恋に溺れて
こんなはずじゃなかった。
ライトアップされた藤の花。ゆったりと漂う香り。それ等全てが煩わしい。
僕は今日ここにデートの下見に来たのであって、けっして失恋するために来たんじゃない。
けれども見てしまった。先輩が知らない男と仲睦まじく歩いているところを。
ずっと片想いしていた相手を奪われた。それが悔しかった。
下を向いて歩き続ける。藤をゆっくり見て楽しむ気にはなれなかった。
さっさと帰って音楽でも聞こう。
そう思った瞬間、不意に肩を叩かれた。
振り返って目を丸くする。そこにいたのは僕から先輩を奪った男だった。
「……なんすか」
「相東さんですよね?姉が探してて」
「姉……?」
呆然と聞き返す。なぜこの男が自分の苗字を知っているのかなんて、もはやどうでも良かった。
「やっぱり相東くんだ!」
「富士峰先輩……」
勝手に勘違いして一人で落ち込んでしまうとは。
安堵した僕は情けなくその場に座り込んだ。
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