第10話 抜け出しました。

 ぬかるみにハマった足に違和感があった。ずりずりとゆっくり引きずり込まれている感じがある。

 両足がハマっている状態で踏ん張りが利かず体がドンドン沈んで行く。

 ヤバイ、コレが底なし沼ってヤツか!そこら辺でハマって死んでるモンスターはコレが原因か!。

 足掻けば足掻くほど沈んで行く。このままでは俺も動けなくなって死んでしまう。

 違和感の正体は分からないが足に何かがまとわりついている感じは気持ち悪い。

 このまま沈む訳にも行かないと足の裏に刻んだ風の出る魔法陣を発動させ風圧で飛び出そうとすると足もとがブクブクと膨らんでバフンと弾けた。

 行き良いよく飛び出した足には“ネバネバした何か”がまとわり付いていた。


「気持ち悪る!何だコレ?」


 ネバネバした何かを振り払おうと振り回すが剥がれない、手で剥ぎ取ろうとしても上手く取れない。

 それどころか少しずつ這い上がって来ている。

 まるで生き物みたいだと思ったところで何となく分かった。

 コレ【スライム】何じゃね?

 んじゃ、こうかな?火の出る魔法陣で火を焚いて足ごと炙ってみた。

 腿の側から炙っていたらスライムは脛の側にずりずり移動した。やっぱり火に弱いっぽい。

 そして火傷は辛いな、腿が焼けた。

 脛側で逃げ場の無くなったスライムを火の付いた棒で削ぎ落とす。火傷は辛い脛も焼けた。

 ゲームとかの雑魚モンスターで有名なスライムは確かに他のモンスターに比べたら弱いのだろうが環境に合わせて襲いかかってくる場合は対応手段が無ければ凶悪なモンスターである事が分かった。

 コレがこの森だけなのかそれが普通なのかは分からないが、この森は本当に気を抜くとすぐ死んでしまうと改めて心に刻みつつ川下に向かって歩き出した。

 川沿いの道のりの中々困難を極めた。

 森から水を求めて多様なモンスターが現れては水辺のモンスターとの戦闘が始まる、スライム以外にも毒をふり撒くカエルのモンスターや岩をも砕く顎を持つ巨大なカバ型モンスターなどが目の前で弱肉強食の喰らい合いを繰り広げる。

 正直この森では圧倒的に弱者に当たる俺は戦闘に巻き込まれたら直ぐに死ぬ。

 某野生児みたく原生生物と仲良くなる事なんて出来ない、食うか食われるかの弱肉強食のみが存在する世界だ、腕力で勝てない俺は持てるモノ全てを使って頭フルで回転させて生き延びた。

 罠を張って毒を使って隙を突いてガムシャラに生きた、それでも気づいたら虫に刺されて高熱で動けなくなったり、デカいモンスターに一口で丸呑みにされて胃の中で消化されそうになったり、大型の鳥型モンスターに攫われて焦って逃げ出したら空高く飛び上がっていた為に落下で死にかけたりと多分強化細胞で再生回復力が人並み以上じゃ無かったら生き残れていない。

 そんな極限サバイバルを続けていたら遂に文明の香りがして来た。

 川べりに明らかな人工物、レンガを積み重ねて造られただろう建物が現れた。

 ただ問題は明らかな人工物だがそこに人がいる雰囲気は無い、植物の蔓に巻かれ廃れてから数十年から数百年は経っていそうな廃棄だった。

 娯楽が無く日々の極限生活に精神が擦り切れてた俺は興味本位で廃虚に近く、案の定中はモンスターの巣となっていた為、食べると全身から血を吹き出して死に至る実を何個がまとめて葉っぱで包み、時限式で実が燃える様に葉っぱに血で書き込んだ。

火の出る魔法陣を細工して廃棄内部に投入、この実は焼いた時の煙にも毒素が多く含まれる為、殺獣剤として使えるのだ。

 紫がかった不思議な煙が出てこなくなったら今度は風の出る魔法陣を何個か投入して無理矢理に換気すれば準備完了。生き残ってるモンスターがいないかどうか警戒しながらも中に入った。

 虫型や蝙蝠型のモンスターの死骸を蹴飛ばしながら奥へ奥へと進むと開けた広間に出た。そこは言うなれば祭壇の様な感じで入り口から見て奥に一段高い場所があり、其れを囲む感じで椅子的な物が並んで設置されていた。

 不思議な事にモンスターの気配が無い。建物的には数百年単位で放置されてると思われるが通路にはウジャウジャ転がってたモンスターの死骸や草木の侵食が一切無かった。

 何やら人間同士で戦ったらしき痕跡がある。剣や槍などの武器、鎧や盾の防具などが無造作に多数転がっている、明らかに鎧を貫いて殺した様な形で放置されている物があるので多分戦った跡なのだろうが“人間”の形跡が無い。白骨すら残ってはいなく武器と防具だけが取り残されている感じだ。

 その武器や防具は何故か殆ど劣化している様子が無く結構綺麗な状態で残っていた。

 コイツはラッキー、森ではまともな武器が用意出来なかった。硬い木やモンスターの骨、切れる葉っぱでは色々と限度があった。ここに来てまともな武器を手に入れられるのは行幸、亡骸も無いので呵責に引っかかる事も無く物色していく。

 武器はともかく防具は大きさが合わない、子供体型に合う防具は見つからない、仕方ないので小手を腕に巻き付けてクッション材噛ませて小型の盾みたいに装備、槍は上手く先端部分だけ回収、剣は大型剣は扱いづらいので良いのは無いかと探していると正面の壁に剣が刺さっている事に気づいた。


「何で壁に刺さってんだ?」


 壁には等間隔で7本のショートソードが刺さっている。

 1本抜いて確認するも特に破損も錆も見受けられない、取り回しも丁度良い感じだったので4本程抜いて持っていく事にした。

 長時間物色しててもモンスターが広間に入ってくる様子は無い、この広間はもしかしたら結界的なモノで守られているのかも知れない。

 一応入り口に罠を張り警戒しつつ食事と睡眠を取る事にする。安全地帯的な場所は初めてなので嬉しい。

 外ではちょくちょく聞こえて来た謎の遠吠え「ぱんぎゃぁぁぉぁぁぁ」も聞こえてこないので何も気にせず寝てしまった。

 はっと起きたら罠はそのままで広間も変わった様子が無かった。ので久しぶりに二度寝してしまった。

 果たして熟睡したのは何日ぶりだろうか?そう言えば森に来てから何日たったのか?そもそも村から出て何日たっているんだろう?1年以上経過してるのかな?もう10歳になってるのだろうか?

 ガッツリ寝て元気充電100%

 ココを寝ぐらにジャングルライフも良いが、やはり“外”に出たい。

 再びモンスターの死骸を蹴飛ばしながら外に向かう際に思った。コレが文化価値の高い遺跡だったら盗掘になるのかな?トレジャーハンティングと言う名の泥棒かな?なんて深く考えたら駄目だと思い、それ以上考えるのを止める。

 外に出るとなんか慌ただしい状況になっていた。

 全長10mはありそうな巨大なザリガニ型モンスターとTレックスを彷彿とさせる蜥蜴型モンスターが川の中で取っ組み合いをしている。更に足元では食獣魚が大量に沸いて二体に喰らい付いている。更にその周りを色々なモンスターが取り囲んでおり牽制しあっている様子。

 怪獣大戦争か!

 コレはヤバイ、巻き込まれたら即肉団子だな。

 落ち着くまで安全地帯に戻ろうと振り返ると通路が黒いモヤで埋め尽くされていた。


「あれ?こっちもヤバイかな…」


 逃げ道が塞がれているので試しに食べたら血を吹き出して死ぬ実を投げ込んでみるが「反応が何も無い」武器代わりに使ってた棒を突っ込むと「突っ込んだ部分だけ無くなった」他にも切れる葉っぱとかも黒いモヤに触れた部分だけ削り取られる様に消失してしまった。

 そんな実験をしていたら上からギシギシと歯軋りの様な音が近づいてくる咄嗟に避けると小型犬サイズのカミキリムシ型モンスターが多数迫って来ていた。

 廃虚内で死んでいた虫型モンスターと同じ感じなので多分元々この廃虚を巣にしていたのだろう。

 ギシギシギシギシ近づいて来るカミキリムシの顎は噛み付かれれば体の部位が簡単に噛みちぎられてしまうだろう事はこの森での経験で分かる。

 さてと早くも拾ったショートソードの出番である、身体強化の魔法は施設で習ったが武装強化の魔法は習って無い、正直ここのモンスター相手に強化無しで振り続ければ直ぐに武器は駄目になってしまうと思う、勿体ないが使わなければ直ぐに肉団子だ。

 ショートソードを構えて身体強化の魔法で腕力を強化したところでショートソードに魔力が吸われているのに気付いた。

 だが今はその事に気を取られている場合では無い。カミキリムシ型モンスターの数はパッと見で20匹以上はいる、意識を別に向けるのは命取りだ。

 足の裏の風の出る魔法陣は未だ皮膚に直接傷として刻み込んでるいる状態、瘡蓋状態で発動出来る状態にしてるが魔力を通すと細胞活性で勝手に傷が無くなってしまうのでまともに使えるのは1回のみ、強化魔法で足を強化した際に勝手に魔法陣が発動したり傷が回復しないのは不幸中の幸いか。

 風の魔法陣は使い所を考えないと“詰む”。

 カミキリムシ型モンスターの死骸を蹴飛ばした時に甲殻類並みの硬さはあった、ショートソードで対応して果たしてどれだけ“持つ”か心配だ。やっと手に入れた武器だ無駄に浪費はしたくないが。

 先ず2匹が飛び出して来た、1匹は投石で牽制しもう1匹はショートソードで対応する。単純な攻撃なので攻撃を当てる事自体は簡単だった。

 そしてスパッと行き良いよく真っ二つになった。更に牽制した方のカミキリムシもそのままの勢いで斬りつけるとやはりスパッと簡単に斬れた。

 “斬りつけた時の反動がまるで無い“

 門番の時に短剣を使っていた時とは全然違う。虫野郎の時にロングソードを使った時なんて反動で腕が折れているのに。拾ったショートソードの斬れ味が良すぎて怖いぐらいだ。

 だが、コレなら戦える。

 強化魔法で視力を強化しカミキリムシ型モンスターの初動を素早く感知、行動を先読みしてカウンタースタイルで迎撃する。

 取り回しの効くショートソードを二刀流スタイルで装備して迎撃に集中、一気に数匹襲いかかって来ても問題なく対応出来た。

 だが、直ぐに数の暴力に対応し切れなくなってしまう。致命傷は無いものの細かい傷が増える。

 しかもカミキリムシの死骸が増えた事で匂いに誘われて他のモンスターも襲いかかって来る。カミキリムシ型に襲いかかって行くのもいればこちらに襲いかかって来るのもいる。

 前に殺すのに苦戦した猪型モンスターもショートソードで簡単に真っ二つに出来た。

 確かにこの森を生き抜く事で戦闘に慣れて前より強くなった気はする。だがコレは異常だ。

 さっきショートソードに魔力が吸われる感じがあった事から多分このショートソードは【魔具】や【魔剣】と呼ばれる部類の物何だと思う。魔力を吸って斬れ味を上げる典型的なヤツだろう。

 更に岩より硬い外皮を持つアルマジロ型モンスターを簡単に噛み殺しているカミキリムシ型モンスターの顎の力に拾った小手が耐えられた事から、この小手も相当な性能である事が分かる。

 良い拾い物した!ってかもっと持ってくりゃ良かった。

 気付けば辺り一面モンスターだらけで必死に逃げ場所を探しているといきなり影で覆われる、其れが巨大ザリガニ型モンスターに切り刻まれたTレックス型モンスターが倒れ込んできている分かり焦った。


「おおお!!」


 コレは風の魔法陣を出し渋ってる場合では無い。辺り一面のモンスター中から瞬間的にモンスターの少なそうなルートを判断して全力ダッシュ!迫りくるモンスターを足場に駆け抜け様とするも鳥型モンスターの襲撃に対応し切れずに墜落した。だが巨大モンスターにペチャンコにされるのは回避出来た。

 墜落途中の空中で風の出る魔法陣発動し無理矢理体勢を変えて方向転換する。

 後はもうガムシャラにショートソードを振るってモンスターを斬り刻みながら進むしか無い、問題はショートソードの斬れ味が良すぎて斬ったモンスターの勢いを抑えられない事だ。

 真正面から突っ込んで来るモンスターにショートソードを振り抜けば豆腐でも切る用に反動無く斬れるが斬った後の“死体”は向かって来た時の勢いが止まる訳では無い。地上ならともかく空中だと避けられない為に斬れた死体にぶつかる事になる。

 10歳児の体でその衝撃をいなす事は出来ず落ちたがそのまま倒れる訳には行かない。

 魔力を身体中に行き渡らせてモンスターにやられた傷や強化の負荷に耐えられず支障をきたした部位を常時癒しつつ、強化魔法を常に唱え続け各所の強化を維持して動き続ける。

 動いて走って跳んで斬って蹴ってぶつかって傷だらけになって駆け抜けた先でデカい食獣植物にバックリ喰われた。

 消化液が全身に塗れるとジュワジュワ溶け始める。強化細胞での回復を上回る消化液で溶かされる前にショートソードを振り回して脱出。


「ちきしょー!何でこんな目に合ってんだ俺は!」


 叫んで逃げて戦って日々が過ぎて行く。

 良く斬れる武器を手に入れた事で木の加工がやり易くなったのは良かった。

 木を斬って足の裏にハマるぐらいの板を作って魔法陣を書き込む、それを蔓で上手く足裏に装着、今までみたいに足の裏に直接刻まないので1回で消えない魔法陣を装備する事ができた。

 草履の様に足裏全体にすると細かい動きが取りづらくなったので爪先とかかとを邪魔しない真ん中のみに設置する形になった。

 正直見た目は超微妙だが生きる為ならコレでいい!!

 そして超サバイバル生活を続けながらひたすら進んでいく。

 あの遺跡以来、人の気配全くない。

 この森から一生出れないのでは無いか?二度と人には会えないのでは無いか?と不安に押し殺されそうになっていたら、実際に巨大なカタツムリに物理的に押し殺されそうになったりして落ち込んでる暇すら無い。

 そして川を下り続けた結果、遂に森の終わりを発見する事になる。

 高い木の上から見た時に一定の箇所から森が無くなっているのに気付く。

 気持ちが昂って興奮を抑えられなくなりそのまま全速力で駆け出す。

 森は終わりその先には田畑と集落の様なモノまで見えた。

 だがその前に森は壁によって遮られている事が分かった。

 気にせずに壁の上から外に出ようと木の上からジャンプ、遂に森から脱出出来たと思った瞬間に見えない壁に激突して全身に痺れる様な感覚が広がりそのまま落ちた。

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