第19話 事件は起こる。

 結局、俺は即日発行される筈の冒険者ライセンスを受け取る事が出来なかった。後日、ヨダモノケ国の上層部である統制管理局からの代表管理官と共に再度見極めを行うと言う事になった。


「厄介な事になったな」

「ハイ…」

「んだよ。オレはなんとも無かったぜ!ホラ!!」


 そう言ってシンセが自身の冒険者ライセンスを自慢するかの様に見せつけてくる。


「まぁ、数日王都に残る羽目になったから問題は無いっちゃ無いが」

「え?そうナの?」

「ああ、イヨツの請け負った依頼の件でな」

「マジかぁ!んじゃオレ早速討伐依頼でも受けて来よっかなぁ!」

「ぐ!」

「シンセ!5の刻には宿屋に戻ってこいよ!」

「わあった!!」


 意気揚々とカウンターに冒険者ライセンスを差し出して依頼を確認してるシンセが羨ましい。


「そんな物欲しそうな目で見てんな」

「課題解答ニ問題は無かっタンだ…理不尽ダ…」

「まぁ…そう、しょげるな、な?冒険者ライセンスが完全に発行されない訳じゃ無いんだろ?」

「2日後に城に出頭シテ再検証だっテ…」

「マジかぁ…そりゃ厄介だなぁ。んでお前のオドが多いのは聞いてるけど、実際どの程度なんだ?」

「確カ?『100万』ぐらい?」

「ぶっ!!!」

「やっぱ、そう言ウ反応になるよネ。因みにイトフのオドってどれクラい?」

「俺か?俺は…えっと、んー48だな」


 自らのライセンスに浮かび上がっているステータスの表記を教えてくれた。


「イトフもそれくらいかぁ」

「ま、俺のは平均よりは低いとは思うが、獣人のオドは大体これぐらいなんじゃねーか?。人族だって確か100前後ぐらいなんじゃ無かったかな?」

「ウン、そう聞いてる。「魔族」や「妖族」なら桁違いもいるだロウけどそれでモ1000越えが良いとこロで、ウン万越えなんテ「魔王」ぐらいだって言ッテた」

「そんな中で100万か…でもって体は改造されて通常ではあり得ない回復能力をもってて、何故か封印されてる魔境から現れた10歳の子供か……そりゃ怪しいわな、怪しさしか無いわな」

「もう11歳だってテ、俺のライセンスにはそう書かれてタ…」

「いつの間にか11だったか」


 ハァと重いため息が溢れる。冒険者ライセンスを取得出来る気がしない。客観的に自分を鑑みて信用出来る要素が無い。

 生まれも育ちも分からず何故か封鎖せれてる魔境から現れ、身体は未知の魔具と強化細胞を埋め込まれ、人類では持ち合わせないレベルの魔力を保有している。

 しかも自分ですら『何で魔境にいたのか』『何で異常な魔力を保有してるのか』分からない。それに『何で強化細胞で再生しなかった左手の指が再生してるのか』も謎のままだ。

 こんな状態じゃ、魔王軍の回し者と思われても仕方ないとすら思う。


「アー俺ノ人生計画ガァ」


 イトフが大袈裟なと笑った。

 こっちとしては笑い事ではないんだよ!

 肩を落とし宿屋に戻る道を歩いているとふと『懐かしい感覚』が肌を滑る。ザワリと感じるこの感覚はトヒイとなってから感じた事は無かった。

 『前世』で感じていた嫌な感覚を思い出してしまった。未だに前世の記憶など殆ど思い出せないのにこんな感覚だけは思い出せてしまうのだからしょうもない。

 すれ違い様に感じたその感覚の発生源は人気の無さそうな小道に曲がって行くところだった。

 咄嗟に後を追って路地裏に向かって走り出していた。曲がった路地裏は思った通り人気が無く、しゃがんで何かをしている男が1人いるだけだった。


「よう、アンタこんなところデ何やってんダ?」

「ん?なんだいきなり…」


 振り向いた男は獣人では無かった。フードをかぶっているので実際はどうか分からないが顔は普通の人族の男に見える。


「だから何やってンノか聞いてるんダヨ」

「口の聞き方のなってねーガキだな。俺に構うなどっか行ってろ」

「いやいや、分かンダわ。アンタはろくなモンじゃねーて」

「何言ってる…」


 目の前の男を見て改めてハッキリ分かる、さっき感じた事は間違って無い。


「アンタから【クズ】の匂いがスルんだよナァ」

「アルベリアリ、ジッタナロイナ」


 男は俺に向かって何かを言ってきたが「獣人語」でも「人語」でも無い言葉で聞き取れなかった。


「ディロ、デフロ」


 男が俺に向かって手を向けたかと思ったらボカンと炎が飛んできた。

 いわゆる炎の攻撃魔法だろう。多少は驚いたが殺意がバレバレだったので攻撃が来る事自体は分かっていた。後方に避ける事は簡単だったが、敢えて前進して相手の懐に飛び込み体当たりしてやった。

 避けた上に急接近してくるとは思って無かっただろう相手は簡単に態勢を崩し転がった。


「あぶねーなぁ、何すんだよ?」

「エダダダ…ギ、ギランデア!」


 何を言ってるのか分からないが此方を向く表情は驚愕の色が濃い様に思える。しかもフードが剥がれ獣人族でも人族にも無い“特徴”の『長く尖った耳』が露わになっていた。


「へー『エルフ』ってやつだよな!初めて見たな」

「ゲガ!デフロ、デフロ、デフロ」


 倒れた状態から上半身だけ起こしたエルフの男がやたらめったら炎を撃ち放ってきた。だが適当に撃ってる攻撃なんぞが当たる訳も無く軽く避けてエルフの男の前まで駆け抜けて、首にショートソードを突きつけた。同時に逃げられない様にエルフの男の股関節あたりを踏みつけ体重をかける。


「殺そうとしたんだ。首刎ねられても文句はねーよな」

「何なんだお前は…」

「分かる言葉で喋ってくれんだな、俺も獣人語に戻すか?」

「トヒイどうした!何があった!!」


 突然いなくなった俺を探していただろうイトフが路地裏での戦闘に気付いた様で駆け込んできた。

 あれだけ派手に魔法をぶっ飛ばしてだんだから気づくのは当然だろう。


「怪しいヤツが居たカラ話しかケたら、攻撃されタ」

「おっおう…」

「何だ貴様!人族の癖に獣人と行動してるのか!」

「ンだ?だったら何ダ?アァ?」

「おい、トヒイ?なんだか口調が変わってないか?」

「獣人は滅びるべき連中だぞ!こんな奴らに何で与する!」

「何デ与するダァ?んなモン「仲間で家族」だらかラに決まってルダろうガ?」

「獣人が家族だと頭がいかれているのか?」


 カチンと来て咄嗟に殺しそうになるがギリギリ理性が働いてショートソードで斬りつけるのを我慢し代わりに顔を殴るに止めることが出来た。

 

「トヒイ、此奴はエルフか?なんでエルフが獣人の街に…」

「ン?エルフが獣人の街にいんノガおかしいんカ?」

「あぁ、エルフと獣人は昔から仲が悪い…って言うか天敵だな。1000年来のな」

「この地は我々の聖地だ!汚らわしい獣人など滅べば良いんだぁぁ!」

「うるっせ」


 もう1発顔面に拳をくらわして黙らせた。


「さてとコイツどうすルカな」

「お前ここで何しようとしてた」


 イトフがエルフ男に問いかけてきた。コイツ自体は十中八九“テロリスト”ってヤツだろうと思う。具体的に何をしようとしてたかは分からんが、感覚で分かるコイツは「黒」だ。


「貴様ら獣人などに言う事など無い…」


 だろうな。この手の相手は頑なになりやすい。まあ、吐かせる方法は幾らでも思いつくが。ここは敢えて俺がやる必要は無い。


「なら衛兵にでも引き渡すか?」

「そうだな、エルフがここに居る事自体が問題だ」


 コイツを衛兵に突き出す事で国に少しでも好印象を与える事が出来れば冒険者ライセンスを手に入れられる可能性が高まるかも知らない。


「バレルキガ!ヘナカワタハサヤマナアヤラエ!」


 また、訳の分からない言葉で騒ぎ出した。多分エルフ語かなんかなんだろう。うるさかったので今度は殴らず太腿にショートソードを突き立てた。黙らすつもりが叫び声に変わってしまった。


「イトフ、俺がこのままコイツ抑えトクから衛兵を連れて来てくれル、多分騒ぎにナッてるだろうカラ近くまできてると思う」

「ああ、分かった。ちょっとまってろ」


 小道の外では野次馬が集まり遠巻きに覗いていた。これだけ騒ぎになっているんだ治安を守る衛兵や冒険者辺りは集まってきてるだろう。


「さて、暴れるなヨ?お前は俺ノ点数稼ぎに使うんだカラな」

「ふざけるな!獣人に捕まるぐらいなら…」

「おっと、オ決まりノ自爆かぁ?」


 この手の展開は良くある。前世でも映画とかで良く見たし、『自分でも何回か経験がある』様だ。だから対応の仕方が分かる。

 先ずは魔法を唱えたり、仕込んだ毒を飲ませない様に顎を砕く、でもって暴れられても困るので死なない程度にブン殴って意識を飛ばす。

 まぁ、この世界には回復魔法が存在する、多少やり過ぎてもどうにでもなるだろう。

 グッタリして動けなくなったエルフを更に縛り上げて拘束しておきたかったが、手頃な縄などが見つからなかったのでどうにか出来ないか考えていたところにイトフが衛兵を連れて戻って来た。


「おい?ソイツ生きてるか…」

「問題ナイよ」


 戻って来たイトフは顔の形が変形して微動だにしないエルフの男を見て引いていた。

 後ろからは軽装の鎧を装備した憲兵が数名きてエルフを取り囲んだ。


「成る程、確かにエルフだな。少年良くやった、後はこちらで対処する」

「分かっタ」


 グッタリとしたエルフが衛兵が担ぎ上げようとした瞬間、目の前が白く染まると同時に赤熱の衝撃が体を襲い吹き飛ばされた。

 この感覚は以前にも経験した事がある、セカ=ハイルワの実験施設で「対爆耐性及び回復実験」の時と同じ感覚だ。

 身体の表面が瞬時に焼かれ筋肉を焦がす、更に押し寄せる圧で身体の内と外がひしゃげた。

 だが、其れには慣れていた。何度も何度も死にかけて体が覚え込んでおり。魔境でも炎を吐くモンスターや爆発する謎の木の実など不意打ちも受け続けて咄嗟に身体が回復に動く様になっていた。

 前なら意識が飛んでいたが、今なら耐えられる。瞬時に身体中に魔力を回して回復に専念、弾丸の様に吹き飛んでくる破片から重要な部分だけでも守れるように身体を動かし、意識を集中して爆発の原因を見定める。

 エルフの男は自爆した訳じゃ無い、意識は完全に失っていた。なら別の誰かが原因で勿論それは衛兵でも無い。爆発は多分証拠隠滅か何かが目的で関わった連中を確認して巻き込める様に魔法を放ったのだとするなら。敵は多分上にいる。

 吹き飛ばされた体が路地を抜けた先の壁に激しく打ち付けられる、衝撃で息が出来なくなるがそんな事だってもう慣れ親しんでいる。

 全力で全身回復を行いつつ意識を敵に向ける爆発魔法を放った相手がどこにいるのかはこの場所からは見えない、だから確認する為には自らが上に上がるしか無い。

 しかも逃げられる訳には行かない為、迅速な行動が必要だ。身体の表面の再生より手足の再生を優先し無理矢理動ける状態にして、即座に壁を垂直に駆け上がった。

 勢いがつき過ぎて予想より高くジャンプする事になったが広い視野を確保出来たお陰で怪しい人物を容易に見つける事が出来た。

 それは屋根上で1人、先程のエルフの男同様のフードを被った人物がいたのだ。

 フードの男から目を離さない様にしつつ自由落下、蹴り脚が出せそうな場所まで落ちて来たら全力で踏み込んで加速、更に靴に仕込んだ魔法陣を発動させ、他の建物の壁や屋上をつたい豪速で怪しいフードの人物に肉薄する。


「ほう、何だ貴様は…」

「がぁぁぁぁぁ!」


 逃げられ無い様に素早く近づく事しか考えておらず体制が崩れている状態から力一杯斬りつけてみるものの相手にひらりと避けられてしまう。

 空中で無理矢理に体制を変え減速からの急加速、得意の戦法で再度フードに肉薄するも。


「アデナテ」


 再び白熱の衝撃が全身を襲う。カウンターで爆発魔法を食らってしまった。目の前まで迫った状態で爆発系の魔法を使うとは思って無かった。放出系の魔法と違い爆発系は衝撃が自身にも返ってしまう可能性があるからだ。

 だが相手は躊躇なく爆発魔法を使ってきた。吹き飛ばされつつも相手を確認する。すると相手の目の前に光る壁の様なモノがあり衝撃を塞いでいるのが見えた。原理は分からないがバリアを張って自身を護っているようだった。

 あのバリアを“斬れるかどうか”を考えつつショートソードを屋根に突き立て体制を整える、正直先程食らった爆発よりかなり小さい爆発だった為、咄嗟でも対応が簡単だった。


「ガ、ダレンナハガレバア?」

「何言ってかわかんねーよ!」


 傷など治りきる前に相手に斬りかかる。バリアの特性は分からない“あらゆる攻撃を防ぐ”のか“魔法だけ防ぐ”のか、魔法だけ防ぐ様なタイプなら相手は物理攻撃を避ける行動にでるだろうが、あらゆる攻撃を防ぐタイプなら相手は敢えて攻撃を受ける可能性がある。コッチとしては受け止める判断をしてくれた方がやり易い。

 鉄串を使った牽制を使えればもう少し詳細に情報を集められるかも知らないとは考えたが、腕の状態を考えるとまともに放てるとも思えなかったので意識を切り替えて今できる事に集中する。

 ショートソードにありったけの魔力を流す、魔境で拾ったショートソードは魔力を吸う事で斬れ味を増す魔剣の部類だった。そしてその“特性”は『物理だけに止まらない』

 フードを被った人物は再度即座に斬りかかって来る俺に対応しきれなかったのか無防備に攻撃を受けた。ソードとフードの相手の間にピキッンと薄ら緑がかった光の壁が現れる、多分結界系の防御魔法か魔具だろう。

 普通なら魔法の防壁に阻まれて攻撃が届かないのだろうが魔力を通したこのショートソードには関係無い。バリアに触れた部分から受け止めるどころか食い込み斬り裂いて行く。

 このショートソードは文字通り『あらゆる物を斬り裂く剣』だった。

 予測出来てない反撃を受けた上に更に予測外のバリア破り、フードの人物をなす術なく袈裟斬りにした。

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