花開く下で

 綺麗だ。

 空より薄い青の服を纏い、頭上に咲き誇る花に手を伸ばしている彼女を見て思った。

 あまりの美しさに声を出すことさえ躊躇われる。

 しばしその光景に見惚れていると、不意に彼女がこちらを向いた。どうやら気づかれてしまったらしい。

 こちらを見るなり満面の笑みを浮かべる彼女。その笑顔がやけに眩しく見えて、反射的に目を細めてしまう。

「綺麗だね、桜」

 小走りで傍まで来た彼女は開口一番に言った。

 その言葉に頷き、正直な思いを口にする。

「うん。とても綺麗だよ」

 何がとは言わなかった。言わない方が良い気がした。

 二人並んで談笑しながら歩いていると、急に彼女が思い出したように言った。

「今日は声かけてくれてありがとね」

「えっ!?いやいやこちらこそっ、来てくれてありがとう!」

 あまりにも突然で声が反射的にうわずってしまった。その様が余程滑稽だったらしい。彼女は笑い出し、こちらもそれにつられてしまった。

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