消えた思い出

 子供の頃、寺の境内にあった遊具で遊ぶのが好きだった。

 ブランコとジャングルジム。

 用事で近くの道を通った際、ふと懐かしくなった私は約10年ぶりに境内に足を踏み入れた。

 ところが。

「無い……」

 そこには木が何本か立っているだけ。ブランコもジャングルジムも姿を消していた。

 まるで最初から何もなかったように、跡形もなく消えていた。

 その光景を見た瞬間、子供の頃の記憶は全部幻だったのかという考えが頭をよぎった。違う。そんなはずはない。

 確かにそこにあったはずなのだ。

 ブランコをこいだり、ジャングルジムに登ったりした記憶が確かに存在した。

 けれども。

 あんなに綺麗さっぱり無くなっていると、やはり確信できない。

 二つの遊具は一体どこへ消えたのか。

 寺の関係者に聞くという選択肢は無かった。否、聞くのが怖くてできなかった。

 自身の記憶違いだと認めたくなかったから。

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