第16話 びっくり。

 獣人は魔法関係が苦手で村でも殆ど生活魔法以外の魔法を見る事が無い、当たり前の様に獣人が魔法陣を使っているところを見るとなんだか違和感があった。

 そんな事を考えていたら俺の魔力の異常性を指摘された。


「何なんだ、この数値は!オドの保有量が異常だぞ、おいイヨツ何なんだこの子供は!」

「まぁそうなるよな、この子は『魔境帰り』だ」

「はぁ?魔境帰りだと、こんな子供が?」

「あぁ、今回はこの子と息子の冒険者登録も目的だからな」

「だがなぁ、それにしたってコレは…」

「この子に“細工”は無い、人的損害を出す様なら俺が責任をとる。問題無いだろ?」

「確かにオドの数値以外は問題無いし、規定にオド数値が異常だと駄目だと言うのも無いが…」

「だが?」

「前例が無さすぎる状況だからな、上に報告して判断を仰ぎたいところなのだが…」

「ソレは困る、こんな所で足止めされる訳には行かないんだ。“暮れに会いに行かなければならない用事”もあるのでな。」

「なっ…るほど……分かった。報告はするが先ずは入都を許可しよう」


 何だが意味深な会話を終わらせると検閲官はまた別の板に何かを書き込み先程とは別の隙間に差し込んだ。

 光っていた魔法陣に別の色が加わりイヨツの魔法陣と繋がる。バチっと音がしたと思ったら右手の甲に何かが浮かび上がってきた。


「わッ何だコレ?」

「仮承認の印だ。出都する際に消せるから問題無い、但し消さずに王都をでると保証人の首が飛ぶからな、王都内で悪事を働いたとしても保障人が罰を受けるから覚えておく様に」

「はぁ…仮承認…」

「次はシンセ君だったか、君が検査陣に」

「オウ!」


 俺がどくと同じ場所にシンセが立つ、同じ様に手の甲に印が浮かび上がる。獣人の場合は皮膚の上では無く体毛の上に印が浮かぶ様だ。イヨツも首にさっきまでは無かった印が首輪の様に2本浮かんでいた。


「コレで承認は終了、荷物も問題無しだ。通って良し」

「ああ、行くぞ。トヒイ、シンセ」


 魔法陣のあった部屋から外に出ると入って来た扉の対面にある扉の前に荷車が並び外に出る準備は万全だった。


「終わったか?」

「あぁ、問題無い」

「んじゃ行こうか」


 開いた扉の先には更に通路が続いていた。長さ的には10メートルぐらいはありそうでさっきの検閲を行う為の部屋の大きさと合わせると王都外壁の厚さは30メートルぐらいありそうだ。

 獣人の国は戦争を繰り返してきた歴史があるらしく王都の外壁は非常に強固に出来ている、魔境の壁も相当だったが高さこそ魔境の物より低いが厚みが凄い。

 細長い通路を進み更に扉を開くと遂に王都に入る事が出来た。

 出た先は『倉庫街』と言われる各店舗の倉庫が集まる場所だった。商業門から入ってきた人達はここで各店舗の倉庫に商品を納品するのだそうだ。


「それじゃ、俺たちは納品に回るからイトフとシンセ、トヒイは冒険者ギルドで登録予約をしてきてくれ。この時間だから明日の登録に回される筈だ。明日グダグダしない様にしたい」

「分かった。行くぞシンセ、トヒイ」

「ハい」

「うーす!」


 イヨツ達と別れイトフに連れられ倉庫街から出る、倉庫街自体もぐるりと壁で囲まれてるようで出入り口は1つしか無い。その出入り口からは真っ直ぐ広い道が続いており慌ただしく荷馬車が行ったり来たりしていた。

 通り過ぎる荷馬車の邪魔にならない様に道端を歩くがずいぶん長い、外から見た時も思ったが流石は王都と言う広大さだ。


「道が長イな」

「まぁな、荷馬車に乗れれば問題無かったんだがな、今回は倉庫納品で終了らしいから本通りまで荷馬車が出ないから便乗出来なかったんだ」

「別にモンスターに襲われる訳じゃねーし、構わないんじゃね?」

「まぁ、急ぐもんでも無いが暗くなる前には宿に着きたいもんだ」

「ギルドの受付ッてどのぐらいカカるの」

「うーん?行ってみないと分からんがさほど時間はかからんと思うがな」


 外壁を遠くから見た時から分かってはいたが王都は大きい。倉庫街と呼ばれる場所から『一般街』に抜けるだけでも相当歩く。

 この世界に転生して初めて“都市”に来た、前世ではあり得なかった獣人の国の首都。

 更に前世では出会った事の無い【職業・冒険者】になる為の場所『冒険者ギルド』のいち店舗は一般街の奥の方にあるとの事でそこに向かう事になった。

 通路の脇が高い建物に挟まれ始め突き当たりにはアーチがありその向こう側には人や馬車、荷車などがワイワイガヤガヤしているのがよく見える。


「トヒイ、深呼吸しとけよ。人で溢れてるからな」

「オ、おウ」

「んだぁ?市場の時もそうだったけどよ、そんなに気になるもんかぁ?」

「まァ、なんだカな」

「別に人が多いだけだろ?モンスターが多いのと何も変わらんと思うが」


 シンセは物怖じしない、出会った時からバンバン話しかけられたし、殺し合いみたいな組手も当たり前の様に提案してくる。

 知り合いの年上を敬うぐらいはするが大人だろうと何だろうと意見はハッキリ言う。

 怖いもの知らずと言うか何というか。

 そんな事を考えていたらアーチを越えて人通りの多い通りに出た。夜も更け始め薄暗かった視界が一気に明るくなった。

 分かっちゃいたが獣人だらけだ、軽く見回しただけで知らないタイプの獣人が目に付く、人型モンスターの様な見た目から人にモンスターのパーツだけくっつけたコスプレみたいな見た目の奴までいる。


「おーそんなにキョロキョロすんなよっ!お上りさんってバレバレだぞ」

「え?ア?おのぼり?」

「確かにこんだけ人がいるとすげーな!でもみんな弱そーだ」

「ははは、そらギルドは向こーだ。ちゃんとついて来いよ!迷子になっても探してやれんからな」

「はっ!オレはイトフより鼻が効くからな迷っても問題ねーよ」

「俺は目も鼻も効かナイからデカいイトフを見失ワない様ニしないト…」

「俺も他の獣人よりは鼻が弱いからな、こんだけ人が多いと分からなくなっちまうからよ、どうだトヒイ手でも繋ぐか?」

「い、いーヨ」


 転生してから初めての“人混み”に壁外市場に続き又もや面くらいつつ大柄のイトフをから目を離さぬ様にしてはぐれない様に気をつけた。

 今いる通りはメインからは外れているらしいがそれでも活気がある、人通りは多いから逸れたら合流するのに手間がかかりそうだ。こんな時は自分はまだ“子供”なんだと再確認できる。

 かと言って逸れない様にイトフと手を繋ぐのは小っ恥ずかしい。

 

「あの看板が見えるか?」


 イトフが指差す先には『ルマニア第2ギルド』と書かれた看板があった。


「アレが冒険者ギルド?」

「そうだ、さっさと冒険者登録の手続きをしちまうぞ」

「うーい」


 ギルドの入口は西武劇の酒場でよく出てきそうスイングドアが付いていた。中途半端な高さに設置されている2枚の扉を軽く押して中に入る。前世でも思った事がある気がするが施錠はどうしてるのだろう?

 入ったら右側にカウンターがあり左側には軽食レストランの様な場所があって壁には色々と貼り紙がしてあった。


「おっ!思ったより空いてるな、外で人が多かったから混んでるかと思ったが早くすみそうだぞ」

「へっ!ココにいんのが冒険者か!強そうな奴も弱そうな奴もごちゃごちゃしてんな!」


 シンセが目をギラッギラさせながら周りを見渡して興奮し始めだ。キョロキョロ落ち着かない様子を見ていて、さっきまで自分も似た様な感じだったのだろかと思うと今更ながらちょっと恥ずかしい。

 そんな落ち着かないシンセに軽く注目が集まり出したところでイトフがシンセの襟首を掴んでカウンターの方に引きずって行く。


「ほら、さっさと行くぞ」

「うお、いきなりなにすっででで!ひ、引きずんなって!」


 1番奥のカウンターにて狐の様な獣人の受付嬢に冒険者登録の申請をした。


「では本日の適正試験は終了してるので明日の4の刻半までにこの試験者証をもってもう一度来てください。筆記と実技の試験を行いその後に講習を受け最後に冒険者登録証を発行する事になります」


 淡々と説明してくれた受付嬢が差し出した2枚のプレートをそれぞれシンセと俺が受け取る。何か文字が書かれているが獣人の国の文字はよく分かって無い為読めない。ただ数字で[19]と書かれている部分だけが理解出来た。


「よし、宿屋に向かうぞ」


 外に出ると完全に夜になっていた。ギルドの周りにあるのは酒場が多い様で多種多様な者達が騒ぎ出している。

 各店から美味しそうな匂いが漂ってきて俺とシンセは腹を鳴らせた。外壁を潜る前に散々食っている筈だったが既に腹がグ〜と鳴り出していた。


「腹へったナ」

「いい匂いしてっからな!でもすまないが買い食いはダメだ!飯は宿屋で恒例のが待ってるかんな」

「恒例?」

「聞いた事あんなぁ、確か村じゃ食えんようなご馳走って言ってたっけか?」

「お?シンセは知ってたか?」

「うんにゃ?良くは知らんけどよ…」

「なら期待しても良いぜ、あそこの飯は特別だかんな」

「ははー良いね!期待しちゃうぜ!」


 着いた宿屋は何となく“和風な雰囲気”を醸している建物だった。


「何カ雰囲気が他ト違うね」

「そーだな、この宿の主は元々ルバンガイセクイに影響を受けたらしくてな外観とか向こうの様相を真似てるそうだ、んでもって料理は本場から料理人を連れて来て料理長になってもらったんだとよ」

「へー」


 宿屋の扉を開くより和風っぽさが前面に押し出された内装になっていた。だが本場の宿を見た事がある俺からすると違和感も半端ない。前世の映画で見た様な“勘違いした和風”の様な感じだ。

 更には受付カウンターに居た猫型獣人女性の服装は和服とチャイナドレスを合わせた様な不思議な服だった。


「いらっしゃいませ。これはイトフ様お待ちしておりました、聞いていたより早かったですね」

「ははは、思ったよりすんなり行ってな」


 どうやら毎回この宿を使用してる為かお互い顔と名前を覚えている様だった。

 イトフは話しながら慣れた様子で『カードの様な物』を差し出して確認してもらう。


「残りの3人と聞いておりますので、あと2人はそちらのお子さんでよろしいですか?」

「あー、シンセとトヒイだ」

「はい、了解しました。お二人様とも未登録者となりますので保証人の確認が必要となります。保証人をお呼び出し致しますので少々お待ちくださいませ」


 そう言うと女性は魔具と思われる掌に収まる程度の細長い板を取り出してピカリと光らせた。


「イヨツ様、お連れの方が到着されました。未登録者確認の為、一度入口カウンターまでお越し下さい」


 どうやら細長い魔具は通信機器の様だ。今まで住んでいた“田舎”では使われて来なかった物がドンドン出てきてなんだか“都会”に来たんだななんて感慨にふける。

 少し待つとカウンター横の通路からのれんっぽい物を潜ってイヨツが現れた。


「来たぞ」

「はい、では確認を行いますので『真理と繋がる魔具』の提示をお願いします」

「ああ」


 真理と繋がる魔具って何だろうと疑問に思いながらイヨツを見ていると先程イトフが出したカードの様な物を差し出していた。

 従業員の女性はそのカードに判子の様な小さい魔具を近づけてピカリと発動させる。するとまるでSF物で見るような“半透明のモニター”の様な物が浮かび上がる、そのモニターを小さい魔具でタップするとイヨツの首の紋章が光り、続いて俺とシンセの手の甲の紋章が光った。


「はい、では未登録者2人様もご確認致しました」


 基本的に科学技術的な物を見ないファンタジーな世界だが魔具を使ったやりとりは前世の機械を使ったやりとりと殆ど変わらない印象だ。むしろ[浮き上がってくるモニター]何て前世では物語の中でしか見た事は無い。

 改めて『魔法』のある世界は凄いなと実感した。


「問題ないな、じゃ行くぞ」

「ごゆっくり」


 シンセの後を追ってのれんをくぐって奥に進むと通路自体は特に和風な感じでは無かった。


「ココってやっぱり露天風呂トかあるのカ?」

「ん?ロテンブロって何だ?」

「外で入ル大きなオ風呂みたいなの」

「あーそう言うのはここには無いな、ルバンガイセクイの“本物”にはそう言うのがあるって聞いた気もするが…」


 どうやら露天風呂は無いらしい。


「ここだ」


 部屋の入り口は鮮やかな太陽と山の絵が描かれた襖の様なの“ドア”だった。

 中に入ると広めの部屋に村から来た全員が細長い円形の板の周りに車座の様に座って深妙にしていた。なんだか今までに無い異様な雰囲気でたじろいでしまう。


「来たか…ちょうど良かったな。コレから飯が届くはずだお前らもコッチに来て座りな」


 ミソホが自身の隣を軽く叩いて座る様に促してくる。俺もシンセも雰囲気に呑まれつつ大人しく座った。

 座って気付いたが床は茶色い畳の様な何かで座布団はクッションの様にフワッとしていた。

 よく見れば目の前の板は異常に低いちゃぶ台だった。

 なんだろう“違和感”がハンパない…。

 っていうか何でこんなジリジリとした変な雰囲気なんだ?隣のシンセですら雰囲気に呑まれて困惑している。

 しかも「ちょうど良かった」って割にもう結構待っているだが…。30分は経ったか?


「なァ?これっテ…」

「来た!」


 コンコンと扉がノックされ「お食事のご用意が出来ましたので部屋内に入れてもよろしいでしょうか?」と聞いてきた。


 ゾッと場の雰囲気が変わる。凶悪なモンスターを目の前にした様な妙な熱気が一気に吹き出してきている様に感じた。


「今開ける」


 只ならぬ雰囲気を纏ったままのイヨツが扉を開く。

 瞬間、非常に良い匂いが漂って来た!

 バッと又もや場の雰囲気が一変する、今度は今までの重い雰囲気は何処へやら祭りでも始まったかの様な活気に満ち溢れて大爆発した。

 ドンドンとほぼ床と変わらないちゃぶ台の上に料理が配膳されていく、その料理は確かに“この世界で”今まで食した事の無い料理だった。


「これトンカツか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る