第4話 飛び跳ねてます。

 俺の場合は正面からモンスターと対峙するとパワー負けで即敗北だろう、故に今までは父が先行して攻撃を行いモンスターが動けない状態を作り出した上でとどめを刺すのが俺の基本的な戦い型だった。

 敵の「隙を作ってもらう」のでは無く「隙を突く」戦い型を覚える為の次なる修行が…。


「木を登る?」

「そうじゃ、童の場合は正面からぶつかっても勝てる見込みが少ないからの。機動力を使って相手の背後や側面に回り込んで攻撃するんじゃ」

「お、おう」

「その為にはあらゆる場所を足場に出来た方が良いからの、先ずは手を使わず木を登れる様になり、その後は足場から足場に難なく移動出来る様にするんじゃ」


 っと言う訳で草跳びの代わりに木登りが始まった。案外行きたい場所に跳んで行くのは難しくバランスを崩してうまく登れなかった。

 靴から吹き出る風に振り回されて姿勢を制御しきれないのが原因だ。

 

「靴底の噴射面と足場の設置面の角度で…」

「童よ、煮詰まってるのぉ」

「ジジイ、手を使わないで木を登るコツとかねーの?」

「さーの?ワシは魔具のみでの戦闘なんぞした事ないからのぉ」

「まじかぁ」

「何度も言うとるがの。個人での戦闘は基本身体強化の魔法を施す事が前提じゃ。童の様に基本が成立しない状態で戦闘を成立させるなら『この様な戦法しかない』と言う無茶を成立させるしか無いんじゃ」

「無茶かぁ〜」

「童は靴から出る風の力に振り回されてる状態じゃ。かと言って「今の童」に合わせて風の力を調整したら戦闘では使い物にならんじゃろう」


 【魔法陣】で発動させる魔法には出力調整は出来ない、設定量の魔力で確定した効果を引き出す魔法だから、魔力の込め方次第で出力を変える事が出来る【一般魔法】とは別物らしい。

 故に現状出来る事は風圧に耐える身体を作る事か慣れる事だろう。

 だが直ぐには身体が出来上がる訳では無いので慣れるしか無い訳だが上手くいかない日々が続いた。

 ジジイが村に来てから60日はたったと思う。自分で言うのも何だが何故バレないのだろうか?林の奥にいるとはいえ人1人が住み着いているのに村人の誰もが気付かないなんてあり得るのだろうか?

 木登りが上手く上達しない為、悶々と剣を振り回しながら何気なく聞いてみた。


「そりゃ【認識阻害の魔法】を使っとるからの」

「認識阻害??」

「まぁ、ワシの使用してるのは結界の様に一定の範囲内の認識を他に向ける魔法じゃ」

「アレ?でも俺は普通にここに来れるし、ジジイを認識出来てるけど?」

「ワシの利用してる認識阻害の魔法は魔法陣を利用した簡易的な物だからの、1度でも認識されてる場合は効き目が殆ど無いんじゃ」

「どゆこと?」

「童、そこの石があるじゃろ?」


 ジジイが指差した先には小さな石がころがっいる。


「ワシが言うまで『その石』がある事を認識出来ていたかの?」

「いや、全く気にして無かったから認識はして無かったけど」

「そうじゃ、ワシの使用しておる認識阻害の魔法ってのはの、その石に意識が向かない様に誘導する魔法なんじゃが「既に認識されてる物」には効力がかなり弱いんじゃ、ワシが「石がある事」を教えた為に魔法に関係なくそこに石があると認識出来てしまう訳じゃ、最初っから認識外にある物には効果的じゃが1度でも認識されると無意味なんじゃよ」

「成る程、だから最初にジジイに気付いた俺だけはその認識阻害の魔法の効果がない訳だ」

「まぁ、もっと高度な認識阻害の魔法なら知り合いが目の前にいても気付かれない様にする事も出来るんじゃがの、そこまではする必要が無いから簡易的な魔法陣で発動するタイプを使ってる訳じゃ、まぁ実際、童以外の村人には気付かれてない訳じゃから充分じゃろう」

「魔法って凄いなぁ」

「じゃろう、まぁその魔法や魔具をドンドン開発しとるのが『この国』じゃ」

「え?」

「この世界【イカセイルアクヨ】の五大国が1つ【魔導伝統国「ルバンガイセクイ」】【大賢者】が建国した世界を造り替えたと言われる国じゃ」

「そーなんだ…」

「大賢者はこの世界にない物をドンドン生み出して世界の構造をひっくり返したらしいからの」

「そんな国だったんだ、知らんかった」


 自分の住んでいる国の成り立ちなんて知らなかったし、凄い国に暮らしてた事実はビックリもしたが、正直、現在の生活が底辺過ぎてどうでも良い。

 それより今は木登りだ!

 もう、数をこなして慣れるしか無い、怪我を恐れて中途半端な跳び方じゃ駄目だ。

 更に数日間飛び跳ね続けた、細かい事は考えずに体で覚えるやり方で覚える事にしたのだ。

 そんなこんなで何日続けたか分からないが何とか様になってきた頃にジジイから今度は飛び跳ねながら攻撃が出来る様になれと追加指示が来た。ジジイが投げる木を剣や串で撃ち落とす修行だ。

 ぴょんぴょこぴょんぴょこ木を跳び回りながら目標物に攻撃を当てるのは難しい、それでも的当て自体は木登り程は苦労はしないで物になりそうだ。


「ほー童、中々上達が早いのぉ」

「何となく来る物の速さとこっちの動きを計算して攻撃出来るから思ったより当てやすい」

「成る程の、門番の仕事で戦い慣れてる分、空間把握能力は鍛えられてるのかもしれんのぉ」


 ジジイの下で修行を始めて100日は超えた頃には魔具を使い相手を牽制しつつ背後に回れる位には動ける様になっていた、ここまで来ると後は魔具を多数用意して応用を効かせる事で手数を増やすべきと言う事で「魔法陣」を習う座学が始まった。

 ジジイの教えてくれる魔法陣は学園都市でなら専門専攻で習う事柄で今回は魔法陣の基本をぶっ飛ばして、今知るべき魔法陣だけ叩き込んでくれるつもりらしい。

詳しく知りたいなら学園都市に行けとの事だ、行けるなら何の問題も無いのだが…。


「『風を吹き出す魔法陣』と『火を吹き出す魔法陣』と『水を吹き出す魔法陣』を覚えると良いじゃろ」

「3つだけか?」

「もっと覚えたいなら学園都市へ行けば良い、今は童に必要な最低限の知識で充分じゃ」

「うっし!分かった、まずは覚えます。」

「殊勝で結構」


 ジジイが言うには【魔法】は【法則】らしい。法則に従えば魔法は誰でも同じ結果が出せる。手順を同じくすれば全員が全く同じ結果になるらしい。

 だがそれでも『差』が生まれるのは個人の魔力量や放出量によって法則が乱れてしまう為らしい。

 そんな中で魔法陣は魔力の提供量で発動条件を設けてる場合はどんなに魔力を込めようとしても規定量に達した段階で勝手に発動する為に結果に差が出ない。

 確実に即座に何処でも誰でもが魔法陣の良いところだそうだ。

 そして今回教わる魔法陣は戦闘でも使えるし一般生活でも活用出来る最低限の魔法陣。

 ただし、ジジイが教えてくれるのはジジイの祖国で作られた魔法陣なので一般的では無いらしい、条件を極端に絞り魔法陣を簡略化して量産し易くしたものらしい。

 教わった魔法陣は前世の知識にある円形の物では無く謎の文字を中心に更に小さい文字数個書いて線で繋げていく非円形でなんかお札とかに書かれてる模様に似てる気がする物だった。


「ジジイ難しいよ、これ」

「なら、あきらめるんじゃな」

「頑張ります」


 そんなこんなで概念を考えず図柄として教えられる魔法陣を憶えていった。

 分かった事は魔法陣の大きさで使用する魔力と効果の出力が上がる事と書き込めればどんな風にでも効果が発動出来る事だ、土に指で削る様に書いても「ちゃんと書けていれば」効果が発揮される。

 魔法陣の概念が理解出来ていれば掛け合わせて火と風で熱風を出す魔法陣とかも作れるのだろうがそこら辺は教えてはくれなかった、自分なりに掛け合わせてみたりもしたが、うんともすんともいわない只の落書きになるだけだった。

 こんな時に頭の良い奴は概念を理解出来て自分で魔法陣を開発できるのだろうか?自分は前世の知識からアプローチしてるが全く上手く行かなかった、本当に役立たない記憶である。

 最低限の魔法陣をスラスラ書けるようになった頃には修行を始めて130日を超えていた。

 素振りを繰り返し、風の出る靴で飛び回り、動く的当てを続け、魔法陣を学習する日々で流石にかなり修行開始前より強くなってる気がする!最近ではジジイが何処かから連れてきた鳥を的にして的当てを行い生物的な動きにも対応できる様にもなっている、勿論その後の鳥は美味しく頂いている。

 家族にはバレないように修行の成果を出さない様にしてるのだかどうにも隠し切れてはいない様で。


「トヒイ、最近の飛び込みが前より鋭くなった気がするな?」

「そ、そうかな??毎日飛び込んでるからね、そりゃ鋭くもなるんじゃない?」

「そりゃそうか!なんか最近生き生きしてる気がしてな」

「まぁ、ぐちぐちしても始まらないからね!」

「ははは、本当にトヒイは大人びた事いうなぁ」


 モンスターを引きずる際も前より軽くなった気がする。

 確実に強くなってるのは感じてる、でもきっとまだ足りない『よくわからない不安』が拭えない。強くならなくてはならない。

 今日も血を洗い流し終わるとジジイの元に足早に向かった。


「来たか童」

「ん?どうしたジジイ?」

「まぁ、とりあえず出来る事はやって最低限の形は出来たと思うんじゃよ」

「そうか?うーん、まだまだじゃね?」

「童よ、向上意欲が高いのは良いがのぉ、高望みしても、ろくな事にはならんぞ」

「お…おう」

「そこでじゃ」

「ん?」


 ジジイは懐から手に収まるか収まらないかぐらいの水晶玉的な物を取り出して見せてくる。


「コレは?」

「これか?これはの夢・の・残・滓・じゃよ」

「ゆめ?ざんし?なに言って…」


 ジジイが夢の残滓だと言った水晶球がふわりと浮かぶと同時に水晶玉の周りに魔法陣らしき模様が浮かび回り始めた。

 その光景は余りにもファンタジーっぽくて見惚れてしまっていた。


「なに、餞別じゃ、ワシらの夢はもう叶わんからの、童に押しつけて消えるとするわい」

「だから、何を言っ……」


 ゴリっと胸元に水晶玉を押し付けられると同時に意識が飛んだ。





「トヒイ、起きろ!トヒイ!」


 ハッと気付くと父が焦った顔で覗き込んでいた。


「父さん?」

「おぉ、気付いたかぁ、良かったぁ」

「あれ?俺どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いぞ!帰りが遅いなと思ったら玄関にドカっと物がぶつかる音が聞こえたから見に来てみればお前が倒れてたんだ、本当に驚いたぞ!」

「トヒイ気が付いたのね?はぁ良かったぁぁ」

「母さんもごめん、でも何で倒れてたんだ?」

「そんなの母さんが聞きたいよ!もー」


 森から帰って来た記憶は無い、多分ジジイに連れて来られたんだと思うが。

 確か水晶球を押し付けられた筈だけど、胸に違和感は無い、軽く胸元を確認するがやはり何も無い、一体何をされたのだろうか?若干不安にもなるが何故かあまり気にはならなかった。

 その日はわやわや言いながらも両親に心配され就寝した、次の日は「安静に」と母さんとお留守番する事になる。正直、森に行ってジジイに何をしたか確認したかったのだが両親が心配しているので、そこはグッと我慢した。

 まぁ、命がけの仕事に7歳児を駆り出してる時点で心配もへったくれも無いのでは?とは思ったりもするが。

 そんな翌日にも門番の仕事に駆り出されて爪の鋭いウサギの様なモンスターや前足だけ異常に発達した馬の様なモンスターを数体相手して返り血を浴びた、正直今なら返り血を避ける事も出来たがジジイのいる森に行く口実の為に敢えて返り血を浴びて川に行く事にした。

 父が心配してついて来ると言ってきたが丁寧に断りつつ、さっさと血を洗い流して足早に森に向かった。

 いつもの場所に行くとジジイは居なかった。

 仮住まいと張っていたテントも飯を食う為に用意した魔法陣を利用した簡易キッチンも座学様に用意してくれた机も何もかもが綺麗さっぱり無くなっていた。


「ジジイ!おーい!!ジジイ!!どこ行ったぁぁぁ」


 半ば返答が無い事は分かっていたが叫ばずにはいられなかった。

 やな予感はしていた、ジジイは確かに「餞別」と言っていたし「消える」とも言っていた。

 つまりジジイは去ってしまったのだ。

 ジジイ的には修行は終わったのだろう、「出来る事は全てやった」と言っていたと思うし。

 ジジイと修行した約150日はとても充実していて生きてる実感も無闇に門番をやってる時よりも確実に有ったと思う。

 気付けばジジイに教わった事を反復して1人で修行を始めていた。

 風の出る靴で高く飛び、木々を跳び渡り、ハラハラ散っている葉っぱを空中で射止め、目標物の後ろに素早く回り込み、設定した弱点を狙い撃ちする。

 何度か繰り返し改めて思った。


 あれ?コレやっぱり『忍者』っぽくね?


 なんか前世の忍者ぽっい修行してると思ってたら、結局“忍者っぽいモノ”に行きついていた様だ。

 騙されてないよね?まぁ騙されて忍者に仕立て上げられたとしても強くなったのは確かだし、たまたまだよね?そうだよね?。

 そんな事を考えながら木々をピョンコピョンコ飛び回ってたら木に袋がぶら下がってるのに気がついた。

 村人の忘れ物としては余りに高い木の上にぶら下がっている為、コレはジジイが置いて行った物だと思う。

 なんだろう?『餞別』として水晶玉で殴られた以外の置き土産だろうか?

 少々警戒しつつしかし「この高さ」にぶら下がってる物を取れるのは俺だけだろうから、俺に向けられた贈り物なのだろうと考え袋を開けると1冊の本が入っていた。

 本と呼ぶには不出来な数枚の歪な紙を紐で束ねただけの物なのだが、其処には俺に対するアドバイスが書かれている様だった。


『この本を見つける頃にはもう草も枯れた時期だろう、今更この本が必要かは分からんが役に立つかも知れんから残す事にした。』


 ジジイは葉が散って袋が剥き出しになったら気付く感じに隠したつもりなのだろうが、あの日のジジイ同様あっという間に見つけてしまった。

 何か申し訳ない。

 全く隠すなら認識阻害の魔法陣ぐらい書き込んどけば良いものを、まぁその場合袋が剥き出しになっても気づかない可能性も有るのだろうが。

 改めて餞別らしき本を見ながらジジイが去ってしまった事を実感した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る