第21話 自己確立って嬉しい。
実はずっと気になっていた。
俺と戦っていた『境界戦妖』がどうなったのか。医者が“逃げた”的な事言ってた様な気がするが、細かい部分が分からないので知りたかった。
「アイツって言うのは境界戦妖の事だな?アイツなら逃げられた。」
「イヨツが戦っテ?」
「ああ、追い詰める事は出来たが他のエルフの特攻で足止めを食らってな」
「アレは酷かったな…」
「特攻?ソノ程度でイヨツが?」
「あー特攻だ。極爆魔法並みの自爆特攻だったがな」
「自爆…」
「隠れてたエルフの連中が一斉に飛び付いてきてな、魔具か魔法かは分からんが飛びついてきては大爆発だ。自爆特攻から逃れつつも境界戦妖を追って負傷も与えたが結局は逃げられた」
「自爆したエルフは総数18人。だが潜伏したエルフ全員自爆したとも考え辛い。故に君が何かしらの情報を持っているのなら聞きたかった訳だが」
「そう言えばイヨツに片腕をもがれた境界戦妖が即座に“エルフの秘薬”を使わなかった事も気にかかる」
「エルフのヒヤク?」
「ああ、エルフの連中だけに伝わってる回復薬らしくてな。そこいらで手に入る回復薬や魔具とは桁違いの効果を発揮するんだが、まぁ貴重品らしくてな一般には出回らない薬だ」
「ハぁ」
「境界戦妖はソレを常備しててな、今まで追い詰める事が出来ても秘薬使って逃げられてた訳だ」
「だが今回はあれだけ重症を負ったにも関わらず秘薬を使う事無く撤退していったのが腑に落ちんのだ」
「アー。それなら多分モウ使ってるヨ。アイツぶった斬ッタ時に傷ニ振りかけて治してタから…多分アレがエルフの秘薬だったんダと思ウ」
俺の言った事に3人が唖然とした表情で見てくる。
「まさか?あの境界戦妖に秘薬を使わせる程の傷を負わせたのか?」
「そう。コウ、上半身ヲ斜めにズバッと袈裟斬りニ」
「ま、待て。今言った事が本当なら境界戦妖の『境界』を越えたという事になるが…」
「ん?キョウカイ?」
「そうだ。境界戦妖の名の由来にもなってる【超高等防御結界術式『境界』】の事だ。あらゆる攻撃を防ぐ壁を瞬時に形成する“魔術”の事なんだが」
たしかにアイツはバリアを張って攻撃を防いでいた。アレが境界と言う術だったらしい。
「マァ、それごとぶっタ斬ったカナ?」
「なっ…」
「ふむ。成る程…。素晴らしい切れ味の剣だとは思っていたが魔剣の類だったか」
「ソウ言えば俺のショートソードは!?」
「心配するな。回収はしてある」
「良かっタ」
「ん。成る程、そうか。合点がいった」
「なんだ?イヨツ。何に合点がいったのだ?」
「あの用意周到な男が何故、何の防御装備も無く戦闘を行っていたのかが引っかかっていたんだ。話を聞くまでは王都内で怪しまれない様に装備を外した状態だったのかとも考えたが、トヒイの話を聞いて分かった。『トヒイの剣に防御装備ごと斬られて使い物にならなくなっていた』んだなと」
「確かに上半身裸で戦う様な奴では無かったな」
「故に英雄相手に追い込まれ仲間のエルフ達の自爆特攻で無理矢理距離を取る対応に出ざる追えなくなった訳か…」
「だが行方が分からなくなっただけで王都から撤退したとは考えられない。ナエサ君改めて聞くが、アイツらが元々何をしようとしてたか知ってたり聞いたりしてないかい?」
「ソノ点に関してハ何んモ」
「そうか、あの数の過激派エルフの潜入を許してる時点で後手も後手。対策を取る為にも情報が無さすぎるな」
「“国立祭”に何か仕掛けてくるとは思ってはいたが、これ程の事を仕掛けてくるとは…」
「全くだ。ギルドからの情報漏れを危惧してわざわざ極秘裏に英雄に頼ったと言うのに無駄骨だ」
「おい!」
どうやらこのお偉いさんの様な人から極秘依頼が出ていた様だ。
国立祭ってのでテロが起こる前にどうにかしようとして、その前に俺が首を突っ込んでテロが前倒しになった様な感じかも知れない。
「国立祭ッテ何でス?」
「ん?イヨツ、伝えて無いのか?」
「あぁ。元々国立祭前に帰る予定だったからな。祭の事なんぞ聞いたら未練が残るだろう」
「そうか。まぁ今回の件で結局、建国記念の国立祭自体は中止で当日は王の言葉だけになるがな」
「祭…」
祭りだと?祭ってのはアレか?縁日的なアレなのか?屋台が並んで美味しい物が食べ放題だったのか?中止になっただと…あのクソエルフのせいで祭が台無しになっただと…
「腹へっタ…」
壁外市場や宿屋での食事を思い出したら急激に腹がへってきた。グゥーと漫画みたいなタイミングで腹が鳴った。
「ははは、緊張感が削がれるな」
「トヒイは丸一日以上寝ていたんだ。腹も減るだろう」
「ふむ。これ以上、聞ける事も無いならここで引き止める必要もあるまい」
「だな。トヒイ=ナエサ。お前さんのおかげで最悪の事態に陥る事は免れた!ルマニアギルドの長として感謝する」
「はぁ…」
「ピンと来てない様だが、お前さんが戦った相手は獣人にとっての“天敵”だ。近年ではその活動も派手になって来ててな。確実に国立祭時に仕掛けてくるだろうと警戒していた中で、その警戒網を突破して都内にまで入り込んでいた境界戦妖を事前に炙り出し、手札を使わせる事が出来たと言う事は、この国にとって大貢献だったって訳だ」
「それでだ。本来ならば、城にて色々と確認したのちに渡す予定だったのだが」
虎獣人が懐からカードを取り出して机に置いた。
「この“冒険者ライセンス”は君に渡しても問題無いと判断した」
「冒険者ライセンスカード!」
「うむ。イヨツ等からの聞き込みや今回の行動を考慮し、君の安全性の“裏付け”が出来たとして我が国が責任を持ってライセンス発行を行った。受け取りなさい」
「コレでお前さんも立派な『冒険者』と言うわけだな」
「オォ、コレでやっと…」
「ライセンスの使い方のあれやコレは後でギルドに行って改めて説明を受けてくれ」
おお、よかっかったぁぁ。
死にそうにはなった甲斐があったぜ!予定とは違う形になったが、結果的に『国に貢献してライセンスGET作戦』は成功した訳だ!
コレで俺はこの世界にとって“トヒイ=ナエサ”として確立されたのだ。
「トヒイ、他のみんなも心配している。顔を見せてやってくれ」
「分かっタ」
「うむ、行って良いぞ」
冒険者ライセンスを手に俺は意気揚々と部屋から出て行った。
部屋を出て行ったトヒイを見送った3人は表情を真面目に戻し今後の事を話し合う。
話は勿論、境界戦妖達テロリストの件だ。
「さて、境界戦妖は来ると思うか?」
「ほぼ確実に来るだろうな」
「ああ、片腕を失った程度でアイツが引くとは到底思えん」
「だが、片腕を奪えたのは大きいな」
「そうだな。アイツ等が秘薬を多数持っていない事を祈るばかりだ」
「ああ、奴等が国立祭の日にまだ行動を起こす可能性があるなら戦闘力を少しでも削れたのは行幸だ」
「しかし、ソレをやった立役者が英雄では無く魔境帰りの人族で子供とはな」
ギルド長のシウは豪快に笑った。
「トヒイは強い。人族があの年齢にして獣人の戦士と対等以上に渡り合えるなど普通ではあり得んだろうな」
「有り得ないと言えばあの異常なオド量だ。何なのだ?あの量は?」
ヨダノモケの国防省の上等佐官のガイタがトヒイのステータスデータが書き込まれた獣皮紙を取り出して確認し、それを机に広げた。
「知らん。」
「少なくともヨダノモケ1000年の歴史上でもあれだけのオドを保有している者は確認されていない」
「ギルドでも保存履歴で検証したけどよ。あのオド量は無いわ!あの勇者の15万だって異常だと思ってたのによ」
「天恵ギフト』とは違うのか?」
「天恵ギフトじゃぁねーみてーだぜ。勿論、『才能タレント』でもねー」
「それに、あの回復能力だ。生命力の優れた獣人族にもアレほどの回復力は無い。アレではまるでその手のモンスターだ」
「モンスターってのは酷い言い草だが、まぁ本人が言うにはアレだろ?なんだ魔王軍の四天王に人体改造されたとか何とか?」
トヒイの語る経緯が突拍子も無さすぎて3人共に理解しきれず微妙な表情となって現れる。
魔境からヒョッコリ現れる前の事をいくら調べてもまともな情報は無く、本人の言う事を信じるならば、奴隷の様な門番暮らしをしながら謎の老人に修行を付けてもらい、突如襲撃して来た災害指定モンスターに家族を殺され、一矢報いて死んだかと思ったら、魔王軍四天王に攫われてて強化細胞の実験体にされて、今度はその実験施設に勇者がやってきて逃げようとしたら失敗して大爆発に巻き込まれて、死んだかと思ったら魔境で1人で意識を取り戻し、生きるか死ぬかを繰り返しながら魔境門を見つけて外に出で来た。
聞けば聞くほど信じられない生き様だった。
「ああ、本人はそう言ってる」
「では。異常なオド量も改造されたからなのか?」
「オド量に付いてはトヒイ自身もよく分かってないそうだ」
「そうか…」
「まぁ。調べた結果、妄想や妄言と言い切る事が出来ないのが何ともなぁ…」
「確かにルバンガイセクイの片田舎で災害指定のノモマイタングが暴れた情報はあったし、『ルアイパッイ』で勇者軍が魔王軍の秘密基地を襲撃して島が数個吹っ飛ぶ事件があったのも確かだ」
「しかし良かったのか?冒険者ライセンスを発行して」
「そうだな、【何か】があった時にライセンス発行元が責任を負わされる可能性があるが…。今回の件の事も含めて、寧ろ“ギルドのシステムを使って監視している方が良い”のでは無いかと結論づけた」
「ま、そう言う事だ」
イヨツはその説明に納得して頷くと自らの冒険者ライセンスを取り出した。コレを持つ事で実はギルドに個人情報が握られてる事を改めて実感するとため息が出てしまった。
ライセンスを見てるイヨツを見てガイタがふと気になっていた事を思い出した。
「トヒイ君のライセンスを確認して驚いた事がもう一つあったな」
「ん?ステータスのオド数値以外に何かあったか?」|
「あった。いや、“無かった”っと言う事に驚いた」
「無かった?」
「そうだ。見ろ、まともな『技能スキル』が無い」
ガイタのその一言で2人はハッとなって改めてステータスデータを確認した。
こと「戦闘」に関して技能は大きな役割を持っている。ギルドで戦闘職につく者はどれだけ多数の技能を持つかで戦闘力が測られたりする。
だが、3人が覗き込むトヒイのステータスには、まともな戦闘能力が無い。技能としてあるのは「低級魔法陣」「低級身体強化魔法」だけだった。
「お!?確かに境界戦妖と戦えるだげの戦闘力を持ちながら技能無しってのは信じられんねーな」
「“ルード”によって検出されたステータスには間違いはない。『世・界・に認識されてる事柄』を引き出してるだけの筈だからな。つまりトヒイ君は“天恵ギフト”を持たず。まともな“才能タレント”も“技能スキル”も無いが戦闘力は並の兵士を超える子供と言う事か」
「そうなるな」
「ま、並の兵士以上の子供っていや、イヨツお前の倅も中々のもんじゃねーか」
「シンセもトヒイに良くも悪くも影響を受けているからな」
「将来が期待できる人材は国としても歓迎しているぞ」
「そうだな。トヒイは強いが所詮は人族…。“獣人族とは共には歩めん”だろう」
「だが役には立ってはもらう。少なくとも三日後の国立祭時の獣王の演説時に境界戦妖が来る可能性は高い。冒険者として正式に『防衛・討伐』任務を受けてもらおう」
「まっそうなるな。使える戦力は全振りで行こう。英雄、お前さんも頼むぜ」
「ああ、アイツとの因縁も終わらせる」
などと話されてる事はつゆ知らずトヒイはニヤニヤしながらギルドカウンター駆け込んでいる。
「おねいサン!冒険者ライセンスの使イ方教えて!」
完全に「他のみんなに顔を見せる事」を放棄して、今1番興味のあるライセンスカードの使い方を教わりに来ていた。
「あら、冒険者ライセンスの使用方法は、ライセンス発行時に担当官から聞いている筈ですが?なんの使用方法が分からないのですか?」
人族かつ子供の俺にも丁寧な応対をしてくれるカウンターの牛型獣人女性は、少々困った感じの表情になっている様にようだ。
「えっと、検定時ニ渡して貰えなクテ、今さっき貰ッテ、使い方ハギルドで聞いてクレテ言わレたカラ」
「ん?えっと…。冒険者ライセンスを見せて貰えますか。登録確認を行いますね」
「ハイ」
カウンターの牛型女性は確認した冒険者ライセンスのステータス部分を見てギョッとしてこちらを見てくる。そして少し慌てた感じで平たい魔具の上に置き、何かを確認しはじめた。
「なっ、成る程…。えーちょっとお待ちくださいねぇ。今、担当官に確認して来ますので…」
何か虚取った感じで女性獣人が奥へ引っ込んで行ってしまった。
そして戻って来ない。俺のライセンスカードを持ったまま奥に行って体感10分ぐらい経つが戻って来る様子がない。
すると後ろから周りに聞こえるぐらいの大きな音で舌打ちが鳴った。
「んだよ!ガキンチョの所為で待たされるなんて、ふざけんなよ」
振り向くと柄の悪そうな狼型男性獣人に因縁をつけられた。
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