??」

「ん?あートヒイ君は他国の人ですからね。認識が違うから戸惑うのも分かりますよ」


 ん?認識??


「ルードって言うのは“ノモケバ大陸の文化圏”での言い方で、一般的には「神」とか「真理」とかって言われてるものです。」

「カ、神…」

「えぇ、ほら、私達が「オド」・「マナ」と言ってるモノも一般的には『魔力』で一括りにされてるでしょ。ソレと一緒で場所場所で言い方は変わりますね。冒険者となって世界を回るなら覚えておいた方が良い知識ですよ」

「なるホド…?」

「まぁ、そう言っても私も全部を詳しく説明できる訳では無いんですけどね。ライセンスによる“完全情報収集管理の構造”はルバンガイセクイの【大賢者】様が作り出したモノでね。外郭を何となく理解したしてるだけだったりしますが」

「ハァ…」

「なので簡単にルードを説明致しますと、大賢者曰く世界には『全てを司るデータバンク』が存在してそこには、文字通り世界の全てが明確に記録され続けてるらしい。ソレに魔力を使って接続し情報を引き出す事が出来ればあらゆる情報を手に入れる事も出来るそうです。」

「ありとアラゆる…」

「はい、そこには魔界だろうと魔境だろうと深海だろうと未開の地だろうと土地情報があるし、個人から国まで人身情報も勿論ありますし、一般的な魔法から個人的に明かされてない技術等の秘密なども無意味」


 『全て』か、個人的情報秘匿なんてクソ喰らえってシステムだな。まさかここまでの品物だとは…。


「ルードに接続する事で情報を引き出し、利用する事が出来る魔具の最たる物がこの『ライセンス』となります。先ずはライセンスの表側には貴方の名前、性別、人種、生年月日、血液、適正等の身分証としての部分が表示がされ、裏側にステータスが数字とグラフで表示されます。」

「ステータスねェ」

「ステータスって言うのは大賢者様が作った名称で数値化した能力や性能の全般に使われる言葉ですね」


 だろうな。どうも大賢者様ってのは“俺と同じモノ”を感じる。ルバンガイセクイの料理とか文化の感じ、でもってこのゲーム的な名称の付け方、明らかに日本人か日本に造詣の深い人物が大賢者に違いないと思うが。まさかの前世の知識で異世界無双を先んじてやっていた者が居たとは…。


「そこら辺詳しく知りたければいつかルバンガイセクイに行って聞いてみるのも良いと思いますよ。何てったって貴方は“冒険者”になった訳ですから」

「そうデスね。ルバンガイセクイの学校は誰でも入れるらしいし」

「ああ、有名な【学園都市りくぱ】にある『国際統合学院』は国や人種に関係なく門戸が開かれてますし、ルバンガイセクイの国民になれば2年間分の学費は免除となりすね」


 今更、ルバンガイセクイの国民の証が必要な訳では無いし、現状、生きていくだけならこれ以上の勉学なんぞ必要を感じないが『知識』は力に繋がる。

 生きるためにも知っていて損になる事など1つも無いはずだ。


「ライセンスの文字はマナの関係上地域によって自動変換されます。なのでここでの場合は『モノケバ文字』に変換され、「ウソンセ」辺りなら『クコイベ文字』に、ルバンガイセクイなら『ウツウヨキ文字』に変換されるって訳ですね。もちろん自身のオドで任意の文字に変換も可能です。やってなかったら試しに自分の分かる文字に変換してみては?」

「ドウやれば?」

「普通に魔具にオドを通しながら頭で分かる文字を思い浮かべて下さい」


 魔力を流しながら考える。俺が分かるのはジジイに習った人族語だ。

 ライセンスに浮かび上がっている文字が滲んで俺にも理解できる文字に変わっていく。


「変わりましたね。えっと…、この文字はウツウヨキ文字ですね」


 人族が使う文字だと思っていたのはルバンガイセクイの地方で使われている言語だったらしい。まぁルバンガイセクイの端っこから来たんだから当然っちゃ、当然なのだが。



トヒイ=ナイサ 12歳 純人族 男 A+型

誕暦4397年(新獣歴365年)甲の時 13日 生

【旅鴉】【統計者】【討伐者】【護衛者】



 おー、コレが俺の個人情報かぁ。

 旅鴉?統計者??1番下のは何だ?


「アノ、この旅鴉とカ統計者とカって何デス」

「コレは貴方の『適正依頼』の種類になりますね。 この適正項目を目安にギルドでは依頼を振り分ける事になります」

「へー、テッキリ『ランク』付けされて仕事ガツガツ振り分けるのカト思ってタ」

「ん?ランク??階位とかって事ですか?いえいえ、確かに地方によっては冒険者に『金剛級』とか位を付けてる事もなくは無いですが、基本は適正をギルド職員がライセンスから読み解いて仕事を斡旋しますので、ランクだけで適正の合わない依頼を振り分けて失敗したり被害者や死亡者が増えても良くないですからね」

「なるホド」

「まぁ、今の制度も300年前に大賢者様が確立したものらしいですけどね。それこそ以前は依頼の張り紙貼って、冒険者なり暇人なりが勝手に依頼を受けていたそうです」


 何となくだけど300年前のほうがよく知る“異世界”って感じがするな。

 ライセンスを裏返して自身のステータスを改めて確認してみる。


体:120

魔:1064569


力:45

防:22

速:34

器:69

智:24

門:22


火:10 水:10 風:10 土:10

天:0 不:51



 やはり「保有魔力量」を示しているだろう『魔』の項目の数値が106万と異常数値を叩き出している。


「いやぁ、やっぱり凄いオド数ですね」

「そうデスね…」

「それにしても、他の基本数値も年齢的に考えて高い数値ですね。人族の12歳でこの数値なら冒険者としては何処でも通用すると思いますよ」

「へぇ…」

「『四属性加護値』は平凡で『不属性』は一般より高め、オドは異常値でも『ピーリ』はむしろ小さめです…ね……」

「ピーリ??」

「あ、あぁ。ピーリは“門”の事ですよ。門については?」

「アー、村長ニちょっト聞いたかナ?魔法を使ウ為に必須なヤツ?って」

「はい、門の数値が高ければ高いほど一度に使えるオ…魔力量が増えて出来る事や魔法の効力が変わってきます」

「22って小さイ数値ナンですカ?」

「まぁ、魔法関係が苦手な獣人での平均が20〜30ですからね。数値には獣人の下位って感じですかね。因みに人族なら平均で40〜60ってところですかね」

「因ミニ、門が小サイとどうなんデス?」

「私も専門では無いのでなんともですが、単純に106万の魔力を22ずつしか使えないと考えれば良いんですよ…」


 成る程、村長が門が小さいから使いこなせないと言う訳だ…。まさに宝の持ち腐れ状態だわ。


「ですが、見る限り他のステータスの数値は高めですし、そもそも“ステータスの数値は目安”でしか無いですから」

「目安デシか?」

「はい、ステータスの数値は現在の貴方の状態をそのまま数値として表示してるだけですから常に流動します。君は戦闘時に強化魔法を使えるよね?試しに筋力強化の魔法を使ってからステータスを見直してみて下さい」


 言われた通りに右腕に筋力強化の魔法を施してみてからライセンスを見直す。


体:120

魔:1064558


力:61

防:30

速:36

器:59

智:24

門:22


火:10 水:10 風:10 土:10

天:0 不:51


 本当だ!さっきと違う「力」の数値が上がって他も微妙に変動してる!

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