青い服の乙女

 その少女はいつも青い服を着ていた。

 ウェーブのかかった黒い髪と人形のような顔立ち。幼かった僕の目には精霊のように映った。

 だから彼女は森の中から出てはいけないんだと勝手に思っていた。

 数年後に町で再会した時に驚き、思わず聞いてしまった位だ。

「私のことなんだと思ってたの?」

「精霊」

 正直に答えるも彼女には笑われてしまった。けれどもその後で僕が勘違いしていたことを許してくれた。

 そして僕達は何年か振りに森へ足を運んだ。

「ストップ」

 森の中を進んでいると急に彼女に止められた。振り向いた僕が理由を尋ねるより先に彼女は言う。

「下見て」

 それに従って見ると、足下には青い花が一面に咲いていた。

「なんか、君に似合いそうな花だね」

 そう言って顔を上げると彼女はいなかった。

「あれっ?」

 もしや彼女はこの花の精霊だったのだろうか。

「精霊だと思った?残念、人間です」

 背後から彼女の声がした。

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