いきたかったのに

 私はひとりぼっち。完全に絶望しきっている。

そんな私はこの日、踏み切りの前までやってきた。あとは線路の上に立って電車を待つだけ。

 そう思っていたのに、先客がいた。ボブカットの女子学生。後ろ姿だけで言えば親友と瓜二つだった。

 踏み切りの音が聞こえ、バーが下がる。それでも彼女は微動だにしない。

 それがいたく不気味で声が出なくて、でも目の前で人が命を落とすのは見ていられなくて、咄嗟に顔を背けた。

 電車の通り過ぎる音がする。音が完全に止んだ後、恐る恐る視線を戻すと彼女は変わらずそこに立っていた。

 驚いていると彼女が振り向いた。その顔は親友に違いなかった。

「歌夜!」

「朝歌、生きて」

 そんな言葉を残して彼女は消えてしまった。

 きっと歌夜は後を追うつもりでいた私を止めに来たのだ。

「……わかった。歌夜が言うなら生きるよ。歌夜の分まで」

 目からは涙が溢れていた。

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