第6話 覚悟はある。

 ノモマイタングを止めるにしてもどうする、決死の覚悟で攻め行って何も出来ずに犬死にしても意味がない。

 死ぬにしたって結果は出して確実にノモマイタングはを倒しておきたい。

 殺すだけなら母さんの爆発で致命傷の筈、時間はかかったとしても勝手に死ぬと思う、そのかわり死ぬまでの間に門を粉砕され、結界を破壊し集まった100匹を超えてるモンスターが解き放たれて村は壊滅するだろう。

 ならどうするか?出来れば追い討ちをかけてトドメを刺したい。

 規模は違えどやる事はいつもと同じだと言う事に気づくとなんだか不思議な気分になってきた。

 父さんが致命傷を与え、俺がトドメを刺す。

 今回は母さんも手伝ってくれたのだ。確実にトドメを刺そう。

 狙うべき急所は脳か心臓だろう。ただ外皮を貫いて双方を狙うのは難しそうだ。

 脳は多分頭にあるだろうが頭蓋骨を貫けるとは思えない。心臓を傷口から狙うにしても傷口自体は腹部で地面に擦りながら歩いているし周りはモンスターで埋もれている。

 ノモマイタングはノソノソとした動きで決して早くは無いが確実に門に迫って来ていた。

 焦らず自分の持ってる武器から対策を捻り出すしか無い、持ってる武器は『短剣』『串』『風の出る靴』『魔法陣』だ。

 さてどうしよう?


「まぁ、やるだけやるかぁ」


 ふっと頭に今できる作戦が浮かんだ。出来るか出来ないか。吟味している時間は無い。ぶっつけ本番で成功させるしか無いと覚悟を決め、左手に魔法陣を刻み込む。串の先で薄皮を切る程度では無い傷を魔法陣として刻む。

 上手く行っても行かなくてもノモマイタングに挑んだら死ぬだろう。ソ・レ・は・別・に・良・い・、仕方ない、覚悟の上だ。だが結末は確認したいな。

 そんな事を冷静に考えられる事に自分自身驚きつつ小窓から近づいてくるモンスター群を見据えてノモマイタングまでのルートを考える。

 チャンスは1度だ。


「決死の覚悟ってやつを見せてやろう。」


 小窓から勢いよく飛び出すと伸びた首に2つ関節があるかの様に動く鳥型のモンスターを足場にノモマイタングの頭部の真上に迫る。

 頭部までの動線に入る邪魔なモンスターを串で牽制して上手く誘導しながら位置取りを行う。

 足場の鳥を靴の風圧で吹き飛ばしつつ加速して急降下、構えた小剣をノモマイタングの頭に勢いよく突き刺した。

 ガッツリと刺さったがノモマイタングは全く気にしてる様子は無い。

 まぁ、腹が爆発してる状態で動いてるんだ、痛みを感じてないのかも知れない、なら次の手だ。

 串を握り混んだ左腕を目に突っ込む、眼球は案外硬く潰す事は出来なかったが眼球を串で削りつつその奥の肉を貫いた。

 流石ノモマイタングも反応する、痛みからか、唯の反射行動か目蓋を閉じた事で左腕が挟まりゴシャリと左腕が骨ごと潰された。

 だが引きちぎられる事は無かった。

 ならまだ行ける、寧ろ振り落とされない分、好都合だった。

 左腕に魔力を通して掌の魔法陣を起動させる。

 起動した魔法陣からは火が噴出されて頭を内側から焼く、ソコに本当に脳味噌があるかは分からないが少なくともダメージは与えられる筈だ。

 後は力の続く限り魔力を魔法陣に通し続けるだけだ。


「頭沸騰させてやるよ!」


 ノソノソと動き続けていたノモマイタングが突然激しく動き出した、周りのモンスターを巻き込んで暴れる、どうやら頭を焼かれて悶えているようだ。

 振り回されつつバクバク動くノモマイタングの口に体を持ってかれない様にしがみ付いて耐える、前世より明らかに強くなってるとは言え7歳の身体に限界は早かった。

 しがみ付く力は直ぐに無くなったが魔力だけは流し続ける、左腕の感覚は目蓋が閉じた時から無くなっているが魔力が流れていく感覚だけは感じる事が出来た、魔力の巡りから指先が無くなった事から炭化したかな?とか冷静に考えられる事が怖かった。

 ノモマイタングが体を激しく起こし吠える、と同時にもはやぶら下がってるだけので俺は反動について行けず振り回され勢いに耐えられなくなった左腕が引きちぎれて吹っ飛ばされた。

 地面に叩きつけられて死ぬ前にノモマイタングがそのまま仰向けに倒れて動かなくなった事を確認出来た事は良好だ。

 今回も守りたい【モノ】は何も守れなかったが前回よりマシだと思う、『家族も仲間も救えず何も出来なかった前世』よりは。

 未だ具体的な事は何一つ思い出せないのに後悔だけ思い出して死んでいく。

 異常な程ゆっくりと世界が動く、走馬灯の様に前世の“思い”だけ思い出してその上でがコッチで意識が覚醒してからの4年間の生活が思い出されて又悔しさがこみ上げて来た。


「ちきしょう。何で俺はいつも……」


 意識はココで閉じた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 暗い空間に腰ほどの高さの柱の様なモノが並んでいる、その上には色とりどりの魔法陣が浮かんでいた。

 数人がその魔法陣に手をかざしている、人間と分かる者から明らかな異形な者と様々だ。

 上を見上げると空間に様々な映像が浮かび上がっていた。


「サンプルNo.129の生命体活動停止を確認。」

「位置特定。ルバンガイセクイ北東のジハ村周辺」

「死因は不明、『勇者』の関与は確認されてません」

「うむ、No.129レベルの個体がそこいらの冒険者に対応出来るとは思えんが…」

「サンプルNo.129周辺の生命活動は129の特性効果で誘き出されたモンスターが多すぎて感知しきれません」

「送られてくるデータだけではよくわかりませんね」

「直接確認するしか無いか」

「ジハ村には転移ポイントは設置されてない様なので1番近いので魔王軍の仮設転移ゲート453になります」

「では行こう、新しい発見が有れば良いが…」


 様々な人物の中で唯一座っていた男が立ち上がった瞬間に瞬く様に光りその男は消えた。

 

「ハイルワ様の転移を確認。同行者3体の転移も確認」

「ではハイルワ様が戻られるまで通常業務に移行、ハイルワ様が帰還されたらどんな注文が来ても対応出来る様に変則だが今から休息をシフトで回して行きます」

「了解でーす」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて、ジハ村はどちらかな?」

「ハイルワ様、この位置からだとあちらに」


 同行者の1人が北西を指差す。


「近いと言っても距離的には20ロキルトーメは離れています」

「悠長に歩いてる状況では無い可能性は理解してるよ、だからビトラソを連れて来たんだからね」

「ハイ、20ロキ程度直ぐに」

「ではよろしく」


 ビトラソがブツブツと何か唱えるとハイルワを中心に円形の力場が発生し全員を包み込むとふわりと浮かんでジハ村の方面に凄まじいスピードと向かい始めた。


「さて時間的にまだ王国軍や討伐隊が来てるとは思えないがNo.129はジハ村の前にエマノソ村を壊滅させている、邪魔者がいつ来てもおかしくは無いので、各自戦闘準備は怠らない様に、後No.129に群がっていたモンスターは討伐されてないから今頃No.129の死体を喰らい付いてるだろうし正気に戻ってるだろうから殺し合ってるだろう、めんどくさいので殺処分で」

「了解しました」


 そんな話をしている合間にジハ村上空にたどり着く。

 下の状況は思った通り集まったモンスター同士が殺し合いをしてたのでサンプルNo.129をこれ以上傷付けぬ様に周りのモンスターを同行者3体が処理していく、そんな中でハイルワはNo.129の死骸を見聞していく。


「ふむ、腹が裂かれてるがコレは内部からだな、だがこれぐらいではNo.129は死ねない様に調整してる筈だが?」


 仰向けに倒れているNo.129を片腕で軽くひっくり返すと頭に何かが刺さっていた。


「コレが死因か?」


 頭に刺さっていたのは何の変哲も無い短剣だったのでポイッと捨てた。こんな玩具程度でどうにかなるモノでは無い。

 他に変わった部分がないか確認してみると右目から血が流れ出てるのを発見し目蓋をこじ開けると潰れだ眼球と細長い何かが落ちてきた。


「なんだ?」


 拾ったソレは『魔粒子の残留感』から先っぽが焼け落ちている人の部位だと分かる。


「ふむ、魔法を使って脳髄か魔臓器官に直接打撃を与える事でNo.129を屠った訳か、中々面白い、しかしこの身体の持ち主は何処かな?」


 周りのモンスターは健在だった事からNo.129を殺した後に他のモンスターをなぎ倒し生き抜いたとは考えられない、既に喰われた可能性が高いだろう。

 良い観察対象になりそうだったのに勿体ないなと思っていたら同行者の1体から声をかけられた。


「ハイルワ様、面白いモノを発見しました」

「ん?何があったのかな?」

「あの木の上を見てください、人間の子供が引っかかってます、『生体魔粒子』の残存値からまだ息はあると思われます」


 視力を強化して確認してみると左腕を失って尚且つ木に脇腹を貫かれて逆さになってぶら下がっている人間の子供らしき人物がいた。


「アレで生きている?ふふふ、確かに面白い!そうか、この部位はあの子供の腕だったのか、見た感じ10歳にも至ってない様に見えるが…くふふ良くもNo.129に挑み殺し得たものだ」

「回収でよろしいですか」

「慎重に回収してください、生きてるのが不思議な状態ですから、回収したら「被験体No.126582」として実験棟にて観察しましょう」

「ハイ」


 子供の体はビトラソの力場で包まれ木から下ろされる。

 子供の現状は左腕を根本から無くし、腹部は木に貫かれ、顔面も含め身体中に打撲骨折にだらけだ、普通ならどの傷でも死するのに充分な傷に見える。

 だがこの子供はまだ生きている、再生系や回復系の魔法の効果は見受けられない。

 面白い、面白い素材だ。



 実に面白い実験が出来そうだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ーい、おーい、起きてるか?」


 ん?呼ばれてる?

 あれ?体が動かない??


「おっ反応あるな、もしもーし、聞こえてるかなぁ?」


 呼ばれてるのは分かるけど体が動かない。

 目も開けられ無いし口も開かない。


「よし、反応有りっと、くくく、キミは運が良いよ、あの状況で生き残れたんだから」


 あの状況?あの状況って何だ?

 アレ?そう言えば俺ってどうなったんだ?


「サンプルNo.129、君らがノモマイタングと呼称してるモンスターは我々の実験個体でね、私が製造した人工モンスターな訳、身体からモンスターを誘惑する分泌液を散布するんだが、その際に魔粒子を練り合わせて散布させる事で風などの自然環境に左右されずに広範囲に散布する事に成功、支配下に置かれたモンスターは訳もわからずNo.129に惹かれて集まり、No.129の武器となり防具となる駒になってしまう訳だ、そしてNo.129で得られた情報を転用して個人の能力として付加出来るようなれば面白いと思わないかい?」


 なんだか良く喋る人だなぁ。

 なんだか頭がぼんやりしてて定まらない。

 言ってる事が何1つ入ってこない。


「 まぁ、勇者用の囮でもあったんだけどね、まさか君の様な子供に殺されるとは思わなかったよ」


 それは違う、父と母が命を掛けて致命傷を与えてくれていたから出来た事だ。


「おや?反応が強くなってるね?ふむ、まだ意識がハッキリする程の活性化は出来ない筈なのだが…やはり精神波長が他のモノとは違うのが関わってるのか?」


 いや知らないが…


「まぁ、まだ『人体改造』が終了してないからもう少し我慢してくれたまえ、次に声をかける時を楽しみに待っていてくれたまえ」


 え?改造??何だ?何だ?あれ?あれ……




「ーい、おーい、起きてるかい?」


 ん?呼ばれてる?

 んあ?体が動かない?


「よし、今回も反応有りと、もしもーし、聞こえてるだろ?」

「あ…あぁ…」


 呼ばれてるのは分かるけど体がうまく動かない。

 目もうまく開かないし口もうまく動かせない。

 なのに意識だけがハッキリとしてきた。


「あー無理しなくても良いよ、強制再生してる身体が馴染みきってない筈だから」

「なん…なんだ……」


 状況が理解出来ない。

 俺はどうなったんだ?目の前にいるコイツは誰だ?


「くくく、混乱してるね、分かる分かるわー、今まで何万体の被験体を相手にしてきた訳だけど大体同じ様な反応するからさぁ」

「被験体?」

「そそ、被験体ね、君は被験体No.126582となりました。」


 訳が分からない。

 確かノモマイタングから吹っ飛ばされて、それから…それからどうした?


「ほぼ死体だった君を拾って来て身体を再生させてあげてるんだよ?もう君は私の実験動物としても問題ないだろう」

「はぁ?ないいっれんら」


 うまく喋れない。

 勝手な事を言っている目の前の男に文句を言いたいけど口がうまく動かずしどろもどろだ。


「いやー君の様な個体には中々出会えないからねー、久しぶりにいい実験が出来ていて嬉しいよ」

「俺をどうふるつもりだぁ」

「「どうするつもり」と言いたいのかな?うん、どうすると言うかもう現在進行形ですけれど?」

「んえ?」

「とは言っても『強化細胞』を注入しただけなんだけどね」

「強化細胞?」

「そうだよ、獣人とかモンスターとかさ、色々な細胞を研究して人間の生体魔粒子と相性の良い人体細胞を作り出した訳、それを君にね」

「どっどうらるんだ?」

「ん?「どうなるか」ってそんなに変わらないよ、君に打ち込んだのは『再生活性型の細胞』だから再生力が他より上がるぐらいだよ」


 男は何らかの液体の入ったビンを見せてくる。

 其れがその細胞なのだろうか?よく分からない。


「再生活性?」

「くくく、そうだよぉ、君の身体は今常人の数倍数十倍の再生能力を発揮してる、この強化細胞は今までの実験では細胞活性時の魔粒子の消費に耐えられず崩壊してきたんだ、でも『君は違う』強化細胞と調和してる」

「調和…」

「そう、思った以上の成果だよ!なんたって君さぁ“ほぼ死体の状態から回復魔法もアイテムも一切無しで私と話せる状態にまで回復してる”のだから」


 確かに左腕に感覚がある、あの時に引きちぎれた筈の左腕の感覚が。でも指先の感覚は全く無かった。

 意識は急激に鮮明になっていく、ぼやけてた視界も鮮明になるがまだ首は上手く動かせない為、見えるのは目の前な怪しい男だけだ。

 男が笑う、とても愉快そうに笑う、笑顔で吊り上がる口角が裂ける様に不気味に笑っていた。

 俺は、その表情を見て悪寒が走るのを止められなかった。

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