第13話 いくかな。
なんだかんだで1年ぐらいたっただろうか?順当に行っていれば12歳になってるだろう。今では拘束魔法も解除されて村に溶け込んでいた。
「んじゃ、トヒイ!始めるぞ」
「オウ、分かった」
門を出た時に出会った少年獣人は俺の庇護者になったイヨツの息子で老獣人はイヨツの父だった。
この1年で大体獣人の言語は理解出来る様になってカタコトだが話せるようにもなっていた。魔法の習得は芳しく無いが一般的な【生活魔法】と言われる部類は覚えられた。
後はイヨツ付いて狩りを行い体捌きなどを習っている。
「トヒイは魔境で生きていけるぐらい強いんだから親父に稽古つけてもらう必要無くね?」
「イヤイヤ、モンスター相手に再生力にモノ言わせて無茶を通してただけだかラ、基本がなってないノヨ」
「ん〜、でも初めて親父と戦った時から凄かったじゃん!充分戦士だったじゃん」
イヨツの息子【シンセ】は今や1番の友人となっている。今日もシンセと共に戦闘訓練という名の組手を行なっていた。
ショートソードや小手は未だに没収されて手元には無いがキッチリ保管はしてくれているらしい。代わりに同サイズの木剣^_^を使用して感覚を忘れない様にはしている。
シンセは父親譲りの格闘センスで俺の様に身体改造されてないにも関わらず、今じゃ俺と互角に渡り合っている、1年前は戦闘経験の差で俺の方が大分強かったのだが、1年であっという間に追いつかれている。【種族】と【才能】の【差】を感じる今日この頃だ。
獣人は魔法が苦手な代わりに身体能力が高い、多分、俺の『人工強化細胞』の様な後付けでは無い『天然の強化細胞』を持っていて魔力を満たすだけで強化魔法と同等の効果を得ているのだと思う。
その細胞部分が獣人の【獣】の部分にあたるのだろうと勝手に解釈してる。
なのでシンセの俊敏性は人族の同年代の子供のソレとは訳が違う、俺がジジイに教わり魔境で培った動きについて来れるのだ、もはや恐怖の領域である、獣人のスペックに劣等感を感じずにはいられない。
素手での体術のみでは互角、魔法陣と武器を駆使してやっと優位となる状態で今日も一対一の組手を繰り返していた。
「そこまで!」
イヨツの怒号の様な声が響く。
「くそー!まだトヒイに勝てないかぁ」
「ふふふ、マダマダ追いつかれるわけには行かないね!」
などと強がりを言うが正直ギリギリだ。
「オレも魔法陣を使いこなせれば…」
「前にも言ったけど『ジジイ式魔法陣活用法』は身体強化を使えない事を前提にしてるからシンセみたいに身体強化ガ自然に出来る体質だと魔力を魔法陣に通す際に身体強化ガ同時にかかって上手くバランスが取れないミタイだから難しいね」
「うーん、どうにかならんかなぁ」
と言うかどうにかされたら追い越されてしまう。どうにか誤魔化し先送りして優位性を保とうと小狡い事を考えていると。
「お前は先ず経験を積め、モンスター狩りをもっと繰り返し実戦を積んでからで無いと応用など足を引っ張るだけだ」
イヨツが援護射撃をしてくれる。
「ぬぬぬ、だってここら辺のモンスターじゃ相手にならんよ?オレはもっと強くなりたいんだよ!」
「焦るな!お前は焦る様な歳じゃない。これから幾らでも鍛え強くなれると言ってるだろう?」
シンセは納得行かないが父親に叱られて小さく唸りながら下を向いてふて腐れる。
正直、“強くなりたい気持ち”は分かる、俺も強くなれるならドンドン強くなりたい、自分が強くならなくては“また失う”事になる、ずっと心に引っかかっている『焦燥感』によって駆り立てられる。
この1年で新しい体捌きも覚え基本魔法も覚えた、次の一歩を歩み出すのはそろそろだと思っている。
魔境から外に出てから“生きる目的が何にも無い”事に気付いてからずっと考えてた、けれど力を求めて強くなるシンセを見て自分にも『負けたく無い、強くなりたい』と思えた。
ならその思いを突き詰める為に生きるのも良いかも知れない、前世の少年漫画に出てくる主人公みたいな生き方をするのも悪くない気がする。
先ずは【魔法】を覚えたい。その為には生まれ故郷の『ルバンガイセクイ』で『国民登録』して『義務教育』で習うのが良いだろう、父母やジジイも魔法を詳しく習得するならそれが良いと言っていた。
さて、問題はどうやってルバンガイセクイまで行くかだが…。
「トヒイ、明後日の遠出はどうする?ついて来るか?」
「アア、行くよ。今回は王都まで行くんだよネ」
「よっしゃぁ!んじゃオレも行くぜ!」
この村は田舎な為に貿易で特産物を出荷している、今回はモノケバ大陸1番大きな国【ヨダノモケ】の王都にあるお得意さんに納品に向かう、この大陸はルバンガイセクイ以上にモンスターが闊歩している為に危険が大きい。
しかも辺境レベルの田舎であるこの村には在中の“冒険者”など居ない為に村人自ら商品を輸送しなくてはならない。正直、獣人と言う戦闘力に優れた種族で無ければ成立しない国だと思う。
「護衛役は任せてヨ、修行にもなるしネ」
「今回は首都かぁ、つえーモンスターはいっかなぁ?」
強さに焦がれているシンセがバトルジャンキー的な発言をしている。彼も俺と同じく12歳で成長著しい。成長を自身で実感してる分、少しでも経験を積んで更に強くなりたいのだろう。
「モンスターの強さだけで言えば、ここら辺の方が強いぞ」
何度も王都まで行った事のあるイヨツが告げた事でシンセがガッカリするも。
「だが数は多い。古来、モンスターは人が集まる所に群がる習性がある。王都程の規模になれば周りはモンスターでいっぱいだ、経験を積むなら持ってこいでは有る」
「なるほどぉ〜、一体多数か腕がなるぜ」
シンセは今まで以上の戦いに胸躍らせているみたいだが、ノモマイタングや魔境のモンスターを知る身としては『数の暴力』がどれだけ危険か理解している。
正直現状の武器では心許ない。少なくとも魔境の時の装備は必要だろうし、一体多数ならジジイ式も使いやすい、串や魔法陣等小道具も準備した方が良さそうだ。
信用も得てると思うし頼めば解してもらえるかな?
「王都への出発は明後日だ、参加するなら明日中に準備をする様に。」
「分かったぜ!親父!」
「分カった」
「あーそうだ、この際だお前達も『冒険者』として【登録】する事にしよう」
「冒険者登録…」
「よっしゃ!オレも遂に冒険者デビューか!」
「王都に着いたらギルドで登録しよう、その為の準備もしておけ」
「「了解」」
っという訳で次の日は黙々と準備をする事にした。
古くて廃棄予定だった大きなフォークの様な農具の先っぽ部分をへし折り投擲用の鉄串に加工していく。その他にも木を削って魔法陣入りの串も多数用意する。
それと村長に会いに行き魔境で使っていた武装を使わせて欲しいと交渉する。
「まぁ、ええじゃろ」
案外アッサリ返却された。久しぶりに握るショートソードと小手は以前より軽く感じた。
久しぶりなので慣らしついでに“大人に内緒の修練場”でブンブン振り回していたらシンセが興味津々で話しかけてきた。
「何だ?じいちゃんから返してもらえたのか?」
「アー今度の遠出は戦闘が増えそうだから慣れた武器を使いたいっテ言ったらアッサリ返して貰えタヨ」
「はっ!魔境帰りの装備だよな、良いね、一丁組みあおうぜ!」
バトルジャンキー感溢れる言葉と表情で指の骨をポキポキ鳴らしながら近づいて来る。
そう言えば獣人の表情が分かる様になったのはいつ頃からだったか?
「コレは木剣とハ違う、危険だゼ」
「はっ!上等!!」
「正直、慣らしニハ丁度イイ」
「あぁ、丁度いいね。ずっと思ってたんだ“そのお前”とやってみたかった。」
「かかってコイ」
キシャリとシンセの爪が伸びる。一部の獣人は戦闘時の身体の強化で『獣としての特徴』を更に強化し自らの肉体を武装に昇格する【獣性強化】が出来る。
伸びた爪は1本1本がナイフの様に鋭利で強固な武器となった。
「んじゃ、いくぜ!」
「コイや!」
言うや否やシンセが猛スピードで突撃して来た。その爆発的加速はシンセの踏み込んだ足下がまるで爆発でもしたのではと思わせる程に爆ぜる。
一瞬で目の前まで迫るシンセは凶器の爪を首に向かって突き出してくる。シンセと戦い慣れた俺ですら分かっていても反応はギリギリだった。
首を捻ってかわしつつ、カウンターでショートソードを突撃してきたシンセの胸部に突き上げる。
普通なら避けられない様な攻撃だが、獣人の強化された反射神経は無理矢理に身体を捻ってそれを避ける。
お互いに迷いなく一撃必殺の行動をとる、『実戦』では無い『試し合い』を木剣などでは無く『真剣』で行う。普通ならあり得ない稽古、実戦さながらの判断を誤れば重傷はおろか死に直結する様な訓練、狂気じみた攻防を2人は行なっていた。
普通なら重傷などおったら取り返しは付かない、ただトヒイの場合は強化細胞の力で死なない限りは魔力で細胞が活性化して無理矢理生かし、シンセの場合は獣人特有のタフさで回復薬や魔法で超回復を発揮する為に準備さえしていれば滅多に死なない。
危険な“稽古”をしても「どうにか出来る環境」により2人は異常な訓練を繰り返していた。
とは言え下手をすれば死ぬ。こんな事を2人は大人に隠れて半年以上続けていた、実際何度か死にかけた事もある、むしろ死んでないのは「運が良かった」としか言えない様な状態ではある。
だか“そんな事”を繰り返す事で2人は年齢的にあり得ない程の強さを手にしていた、12歳程度の年齢で歴戦の猛者と言われるイヨツと肩を並べる戦士として扱われる程に。
「いいねー、木剣じゃあこの緊張感は味わえねーなぁ!」
シンセは獰猛な笑みを浮かべ更に全身に力を込める、身体中の毛が逆立ち、ほのかに発光している様にも見える。
「そりゃ反則じゃね?」
「はっ!お前相手にはこんだけやってもたんねーよ!」
言い切るや否や更に爆速で突っ込んでくるシンセにバックステップで距離を確保しつつ魔法陣で射出力を強化した串を眉間に向けて投げつける。
普通なら木で削り出した串では強化した獣人の身体にたいしたダメージは与えられない、だが爆速で突っ込んで来る相手ならば充分に牽制になる。
額に当たった串はバチンと予想以上に大きな音を立てて吹っ飛んだと同時にシンセはバランスを崩して倒れ込み勢いを余って土を抉りながら転がった。
土を抉りながら近づいてくるシンセに向かってショートソードを振り下ろすと察知したシンセは無理矢理跳ねてソードを避けた。空中で体勢を直そうとするシンセに向かって串を飛ばす。振り払う様に串を叩き落とされるが体が流れ、着地した際にブレて隙を作らせる事に成功した、その瞬間を逃さず斬りつける。
バランスを崩してよろめきながらも、それでもシンセは反応してくる。振り下ろすショートソードを左腕の力だけ弾き、右腕で攻撃してきた。俺はショートソードを払い退けられた力を利用してシンセの右腕を蹴り上げる。
この場合、普通ならお互い体勢を立て直す為に距離を取るだろう。だがシンセは更に無理矢理前に出てくる、獣人の特徴を最大限に活かした攻撃である「噛み付き」で勝負に来た。
咄嗟に腕を前に出し小手で噛みつきを受け止める、獣性強化によって強化された顎と牙は鎧ごと人体を噛み砕く力がある、子供とは言え大人顔負けの身体能力を持つシンセのソレは一撃必殺の威力を持つ。
それでも魔境で拾った異常な程に強固な小手を砕く事は出来なかった。
砕けなかった事に驚き動きを止めたシンセの首元にショートソードを突きつけた。
「勝負アリだナ」
「がぁあ、ああオレの負けだ」
小手から口を離しながら話すシンセだが以前に似たよ様な状態で気を抜いたら攻撃が来て“えらい目”にあった事もあるので、油断せずにショートソードを首元から離さない様にする。
シンセは渋々負けを受け入れて離れるがいつ襲いかかってくるか分からないので警戒は解かない様にしつつ武器を納めた。
「がぁぁぁぁ!勝ってねーなぁ」
「フフフ、マダマダだね」
余裕そうに返すが勿論ギリギリだった。ハッキリ言って魔境の武装が無ければ戦えなかっただろう。
ただ、ショートソードに魔力を流して攻撃したり、新作の鉄串を使って戦っていたら結果は違うだろう、本気でやり合うにしてもソレらを使ったら本当に取り返しが付かない状態になってしまう。あくまで稽古であるこの組手で使える品物では無いと思って自制した。
「んじゃ帰ロウ、明日は早いシ、腹減ったシネ」
「んだな」
そう言うとポキポキ音を鳴らせながら強化されて伸びた爪や牙が丁度良い長さに折れて整えられていく。折れた爪や牙は体から離れると同時にサラサラと砂の様になって散っていった。ゴミにならなくて良いとは思うが魔境であらゆる物を武器にしてきた俺としては勿体なく思ってしまう。
それにしても何て『都合の良い身体』なんだろうと思う。
獣人の戦う為に特化した様な無駄の無い生態は他の地域よりもモンスターが強いとされるモノケバ大陸で生き抜くには必要な事だったのだろう。
「王都に行くんは初めてだかんな、どんなモンスターがいっか楽しみだぜ!」
「まっ、安全第一デ行こうヨ」
「は!お前にとっちゃどんなモンスターが来ようがよ、魔境のモンスターに比べれば余裕ぅだろ?」
「油断大敵だよ、魔境のモンスターは強イけど外にだって強いモンスターはいるサ、実際【災害指定】のモンスターは魔境並みかそれ以上だったシネ」
「それそれ、ノモマイタングだっけ?やるならソレぐらいのが出てきて欲しいもんだけどな!」
鼻息荒く語ってくるが個人的にはもう二度と会いたくは無い、てかモノマイタングが魔境に出たら“どえらい事”になるな。只でさえ凶悪な魔境モンスターが群がって来たら人類は滅びるのではなかろうか?
シンセとそんな他愛もない話をしながら家まで帰り肉食獣人御用達スタミナ抜群肉料理を腹一杯食べて明日に備えて寝るのだった。
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